#1 模擬戦
第一章、開始します。
尚、この話は半分以上戦闘なので、後半さえ押さえれば大丈夫です。
フィオンの町の一角にある、まるで屋敷のような家。
リオンハート=シャオランとして生まれ変わった僕は、その屋敷みたいな家の設備としてある修練場で二人の少女と向き合っていた。
一人は、頭に猫耳・お尻の上に尻尾を生やした少女。
猫人族と呼ばれる亜人種の一人。
身長は155センチメートルくらいの、目を疑う程のポニーテール美少女。
そして、僕の家に仕える剣士兼メイド。
リューネ=ディニアス。
右手に『レーデン』と呼ばれる黒い剣、左手に鉄で出来た剣を持つ二刀流の彼女は、僕の前で小さく構えている。
もう一人、リューネとは違って狼の耳を持つ銀髪の女子高生風の美女。
聖獣と呼ばれる、この世界において普通の人間や魔物よりも高位な存在の一角。
主に光属性の力に特化した彼女は、武器という武器を持っていない。
聖獣アリュン。
僕と契約した美しい銀の狼だ。
もっとも今は、人の姿をしているが。
「さて、それじゃあ始めようか」
僕の一言に、二人が緊張を張り巡らせた。
僕達は今、模擬戦をしようとしているのだ。
「て、手加減をよろしくお願いします、リオンハート様」
「そ、そうだぞ、主様」
リューネが苦笑しながらそう言い、アリュンが額に汗を垂らしながら呻くように言う。
「いつも手加減してるんだけどね? だから二人はもっと本気で来てよ」
「むう。リューネ、私達はいつも本気なのだがな?」
「はい……。リオンハート様は規格外過ぎるのです」
「そこ! 聞こえてるからね!」
コソコソと呟く二人に指を指して指摘する。
流石に死なれても困るからいつも手加減しているのだが、結果二人が僕の術から逃げ回ることになる。
今日はそうならなければいいのだけれど。
「じゃあそっちから掛かっておいで」
「……リューネよ、そろそろ私達も主様に勝てなければ心が折れるよな?」
「はい。いつも最終的に逃げ回ることになりますからね。アリュンさんに限って言えば、聖獣の威厳もプライドも丸つぶれですよね」
「ぬぉい! それを言ったらダメだろう!」
確かに聖獣の威厳もへったくれも無い。
普通なら聖獣は人や魔物よりも上に君臨しなければいけないのだが、僕と模擬戦をする時は、最初こそまだ良いものの、僕が攻めに転じたらアリュンもリューネも逃げ回るばかり。
その姿を他の人や魔物が見たのなら、揃ってアリュンに喧嘩を売るかもしれない。
僕の強さを知らないことが条件だけど。
「はーやーくー」
「くそぅ、仕方がない。行くぞ、リューネ」
「はい……」
僕の催促に応じた二人が動き出した。
共に付与術式によって身体能力を強化している様だ。普通の人間が出せる速度を超えている。
走る……と言うより高速で跳んでいるリューネが握る剣は、いつしか黄色いオーラが纏われていた。
纏装魔術の一つ、『Vidit Fulgur《纏装・雷撃》』。
雷属性を与える術だ。
「流石リューネ。纏装魔術はもう完璧だね」
一方アリュンは、両手に白い光の剣を握っている。その長さ、一メートル程。
彼女の能力『光撃』によって生み出された剣だ。
最初はいつもと同じパターン、か。
二人がそれぞれの武器を持って僕に近接戦闘を仕掛けてくる。
「主様、今日こそ!」
「いつものパターンだけど、それで僕の障壁を破れるかな?」
対して僕は、最初の位置から移動していない。今は移動する必要はない。
二人が左右から迫りつつある時、僕は冷静に術式の演算を開始する。
彼女らを迎撃する術ではなく、彼女らの攻撃を全て真っ向から受け止めるための術。
魔術障壁を生み出す結界術式。
「『Magicae Obice《魔術障壁》』」
呟いた直後、リューネとアリュンが持つそれぞれの剣が容赦なく振るわれた。
……本当に容赦ないなあ。僕に手を抜いても意味がないって事が良く分かっているな。
しかし、二人の斬撃は僕には届かない。
展開された魔術障壁が、二人の攻撃を遮っていた。
「くぅ……ッ! やはり主様は防御が硬いな」
「全くです……ッ!」
二人は口々にそう言うと連続して剣を振るってくる。
透明の障壁と二人の剣が激突するたびに、ガギンッ! と鈍い音が鳴り響く。
それでも、僕の魔術障壁にはヒビ一つ入らない。
「どうしたー、これじゃあいつもと同じだぞ?」
ニヤニヤしながらそう言うと、二人は苦い物を噛み潰したかのような表情をする。
やがてアリュンは一気に後ろに後退し、両手を前に出して重ね、目を閉じる。
「遠距離攻撃か。アリュンは光属性だから……っと」
「私の攻撃はもう気にもならないんですね」
涙目になりながら僕に――正確に言えば僕が生み出した魔術障壁に斬撃をぶつけるリューネ。
「ごめんごめん、でも、リューネは僕に相性が悪い」
戦士クラスの人が魔術師に勝つには、魔術師が生み出す魔術障壁を破壊できる力が必要だ。
剣士として一流のリューネなら、そこらの魔術師が作る魔術障壁など一撃で壊すことは可能だろう。
自分で言うのもアレだが、僕は天才魔術師だ。
そんな簡単に障壁が破られるほど、柔じゃない。
「『Magicis Luce Obice《魔術障壁・光》』
光属性特化の魔術障壁に変更する。
「リューネ、離れろ!」
「はい!」
遠くで両手を重ねて前に突き出したアリュンが叫ぶのと同時、リューネが一気に僕から離れる。
直後、視界が真っ白になった。
アリュンの両手から放たれた白い閃光によって、何も見えなくなる。
同時に作り出した魔術障壁に大きな衝撃が襲いかかってくる。
「光の……レーザーか!」
「ふふふ、これは今まで取っておいた私の奥の手ですぞ」
アリュンの言葉を聞き終えた頃に、光のレーザーの威力がさらに強くなる。
まずい、このまま威力が上昇したら障壁が壊されるかもしれない。
「何だやるじゃん、アリュン。でも」
視界が回復してきた頃に、僕は障壁を残して高く跳んだ。
勿論普通の状態の僕じゃ十メートルも跳ぶ事ができないから、付与術式で脚力を強化している。
続けて術式演算。
「なっ!? 卑怯だぞ主様! 今までは攻撃に転じるときは一言合図を……ッ!」
「本当の戦いじゃ合図なんてくれないんだよ!」
確かに今までは、防御から攻めに転じる際に一言声を掛けてからだった。
まあでも、どうやらリューネには僕の障壁を破ることができる力が付いたようだし、これくらいは別にいいだろう。
まあ、本気の障壁じゃないけれど。
「さて、二人共。当たらないように気をつけてね……弾けろ。『Lumine hastam pluviam《光槍雨》』」
空中で、僕の手のひらの上に出来上がった光の玉を掲げる。
直後、その光の玉から大量の光が放たれた。
それは小さな槍の形を模していて、リューネとアリュンの元へと一直線に降り注ぐ。
まさに死の雨。
手加減はしているけど、当たったらかなり痛いだろう。
後で治療するから大丈夫だが。
「くぅぅ……ッ!」
「―――シッ!」
僕が作った光の槍の雨。
アリュンは『光撃』の能力で生み出した光の盾で受け止め、リューネは有り得ないほどの速さで剣を振るい、光の槍を切り落している。
流石リューネ。斬撃のスピードが物凄く早い。
いくつもの残像が彼女の周りを飛び交う姿を見て、内心で再び感心する。
「……で、結局こうなるわけか」
呟きながらも光の槍を放ち続ける。
そんな僕はもう地に降りていて、目の前で逃げ回る二人を見ていた。
二人共、最初こそ僕の光の槍を防いでいたけれど、徐々に体が追いつかなくなってやがて逃げるようになった。
これ以上やっても無駄だな。
「はーい終わり」
言いながら光の槍の放出を止める。
「はぁ、はぁ、はあ……結局こうなるんですね」
「ああ、そうだな……」
芝生が生えた地面に仰向けになる二人に治癒魔術を掛ける。
治癒魔術は傷の治療が主な効果だが、それと同時に体力の回復も行うことができる代物だ。
魔術師は魔力が切れない限り、見方のスタミナ切れを防ぐことができるというわけだ。
「ん、今日はもう終わりだ。シャワーでも浴びてきな」
「分かりました」
「御意……」
立ち上がるリューネとアリュン。しかしアリュンは先程よりも少しばかり身長が小さくなっていた。
「やっぱり僕の魔力の供給がないと大きくなれないんだね」
「これが私の本来の人の姿ですからな。主様の魔力を貰えば大きさは自在に変えられます」
聖獣はどうやら、契約して主となった相手の魔力をもらうことで体の大きさを自在に変更させることができるらしい。
「いやあ、思い出す。五年前にアリュンを助けた時の事」
「……もう五年も経つんですな」
「リューネと一緒に血塗れのアリュンを見つけた時はビックリしたよ。治療して家に連れて帰ったら、狼がいなくなって裸のアリュンがいたんだから」
草原で倒れた血濡れのアリュンを治療して、家に連れて帰り、取り敢えず僕の部屋に寝かせておいた。
その後、ミルクを取りに行って戻ったら、そこに銀色の狼はいなかった。
代わりに、裸の銀髪美少女がいたのだ。
「まあでも良かった。あの時いきなり襲われてたら対応できなかったと思うし」
「……ん? もしや主様、私の裸に見とれていたのですかな……?」
なんて言いながら白いワンピースをはだけさせるアリュン。
「い、色仕掛け反対!」
「まあ、いいでしょう。私は風呂に入ってきます」
「お、おう。行ってこい」
アリュンは先に行ったリューネを追いかけるように修練場を出て行った。
さて、僕もこの穴だらけの修練場を直したら中に戻ろう。