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忍び寄る影 -2-

 西門を抜けた俺は今、ミニールと小さな村とを繋ぐ街道を歩いている。主要な街道のようにびっしりと石が敷き詰められているわけではなく、地面に埋め込まれているのは小島のような飛び石。それを選択しながら一歩一歩踏み抜いていく。


 道の周りには大きな岩や木など、身を隠すにはうってつけの物がたくさん配置されている。初期の頃は物陰から魔物が襲いかかってきたりしたものだが、現在ミニール周辺に魔物は存在しない。昔大規模な掃討作戦を行い一掃したのだ。その作戦の中心になっていたのが俺、そして俺の率いていた神聖騎士団で、その成功で有名になった神聖騎士団は、セインレイム最大のギルドに成長していくことになった。今は調整を受けて魔物を根絶やしにすることは出来なくなっているが、ここミニールの周辺だけは掃討作戦を行なったプレイヤーに対する一つの勲章として、調整の対象外となっている。


 後方に意識を移す。連中が物陰から俺の様子をうかがっているのがわかる。俺から30メートル後方の辺りに老紳士。そしてその10メートル後方に五人。


 俺は神聖騎士団の団長として多くの人間を見てきた。だから推測出来る。わずかな情報からでも、あの老紳士の性格が。そしてそこから導き出される欠点も。


 左手の方向に林が見えてきた。知覚スキルで林の中の気配を探る。


 ……無人。


 今度は後方。老紳士が物陰から顔をのぞかせるタイミングを探る。呼吸を合わせ、老紳士と一体化していく。少しずつ……ゆっくりと……


 タイミングを見計らった俺は顔面を覆い隠すように額に手をあて、老紳士が物陰から顔を晒すのに合わせローブを揺らしながら振り返った。指の隙間から老紳士と目を会わせる。奴は体を仰け反らせ、半月のように鋭利だった双眸を一瞬で驚いた猫がするようにまん丸く変貌させた。


「寿命縮めちまったかな」


 俺は街道を逸れるのと同時に走り出した。目標は林の奥。そこに木の生えていないちょっとしたスペースがある。戦う(やる)のにうってつけのスペースが。


 俺が走り出したのを見ると、老紳士は身を隠すそぶりもみせず追いかけてきた。そりゃそうだ。もう身を隠す必要は無い。俺に気付かれてしまったのだから。それに奴は視覚のみで俺を追っている。林に入られて視界から逃れられたら尾行は不可能。逃がしてたまるか! なんて思っているに違いない。


 林に飛び込む。あまり草は長くないが、乱立する木々の密度が濃い。それを右に左にかわしながら進む。ここから先は運。奴が誘いに乗るか、乗らないか。もし乗ってこなければ、俺の楽しみが無くなる。それだけのことだ。そう考えて光を遮る木々の中、奥を目指して走る。振り返ると、奴は林の中まで俺を追ってきていた。ここまでは完璧。あとは……誘導するだけ!奴に追いつかれないように。それでいて、視界から消えないように。


 拓けた空間に出た。朝ベットから起きて暗い部屋のシャッターを開けた時のように、いっそう強力に感じる日差しが俺の体を包み込む。


「さっきの人ですよね?どうしたんですか?こんなところまで」


 対峙する老紳士に声をかける。顎を引き、胸元を緩める仕草がとても様になっていた。


「解せんな。なぜ逃げようとしない。まさか逃げるのを諦めたわけでもあるまい」


 完全に俺を一連の事件の犯人だと決めつけた物言い。なるほど。茶番は終わりというわけですか。俺はフードを捲り上げて素顔を晒した。


「やはり、神聖騎士団の元団長、カズマッ!」


「なぁじいさん。あんた優秀なんだろうけど、ちょっと俺に集中しすぎなんじゃないかい?」」


 俺に対する接触も、尾行も、このじいさんは先陣を切ってやってきた。そして尾行の仕方。あれは完全に個人プレーだ。おそらく味方にヘマされるのを恐れたんだろう。間違いなくこのじいさん、味方を信頼していない。だから重要な事にも、気付かない。


「お仲間さん、消えてるぜ」


 笑ってしまいそうになるほど素直な反応。目の前の老人は「ぎくり」とした。知覚スキルを発動したんだろう。そう、今この林の中には俺とじいさんしか存在しない。


 知覚スキルを発動するというのは、両手で顔の前に地図を広げるようなものだ。歩きながらならともかく走りながら発動するというのは非常に難しい。ましてや木々が行く手を阻む林の中ならなおさら。このじいさんは俺を追うのに必死で仲間のことを完全に失念していたってわけだ。


「馬鹿な……なぜ」


「解せぬってか?」


 じいさんは眉間に皺を寄せて俺を睨み付けてきた。微かに焦りの色がうかがえる。


「知ってんだろ?俺にも仲間がいる。そいつらの役割は俺の様子を探ろうとする奴を尾行すること。つまり、おめぇらもつけられてたんだよ。俺が街中をふらついてたのは誰かを襲うためでも気まぐれでもなく、最近俺達を狙ってる奴等を把握するためだったってわけさ。あんたの仲間、今頃林の外であいつらとやりあってるんじゃねぇかな。どうする?助けにいくかい?俺の分析だと、5対2とはいえ話になんねぇぜ」


 一時ひとときの沈黙。いや、一瞬だったかもしれない。目の前の老人は、自らの胸の前に左腕を伸ばし、セインレイム内において意識の片隅に存在るイベントリから武器を転送して、握った。


「貴様を倒すのが先だ」


 奴の両眼に力が宿る。その左手には刺剣。その名の通り「刺す」ことをメインにした武器。代表的な武器にレイピアがある。奴が握っているのは、刺剣の中でもリーチが長めなエストックタイプの、たしか名前は「シュメルトック」。レアというわけではないが、細長い十字架のようなフォルムは飾り気がなくとてもスマートで愛用者が多い。というかこのゲーム、強化しきればそれほど武器に性能差がないということと、火力はスキルに依存する割合が高いということがあり、よほどの高性能希少武器バランスブレイカーでも持って無い限り武器は見た目でチョイスされている。


「いいぜ。こいよ。やろう」


 切っ先を向けられる。目の前の老人はバランスを取るように右手を肩の高さにあげ、体を弾ませた。俺は腰を落とし、胸の前で両掌を軽く開く構えをとった。


「素手だと? 甘く見られたものだな」


「俺にとって武器なんてもんはただのコレクションに過ぎない」


 そう。俺にとって特大剣アルテアリス両手斧グレートホライズン竿状武器ユピトセピアなどの誰もが渇望するハイエンドウエポンは、自慢するための道具にはなってもメインの得物にはなり得ない。全てのやいばを極めたなんていわれているが、一つの武器種につき鍛え上げたスキルは一種類ずつ。俺は武器に依存しない。それが俺の、最強の美学こだわり


 規則正しいリズムを刻んで跳ねていた奴のリズムが変わった。僅かに、体重を前に傾けるように。


 --来る!!


 刺剣で警戒するべきは一瞬で間合いを詰める踏み込みの速度。そして独特な剣の「伸び」。腕だけではなく、体全体を使った突きを放たれると、目測を遙かに超えた驚異的なリーチの伸びが生まれる。そしてもう一つ。刺突属性攻撃は心臓に対する特殊致命補正を持っている。あのクラスの使い手の突きが胸に刺さったら、俺でもヤバイ。


「フラッシュスタブ!!」


 踏み込みと同時に放たれた刺剣スキル。元々は高速の三連突き。だが今俺を襲って来ているのは、壁。敵を「突く」という本来の趣旨を忘れ、敵を「押し込む」ための変化を遂げたとしか思えない、遠目からダース単位で放たれる突き。ここが狭い廊下であったなら、もしくは相手が動きの鈍い大型モンスターであったならば強大な破壊力を存分に発揮していたことだろう。


 横に飛び退き、それを躱す。刺突属性の攻撃全般にいえることだが、横に動いていればそうは当たらない。と、


「つっ!!」


 なんとかそれに反応し、右手でつかみ取る。心臓までわずか30cmというところにシュメルトックの切っ先。奴は俺が横に飛ぶのを予見して、回避方向に刺剣を投げつけていた。


「素手でつかむとは……」


「アイデアは良かったが、残念だったな。武器を失って一発芸もばれた。どうする?」


「武器を失っただと?」


 奴の左手に再びシュメルトックが握られる。二本目……なるほど、奴はシュメルトックをストックしていたというわけか。


「おもしれぇ」


やっぱ対人はおもしれぇ。騎士団にいた頃にやってた模擬戦(あそび)とは違う。手の内を知らない相手(てき)との命をかけた真剣勝負。つってもついつい敵の手の内を味わおうとしちまうわけだけど。ま、鍛え上げられたスキルを鑑賞するのも楽しみの一つってか。


 握ったシュメルトックを林に投げ捨てる。武器を被せてわからせてやってもいいが、あいにく俺はそこまで悪趣味じゃない。


「!?」


その時、戦いを邪魔立てする焦燥感が俺を襲った。異物の混入。この戦い、もう楽しむ時間は残されていないらしい。


「じいさん。わりぃが、終わりだ」


 左の掌を向け、直径50cmほどの球形の気弾を放つ。素手の場合、武器を持てない代わりに「オーラ」という青白いエネルギーの塊を操ることが出来る。魔法スキルとは違い、エレメント属性がなく、基本の型もない粘土のようなものだ。基本の型がないということは、とても扱いが難しいと言い換えることが出来る。イメージが重要なこのゲームで、基本になるイメージが存在しないということだからだ。扱いの難しさ、そして素手限定ということで、オーラの使い手はほとんどいない。しかし俺は《こいつ》の性能をとても気に入っている。俺のメインスキルだ。


 後ろに飛んで気弾を躱したじいさんの、さらに後方に転移する。


「なっ!?」


 振り返ったじいさんと一瞬目が合ったが、もう遅い。俺の手刀はすでにじいさんの後頭部を掠めていた。


 素手スキルの基本中の基本「手刀」。こいつは人型の敵の後頭部に当てると気絶させることが出来るという性能を持つ。気絶や魅了などの意識干渉型状態異常にはかなり強烈な補正が入っていて、鍛え上げてもネタの域を出ないなんていわれているが、俺はこいつをとにかく速く、そして重く仕上げてきた。今の俺は、高耐性持ち(アンドロイド)でも十五秒間気絶させる事が出来る。



「う……ぐ」


「よぉじいさん。目が覚めたみてぇだな」


 赤茶色のローブを纏った三人に囲まれ地面に横たわる、四肢をオードブルの、光を金属化させたような生々しい輝きを放つ拘束魔法スキル(バインド)で締め上げられた老紳士に声をかける。


「かわいそうにあんたの仲間、全員ベレッタに殺されちまったみたいだぜ」


「かわいそう? 思ってもねぇこといってんなよカズマ。オードブルの性奴隷(おもちゃ)になるより絶対マシだろ」


 淡々とベレッタがいった。


「俺は殺すなっていったんだがなぁ。ベレッタの奴一瞬でやっちまいやがった」


 白髪の老人が苦悶の表情を浮かべる。オードブルが続けた。


「さてじいさん、いくつか質問があるんだが……」

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