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第四のギルド

 ミーサホルン。ミニールの西にある、ルールー湖の湖畔にある村。このあたりから西は、芝や木が生い茂る、一面に緑の絨毯を敷いたような穏やかな土地が広がっている。魔物も弱く、これといったダンジョンもない。そのためプレイヤーの数も少なく、いたとしても牧歌的な雰囲気を楽しんでいるだけなんてプレイヤーがほとんどだ。


 そんな平和な地域に、最近俺たちが拠点にしているアジトがある。白塗りの壁にオレンジ色の屋根を乗せた四角いケーキみたいな洋館だ。俺は逆さまに吊るした城みたいなシャンデリアの下で木の椅子に腰掛け、紅茶を嗜みながらテーブルの上でオーラを弄っていた。簡単なイメージトレーニングだが、スキルの成長には欠かせないものだ。


「なぁカズマ。どう思う?」


 日中だというのにテーブルの上で揺らめく蝋燭の炎。それに両手をかざしながら向かいに座るベレッタが声をかけてきた。


「どうって、何がだよ」


 胸の感想……じゃねぇよな。紫色のワンピース。ベレッタの方を見ると、それを強烈に持ち上げるでかすぎるおっぱいに、どうしても意識が奪われてしまう。


「あのじいさんだよ。いつまでオードブルの拷問に耐えられると思う?」


「あー。つーかあのじいさんは情報洩らさないんじゃねぇかな?これぞ武人って感じだったし。他の奴等を皆殺しにしちまったのは失敗だったかもしれねぇぜ」


 極悪非道。これが世界の敵になることを決意した俺達のプレイングコンセプトだ。半端なプレイは性に合わない。敵は敵らしく、徹底的に悪になりきる。とはいえ拷問みたいな悪趣味なことは生理的に無理だから、その辺のことは俺もベレッタも聖人の皮を被った野獣に一任している。あんな奴が人格者扱いされていたんだから知らないということは恐ろしい。ちなみに拷問とはいっても痛覚は元々抑えられているし、自分の意思で簡単に遮断も出来るため肉体的な苦痛はない。与えるのは精神的なものだ。あのじいさんは責任意識プライド高そうだし、精神的苦痛なんていくら与えても自分達の情報を洩らすなんてことはしないだろう。


「ちょっとオードブルのこと舐めすぎじゃねぇの?あいつは本物だぜ」


 まぁ、直接やりとりをしていないベレッタにはわからないのかもしれない。


「おい、驚け。あのじいさんブルーソフィアだってよ」


 ごく自然に、通りがけに当然のようにとんでもない情報をもたらした、上半身裸にベージュの短パンだけという出で立ちの褐色筋肉ダルマオードブル。俺は思わず口に含んでいた紅茶を吹き出してしまった。


「おいカズマ、大丈夫か?」


「げほげほ……つーかオードブル、あのじいさん吐いたのか!?」


「あ? ああ、そりゃ当たり前だろ。なんのために拷問してると思ってんだよ」


 向かいの席でベレッタが「だからいったじゃねぇか」なんて小憎たらしい顔で俺を見たあと、姿勢を正し、真面目な表情をして口を開いた。


「ブルーソフィア。第四のギルド……サニアか」


 第四のギルド。それは絶大な規模を誇る三大ギルドがいずれ四大ギルドと呼ばれるようになった時、その四番目として名前を刻むだろうと目されている超巨大ギルド予備群の総称だ。


 現在セインレイムでは、そんな第四のギルドと呼ばれる十二のギルドが活発に勢力争いをしている。ブルーソフィアはその中でも上位に位置するギルド。元三大ギルドマスターの賞金首を狩ることが出来れば、その宣伝効果は絶大だ。成り上がれるかもしれない。四大ギルドの一角に。


「ヤバいところに目をつけられちまったな。まさかいきなりこんなバケモンの名前が出てくるとは……」


 いつになく深刻な顔をしてオードブルがいった。第四のギルドクラスになってくると、それを統括する上位メンバーの質は三大ギルドとほとんど変わらない。中でもブルーソフィアの聖女サニアは、ベレッタと双璧をなすといわれるほどの魔法スキルの使い手だ。その腰巾着のバラックとクライスターも相当ヤバイ。


「!?」


 三人で顔を見合わせる。僅かな喪失感。地下室にいるはずのじいさんの気配が完全に消えた。


「あのじじい、切断しやがった」


 オードブルが悔しさを滲ませていった。


「やり過ぎなんだよオードブルは。まぁ、もう用ねぇから構わないけどさ」


 そういってベレッタがオレンジ色に燃える蝋燭の火を指でつまんで消した。


 俺にはあのじいさんが、「どんな理由があろうと切断のような不正行為は許せない!」ってタイプに見えたんだけど……いったいオードブルはいつもどんな拷問をしているのだろうか。「子供にはみせられない」なんていって絶対に地下室を覗かせてはくれない。まぁ、見たくねぇけど。


「そういやベレッタはサニアと仲よかったんじゃねぇの? けっこう交流あったんだろお前ら。同じ魔法使いだし」


 俺も何度かは会ったことはある。緑色の髪の、キラキラした雰囲気を持つ可愛い女の子だった。


「冗談じゃねぇ。あいつの魔法は気持ちわりぃんだよ。いっとっけど性格も最悪だからな。見た目に騙されてんじゃねぇぞカズマぁ」


「まぁ、仲がよかったら命を狙ったりはしないだろうな」


 顎に手を当ててオードブルがいった。こいつ、なんかさっきから勃起してねぇか?ベレッタは特に気にしてねぇみたいだし、触りたくねぇから触らねぇけど。


「とりあえず、これからどう動くか決めようぜ。元々は俺たちを付け狙うギルドのマスターを見せしめにぶっ殺す計画だった。でも敵がブルーソフィアってなると話は別だ。まともにやりあって勝てる相手じゃねぇ」


「なに?カズマびびってんの?」


「別にびびってねぇよ」


「茶番はやめろ二人とも。顔がにやけてるぞ」


「おめぇもにやけてんじゃねぇか!」

「てめぇもにやけてんじゃねぇか!」


 そりゃにやけもする。相手は第四のギルド。いきなり敵が巨大過ぎて面食らっちまったが、こういうのを求めて俺たちは三大ギルドのマスターの座を捨てて世界の敵になったんだ。


「とにかくだ、目標はブルーソフィアの聖女サニア。問題はどうやって殺るかだ。どう仕掛ける? カズマ、何か考えはあるか?」


「三つある」


「いってみろ」


「一つはプロメテウス大陸にあるブルーソフィアの本部に乗り込んで皆殺し作戦」


「出来るかそんなもん。却下だ」


「もう一つはサニアが一人になるとき、もしくは少人数で行動してる時に襲撃する」


「無理だな。あいつは常に信者を100人は従えてるし、性格わりぃから多分警戒心も強い。あたし達に襲われる可能性があるのに隙を晒すなんてありえない」


「じゃあ最後の一つな。ブルーソフィアのメンバーを、一人一人殺していく。そしてサニアが先頭に立たざるをえない状況にまでブルーソフィアを追い込む。ブルーソフィアに所属するってことは危険なことなんだって、セインレイム中に印象付けてやるんだよ」


 つまり嫌がらせだ。さんざんブルーソフィアのメンバーを殺した後でサニアに呼びかければいい。「降参しろ。それが嫌なら直接やり合おうぜ」ってな感じで。いくら警戒心が強い奴でもいずれ先頭に立つしかなくなるはずだ。意地やプライドってもんがある。


「持久戦ってことか。あたしは賛成。他のギルド出し抜くための狩りで狩りの対象にいいようにやられてたら面子丸つぶれだもんな。あの糞女引きずり出してやろうぜ」


「決まりだな。ひとまず拠点をプロメテウスのローリエ近辺に移そう」


 俺が飲みかけにしていた紅茶を飲み干してオードブルがいった。ブルーソフィアの本部はローリエというギルドタウンにある。ギルドタウンっていうのは、ギルド本部を中心に作られた街のことた。莫大な資金と、一定以上のギルドランクが必要で、第四のギルドクラスでなければ建設することはまず不可能。


「目立つが飛行船で移動した方がいいな。間違いなく大陸間転送装置トランスポートは抑えられてる。続きは飛行船の中でしようぜ」


 アジトの裏に、帆の代わりに巨大なプロペラを船頭、船尾、そして側面に配置した木造の飛行船がある。俺たちはアジトを出てそいつに乗り込んだ

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