クリアライフ3―――過去―――
夏の暑さを忘れてそろそろ寒くなりだす9月の終わり。カサカサと音をたてる草木をBGMに聞きながらまどろんでいた。
「冨本君。なにか案ある?」
「へっ!?」
急に僕の名前、冨本 秀一の苗字を呼ばれ現実に戻る。
そうか、今は6時間目のロングホームルームで11月にやる文化祭を何にするか決めていたんだ。
「えっと、特に何も……」
「だったら、ぼうっとしてないで何か考えてよ」
「悪い」
ちょっと気の強い学級委員の女の子に怒られる。苦笑いを浮かべながら謝っていると横からふんわりとした力を加えられる。
「うん?どうしたの?」
そちらを見るときれい、というよりは可愛いという言葉の似合う、魔法の使える少女、星野 夜美が疑問をもった顔で僕を見ていた。
「秀一君。文化祭って、具体的に何をするものなの?」
「えっ?あ〜、そっか。夜美は知らないんだったな」夜美はずっと魔術結社、堕天使の一員として暮らしていたため、学校の行事等には聞いたことはあるけどぐらいでしか知らない。
「そうだな……内の学校ではダンスや出店、演劇とかがよくやるよ」
「出店って、具体的には?」
「んっとな。食べ物屋や縁日みたいなもの、アクセなんかを作って売ったりかな」
「秀一君は去年なにしたの?」
「あ、はは。実は去年は文化祭の日に台風直撃してさ、中止になっちゃったんだ」
「そうなんだ」
夜美は頷く。
それから10分少しワイワイしていたクラスも静まりかえっていた。僕を叱った学級委員もいつの間にか黒板の前から自分の席に戻っている。
今聞こえるのは隣のクラスのはしゃぐような声と時計の針の音。
「えっと、み、みんな。やりたいことは無いのか?」
担任の声が響くが誰も答えない。まるで葬式に来たように静まり返っている。
「そうだ!!」
突如担任が大きな声を出す。
「みんな、ラジオってのはどうだ?」
「ラジオ、ですか?」 誰かが先生に聞き返す。
「あぁ。放送室を使ってな。このクラスは48人だから、二人一組となって、時間交代でパーソナリティーになるんだ。準備もペアをどうするか?コーナーなんかも2、3用意するぐらいだしな」
先生の発案にみんな口々にいいんじゃないか、という声が聞こえる。
「じゃぁ、ラジオでいいな?」
確認するような声に異論を唱える人はいなかった。それを満足そうに見て1つ頷いたと同時にチャイムが鳴り響く。
「それでは、今日は特に連絡も無いので以上。日直」
「きりーつ。礼」
「「ありがとうございました〜」」
日直に従い礼をいい終えると、担任はそくさくと教室を出ていった。
僕も鞄を持ち上げる。
「行こう、夜美」
「あっ、うん。ちょっと、まって」
夜美が教科書を鞄の中にいれていく。
「ふぅ、おあついことで」
「そんなんじゃないって、言ってるだろ」
「どうだかな」
「たくっ」
親友兼悪友の石田 湊人にからかわれ悪態をつく。後ろからもう一人の悪友、福田 海斗も笑っている。
「用意……できたよ」
「ん。じゃあな、石田」
「ほいほい。邪魔者はいなくなりますよ」
「だから、違うって」
ため息をつきながら教室を出て、夜美と共に歩き出した。
「ね、ねぇ。秀一君」
「ん?」 少し上目づかいで僕に問いかける。こうしてみると最初、学校の屋上であった時とは別人の用に思えてくる。
これはきっと心の扉を開け、積極的に“普通”の女子高生になろうとしているのだろう。
もう、あの頃の夜の音と名乗っていた、星野夜美ではなく市立南里高校に通う星野夜美なんだろう。
「文化祭のラジオさ、その……わたしと一緒にやってくれる?」
「僕と?」
「う、うん。だめ……かな?」
「いや、だめなこと無いさ。夜美がそれでいいならそれでいい。あいつら―――石田と福田は二人で組むだろうし」
「あり、がと」
「どういたしまして。あっ、あいつもう来てる。行くぞ」
「うん」
僕らは少し派手な服装を纏う少女のもとへと小走りに向かう。
僕らが向かっていた場所。それは寮ではない。かといって娯楽を求めてこの南里山市で一番栄えている駅前でもない。ここはシャッターが閉まりっぱなしの店が立ち並ぶ駅裏だ。その中の廃ビルの1つに彼女は立っていた。
「あっ、シュウイチおそーい」
「いつも道理の時間じゃないか、ミント」
「まっ、そうなんだけどね」
そう言って笑う少女、ミント=クリア=ライト。魔法使いだ。そして、僕が好きな女の子でもある。
「ミントさん、こんにちは」
「うん、こんにちはヨミ」 少し固めな二人の挨拶。まだ、互いになれていないということなのだろうか?
ともかく、僕たちがこんなへんぴな場所に来たのはミントと一緒に―――
「さっ、今日も修行開始するわよ」
「あぁ」
「はい」
同時に返事をする僕達。 そう、ここに来たのは修行―――魔法の鍛練をするためだ。
この修行は僕らの敵、堕天使の襲撃に備えるものだ。何故かは分からないがあいつらは僕を狙っている。そして、あいつらにとっては裏切り者となる夜美も狙われるかもしれない。なのでミントも一緒にいつ襲われてもいいようにするための修行だ。
「じゃぁ、ヨミがなんか、シュウイチに向かって魔法だして。シュウイチはそれをふせいでね。それがスタート。あっ、二人とも性質系魔法で高速詠唱でね」
「了解」
「分かりました」
お互い返事をして距離をとる。
「じゃぁ、いくね―――闇の玉」
「風の壁」
夜美の繰り出す闇色の玉不可視の風の壁が僕を守り、爆発音がなり消え去る。
「くっ、どこだ」
「後ろだよ。星の召喚、星座水瓶座!!」
ヨミが先日作った魔法、星の召喚が出てくる。今回は星座水瓶座だ。人魚のような女性が後ろに現れ大量の水が流される。
「ぐっ、人物浮遊魔法」
宙に浮かび水から抜け出す。
「読めてるよ。水瓶座お願い」
夜美が言うと水の流れがこちらにへと進路を変えてきた。
「魔法削除。人体転移魔法」
光りを媒体とした転移魔法。最近教えてもらったがこれも性質系魔法だ。
「どこ?」
「上だ。空気の鳥籠」
「きやっ」
透明の籠で夜美を捕まえる。空中にいる僕はそのまま一度透明の籠に着地し地面におりたった。
「よし、僕の勝ちだね。魔法削除」「あ〜あ、負けか。水瓶座ありがと。魔法削除」
水瓶座は消えていく。
「今日はシュウイチの勝ちね。でもヨミの星の召喚も良くなってきたわね」
「はい、今はまだ水瓶座、蠍座、天秤座の3つだけですけど」 肩をすくめて話す夜美。
「それでもすごいわよ。一気に新出魔法を3つ作りあげたわけだから」
「3つといっても星座を変えただけですよ」
「そうだけど……それでも、その発想はミントには無かったもん。呪文を同じにして魔法名だけをかえる。そんなことを星座という形で作りあげるなんてね」
「ふふっ、ありがとうございます」
笑いながら礼を言う夜美。
「さてと、次はどうする?」
「えーと、次は堕天使を倒すためにも新しい力って必要だと思うの。だから堕天使がどこまで魔法定義を知ってるか分からないけどもし、いっぱい知ってたら困るから敵が知らない魔法を作るってのはどうかな?」
「なるほどな、いいんじゃないかな、夜美は?」
「わたしもそれでいいと思います」
「じゃぁ、それでいこ。まずは3人とも使える通常魔法考えよ」
ミントの言葉と同時に考える僕達。だが、そう簡単には魔法なんて思いつかないが、急に1つ気になる事を思いつく。
「なぁ、ミント」
「なに?何か思いついた!?」
「いや、そうじゃなくてだな。新出魔法って、実在魔法だけって言ってただろ?」
「うん」
「なんで、無形魔法はだめなんだ?」
「あ〜、えっとね。一度人類が旧石器時代前に今の文明まで発達したって話はしたよね。ヨミもこの事は知ってる?」
「はい。堕天使にいた頃に聞いたのを覚えています。誰から聞かされたかは覚えていませんが」
「やっぱり堕天使に関する事だけは記憶が消されているのね。えっと、それでね、その時に起きた戦争から新たな魔法がたくさん作られたの。その時一番作られたのが静かにそして、一気に奇襲をかけやすい無形魔法だったの」
「そっか。暴風の流れを最大魔力で幾人もの人が使ったら町1つは簡単に潰せるしな」
「うん、無形魔法の攻撃魔法は広範囲に攻撃する事が出来て実在魔法は狭い範囲に大きなダメージを与える攻撃が多いわね。勿論例外もあるけど。だけど本当に怖いのは一時的な大きな攻撃じゃなくて少しづつじわじわと命を奪いとっていく魔法なの」
「そんな、魔法が……?」
「輝きを無くした星、心の闇とかですよね?ミントさん」
驚く僕をよそに魔法名を2ついいならべる夜美。
「うん。でも、その2つは確か……」
「はい、闇の性質系魔法です。ですが、魔法名と、その魔法の効果だけで呪文は教えられませんでした」
「でしょうね」
「ちょ、ちょっといいか?夜美」
2人の会話に遅れないためにも気になる事は質問をする。
「なに?秀一君」
「その2つの魔法ってどんな効果があるんだ?」
「わたしも詳しくは知らないけども輝きを無くした星は夜にのみ出来る魔法で、星達の中に偽の魔力によって構成された星を浮かべて数週間に渡りゆっくりと有害な光りを人にむけてはなって相手の身体の内部から壊していく魔法なの。そして心の闇は人間の中の心の闇。特にキリスト教なんかでは『七つの大罪』と呼ばれている、強欲、傲慢、暴食、嫉妬、怠惰、色欲、憤怒の気持ちを相手の心の闇にリンクさせて増大させるの。夜を象徴する闇の属性でも心の闇をつくという変わった魔法なの」
「つまり、その増大した感情で戦意を失わせたり、犯罪へともっていったりするという訳か」
「うん、多分ね。それでミントさん。これらの魔法がどうかしたんですか?」
一通り説明を終えてミントに話しを促す。
「そんな魔法が多く開発させれて、それがこの国……ううん、全世界いたるところで使われたらどうなると思う?」
「それは……想像したくもないな……世界が滅びるだろうな。って、言うことは過去に……」
「そうなの。そういう事になってしまったからミントの祖先―――ミリス=クリア=ライトが記憶を消して人々に魔法というものを使えなくしたの。その時に一緒に魔法封印―――名前の通りいくつかの魔法を封印したの。そして、無形魔法に新たな魔法を作らせないようにするため願いを封鎖する壁をかけて既存する魔法以外の魔法を使おうとした者の魔力を喰らい回復する事も出来なくしたの」
「う、うぅーん。いまひとつよく分からないな。そもそも『魔法』というものはなんなんだ?」
「そうだね、シュウイチには詳しく説明していなかったか。ヨミは?」
「わたしも詳しくは。でも、人の限界を超えた魔というものの法。それが魔法だと」
「ふーん、簡単には教えてもらってるんだ。その通り。魔法というのは人の力を超えたものよ」
「どういう、ことだ?」
また、一人話しに遅れそうになるので問い返す。
「シュウイチはまさか、普通の人が空を飛んだり、手から光弾を出したりできるとおもってないよね?」
「そりゃそうだろう」
「つまり、魔法っていうのは人間以外の力を借りてるということなの」
「人間、以外の?」
「そう。それは例えば飛行能力のある鳥の力を借りれば空を飛ぶことができる。光りを放つ星の力を借りれば光弾をだしたり、逆に光りを失わせることもできる。つまりはこの世に存在する物質や生物の力を借りる方法。それが魔法よ」
「そうなんだ……じゃぁ、伝言鳩魔法や星の召喚なんかは?」
「伝言鳩魔法はコウモリなんかが出す超音波を鳩という形にして相手に届けているの。星の召喚は……多分星の能力である光りを出すという部分を水瓶座なら水に住む動物から、蠍座はそのままサソリから天秤座は天秤という物理法則に変えて無理矢理風の性質の性質、光りを出すという部分を失わせるという形をとって闇にしてるんだと思う。そう考えるとこれを思いついたヨミは本当にすごいわよ」
「あははっ、ありがとうございます」
少し照れたように笑いながらまた礼を夜美がいった。
「ふーん、で、願いを封鎖する壁でどうやって新出魔法ができないように?」
「えっとね、この魔法は人の力―――逆に人のみが出来る力、呪いを極限まで高めた魔法なの」
「呪……い?」
「うん。願いを封鎖しろという呪いをかけた、といった方が分かりやすいかな。記憶消去魔法も忘れろ、という呪い。こういう人間の力を使った魔法の事を魔の呪、魔呪と呼ぶの」
「魔術、じゃなくて?」
「魔術は魔の術の事。つまりは鳥の飛ぶ能力であったり星の光りを出す能力の事をさすの」「ふーん、そっか。と、すればなんで逆に実在魔法は新出魔法が出来るようにしたんだ?」
「それはね、実は単純に魔力が足らなかったの」
「へ?」
思わぬ答えに間抜けな声が出る。
「元々、魔呪は魔力を多く使うから2つの魔呪をかけ続けるのは難しいのよね。それに他の人が行おうとしてもそれは同一の魔呪。願いを封鎖する壁。同じ呪いをかけるのは無理なの。どちらかの呪いが強い方が全てを引き受けてしまうわ」
「ふーん、なるほどね。理解できたよ」
「わたしもです」
「そっか、ならよかった。って、もう暗いわね。今日はおしまいにしましょっか」
外をうかがいながらミントが言う。
「そうだな、んじゃぁ、帰るか」
「じゃぁ、ヨミ送っていくからシュウイチは先に帰ってて。私もすぐ行くから」
「了解」
普通なら暗い外を少女2人で帰らせるのはおかしな話だろう。しかし、僕達の場合はこれが普通だ。
「じゃぁ、ヨミいくね」
テトテトとヨミの元に近づくミント。
「いつもありがとうございます。秀一君も明日ね、バイバイ」
軽く手をふる夜美。
「あぁ、明日な」
僕らが別れの挨拶をしている間に呪文を完成させたらしいミントが言う。
「人体転移魔法」
その途端2人が姿を消す。そう、いつもミントがヨミを人体転移魔法で送っているのだ。
「さてと、僕も帰るか。動くは体。光と同じ速さで移動せよ。我のしめしたところえ――――」
「富本……秀一君だね」
「っ!!誰だ!!」
呪文を唱えている最中に後ろから低い声が響く。振り返るとがたいのいい華奢という言葉の全く反対の体躯の体をした男が立っていた。
「堕天使のものだ、と言えばいいかな?」
「ちっ。僕を狙いに来たんですか?」
舌打ちをして威嚇気味に声を荒げる。
「落ち着きたまえ。夜の音とは立場が違う」
「夜の音……夜美とは立場が違う?」
「夜美―――星野夜美の事か。あぁ、私は堕天使の幹部。天使の名は嫉妬の炎の瞳だ」
「嫉妬の炎の瞳……その幹部が僕に何のようですか?」
「あるお願いをしに来たのだよ」
「お願い?」
いつ、攻撃が来てもいいように相手の動きに目を配らせる。
「君を堕天使のメンバーとして、いや最高幹部として向かい入れたいんだ」
「なっ!!何を言ってるんだ!!」
相手の真意が分からず思わず動揺してしまう。
「そう焦らないでくれ。これは私達堕天使の党首、神から産れた悪魔様のご要望だ」
「党首だと?どんな人物なんですか?」
できるだけ敵の情報を収集したい。
「ふっ。こちらから情報を引き出したい、そんな顔をしてるな。だがな、私も神から産まれた悪魔様がどのような人物かは分からない。今回のも伝言鳩魔法により命令を受けて来ている」
「ちっ。で、どうして僕を仲間に、それも最高幹部にしようと?」
「ふむ。それを説明するには私達の目的についてまず話した方がよさそうだな」
彼の言葉に多少なりとも驚く。こんなに簡単に目的を教えていいのか。
「私達の目的。それは、制限されない魔法を手に入れる事だ」
「制限されない魔法?」
「あぁ、さっき君たちは『魔法』というものがなんなのか教えてもらってただろ?」
「あぁ」
コイツその時からいたのか……本当にいつからいたんだ?
「そこで魔呪により魔法がいくつか封印されていただろ?簡単にいえばそれを解きたいんだ」
「なっ!?なんのために?」
「なにもたくらんでなんかいないさ。只、本当の力を、魔法を手にしたいだけさ。そこで、君に協力してもらいたいんだよ。神の子ども、冨本秀一君」
「っ!?何をいっているんだ!?」
僕が神の子だと?馬鹿な。僕は只の人間だ。
「少し話しが進み過ぎたか。神の子どもというのはある能力を授かった者の事をさすんだよ」
「ある、能力?」
「あぁ。神は全てを創造したものだ。つまり逆にいえばなんだって壊せる」
「何が言いたい?」
「ふっ。神の子ども、私達は神から授かりし光りと呼んでいる。神から授かりし光りの能力、それは全ての性質係魔法が使える。高速詠唱が生まれつき使える。そして全ての魔法を魔力を使わずに消去する事ができる力の欠片をもっているのだ」
「っ。あなた達の狙いはその欠片というものですね」
「あぁ。だがな、その欠片というものが目覚めるのは最初に出した実在魔法の体内に、だ」
「実在魔法に?どうして?」
「もし、人の体内で目覚めた場合欠片といえどもパワーは凄い。その者の魔法が使えなくなるからだ」
「なるほどな」
「だから最初私達はその実在魔法が外に出ている時に魔法所有者を殺して内部からその実在魔法を壊して欠片を得ようと思っていたのだ。つまり、君に言い換えると君が最初に使った実在魔法、魔法犬が発動している時に君を殺そうとした。思い出してごらん?夜の音が君に攻撃したのは全て魔法犬を出した直後だったろ?」
言われて記憶を巡る。確かに攻撃受けたのは全てマトを出した直後だった。
「思い出してくれたようだね。夜の音には魔法犬を出した直後に君に攻撃するように命令を出していたんだ。まぁ、今では記憶操作受けた後だから忘れているだろうがな」
「やっぱり、記憶を……ん?待てよ。マトは僕に同化したんだぞ?だとしたら欠片は僕の中に入った事になるんじゃないのか?」
「マト?あぁ。君は魔法犬をそう呼んでたね、確か。まぁいい、それが今回のイレギュラーだったんだよ。同化により君は魔法犬の力を受け取ったんだ。だから今、君の身体には魔法犬がいるんだと思ってくれたらいい」
「僕の中に……マトが?」
「あぁ。で、どうだ?私達の仲間に、ならないか?」
「ふざけるな!!貴方達は夜美のお姉さんを、彩愛さんを殺した!!そんな奴らの仲間に、僕は入りたくない!!」
「彩愛?あぁ。あの愚かな裏切り者か。ちょうどいい君は星野夜美の過去を知っているか?」
「夜美の?」
夜美の過去。つまり堕天使にいた時の事か?
「その様子だと知らないようだな。ならば星野夜美の過去を教えてやろうか?」
「いい。過去は過去だ。夜美本人から聞くならまだしも、貴方から聞くつもりはない」
「他人の過去を探るのは悪い気がするって事かな」
まるで心を除かれているような気がして嫌な気分になる。
「そう恐い顔をするな。まぁいい、君がそういうならば。だが、ここで私が嫉妬の炎の瞳と呼ばれている由来を教えよう」
「くっ、何をするつもりですか?」
「何。簡単な事だ。君は星野夜美が妬ましくないのかい?」
「夜美が?どうして?」
「忘れたのかい?君が可愛がってたマトを結果的に殺したのも同然の状態にしたのは星野夜美、だぞ」
「なっ……でも、それは、貴方達の命令だ」
「実行犯は彼女だ」
「何が言いたい」
「マトは死んで星野夜美は生きている。そんな状況、君は我慢できるのかな」
「……」
何も言えずただ睨む僕。
「君の中にもこんな感情があって良かったよ。それが、嫉妬だよ」
「ちが……う」
「まだ、理性が勝つか。ならばこれで最後だ。第三の目、嫉妬」
「んぐっ!!」
彼の右目が怪しい赤色に変わりその目を見た瞬間心が大きく揺らがされたような気分になる。
「まだ、衝動に動かされないとは……流石だ―――ん?」
僕とあいつの間に金色の光りがわって入る。あれは……人体転移魔法だ」
「シュウイチ?いる?っ!!だれ?」
そこから表れたミントが嫉妬の炎の瞳に驚く。
「もう少し君と話しておきたがったが……まぁいい。もし、彼女の過去が知りたかったら来週、この場所に来てくれ――――――頼む」
突如空に視線を移して言葉を発すると彼の体が金色の光がつつみ姿が消える。
「ちょっ、おい!!っち。強制転移魔法か……」
「ねぇ、シュウイチ。あいつ誰なの?それに、強制転移魔法って……」
「後で説明する。とりあえず、寮に帰ろ」
「う、うん」
僕のいつもより低い声音にたじろぎながらも返事をしたミントは呪文を唱え始める。その姿を見ながら心の中で勢力を広げる暗く、赤黒い気持ちと葛藤を繰り返していた。
――――――夜美は悪くない。
そう自分に言い聞かせないと心が負けそうになる自分の不甲斐なさに誰に対するか分からない罪悪感を乗せて……
「そんな事があったんだ」
寮に帰り、着替えてからことのあらましを伝えた。ただし、彼がどうして嫉妬の炎の瞳と呼ばれているかは伏せて。
「ところでさ、最後にあいつが言ってた『彼女の過去が……』って、どういう意味?」
「えっと……」
言葉につまる僕。本当のことを伝えていいものなのか。
そんな事を考える自分が妙に情けない。
「その……な……ごめん」
「えっ?」
唐突に僕が謝ったので意味が分からないと言った声を上げた。
「ごめん……今、ミントに対して嘘をつこうとしてた」
「嘘……を?どういう事、秀一?」
「まだ、言えない」
「言えないって、秀一!?」
「ごめん……今日はもう寝るから」
僕はそう言って布団を取り出す。ベッドがうちの寮にはあるがミントがうちに来てからはミントが使っている。
「ちょっと、シュウイチ!!」
「うるさい!!」
「っ。シュウイチ?」
珍しく声を張り上げた僕を怯えるようにミントが僕の目を見る。
「とにかく……今はそっとしといてくれ」
「シュウイチ……」
悲しげに呟いたミントの言葉に胸が苦しくなるがそんな自分の気持ちすらも無視するかのように布団を頭までかけた。
その夜はいつまでたっても眠りにつく事はできなかった。
遠くからチャイムの音がなるのを耳に捕える。
ここ、は……あ~、そうか。僕は学校に到着するやいなや机につっぷして眠ってしまったんだ。
昨夜、ミントも寝付けなかったのか僕の隣で黙って座っていた気配を感じていた。だが、しばらくすると僕にもたれかかるような感じで寝息をたて始めた。
このままでは息苦しいし、何よりもう夜の寒さがよりいっそう強くなる秋だ。風邪をひいてはいけないのでミントを抱き上げてベッドに寝かせて掛け布団を被せてやった。抱き上げる時思ったよりミントが軽かったので勢いが殺しきれず振動を与えてしまいミントが「うぅーん」と、唸ったので起こしてしまったのかと一瞬焦ったが何事もなかったように寝息をたてなおしたので安心した。
流石にさっき喧嘩もどきをしたばかりだったので起きられてはなんか格好がつかない。まるで痴話喧嘩をして互いに恥ずかしがってるカップルのようだ。
……カップルといえば僕はまだミントの告白に答えていない。タイミングがなかった、といえばそれまでだが何となく言い出せずにいる。特に夜美といるようになってからは更に言い出せずにいる僕がいた。
閑話休題。そんなこんなで僕はミントから逃げるように学校へと急いだのだ。
「ねぇ、秀一君?起きて?授業、終わったよ」
服の袖のあたりに軽い力が加えられ呼びかけた人物、夜美を見上げる。もう鞄をもって、帰る用意は万端だ。
「あ、あぁ。悪い」
「今日、ずっと眠ってたけど具合、悪いの?ミントさんから今朝、伝言鳩魔法で今日の修行は中止ってきたし……」
そうか……さすがに、中止、か。
「いや、なんでもない。ただ、ちょっと風邪気味なだけだから……」
夜美にまで嘘をつかなくちゃいけない自分に腹立たしささえたつ。
「そう?……じゃぁ、早く寮帰ってね……送って、行こうか?」
どこか探るような口調で提案する。
「あっ、いや。ホント大丈夫だから。悪い、な」
「ううん。お大事に」
否定の言葉をいい、教室を去っていく夜美を見送ってから僕も鞄をとって教室を後にした。
ぼんやりとした頭を覚醒させるような冷たい風がふく。季節の変わり目、確かに風邪をひかないように気を付けなければなんて考えながら自分の寮の部屋の前に立つ。開ければ、ミントがいる。そんな当たり前のことが何となく開けるのをためらわせた。
が、いつまで突っ立てていても仕方ないので鍵を開けドアを開けた。
「……ただいま」
自分でも情けなく感じるぐらい小さな声だった。
「あれっ?ミント?」
ベッドの近くまで行ってミントがいないことに気付いた。まぁ、あいつの事だ。気分転換にどこかに出かけたのかもしれない。人体転移魔法をすれば鍵を持っていなくても外に出ることが出来る。
「はぁ」
ため息をついて鞄を適当に投げて脱衣所兼洗面所になっている部屋の敷居のカーテンをさっ、と開けた。
……そこには―――
「ミン……ト?」
「えっ?シュウ、イチ?って、あっ、きゃぁ!!」
そこには、体に何もつけていないミントの姿があった。
「ちょっ、み、ミント。落ち着いて」
「い、いいから。カーテン閉めて出ていって!!」
「あ、あぁ。悪い」
タオルで体を隠し、座り込んだミントに指示をされ言われたとおりにする。
まだ、心臓がドクドクしている。
少ししか見えなかったけど胸、小さかったな……って、何考えているんだ僕は。
煩悩を振り払うように頭をふる。
「シュウイチ。もう、いいよ」
シャーという音と共にカーテンが開かれる。
「あ、あぁ。なんというか、ごめん」
振り返りミントに頭を下げ謝る。髪が濡れていたのでシャワーでも浴びた後なのだろう。
「……むぅ。見たの?」
「えっと、す、すぐ忘れるから」
「見たんだ……」
「あっ、そ、その」
「……顔、崩れてるよ」
「なっ。そ、そんな事ないって」
「何考えてんの?」
「べ、別に何も考えてないよ。ミントの胸が小さかったとか、子ども体型なんだとか」
「ふーん、ありがと、シュウイチ。全部教えてくれて」
ニコッと口元だけ笑って手をかざす。
「ミン……ト?」
「今すぐ、忘れさせてあげる。光弾魔法!!」
「ちょっ、グハッ」
多数の光の弾が僕のお腹にヒットし、その場に倒れて意識を失った。
「いつつ。あそこまでやること無いだろ」
「シュウイチが悪いんだもん」
「だからって……裸見ただけで」
「また、思い出してる!!」
「んなこと……ないよ」
「そう言うのは顔のニヤケをとってから言ってよね、バカ」
「ぐっ」
言葉につまる僕。だって、あんなの見せられたら。僕だって、健全な男子高校生だし。
「また、この、えっと、えっと、エロイチ!!」
「何だよ、それ」
「ふん、エッチなシュウイチにはぴったりのニュッくネームよ」
そう言って、プイッと顔を反らすミント。その姿に可愛らしさが倍増するのを感じる。
「な、機嫌直してくれよ」
「シュウイ……エロイチがずっとニヤケたままだからいや。そうだ、ヨミにもこの事言お」
「はっ?ちょっ。おい!!」
「伝言鳩魔法」
「わー!!消えゆるは魔法。魔法削除!!」
あわてて、魔法定義をいい、窓から飛び出そうとしていた鳩を消去する。
流石Sランク魔法だ。魔力消費が激しい。こんなの高速詠唱でやったら魔力が空っぽになってしまう。
「クスッ」
突然笑い出すミント。
「アハハッ、シュウイチ必死。ハハッ」
「当たり前だろ」
何となく恥ずかしくなり今度はこっちが視線を反らす。
「アハハッ」
「ふっ、ハハッ」
そしてこちらも可笑しくなっていき2人でひとしきり笑いあった。
「ふぅ、それでさ、ミント」
「何?」
目尻に笑いによってうまれた涙を手で払い除けながら問い返すミント。
「その、さ。色々ごめん」
「……別に、いいよ。ミントもごめん。ちょっと、甘えすぎたのかな、シュウイチに」
「僕に?」
「うん。シュウイチだって、1人の男の子だもん。ミントはさ、シュウイチがミントに対して嘘とか、隠し事とかしないと思ってたから……だから、それはシュウイチに対する甘えなんじゃないかなって」
ミントの言葉が胸に重くのしかかった。
ミントは……悪くない。むしろ―――
「いや、ミントはむしろ僕に甘えればいいんじゃないかな」
「えっ?」
「そりゃ、僕だって、隠し事があるけど、だけどミントの願いにはできるだけ叶えてあげたいんだよ。だから、もっと甘えてほしいよ、僕は」
ちょっとキザかなとは思ったけど僕の気持ちをありのままに言う。
「……うん。わかった」
一瞬驚きによる、間はあったけどその後は眩しい笑顔が出てきた。
「でもね、シュウイチ。シュウイチもミントに甘えてよね?」
「僕が?」
「うん。シュウイチはさ、多分何でも1人で抱え込もうとするから、もし悩みとかがあったら相談してよ」
「……わかった。少しは相談するよ」
今度はこっちが頷く番になった。
「それとさ、シュウイチ。甘えていいなら1つだけ言わせて?」
「何?僕にできる範囲なら何でもやるよ」
「うん、凄く簡単な事だから」
にっこりと笑いながら言うミント。でも、その笑いに何か恐怖を後になって覚えた。
「えっと……どんな、事?」
「シュウイチの机の2番目の引き出し」
「うん―――あっ!!」
僕は声をあげる。そこには……
「あそこにある、綺麗な女の人の肌がいっぱい見えてる写真の本」
そこで一旦声を切り、笑顔をひっこめる。
「処分して」
「……デスよね」
消えかけの声で頷く。
「ウギャー!!僕のバカー!!なんでそんな所にいれてたんだ〜」
「何バカな事いってんの」
ミントのツッコミを受けて大人しくなりその本を机からだし、泣く泣くごみ箱に入れた。最後に見えた表紙が微妙に切なさを誘い、そのままぼうっとごみ箱を眺めていた。遠くで「ほんとにエロイチにするべきかも」と言うミントの声が聞こえた気がした。
「うぅーん」
軽い衝撃をうけて、唸り声をあげ、ミントは、ミント=クリア=ライトは目を覚ます。すると、目の前には先ほどけんかしたばかりのトミモトシュウイチの姿が。
そっか、ミントはいつの間にかシュウイチの上に被さるようにして眠っていたらしい。それを起こさないようにベッドまで運んでくれるなんてシュウイチらしい。まぁ、結果的には起きてしまったけど。
ミントはシュウイチにばれないように寝返りをうちベッドに寝かされた。
ここでミントの事を襲ってこないのはシュウイチの理性なんだろうか?それとも、ミントには言えない秘密があるからだろうか。
そんな事を考えている途中にも睡魔がやって来ていつの間にか眠っていた。
次に目を覚ました時にはシュウイチの姿はなかった。ミントは眠気覚ましに頬を叩きヨミに向けて伝言鳩魔法を飛ばすため魔法定義をいい鳩を飛ばした。シュウイチの話では一番窓に近いところがヨミの席らしい。仮に授業中でもヨミなら気づいてばれないように受け取ってくれるだろう。今日の修行の中止の報告を。
なぜ、中止にしたかったのか……自分でも分からない。だが、何となく今日修行をやってもたいい結果は出ないと思ったからだ。シュウイチにとって。
何はともあれ、シュウイチの挙動の変化には堕天使に何かを言われた、もしくはされた、と考えるのが普通ね。
そして今回は幹部で嫉妬の炎の瞳が敵となるらしい。シュウイチには黙っていたが彼の名前から推測するに第三の目の使い手である可能性が高い。
第三の目。目に宿る特殊能力。なんの特殊能力が宿るかは神次第。というより、この能力が宿る事が珍しい。目に魔力を集め、対象の相手と目をあわせることにより能力を出す事ができる。能力は大きく分けて3つ。物理的攻撃、精神攻撃、補助的攻撃。
仮にシュウイチが第三の目をやられたとして考えるとシュウイチに目立った傷がなかったので物理的攻撃は違う。そして、補助的攻撃の特徴である魔力が著しく減っていたり、免疫力、運動神経の低下はみられない。となれば、残るは1つ。精神的攻撃を受けた。これだろう。
更にシュウイチによると堕天使の幹部に誘われたらしい。ならば、精神をいじって仲間にしようとしたのだろう。そこで考えられるのが彼の名前から嫉妬の心の増幅。
「ということは、シュウイチについて調べるのが一番手っ取り早いかな」
呟いてベッドから飛び降りうろうろとシュウイチの部屋をさ迷いシュウイチが使っている机の前に落ち着く。
先ずはシュウイチの身の回りを調べよう。微かに罪悪感はわくがそれは仕方ないとして。
「始めますか」
ガラッと机の引き出しをあける。一段目は特筆するようなものはなくただの日用品のようだ。一段目をしめて、二段目を勢いよくあける。
「あれ?これは、本?」
この部屋には本棚がある。なのに、何故こんなところに?というか、本というより、雑誌のような形だ。
首をかしげながらそれを手に取り表紙の方に向きを変える。
「あっ!!」
……そこにはとても綺麗なお姉さん……というよりは可愛いが似合う童顔の女性がタオルケットで胸を隠している写真が。
「ふ〜ん、シュウイチの趣味ね〜」
告白してきた女の子と一緒に暮らすという状況下にいるのにこのような物をご所望ですか、シュウイチ君は。
パラパラとページをめくる。セミヌードとヌードの境目のような写真がいっぱいのっていた。そして、一貫しているのは誰もが胸が小さめということ。胸が大きい人がいっぱいのっているのが普通じゃないのかな?なんて思う。まぁ、これがシュウイチの性癖なのかな。
ミントはそのまま雑誌を閉じてもとの場所に戻す。これ以上探す気もおきなかったのでベッドにダイブしてシュウイチが帰ってくるまで寝て待つことにした。
そこから数時間、お腹な減りにうなされて目が覚めた。考えてみれば朝ごはんも食べていない。
冷蔵庫から昨日の残り物のシュウイチが作った肉じゃがを取り出して電子レンジにいれる。その間にごはんをミント専用のお茶碗によそって、音がなった電子レンジから肉じゃがを取りだしテーブルに置く。
「いただきます」
誰に聞かれるわけでもないが手を合わせてからごはんを食べる。シュウイチはミント達がであった当初はご飯が作れなかったけどミントの為にと勉強してくれた。ミントを居候させてくれてるわけだから食費も当然上がる。その為頑張って節約料理を考え出してくれた。
「ちょっと、ありがたいかな」
改めて思い起こすと感謝してもしきれないと思う。
「少しは見逃してあげてもいいのかな〜」
ちらりと机を一瞥して最後の一口を食べる。
食器を台所に置いて水に浸しておく。この前洗おうと思ったが落として割ってしまった為シュウイチに洗わなくていいと言われた。女の子としては軽くショックだが、もう諦めがついたので我が儘を言ったりはしない。
「さてと、シャワーでも浴びよっかな」
昨日、色々あって結局お風呂には入れなかったから無性に入りたかった。
これまたミント専用のミニタンスから新しい服と下着を取り出す。ブラジャーはない……というか、スポーツブラでないとつけられない。
この事については諦めている。お母様も小さいほうだ。きっと、遺伝だよね……仕方がないよね。
「ヨミが羨ましいな」
思わず声がもれる。
ヨミは……大きい方では無いけども平均的な大きさではあると思う。
「って、何考えてんのよ」
ぶんぶんと首をふる。
ミントはそのまま、脱衣場にはいってカーテンを閉めて着替えの服装を置いてから服を脱いでいく。
脱ぎ終えた服は別に置いておく。シュウイチのと一緒に洗濯が出来ない……というか、お互いのためにしないのである程度たまったらシュウイチからお金を貰いコインランドリーにいく。これがいつの間にか習慣づいていた。
キュッキュッと蛇口をひねり温かいシャワーを浴びる。肌寒くなってきたこの時期にこのぬくもりは体が喜ぶ。
そのあと、髪の毛と体を簡単にあらいお風呂場からでてバスタオルを引っ張り出して体をふいてから髪の毛にタオルを当てた瞬間カーテンが勝手に開かれた。おもわず体をそちらに向ける。
「ミン……ト?」
ぽかんとした表情を浮かべたシュウイチが言った。
「えっ?シュウ、イチ?って、あっ、きゃぁ!!」
髪にもっていってたタオルで体を隠す。そこからはシュウイチが、ミントが何を言ったのかわからなかった。
気づいた時にはペタンと座りこんでいてシュウイチを追い出していた。
呼吸を落ち着ける。先ずは着替えなきゃ。
そばに置いてある着替えを手に取り着替え始める。
シュウイチ、見たの、かな?どうしよう?仕方……ないんだけども、頭で分かっていても、なんだかな。
カーテンを開けるとシュウイチが振り向いて謝罪をしてきた。
その後、見た事が分かったため粛清させてあげるため光弾魔法をしてあげた。
声をあげ意識を失うシュウイチをしりめに服等をミニタンスに閉まってからシュウイチが起きるまで待つとした。
「―――だから、もっと甘えてほしいよ、僕は」
「……うん。分かった」
シュウイチのやさしい一言に驚きながらも言葉をかえす。
だけども。
「でもね、シュウイチ。シュウイチもミントに甘えてよね?」
「僕が?」
たずねがえすシュウイチに悩みを人に、ミントに相談するように諭してあげる。
「……わかった。少しは相談するよ」
シュウイチは優しい笑みを浮かべて頷いてくれた。
これで、もしかしたらシュウイチの心にある、とっかかりを和らげる事が可能になったかもしれない。
それなら、こっちのとっかかりも和らげてみようかな。
「それとさ、シュウイチ。甘えていいなら1つだけ言わせて?」
「何?僕にできる範囲なら何でもやるよ」
「うん、凄く簡単な事だから」
思い出すと怒りが込み上げるのでそれをまだ表に出さないようにニッコリと笑顔を見せる。
「えっと……どんな、事?」
「シュウイチの机の2番目の引き出し」
「うん―――あっ!!」
分かったのか急に顔を青ざめるシュウイチ。
「あそこにある、綺麗な女の人の肌がいっぱい見えてる写真の本」
そこで一旦声を切り、笑顔をひっこめて言いはなつ。
「処分して」
「……デスよね」
片言の言葉で喋るシュウイチ。
その後、直ぐに発狂したかのように声をあらげたのを冷静に切り捨てる。本当にこのエロいちは。
ミントはそんなシュウイチをみながら微かに笑みを浮かべて、まだ呆然と突っ立ってるシュウイチに言う。
「シュウイチ、明日から修行再開よ」
「…………」
「シュウイチ!?」
「えっ?」
ミントの大声にやっと我に帰る。
「だから、明日から修行再開よ」
「あぁ。そうだな」
「それで、シュウイチにはヨミから闇の性質係魔法を教えてもらいなさい」
「ヨミに?」
「えぇ。もし、相手の言うことが本当ならば風以外の性質係魔法も使えるはずだしね」
「そういう……事か」
シュウイチは何か決めたような目付きに変わる。ヨミを避けている、そんな風に一瞬見えた。
「と、言うわけなんだ。教えてくれるか?」
「うん、わたしに出来る範囲ならね」
いつもの廃ビルで夜美にミントに説明したのとほぼ同じ内容の事を、ただし接触してきたのが嫉妬の炎の瞳という事を除いて説明する。もしかしたら、夜美が彼の事を知っていて僕に第三の目という魔法をかけたことがばれるかもしれないからだ。確かに、第三の目の情報はほしいが下手したら僕の心の葛藤もばれるかもしれないからだ。
「でも、一昨日に出会ったんだったらどうして、昨日教えてくれなかったの?」
ちょっと、不服そうに僕を見る。
「えっと―――」
「堕天使の事だからヨミに伝えるかどうか迷ってたの。下手に伝えてヨミが危険になったらダメだし。ほら、ヨミってあいつらからしたら裏切り者でしょ。だから、ね、シュウイチ」
僕が言い訳を探そうとしたら横からミントが助け船を出してくれた。
「あ、あぁ。悪いな」
「そういう事?なら……いいけどわたしに気遣いは無用だからね」
そういって笑いかけてくる夜美。でも、僕はその笑顔をまともに見れなかった。それは夜美に対して嘘をついている事ではなくて夜美に対する黒い感情が心の中にあったからだ。
「それじゃ、ヨミ。何か教えてあげて」
「はい。じゃぁ、闇の玉からね。闇を固める術。暗がりの力を見よ―――これが呪文だよ」
「分かった」
僕は返事をして、教えてもらったばかりの呪文を唱え、誰もいない場所に手をかざす。
「闇の玉」
僕が叫ぶと手のひらから闇色の玉がでてくる。
「「あっ」」
が、直ぐに消えてしまい僕と夜美の声がはもる。
「やっぱりね」
「えっ?」
分かっていたかのようなミントの呟きに反射的にそちらを見る。
「やっぱり、直ぐには出せないか」
「どういう事だ?」
「多分ね、あくまでもシュウイチの魔力系統は風だ、という事」
「ん?」
僕は首をかしげる。
「神から授かりし光の能力と秀一君の本来の力は別、という訳ですか」
「うん」
全てを理解したかのような二人のやり取りにこんわくする。最近、こんなのばかりだな。
「ど、どういう事だ?」
「簡単にいうと神から授かりし光の能力を引き出すのは容易じゃ無いってこと」
「つまり、ちゃんと鍛練しないと魔法は簡単には出せないと言うわけか」
「そっ、魔法を出すには、魔力を持っていて魔法定義を知ってるのは大前提だけども、きちんと鍛練しなくちゃいけないしね。その、能力を引き出すのも同じじゃないかなって。ちなみに、魔法をだすには他にも、やっぱり精神が安定しとかなくちゃね」
「精神を?」
「えぇ。魔力、これを作ったり、魔法として出したりするには精神が安定しているのが前提だし」
「そもそも魔力って、なんだ?」
「魔力っていうのは精神が安定した時に生み出されるものなんだけど……詳しくはまだ、分かっていないわね。ただ、心が落ち着いていると魔力は常に作られるの」
「へぇ」
僕はミントの説明に相槌をうつ。夜美も興味深そうに話をきいている
「それで、興奮状態にある戦闘中は魔力を作れない。逆に一番作れる、精神が安定するのは睡眠時。魔法を扱える者の体は魔力が少なくなると魔力を作ろうとするの。だから、あのとき―――夜美との戦闘が終わった時、魔力を求めて夜美は眠ったの」
「魔法を使うと眠くなるのはそういう事なんですね」さっきまで黙っていた夜美が口を開く。
「では、魔力が多い人っていうのは精神が落ち着いているからですか?」
「うぅーん。それもあるけど、人には魔力の上限があって、一定以上貯まらないの。その量ってのが人によって違うの」
「そうなんですか」
夜美が面白い話を聞いたとばかりに頷く。
「そういう事だから、シュウイチ。精神は落ち着けるのが先かな」
「えっ?落ち着いてないの?秀一君」
夜美がミントの言葉に反応する。
「あっ、えっ、えと」
しどろもどろに自分でもよくわからない言葉を口にし続ける。ミントはやってしまったとばかりに口元を手でおおっている。
「秀一君、やっぱりわたしに嘘、ついてるよね」
「な、何言ってるんだよ」
悪あがきだと分かりながらも、へたくそな嘘をつく。
「昨日、風邪って言ったのも嘘だよね。わたし、わかってたよ」
「んぐっ」
空気が喉につまる。
「秀一君、嘘をつくとき罪悪感からか、目を会わせようとしないよね。ね、どうしたの?」
小首をかしげながら、半分は心配のもう半分は怒りの声音が混じって問いかける。
「ごめん……今は」
嘘を突き通すのがしんどくなり今だけでも切り抜けようとする。
「……わたしには秘密なの?」
「…………」
目を潤ませ問いかける夜美に何も言えなくなる。
「ミントさんは何かしっているんですか?」
「ううん。何があったのかはミントも知らない」
「そう……なんですか」
ミントの言葉に少しだけ落ち着きを取り戻す。自分だけ秘密にされているわけではないと分かったからかもしれない。
「……ごめん、2人とも。僕の気持ちが整理出来ないんだ。出来たら、話す。約束するよ」
僕は2人に申し訳ない気持ちでいっぱいの言葉を言った、その瞬間僕でもない、ミントでもない、夜美のものでも無い声が響く。
「その整理とやらは1週間、いや後5日で出来るのかな、冨本秀一君?」
「なっ」
「あっ」
「この……声」
彼の、あの幹部の声が突如鳴り響き僕、ミントの順に驚きの声をあげると共に夜美が呟く。
「くっ、どこだ!!」
叫び辺りを見回すが誰もいない。
「探しても無駄だ。私は声だけを届けている。心に渡す声でね」
「くっ……何のようですか」
一度落ち着くために深く深呼吸をしてから問う。
「君の様子を見ているとまだまだ、理性が勝っているような気がしてね。これでは、私の威厳に関わるから追い討ちをかけにきたのさ。冨本秀一君」
「追い討ち?やっぱり、あんたシュウイチに何か、多分第三の目の精神攻撃をしたのね」
「ほぅ、そこまでお見通しか。君は確か冨本秀一君と話していた時にやって来た娘かな?」
「そうよ。やっぱりあんたも精神攻撃をしていたのね」
「あぁ。しかし、流石神から授かりし光と言う訳かな、なかなかこちらの思う通りに動いてくれなくてね」
「当たり前でしょ」
「ふーん、そっか。で、冨本秀一君。君は本当に整理が出来るのかな?」
「どういう事だよ?」
「ふふっ、そこで震えている元堕天使の夜の音にでもな」
「えっ?」
僕は彼の言葉に従うように夜の音――――――夜美を見る。
「嫉妬の炎の瞳様……第三の目……」
夜美は小さく震えぶつぶつと呟いている。
「おい、大丈夫か?夜美!?夜美に――――――彼女に何をしたんだ!!」
「何もしてないさ。いや、正確には今は何もしてないさ」
「今は?」
|微妙な言い回しが気になる。今は――――――つまり過去に何かをした、というわけか?つまり、その過去というのが彼が言おうとしている夜美の過去。
「ほう、察しのいい奴だな。君の目をみたら何かを理解したのかがわかるよ。ふふっ、彼女の過去が知りたければ、五日後会おう。その時から君が堕天使になることを祈って」
彼がそう言うと完全に彼の声も息遣いも聞こえなくなった。
「夜美、大丈夫か?」
「秀一……君」
「おい!!夜美!!??」
夜美は僕の名前を言うとパタリと僕の胸に倒れこんだ。
「落ち着いて、シュウイチ。たぶん、過度のストレスで意識を失っただけ。すぐ、意識は戻るとは思うけど……」
「けど?」
ミントの口ごもりりそうだったので続きを要求する。
「想うけど……ヨミがここまで取り乱すなんて、あいつ、何したのかなって」
「確かに、気になるな……とりあえず、夜美を僕の部屋で寝かせよう」
「うん」
ミントの返事を聞き僕は素早く魔法定義をいい、僕の部屋に転移する。
「よいしょっと」
夜美をベッドの上に寝かせる。そっと、額に手を置いてみる。熱などはでていない。これならしばらくすれば意識は取り戻せると思う。
「……とにかく、夜美が起きた時話を聞こう」
そこで、いったん声を引っ込める。
あいつが、嫉妬の炎の瞳が出てきたのは大きなミスだ。僕にとっても、あいつにとっても。
「ミント」
「何?」
「夜美が起きたらあの日、あいつに何をされたのかをすべて話す。いつまでも、あいつの思い道理にはさせない」
「……うん!!」
僕の宣言に一瞬、面喰った表情を浮かべていたミントだがすぐに笑顔で元気にうなずいた。
くつくつと鍋に火をかける。時間も時間なので簡単なミニ鍋が今日の夕食にした。お鍋ならうどんも入ってるしきっと食欲が無くても夜美が少しでも食べてくれるだろうと思い、これにした。
「後は、栄養つけるために鶏肉でも入れようか――――――」
「あっ!!シュウイチ来て!!ヨミが目を覚ました!!」
鍋を見ながら次の工程を考えているとべ夜美の様子を見ててくれと頼んでいたミントが大声を出す。
僕はそれを聞き焦って鍋の火を止めてミントのもとに駆け寄りミントの口をふさぐ。
「ふぁぐ、ヒュウイヒ?」
「ここ女子禁制の男子寮。ちょっと、声大きすぎ」
ミントの口を解放して注意する。
「あっ、ごめん。でも、ヨミが」
「ああ、分かってる。大丈夫か?」
「秀一……君?」
焦点のあってない目で僕を見る。
「ああ、僕だ。もうすぐ、夕飯できるから、もうちょっと休んでて」
「えっ、悪いよ……」
「いいって、あまり大層なものはふるまえなきけどね」
それだけいうと僕は立ち上がり再度鍋に火をかける。思ったより元気そうなのでこれなら食べてもらえそうだ。ほっと、一息ついて鶏肉を取り出して一口サイズに切り分け始めた。
「はい、じゃぁこれ」
「ありがと……」
お箸を夜美に渡す。それから小さなテーブルの真ん中にお鍋を置いて三人分のお皿にポン酢を入れる。
「このままでいい?それとも、薄める?」
「ちょっとだけ、薄めて」
「うん、ミントは?って、どうした?」
不思議そうに鍋を見つめるミント。
「これ、どうやって食べるの?」
「あっ、そっか……ミントは鍋食べるの初めてだっけ?」
忘れがちになっていたがミントは外国人だ。今回が初めてとしてもおかしな話ではない。
「えっとな、ここから好きな具をとってこれにつけて食べるんだ」
「ふ~ん」
「うん、だからミントは……とりあえずそのまま食べてみたらいいよ。味が濃かったら少し薄めるから。はい、夜美」
僕はミントに話ながらお鍋の中のお湯で薄めたポン酢を夜美に差し出す。
「じゃっ、いただきます」
「いっただきまーす」
「……いただきます」
僕らは合掌をして食べ始める。夜美は案の定うどんをちびちびととっていた。
「あっ、おいし」
ミントが嬉しそうに白菜を食べる。よかった、ミントは喜んでくれたみたいだ。まぁ、鍋なんて失敗する方が難しそうだが。
「ねぇ、秀一君」
食べる手を止めて僕に話しける夜美。
「ん?」
「嫉妬の炎の瞳様……嫉妬の炎の瞳についてだけど」
「うん」
僕も勿論ミントも手を止めて夜美を見る。
「彼に何をやられたの?」
「うん、これから本当の事を言うよ。それに関してだけど、夜美。先に謝っとく、ごめん」
「どういう事?」
「実は……」
僕はあの日以来、マトを結果的に殺してしまった夜美が今現在、元気にしている事を妬み、嫉妬しているかもしれないことを伝えた。
マトの名前がでた瞬間夜美の顔が暗くなったのを見るのが辛くなり後半は殆ど顔を伏せたままだった。
「秀一君……ごめん、わたしのせいでごめん」
殆ど泣きそうな震えた声で呟く。
「いや、夜美は悪くないんだ。僕が弱いからいけないんだ」
本当に僕は弱い。だって、頭では夜美が悪くないと分かっているのに、今も夜美と話しているだけで心が痛くなる。
「……おかしい」
「「えっ?」」
ミントの突如漏らした言葉に夜美と一緒に疑問の声がでる。
「おかしいの嫉妬って、自分が持ってないものを他人が持っている事を妬ましく思うことよね?」
「あ、あ〜。そうだと思うけど」
「なら、シュウイチがヨミを嫉妬するはずがないのよ」
「えっ?どうして?」
「だって、マトの命が無くなった事が悔しいならそれは嫉妬じゃない。憤怒、怒りだと思う」
「あっ、そっか」
「だから、ヨミに嫉妬しているのはシュウイチの中にいる、マトかな」
「そう考えると」
「辻褄があいますね」
「なら、やりようはいくらでもある」
ミントはそういって僕の背中に回る。
「ちょっと、痛いかもしれないけど我慢して」
「な、何をするつもりだ?」
「うん、ちょっとね。ヨミ、シュウイチが暴れないように拘束できる魔法ある?」
「あることにはありますが」
「じゃっ、よろしく」
「分かりました」
「ミントさん!?暴れるほどってちょっと、どころじゃない傷みじゃないですか!?」
「うん、そうかも」
「秀一君、じゃぁ、いくよ。星に形を与え実在せよ。我にしたがい形を変え力を変えよ。星のつながりは消えることなき永久のものになれ。あるものは動物あるものは法則に従い形を現せ。―――星の召喚。星座天秤座」
夜美がいい終えると可愛らしい顔の男の子、いや、どちらかといえば男の娘が現れる。不釣り合いの巨大な天秤をもって。
「じゃぁ、天秤座、お願い」
夜美が言うと彼はおどおどしく頷き巨大な天秤の片方に重りを乗せた。その直後僕に何かが重くのしかかったかのように身動きがとれなくなる。
「がっ、確かこれその天秤に重りを乗せると対象の場所の重力が重くなったり、軽くなったりするんだっけ?」
「うん、今、秀一君には普通の約3倍の重力がかかっているよ」
「ぐぐっ」
何とか動いて見ようとするが体が動かない。ニコッと笑うミント。もしかして、ミントの裸を見たことまだ怒ってたりするのかな。
「シュウイチ、行くわよ。魔力を封じて全てを消し去れ。混ざらぬ純粋な魔力は熱となり傷みとなり暴れまわれ。不純するものは傷みに負け魔力よ閉じろ。魔力よ混じり暴れろ。純粋な魔力の傷み」
「ぐっ、ふ、ふぐ」
体から出る熱と傷みに声が出そうになるがその前に更なる重力がかかり声が出なくなる。どうやら、天秤座がさらに重りをのせたようだ。
「後もう少しだよ。3、2、1」
「ガハッ」
ミントの声と共に傷みと体から重さが消える。天秤座が重りをどかしたようだ。
「ありがと、天秤座。魔法削除―――秀一君、大丈夫?」
夜美が声をかけ魔法を消してから、僕の顔をのぞきこむ。
「ゲホッゲホッ―――はぁはぁ、だ、大丈夫だ。ミント、何したんだ?」
呼吸を落ち着けながら夜美に返事をして、ミントに尋ねる。
「簡単に言うと、シュウイチの魔力が暴れて他の魔力が消え去ったの」
「簡単にいいすぎだ!!」
思わずツッコム僕。
「あはは、冗談だよ。えっとね、ミントの魔力をシュウイチの中に注ぎ込んだの。その魔力の中には体内の半数以上を閉めている魔力を爆発的に量産させる力を込めたの。あっ、そうそう。これも魔呪の1つね」
「そうか、それで?」
「この魔法、本来の使用の仕方としては味方の魔力を量産させて戦闘能力をあげる、もしくは体内に入り込んだ異物を取り払うサポート的用法と敵の魔力を爆発的に増やして魔力を体内で暴走させ、体内にある自身以外の魔力とぶつかると体内で魔力が爆発する攻撃用法の2つなんだ」
「む、むごいたおしかただな」
僕はその様子を思い描き身震いする。
「で、今回はその攻撃用法の応用的なこと。シュウイチの魔力を爆発的に増やして爆発する作用を抜き取って魔力を暴走させたの」
「それで?」
「魔力統合、ですか?」
「さすが、ヨミ。正解」
「やっぱり」
夜美は苦笑いしながら漏らす。
「なんなんだ、その魔力統合って?」
「えっと……体内に複数の魔力が入り交じっているとき、どれか1つの魔力がけた違いに上がり他の魔力を傷つけると傷つけられた魔力が微量なら消えて、多ければその魔力と統合、合体するの。多分、ミントさんの狙いは秀一君の体内にあるマトの魔力を統合させて1つの魔力にしようとしたんじゃないかな?そうですよね、ミントさん」
「えぇ。そうよ」
「うん。で、それをしたらどうなるんだ?」
「秀一君がやられた第三の目の精神攻撃っていうのは対象の相手の魔力に干渉してその人の精神をいじる魔法なの。だから、魔力が統合されたらマトの魔力に干渉するのが不可能になるの」
「そういう事か……あっ!」
「何?」
「どうしたの?」
急に声をあげた僕をミントと夜美が訝しげにみる。
「えっ……あっ、あ〜。いや、たいしたことじゃない。きにしないでくれ」
僕は苦笑しながら答える。
「わかった」
「……なら、いいけど」
ミントは直ぐに頷き夜美はミントがこれ以上尋ねようとしないのをみて腑に落ちない顔をしながらも頷いてくれた。
「それで、その、ミントさん?」
「何、ヨミ?」
「魔力統合するだけならBランクの風の性質魔法、身体を乱す風の方がよかったんじゃ」
「確かに、そうね」
「だったら……」
「まぁ、いいじゃん」
「ちょっ、ちょい。その魔法は何なんだ?」
「えっと、敵に魔力を混入された時に魔力を乱して魔力統合を促す、治療系の魔法なの」
「なっ、なら、それで良かっただろ!!ミン……いえ、助けていただきありがとうございました。ミントさん」
抗議をしようとミントを見るがその目が『あの本の事言っちゃおうかな〜』と、おっしゃっていたので僕は身を引く事にした。
ちなみに、夜美はキョトンとした顔で僕らを見ていた。
「じゃっ、行ってきます」
「ふぁ、いってらっふぁい」
目をさすりにがら答えるミント。
「お、おい。今日は例の日なんだからちゃんと目を覚ましてくれよ」
苦笑しながらミントに言う。あれから5日。今日はあいつとの約束の日だ。
「ふぁかっているわよ。でも、仕方ないじゃない」
「まぁ、それもそうだけどさ。んじゃぁ今はゆっくり休め。時間になったら伝言鳩魔法でも飛ばして知らせるからさ」
「わかった〜。おやすみ〜」
返事をするとガクッとベッドに倒れるように枕に顔をうずくませた。
本当に大丈夫だろうか?僕、個人の意見としてはこのまま、ミントは寝かしておいてあいつとの接触を防ぎたい。
魔法という世界に巻き込んだのは確かにミントだが、今回の件に関しては少なくともミントは傍観者の立場にいる事ができる。それならば、あいつとの接触を防ぎ傷つけられる可能性を少しでも減らしてほしかった。
しかし、ミントは自分も行くと言って聞かなかった。僕としては不本意だがミントは連れていかざるえないだろう。もし、無視して僕だけでいこうものならば、次にミントに会った時、どんな報復があるか分かったものじゃない。
そういう事ならば僕にだって、考えがある。出来る限り皆を傷つけずに今回の事を切り抜ける方法を。
「あっ、おはよう秀一君」
しかし、上手くいくかな?あいつは堕天使の幹部だ。
「秀一君?」
いや、ミントならばきっと、きっと上手くやるはずだ
「秀一君ってば!!」
「はわっ!?よ、夜美!?」
突如、横から現れた夜美に驚く。考え事しながら歩いていたから気づかなかったがもう、学校の前にいた。
「秀一君……酷い」
「えっ?」
「だって、おはよって言ったのに無視するんだもん」
「へっ?そうだったのか?悪い。ちょっと、考え事してたから」
「考え事って、今日の事?」
少し声のトーンを落として夜美が訪ねてくる。
「まぁな……夜美は大丈夫なのか?」
「えっ?」
「だって、あいつは……無理はするなよ。いやならこなく―――」
「大丈夫だよ」
僕が言い切る前に夜美が言葉を重ねる。
「大丈夫、心配しないで」
「……わかった」
僕は頷く。夜美を信じようと。
「だけども、夜美。途中で逃げたくなったら逃げていいからな。逃げるのは負けじゃないから」
目を合わせて夜美に伝える。
「うん、わかってる」
夜美も僕の目を見て明るく笑う。
「そっか。なら、よかっ―――」
「よっ、お二人さん。朝からいちゃついてるね〜」
「んなっ、だから違うって言ってるだろ?」
突如後ろから声をかけられて言葉を切られる。声をかけてきたのは言うまでもない。いつもの、僕の悪友だ。
「いいから、いいから。でも、周りの迷惑にならないようにな。朝からいちゃついて、彼氏、彼女いない相手からみたら目に毒だぜ」
「だから、違うって言ってるのに」
僕は頭に手をやり深くため息をついた。
夜美は終始苦笑いを浮かべていた。
「―――伝言鳩魔法」
一羽の思いを託した鳩を空に飛ばすためいつもの廃ビルが見えかけてきた場所で止まっていた歩みを再び進める。
もうすぐ、あいつとの約束の時間だ。昨日、僕宛にあいつから伝言鳩魔法を飛ばしてきて時間を指定してきた。
「ふー」
深く深呼吸を行いビルに入る。
時計をみて時間の確認をする。後、5分。
ゆっくりと動く秒針に合わせてカウントする。
―――5、4、3、2、1
「約束通り、来てくれたみたいだな」
「えぇ」
突如、目の前に光が表れ中から嫉妬の炎の瞳が現れる。
「さて、返事を聞かせてもらおうか?我々の仲間になってくれるのかな?」
彼の質問に少し間をおいてから意味ありげに笑ってみせる。
「何を、勘違いしているのですか?」
「っ、どういう事かな?」
僕の言葉の意味が本当に理解出来てないのか、訝しげな声をあげる。
「確かに、僕はここに来ました。しかし、返事をするためだけとは限りませんよ?」
「どういう事だ?」
彼は少し苛立ったような声で問う。
ここから、いや、彼が来た瞬間から戦いは始まっている。出来るだけ、こちらのペースにまきこむ。
「だから、そのままの意味ですよ。僕は返事をする気はありません。少なくとも今は」
「なら、何しに来た?返事をしないのならば、今日この日にここに来る理由もないだろ?」
「はぁ、本当にそんな事を言ってるんですか?っと、これ以上、じらしてもしょうがないですね。僕がここに来た理由。それは、夜美の―――夜の音の過去を聞くためですよ?」
「ふっ、君は駆け引きがうまいのかと思っていたがどうやら勘違いのようだな」
彼は軽く、微笑しながら言う。
「どういう事です?」
「もし、君が私達の仲間になるのなら教えてやろう、と言えばわかるかな」
「つまり、知りたきゃ仲間になれ、と言う事ですか?」
「そうだ。で、どうするんだ?」
軽く、勝利をもらったと思い込んだような、顔で聞いてくる。
「……仕方がありませんね。それなら、僕がとれる方法は1つですね」
そうだろ、そうだろ?と言わんばかりの顔でこちらを見てくる。
だが―――
「今日のところは交渉決裂。話す気になったら、また僕を呼んでください」
「んなっ!?」
「それでは、人体転移―――」
「ま、待て!?」
魔法を発動する直前に彼は止めに入ってくる。
「何ですか?」
「彼女の過去を知りたくないなか?」
「えぇ。知りたいですよ?」
「ならば、どうして?」
「あなた達の仲間になってから聞くのが嫌なんですよ。それに、僕はどうしても、という訳ではありませんから。あなたの僕をてに入れたい、と思う気持ちと反比例してね」
「くっ」
苦虫を潰したような顔をする。
これで、後、もう一息だ。
「なら、僕からの条件です。あなたが夜美の過去の事を教えてくれるなら、考えてみましょう」
「考える、だけか?」
考えるという言葉が気に入らなかったのかそんな風に聞いてくる。
「分かりました。あなたが彼女の本当の事を教えてくれるなら、仲間になりましょう」
にやりと笑ながらそう言ってみる。
「本当に仲間になるという証拠は?」
「ありません。ですが、証拠は不必要でしょ。だって、あなたは僕に過去の事を話さない限り、あなたの任務は達成できないのだから」
「くっ……わかった。話そう。ただし、ちゃんと仲間になるんだぞ?」
「えぇ。僕の知らない真実を話してくれるなら」
真面目な顔に戻り彼から語られる真実に耳を傾けた。
「彼女がまだ、夜の音と名乗り私の部かだった時の話からしていこう」
「任務は完了しました」
「そうか」
わたし―――天使の名、夜の音は上司である幹部に任務の完了を伝えて部屋を立ち去った。
今回の任務は一人の男性を捕らえること。彼が何をしたのかわたしは知らない。だが、憶測はたてられる。きっと、任務の最中にミスをしたか堕天使から逃げようとしたに違いない。まぁ、わたしにとっては彼が誰なのか等興味が無い。
きっと、彼はわたしを恨むだろうがそうしなければわたしがどうなるか分からない。多分彼は、虐殺されるか、あらたな魔法の実験台にされるか、どちらかではないだろうか。
「あら、夜美」
「お姉ちゃん」
突如、前から声をかけられそちらを見て笑顔で答える。目の前にはわたしがここで仕事をしている間に知り合い、お姉ちゃんと呼び慕っている長い髪の女性だ。天使の名は知識の恵みだ。
この夜美という名前はお姉ちゃんが考えてくれたわたしの名前だ。わたし達に本名というものはない。なので堕天使のメンバーは社会的な場所で任務をする時は自分たちが好きに決めた名前で決める。
「お帰り、夜美。大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だよ……っ」
大丈夫と答えた直後に先程の戦闘で負った肩の傷が痛む。
「ぜんぜん大丈夫じゃなさそうじゅない。ほら、怪我しているのは肩?ちょっと、みせて」
「うん」
わたしは服を少しはだけさせて肩をだす。
「けっこうぱっくりと切れているわね。それじゃ、いくよ?自然よ我に力を貸したまえ。我の掌に力を集めよ。傷は癒え痛みは忘却しろ。草木の恵み」
魔法定義を唱え終えると同時にお姉ちゃんの掌に淡い緑の光が表れ、それをわたしの傷にあてた。
「うっ」
ピリッとしたしみるような痛みが一瞬やってくる。
「がまん、がまん」
と、お姉ちゃんが言ってる最中にはもう痛みは消えて傷もなくなっていた。
草木の恵みは草の性質系魔法で、細胞分裂を活性化させて傷を防ぐ魔法だ。ただ、副作用としてこの魔法を使った者の細胞分裂も促してしまい異常細胞、つまり癌になる確率が上がってしまう。だが、草木の恵みを13.5秒使用して0.01パーセント上がる程度などでさほど気にする事もない。問題なのはSランク魔法の大樹の転生は、自分の生命活動全てを対象の相手に送りどんなに酷い怪我でも、病気でも直してしまうのはおろか心肺停止が起こってしまった場合でも体が腐敗したりして原形をとどめていないという場合を除き生き返らせる事が可能だ。簡単に言えば自分を引き換えに誰かを助ける魔法という事だ。
「はい、終わったよ」
「ありがと」
服をきちんと整える。
「ところで……今日は何の仕事だったの?」
「男性の捕獲」
「そう……殺しの仕事はしてないよね?」
「うん」
「良かった」
お姉ちゃんはホッと一息つく。
「何度も言ってるけど殺しだ――――」
「分かってるって。殺しでけはしないで。殺しをしたらもうもとには戻れない、でしょ?大丈夫、殺しはしないから」
この言葉は幾度となくお姉ちゃんから言われている。
「分かっているのならいいけど……」
お姉ちゃんはそういい黙ってしまう。
お姉ちゃんの過去に何があったのかわたしは知らない。それに知ろうとも思わない。なぜならここのメンバーの過去の接触はしないという暗黙の了解があるからだ。だからわたしがどうしてここのメンバーになったのかもお姉ちゃんはしらない。仮に聞いてきたとしたら教えるつもりだ。別に隠すようなことでもないからだ。
わたしは元々とある有名な会社の社長の娘として産れた。しかし不況の煽りで倒産してしまい会社に家の財産を使い込んでいた父は多額の借金を残しわたし達の目の前からきえた。母はその後必死のに働き借金を返していたがそれでも返しきれなかったので借金取りからわたしをかばう為孤児院に預けられた。7歳の時の話だ。後に孤児院から抜け出し母のもとに帰る途中力尽きていたところを父の知り合いに見つかり、母が亡くなった事を知らされた。そしてその知り合いが堕天使のメンバーであることが分かりそこからはトントン拍子といった風にわたしも堕天使の一員になり天使の名夜の音を貰っていた。
今となっては別に父を恨んでいるわけでもなく淡々と生きている。
『夜の音、知識の恵み。二人に新たな任務を与える』
どこから共なく声が聞こえた。今回は心に渡す声で任務を与えるらしい。
『今回の任務は堕天使と提携を結んでいる暴力団からの依頼で敵対している団の幹部クラス以降の暗殺だ。場所などの詳しい情報は後程送る。心してかかれ』
それだけ言うとプツリという音を立て部屋が静寂に満ちた。
「「…………」」
お互いに言葉をこぼさず静かな時間が過ぎていたが静寂を破ったのはお姉ちゃんだった。
「夜美……」
「何?そっか、今回はお姉ちゃんと任務か。久しぶりだね」
無理やり明るい声を出す、わたし。
「夜美自分で言ったよね?殺しはしないからって?」
「……」
「約束したよね?」
「……だったら、だったらどうするっていうの!?仕事を断るなんて自殺するようなものだよ!?」
こらえきれなくなったわたしは一気に言葉を吐き出す。
「夜美……ここから、逃げよっか」
「えっ!?」
「今日の夜、逃亡の準備をしてここから抜けだそ?」
「そんな、無理だよ」
「大丈夫。夜美は私が守ってあげるから」
「お姉ちゃん……うん、分かった」
笑顔でそう言われ納得せざる得なかった。
「うん、ありがと。それと夜美。私の事をこれからは彩愛って呼びなさい」
「彩愛?」
突如そんな事を言われその名前を繰り返すわたし。
「ええ」
「どうして?」
「まだ内緒。でも、いつか。貴女にもわかる日が来るわよ」
お姉ちゃん――――――彩愛お姉ちゃんはそう言い窓から空を見た。わたしは意味が分からずきょとんと小首を傾げた。
「じゃぁ、行くわよ」
「うん」
声を潜めて確認しあい窓から飛び降りる。
「枯葉の山」
彩愛お姉ちゃんがそう言うと地面に枯葉の山が出来てわたし達のクッションになる。
「よし、いこう」
彩愛お姉ちゃんはそう言い首を縦にふったわたしと共に走りだそうとした。が―――
「どこに行くんだ……?」
「っ!?」
「くっ!?」
後方から声が聞こえばっと後ろを振り向きながら飛ぶ。
「どこに行く気だと聞いているんだ」
「嫉妬の炎の瞳様」
震えた声をだしながら呟くわたし。
「ここから抜け出して平穏な日々をてに入れるつもりよ」
平然と言葉をつなぐ彩愛お姉ちゃん。
「そうか……それを、私がやすやすゆるすと思うか?」
「いかせてくれるのかしら?それならありがたい話だけども」
「彩愛お姉ちゃん?」
わたしは服の裾を引っ張り呼ぶ。
「大丈夫。夜美は私が守るっていったでしょ?私が信じられない?」
「ううん。分かった、信じる」
「ふん、そんな安物の姉妹愛を見せてもらってもここは通さないぞ。植物の成長」 彼がそう言うと地面から植物のつるが出てきた。
「なら、干上がる土」
彩愛お姉ちゃんはそう言いながら手を地面にかざすと土の中にある水分や栄養を全てすいとり土が乾ききってしまい植物の成長によってできた植物達を一瞬にしてからしてしまう。
「ふん、面白い。だが、これならどうだ?光の力」「きゃっ!!」
「うくっ」
光合成により出来るエネルギーをビームにしてうつこの魔法をわたし達はもろに受けてしまう。
「夜だから出力はいまひとつだな。だが、これでおわ―――」
「蒸散の暴走」
「何っ!?おわっ!!」
彼に向かい彩愛お姉ちゃんが手をかざすと手から水が噴射される。それを見切り後退するように彼がジャンプするがその落下地点に水を向けて乾ききっている地面に大量の水をやることにより地面をわり彼を閉じ込める。
「くっ、ここまで予想してたのか!?」
「えぇ。悪いけど行かせてもらうわよ。夜美行くわよ」
「うん」
わたしがうなずいたと、共に何らかの衝撃が首にはしり意識を失った。
「夜美!?夜美っ!?」
突如、膝を折り意識を失った夜美に彩愛は彼女の体を抱きとめた。
「葉の刃だ」
「……あんなところからその魔法で攻撃できるなんて。でも、普通その魔法は双剣のように葉の形を整えて、両手にもってやるもの。遠距離攻撃で夜美を崩落させることなんてできないはず」
彩愛は自分の知識からこの魔法について解析する。
「まさかっ!?」
彩愛は何かに気づいたように周りを見渡す。
「これは、アサガオ……有毒強化をしてアサガオの中にある毒を強化させたのね」
「正解」
ゆうゆうと笑ながら先程彩愛により地面に閉じ込められた時についた土を払う。
確か、アサガオの毒成分はファルビチオンとコンボルブリンだったはず。症状は下痢、嘔吐、腹痛、そして……
「血圧低下」
彩愛の顔色が青白く変わった。
「気づいたみたいだな。夜の音はもって、30分だな」
彩愛は余命宣告を受けたかのような気持ちになった。実際に余命宣告を受けたのは夜美なのだが。
「……取り引きしない?」
「なんだと?」
彩愛はぽつりと呟いた。
夜美を助けるのは私しかいないんだ。だから、こうするしかないんだ。ふふっ、こういう時って意外と冷静になるものなのね。
彩愛は一瞬にしてどの様に動くか決めた。彼女が知識の恵みと言われているのは彼女のその頭の回転のよさからだ。
「私はこれから大樹の転生をしてこの子を助けるわ。そうしたら私は死ぬことになる。その死骸は少しの傷もない綺麗なものよ。その死骸を貴方達は好きに使って。私の脳を解剖すれば面白い実験結果もでると思うし」
「なるほど、確かにそれはほしいな。で、お前の望みは?」
「この子に殺しの任務を与えない事、次に夜美が死ぬ危険にさらされる任務を与えない事。この二つよ」
「ふむ」
嫉妬の炎の瞳は考えこむように腕を組むがすぐに答えを出したのか前を向く。
「いいだろう」
「ありがと」
彩愛は笑顔を向けると座り込んで夜美のまだ弾力の少ない胸に手をあてた。
「夜美。貴女はこれからもっと、もっと綺麗で美しい女性になっていくわ。だから、がんばって私の分も生きてね。大樹の転生」
彩愛はそう言い終えると頭を夜美のおでこにつけて夜美が眠っている間に起こったこれら一連の出来事の記憶を渡して静かに息を引き取った。
第三者からみると仲の良い姉妹がじゃれついたまま眠ってしまったように見えるが実際には姉が亡くなっており妹は姉を暖めているかのように抱きしめながら寝息を少したてていた。
後に秀一が文目という花言葉から彼女のメッセージじゃないかと言っていたが実はここまでが彼女の計算だったのかもしれない。
「と、言うことがあったんだが?」
「そんなことが……」
僕は下を向きながら呟く。
「あぁ。これでお前は私達の仲間になるんだな?」
「えぇ」
僕はふらりと足を前に出し顔を奴に向けて意味ありげに笑ってみせてから一気に走り出す。
「なっ!?」
「おらぁぁぁぁぁ!!!!!」
僕は叫びながら拳を振り上げたが紙一重でかわされる。
「何をする!!貴様嘘をついたのか!?」
怒りをあらわに叫ぶ。
「嘘?誰がですか?」
「っ。貴様しかいないだろ?」
「ふっ」
僕は鼻で笑う。
「嘘をついたのは貴方でしょ?」
「何?」
「貴方の先程話した過去は夜美から聞いた話と違う!!」
「っ!?」
驚きで押し黙ってくれる。
夜美から聞いた話を回想しながら嫉妬の炎の瞳の話しを聞いていたがおおまかな流れはあっていたが所々変えられており最終的には夜美が悪党の様に扱われていた。
「だから、僕は真実を話してくれるなら、と言ったんですよ」
「ぐっ。だが、過去の事を知っているならお前はここに来る理由などないはずだ。何故ここに来た」
「貴方を倒すためですよ」
「ふん、俺を倒すだと?無理な話だな」
私から俺に一人称を変えている事から微妙な動揺はうかがえるが冷静さは見えた。
「えぇ。ですから、貴方に過去の話しをさせたんですよ。時間をかせぐために」
「どういうこ―――なっ」
ガクッと膝から崩落する嫉妬の炎の瞳。
「何をした……!!」
「毒霧の乱、貴方も草の魔法を使うなら知っているでしょ?あなたが来る前に仕掛けておきました」
「ぐっ……体が……くそっ。空気の切り替え」
彼がそう言うと空気が綺麗な新鮮なものになる。
「よくも……やってくれたな……!!大樹の怒り《ツリーアングリー》」
「うわっ!!」
寝転びながら手をかざすと前方から多数の木の枝が飛んで来る。
「風の刃」
木の枝と鋭い風がぶつかりあう。が、勢力は相手の方がうえらしく押されてきている。
「ふん、よかったのは威勢だけか。貴様を気絶させて解毒剤をうてば私の勝ち……何を笑っている?」
僕は途中から笑みを隠せきれなかった。
「貴方が全く気づいてないからですよ。夜美、やれー!!」
「蠍座。やって」
「なっ!!」
彼が後ろを振り向くと同時に女性からはえている長い尻尾が彼の足をとらえて今回は睡眠毒が含まれた液体を注入させた。
「ぐっ……」
その場に倒れこむ嫉妬の炎の瞳。
「秀一君。やったよ」
「あぁ。よく頑張ったな。蠍座もありがとう」
蠍座は別になにも礼を言われるような事はしていないと言わんばかりに視線をよそに向けていた。
「ふふっ、ありがとね。魔法削除。ミントさんも出てきてください」
「うぅん。終わった〜」
伸びをしながらミントがビルの中に入ってくる。
ミントには毒霧が外にもれださない様に結界をずっとはってもらっていた。昨晩はこの魔法を開発してもらうために徹夜してもらっていたのだ。
「さて、と。まず、こいつを片づけるよ」
僕は嫉妬の炎の瞳の方を向きながら言う。見せるは悪夢。現実と夢が見分けられなくなれ。思い込みは現実となる辛さ。黒き翼をもち宣告せよ。悪夢の宣告者!!」
僕が叫ぶと黒い翼を持った鳥たちが嫉妬の炎の瞳の中に入っていく。
「これで奴に魔法が使えない悪夢を見させて現実との境目を分からなくさせて起きてからも魔法を使えなくさせる」
「うん。本当にお疲れ様」
「ああ。夜美も。これで彩愛さんも報われたんじゃないかな?」
「うん」
今までにみたどの笑顔よりも一番明るく可愛い笑顔で彼女は頷いた。
ぐったりと机に突っ伏する。眠い。
「秀一君?大丈夫?」
「あ、あぁ」
僕は頷くがあくびをが出る。悪夢の宣告者の副作用により僕にも何かに追われたりという悪夢をあれから一週間ずっと見続けているのだ。
「それより、どうする?ラジオの原稿?」
「う~ん、夜美に任せていいか?眠くて仕方が無いんだ」
「あはは、了解。簡単にわたしが作っておくね」
夜美はそう言って僕の横の席に座りせっせと原稿を書き始める。
夜美はあの日以来、本当に過去のわだかまりが解けたみたいでさらに元気になったように見える。そんな彼女の横顔を見ながら僕は悪夢にうなされないように祈りながら眠りについた。
次回予告
「あはは!!やっぱり〜大正解〜」
「あっ、ぐっ」
突如現れた刺客に僕は胸を押さえる。別に胸を貫かれた分けでもなく、外傷はないのだが。苦しい。怖い。助けて、許してくれ。葵姉さん。
次回、クリアライフ4―――傷―――お楽しみに。
「悪夢の宣告者!!」




