成れの果て
登録者は五十六人。
くだらない仕事は、半年前に辞めた。
汗ばんだ肌にシーツがまとわりつく。
スマホの光だけが部屋に浮かぶ。
管理画面で確認するもPV数は目も当てられない。
毎日、数字はほとんど変わらなかった。
最近は心霊配信ばかりしている。
昨日、新しいネタを見つけた。
隣町の高架下。
深夜になにか出る。
出てくれたことなど今まで一度もない。
─0時58分。
思っていたより低い天井。
高さ制限1.6m。
小さい軽自動車でもやっとだろう。
少し腰を落として入る。
急に季節が変わった感覚。
風の通りが無いせいか空気が溜まっている。
電灯は1個生きていた。
ただ、およそ3秒ごとに点滅を繰り返す。
─更に奥へ。
床は水浸しだ。
雨は降っていない。
壁から水が滴り、ヒビから風が抜ける。
少し滑りそうになり、壁に手をつく。
手のひらにヌルッとした感触。
苔がかなり生えている。
背もたれのないキャンプ用の椅子を置く。
金属が床に触れただけで大きな音がした。
簡単な機材とスマホを設置する。
─視線がぐっと低くなる。
側溝を流れる水は灰色で、蟲の死骸が溜まっている。
まだ息のあるものが、死骸をかき分けていた。
腐った水のような臭いがして、口内が酸味を感じた。
「…どうも、今日も配信始めます」
「今日は朝日が出るまでここに居ます」
同接は0。
コメントは流れない。
苦笑いしながら、缶コーヒーを開けた。
スマホ越しの自分を確認する。
背景が定期的に暗くなり、悪くない。
少しずつ同接が増えた。
流れるコメントに反応しながら過ごす。
腐敗した甲殻類のような臭いが鼻につく。
背後は何度も確認しているが何も無い。
滴る水の音だけが耳についた。
その時コメントが流れた。
《後ろ見ろ、ヤバイ!》
─振り返る。
変わらない景色だけ。
笑いながら画面を見る。
自分の後ろに何かいた。
スマホについた結露を指ではらう。
指先にヌメリが残り、スボンに擦り付けた。
─もう一度振り返る。
何も変わらない。
画面越しには、間違いなく映っている。
点滅するたび、画面の中のそれだけが近づいていた。
それよりも増えていく同接に目を奪われる。
瞬く間に100…500を越えた。
─逃げろ。
それでも動かない。
《逃げろ》
《後ろ》
《笑ってる場合かよ》
《誰か通報しろよ》
瞬く間にコメントが流れる。
逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ。
逃げられるわけがない。
同接2000─。
顔の筋肉が緩んだ。
背中を触れられた。
服越しにも感じる感触。
形はある程度理解できた。
ただそれは、個体というより液体。
─異様に粘着質な何か。
ヌチャヌチャと聞こえる。
それは、とても耳の近くで。
あまりの腐臭に嗚咽した。
生ゴミの臭う自分の部屋に似ていた。
耳元から首先へ、それは自分を優しく包む。
冷たさよりも暖かさが先に来た。
画面越しには映っている。
ただ、自分の視界には捉えられない。
そっと首元に手を伸ばす。
何かが崩れる感触、それは、手のひらへ癒着する。
─同接は伸び続ける。
終わらないでくれ。
朝日が昇る頃には、スマホの通知は鳴り止まなかった。
首元を撫でるように触り続け、
画面に向けて微笑んだ。




