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決戦 ローリエ -2-

 街中を徘徊している人の数はそう多くない。が、明らかに増えつつある。街の外で起こした騒ぎの情報が広がっているのか、建物の中から飛び出すように人が湧いて出ている。


「あそこだぁぁぁぁぁぁ!!!」


 身を隠すこともなく、高所でブラッディーローブを風に揺らしていた俺はすぐ奴等に発見されることになった。訪れた始まりの合図。1時27分。今から約1時間、俺はここで連中の注意を引きつけ続ける。


 アンプルを打ち込み、アルテアリスを握る。


「殺せ! 殺せぇぇぇぇぇ!!」


 下品な叫びと共にこちらに向けて放たれた多様な遠距離スキル。俺はそれらから逃げるように遙か上空目指して連続で転移した。10回ほど転移すると、眼下に広がるローリエの街が、街を囲う塀の外まで全てが一望出来ほど小さくなっていた。


「ウオォォォォォォォ!!!」


 両手に力を入れ、ソニックブロウを乱射しながら、ローリエの街に落下する。


「オラァァァァァア!」


 俺がターゲットにしているのは街中まちなかではなく、塀の外側。街をくり抜くように、衝撃波の雨を降らせる。


 目的は塀の外の連中から意識を奪うこと。意識を俺に向けさせる。俺がブルーソフィアの、唯一無二の敵になる!


 徐々に近づきくる地面。転移は転移先でも慣性が残ってしまうため、このままだと落下ダメージでぺしゃんこになってしまう。が、さすがにそんな間抜けはしない。


 アルテアリスを格納し、右手を天に向ける。


「ぐぅ」


 一瞬、天空に引きずられるような衝撃が右腕を伝う。腕の先には蒼白く輝くクラゲみたいな、オーラで練り上げられたパラシュート。地上までは約100メートル。俺の姿を捉えた連中から容赦ない攻撃が打ち上がってくる。


「ふざけやがって! たった一人で聖地にせめてくるなど!」


「やれ! やれぇぇぇ!!」


「今結界を張ります!」


 同時に様々な叫び声が聞こえてきた。意識を下方に向け、パラシュートを消し敵の攻撃とすれ違うように地上に転移する。


「やったか!?」


「残念」


 往来で上空を見上げている集団の脇に転移し、至近距離からソニックブロウをぶちかます。五、六人の姿を一気に輝く粒子に変えてやった。


「ここにいるぞぉぁぁぁぁぁ!!!!!」


 とはいえ巣で蠢く虫のように大量に徘徊している連中の相手をするのはやはり容易ではない。まともに倒そうと攻撃してたらあっという間に見つかって包囲されちまう。上空からの攻撃で俺の存在は十分アピールできたし、ここからは出来るだけ消耗を抑える立ち回りでいく。時刻は1時30分を回った。残りの時間をアンプル3本とエリクシール二つで凌がなければいけない。


「燃えてしまえ! フレイムランス!」


 迫り来る炎を避けながら建物の上に向かって飛び、腕を振って五本の指の先から小さな気弾をバラ撒く。威力は低く、とても敵を倒せるような攻撃ではないが、目くらましにはなる。


 高所を駆けながら敵の攻撃を躱し、目に付いた奴に気弾を放っていく。もはや俺の目的はただこのローリエで生存すること。敵を倒そうなんていう気概は正直ない。うまくスタミナを管理し、時折上空に転移をして塀の外目がけてソニックブロウを放ち、外側の連中の意識も切らさないようにしていく。


 ……順調に時間を消化していたが、そろそろUPがヤバイ。やっぱあんな所でジェノサイドエクスプロージョンなんて使うんじゃなかった。今更後悔しても遅いんだけど。


 周囲を確認し、人口密度の低そうな場所を見定め転移する。当然といっちゃ当然だけど、俺の姿を追っているが故に連中は転移先の俺を即座に視界に捉えることが出来ていない。

 とはいえ人間ってのは慣れていくもんだから、少ししたらあえて俺から目を切っておいて、転移先の特定を優先するなんて奴が出てくるだろう。油断をしてはいけない。


 右の掌に真っ白いミカンのような物体「エリクシール」を転送する。とてももちもちした触感で、大きめの白玉みたいな感じだ。これは体内に取り込むことでHP(たいりょく)、UP、STを全回復させる効果を持つ。

 最高級の回復アイテムで、使用方法は二つある。一つは食うこと。ヨーグルト風味で清涼感のある、とろける白玉って感じで、なかなかいける。もう一つの方法は、皮膚に擦り込むこと。俺は擦り込み派だ。


 左腕を捲り、右手に持ったエリクシールをもちっと当てる。


「んっ……」


 ひやり。とした冷気と、スウッとした清涼感を感じる。やさしく、艶やかな手つきでもっちりとしたエリクシールを腕全体に伸ばし、染みこませていく。


「くぅっ……」


 腕を中心に体中が浄化されるような感覚。同時に襲ってくるとろけ落ちるような消失感。しかし落ち行く中に感じる確かな充実感。力が漲って来るのを感じる。


「き……きもちぃ~」


 はあ。たまんねぇ。昔ハマり過ぎて騎士団で貯蔵しておいたエリクシールを必要も無いのに無断で使用していた事を思い出す。かなり希少な物なので当然みんなに怒られて、俺の手が届かない所に貯蔵されることになったわけだけど。ってどうでもいいか。隠し効果に鎮静作用でもあるのか、戦闘中にもかかわらず気持ちが安らいでしまった。


「あそこだぁぁぁぁぁ!!!!」


 そんな俺の、ゆっくりと鼓動する心臓を絞り上げて、無理矢理臨戦態勢に持って行くような叫び声が鼓膜に伝わってくる。


 1時45分。とっくにベレッタが詠唱を開始している時間だ。あいつらが見つかったような様子はないし、今のところうまく行っているはず。


「任せてください!」


「くらえぇぇ!」


 迫り来る遠距離スキルを躱す。すでに建物の屋上にまで人が溢れていて、転移先を想定することすら難しい。とはいえ多少は俺に引き寄せられるのか、密度の低い、人の気配の薄い場所は確実に存在する。スタミナを切らさないように紙一重で敵の攻撃を避けながら、時折そういう場所に身を投げるように転移して敵の猛攻を凌いでいく。何度も、何度も。


「ヴォルテックス!!!」

「ヴォルテックス!!!」

「ヴォルテックス!!!」


「!?」


 転移先で俺を囲うように巻き上がった、見上げるほど巨大な、範囲を狭めて一直線に天に引き延ばしたような漆黒の竜巻。即座に知覚スキルで竜巻の外の様子を確認すると、俺が身を置く建物を囲むように地上に陣取った三人の術者が、三重に重ねた風魔法上級スキル(ヴォルテックス)を発動していた。


「やられた……」


 奴等わざと部隊密度の低い場所をつくって俺を誘導してやがった。


 余裕がないとはいえ立ち回りがパターン化していた自分に少し苛立つ。が、今はそんなこと感じている場合じゃない。目の前の状況を打破する為には……


 顔が歪む。高速で回転しながら迫り来る漆黒の壁。聞くだけで体力が減りそうになる轟音と共に、あらゆる物体を切り裂きそうな渦が、ゆるりと余命を宣告するかのように全方位から収束して来ている。


「くっ……これしかねぇ!」


 アンプルを転送して打ち込む。残り2本。即座に意識を上空に向け転移する。が、俺を囲う風の渦は一度の転移では抜け出せないほどの巨大さ。夜の闇のせいもあり、この渦が天に向ってどこまで伸びているのかが把握出来ない。絶望と圧迫感が襲ってくる。確実に漆黒の壁は迫りつつある。


「くっ……!」


 頼む! と祈りながら再び転移するが、まだ渦を抜け出せない。体に触れそうになるほどの所にまで、死の渦は収束してきている。


「間に合ってくれぇぇぇぇぇ!!!!」


 最後の祈りの転移。これで抜け出せてなかったら、俺は死ぬ。


「は……はは。よ、よゆー」


 眼下で、ぷつりと糸を捻りきるように歪んで消失した竜巻。間一髪、俺はその脅威から逃れることが出来ていた。

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