【短編小説】さよなら、カミカゼBOY
駐輪場にバイクを停めて一服していると声を掛けられた。
「カミカゼboy好きなんですか?」
知らない女だ。中肉中背、腫れぼったい瞼に薄い唇。酔った勢いでも無理だなと思いながら「えぇまぁ」と適当な返事をした。
「バイクについてる荷箱のステッカー、カミカゼboyですよね?わたしも好きなんです」
女はやや興奮したように言った。
確かにおれのバイクに積んだ荷箱にはカミカゼboyのステッカーが貼ってある。
やたら巨大な鳥居の神社で買ったものだ。
喫煙所では、それまた見知らぬ男に「カミカゼのステッカーですか。わたしの祖父もカミカゼでして……」などと要らぬ個人情報を開陳されたりもした。
その人の祖父はその人にとってヒーローだったんだろう。
カミカゼboyもおれにとって、いやおれたちの世代にとってヒーローだった。
「まぁ、好きですよ。カミカゼboy、尊敬してます」
吸い殻を落として踏み消しながら言うと、女も「ですよね、わたしたちの希望ですよね」と嬉しそうに笑った。
そう、彼らはおれたちの希望だ。爆弾を抱えて老人ホームに突っ込む事に存在意義を見出した奴ら。
おれたちの寄付金が奴らの人生を意味のある星にする。その結果が、まだおめおめと生きているおれや目の前にいるブスだ。
「そうですね。希望の星です」
おれは新しい煙草に火をつける。おれはこここから動く気が無いと言う意思表示。女は隙を失って手持ち無沙汰にしていた。
ブスじゃなかったら裏手のホテルに誘っていたところだが、現実はそう甘く無い。
「じゃあ、人が来るんで」
おれから終わりを切り出す。女は何か言いたげだったが、曖昧に笑ってどこかに向かって歩き出した。
しばらくすると黒いスーツを着た男が来て、おれに分厚い茶封筒と小さな箱を寄越して
「使い方はこちらにありますのでよく読んでお使いください」とだけ言うと足早に立ち去った。
ちょうど3本目の煙草を吸い終えたおれは、茶封筒の中を見てバイクを吉原に向けて動かした。
向かい風が強い。




