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第四のギルド -2-

 青空の下、雲の上を行く。飛行船に乗り込んだ俺達は、航路をプロメテウス大陸のリューネという地方に設定した。ローリエまでは少し距離があるが、飛行船で直接近くに向かうのは目立ちすぎる。


「お前サニアのことなんでそんなに嫌いなの?」


 甲板の側面から身を乗り出し、地上を眺めているベレッタに質問した。俺も隣で地上を見下ろしてみる。……雲しか見えねぇ。今度は上を見上げて、近くで回転する巨大なプロペラから強風が送られてこないのは作り込みが甘いからだろうか。それとも、気流の流れっていうのはそんなものなのだろうか。なんて思慮に耽ってみた。


「カズマもサニアに会ったことあるだろ? どう思った?」


「どうって……」


 初めて会ったのはまだ第四のギルドなんて概念がなかった頃だ。上ばかり見て突っ走っていた俺が下を見出した時期でもある。俺は神聖騎士団本部にある玉座に座って、彼女は二人の従者と共に赤い絨毯に片膝をつき頭を下げて。白いマントに純白の衣装。金のサークレットで装飾された緑色の癖っ毛が印象的だった。そういや金のアクセサリーがそこら中に巻かれてたっけ。


 記憶が蘇ってくる。たしかサニアは俺に挨拶に来たんだった。「ギルドが大きくなって来たので僭越ながら挨拶に参りました。いつか神聖騎士団に肩を並べられるように頑張ります」みたいな話だったと思う。あんま覚えてねぇ。というのも、顔を上げたサニアが、かわいすぎた。緑色の瞳に吸い込まれそうになった。


「どうだったかな」


 その回答に対し、ベレッタはジト目でぶすくれたように言葉を返した。


「しらばっくれてんじゃねーぞカズマぁ」


「な……何がだよ」


「てめぇが初対面のサニア口説いたってのは知ってる奴はみんな知ってんだよ!」


「なぁっ!?」


 嘘だろ……なんで……なんで知ってんだよ……。しかもよりによってベレッタに知られてたなんて……思い出すのも恥ずかしい俺の汚点。あの頃の俺は完全に調子に乗ってた。その場で騎士団の連中にも怒られた。サニアは気にしないでくださいっていってくれたけど。っていうのは……


「ブルーソフィアなんてやめて俺の嫁になれっていったんだってなぁ。聞いた時は笑っちまったぜ。さすがは騎士王様だよ!」


「うああああああああああ」


 聞きたくねぇ。サニアは許してくれたけど、それのせいでその後顔を会わせてもぎくしゃくしてしまった。おかげで大ギルドのマスター同士にもかかわらずほとんど親交がない。


「なんで知ってんだよくそ!」


 こいつ神聖騎士団うちにスパイでも送り込んでたのか?


「サニアから聞いたんだよ。あいつ笑ってたぜ」


「は……?」


「だから、性格わりぃっていっただろ。あいつはそういう女なんだよ。いちいちあたしに教えたのだって……」


 何かいいかけたベレッタは、首を振って声を荒げた。


「と……とにかく! そういう陰険な奴だから嫌いなんだよ!」


「マジかよ……知らなかった」


 絶望、虚無、羞恥心が俺を襲う。あの女許せねぇ。ずっと俺を馬鹿にしてやがったのかよ。「気にしないでください」なんて可愛い顔でいいながら心の中で笑ってたってわけか。

 今度は怒りの感情がわき上がってきた。


「おーいお前ら! ちょっといいか」


 そこに日射しでいつも以上に頭を黒光りさせたオードブルが現れた。


「ブルーソフィアの連中、かなり警戒しているようだ。プロメテウス中の街に部隊を派遣しているらしい」


「動きが早ぇな。あのじいさんの部隊は俺たちをおびきだすための捨て駒だったってわけか」


「アジトの手配は?」


「今やっているが、ローリエ近辺に構えるというのは厳しいな。けっこうな距離まで警備部隊が出回っているらしい」


 オードブルはギルドの枠を越えた専属の部隊を持っている。詳細は俺にもベレッタにもわからない。誰なのか、どんな関係なのか、どんな契約を結んでいるのか、規模もわからない。

 その存在を知ったのもギルドを抜けて徒党を組んでからだ。わかっているのは、その部隊が異常な情報収集能力を持っていること。オードブルと主従関係を結んでいるらしいということ。そしてオードブルがそいつらに全幅の信頼を寄せているということ。俺とベレッタはオードブルにこきつかわれるそいつらを奴隷部隊なんて呼んでいる。


「街にも入れずアジトも持てずか。厳しいな」


 スキルを発動するためのUP(Unlimited Point)は宿屋やマイホームなどの拠点に入っている間だけ自動回復する。それ以外にもアイテムを使うことで回復が出来るが、アイテムは持ち歩ける数に限りがある。アイテムボックスからのアイテム引き出しは拠点や飛行船でしか出来ないため、今回のような持久戦を想定した作戦で拠点を持てないというのはかなり厳しい。


「でもさぁ、考えようによっては願ったり叶ったりじゃない?戦力分散してるわけだし」


「たしかにな。ローリエで固まった奴等を削るより遥かにやりやすそうではある。補給出来ないのがネックだが、俺達にとってはおいしい展開かもしれないな」


「奴等、どれくらいの規模で部隊を派遣しているんだ?」


「一つの街に二十人程度。そいつらが街中や街の周辺を交代で監視しているらしい。ブルーソフィアのメンバーは全員緑色の宝石をぶら下げているから、見ればすぐにわかるだろうな。とはいえ、あのじいさんたちのように宝石を外している奴がいる可能性は高いが」


「二十人か……オードブル、そいつらどの程度の使い手なのかな? 一人でやれる程度の連中ならいい作戦がある」


「ちょっと待ってろ。確認してくる」


 そういってオードブルは船内に駆け込んでいった。


「ねぇカズマ。オードブルの情報、信じていいのかな?」


「どうだろうな。でもま、俺はこの三人で組むって決めてから腹くくってるからよ。仮にオードブルが裏でなんか企んでて、俺がそれに嵌められたとしても、別に構わねぇよ。罵倒はするだろうけどな」


「へぇ。かっこいいじゃん」


「だろ」


 なんとなく、余裕の笑みっぽいのを浮かべて答えた。しかし、ベレッタの曇った表情は晴れない。


「あたしはさぁ、オードブルが少し怖い。なんか、あいつを見てると、吸い込まれるような、なんか変な感覚になることがあるんだよ。カズマには心当たりない?」


「え……」


 全然ない。だが、信じたくないが、信じられないことだが、その感覚には心当たりがある。奈落の底に突き落とされたみてぇな脱力感。虚無。絶望。正直かなりショックが大きい。つーかショックがでかすぎる。


「それって……恋じゃねえのか……?」


「はぁぁぁぁぁ!?」


「い、いや、たしかに、あいつ男らしいしな。ああいうのが好みだったんだなベレッタは……はは」


 なんか……切ねぇ……


「てめぇふざけたこといってんじゃねぇぞ!」


 ベレッタの握りしめた小さな拳が、滑らかにうねる蛇のような稲妻を帯びていく。心臓がドクンと大きく鼓動を鳴らす。ヤバい。こいつの魔法スキルは異常に範囲が広いから発動されたら避けれねぇ。転移で逃げたら地上に落ちる。


「ちょっ! 待て! 待てよ!」


「……てめぇ次ふざけたこといったら……マジで殺すからな……」


 下を向き影で顔を隠しながら、ドスの効いた声でベレッタがいった。


「あ……ああ。約束する」


 辺りのピリピリとした空気が消えた。ベレッタの髪の毛が静電気で凄いことになっている。


「なんだお前らのその髪」


 俺もだった。


「な、なんでもねえよ。で、どうだった?」


「おう。どうやら派遣されているのはあまり大した連中ではないようだ、良くてハンドレッドクラス。足取りを探るための駒ってところだろう。その代わりローリエには必要以上に戦力が集中されているみたいだな」


「引きこもり女の考えそうなことだな。自分の安全にしか頭まわんねぇんだろ。」


「それともうひとつ情報がある。現在プロメテウスではブラッディローブの着用が禁止されているということだ。俺たちを警戒してのことだろうな。どうするカズマ」


「どうするもこうするもねぇだろ。寄りどころのねぇ俺たちにとって唯一のシンボルなんだ。死んでもこいつは脱がねぇぜ」


「わかってんじゃねぇかカズマ」


「うむ。それでこそ俺の好きなカズマだ」


 そういうと、突然オードブルが俺の肩に腕を巻き付け、猛スピードで頬に吸い付いてきた。


「うああ! てめぇ! なにしやがる!」


「ははは。照れるな照れるな」


 そういってオードブルは俺のけつをパンと叩いた。ベレッタの野郎腹かかえて笑ってやがる。


「と、とにかく! この状況ならやれそうだ。作戦を説明する!」


 俺は頬を拭って話を続けた。


「持久戦を想定してたけど、つーか持久戦なんだけど、最初に奇襲をしかけよう」


「奇襲?」


「ああ。具体的なルートはまだ考えてねぇけど、ローリエを中心に三つの方角から、三人散り散りになってブルーソフィアの連中を殺しながらローリエに近づいていく。それぞれ2つくらいの街を経由出来るルートを考えようと思う」


「なるほど。戦力の薄さを付いていくわけだな。三方向から攻められては敵も対応しにくいだろう。だが敵が増援を送ってきたらどうする?」


「いや、奇襲っていったろ?1日だ。1日でローリエ周辺まで突っ走る。俺たちなら出来る。敵が現状を把握する前に終わらせる」


「1日……不可能ではないが……それでローリエまでたどり着いたらどうする?さすがにローリエにいる連中を相手にするのは無理があるぞ」


「どうもしねぇよ。ローリエ周辺の警備部隊を適当に相手して、合流して逃げる。追っ手を追い払いながらな。あくまで俺たちの目的はブルーソフィアが狙われていて、メンバーが次々殺されてるってことをセインレイム中に知らしめることだ。それで十分さ。そして敵の戦力はローリエに集中してる。ローリエから逃げる分には俺たちを防ぐ障害はねぇ」


「いいなそれ。逃げるだけならあたしたちが三人揃ってればなんとでもなる。深追いしてきた奴は餌食だしな」


「よし。その作戦でいこう。そうと決まれば早い方がいいな。敵の体制が変わるかもしれん。ルートを考えよう」

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