3画面からのお知らせ
季節は巡って、初夏。
俺は普通に社会人として毎日スーツで仕事に向かっていた。
バレンタインデーの日に彼女と別れてから、一度も会うことはなかった。連絡先も削除してしまったし。
あれからセフレを作ることも、彼女が出来てもいない。きっぱりお別れを告げたくせに、寝ても覚めても彼女のことを思うばかりで未練たらたらだった。
いつまで引きずっているんだ、と苦笑しながら……朝目覚めて流れでテレビをつける。ぼんやりと朝食の準備をしながら……画面を見て固まる。
『速報です。本日早朝、◯◯駅付近で男性と女性が横断歩道を渡っている途中、車に轢かれる事故がありました。被害に遭った2人は病院に搬送されるも女性は間もなく死亡、車を運転していた男性は基準値を超えるアルコール数値で──』
本名は知らなかった。
でも死亡した被害者の顔写真が。
まんま彼女だった。
しばらくその場から動けなかった。やっと動いたのは、スマホに上司からの着信が入ってからだった。そこで俺は速報を聞いてから2時間、コーヒーを淹れるためのケトルを手に持ったまま立ち尽くしていたのだと知る。もうとっくに出勤時間は超えて遅刻している。
取り敢えず上司には謝らないと。スマホを耳に当て声を出す。しかし上手く頭が回らない。思ったよりも俺は動揺している。支離滅裂な俺の言葉に、上司は暫く黙って考えた後『様子がおかしい。わかった、今日は休め』と言われる。
事故が遭ったのはいつも俺たちが落ち合う最寄駅だった。彼女に会う時のように寝癖もそのまま、服も適当に着たものに着替え昼間に駅に向かえば事故があったガードレール付近に沢山の献花が置かれていた。中には手を合わせて泣いている人もいる。彼女の知り合いだろうか。でも俺は彼女しか知らないから。……見つめることしか出来ない。
本当に、死んでしまったのか。
似ている誰かかもしれない。
ふらふらと献花が置かれている場所に近づくと、泣きながら去っていった人が置いた献花には小さなカードと写真。
『お姉ちゃん。ゆっくり眠ってね』
お姉ちゃんと書いた人は恐らく妹で。その子と一緒に写っているのは、紛れもなくバレンタインデーまでは俺と会っていた彼女で。
「……っ、」
神様。なんでだよ。
どうして彼女だったんだよ。
これから幸せな家庭を築くはずだった彼女が、どうして。
あの時「結婚するな」って言えば良かった? 「俺と付き合って欲しい」と勇気を出して告白すれば良かった? そしたら、こんな未来は訪れなかった? 言えなかった本音を、言えていたら。貴女は、俺のそばにずっといてくれた?
今更、過去を悔いたって。彼女はもう戻って来ない。
献花の前で崩れ落ち顔を地面に伏せ咽び泣く。行き交う人々がギョッとこちらを見るも、目の前の献花をみては察した目をして静かに通り過ぎていく。
俺の泣き声があまりに響いたのか、誰かがそっと背中を撫でてくれた。
相手が彼女の妹だと気づいたのはもう少し後のことだった。




