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第9話 『影の暴走と“共鳴”の兆し』

ジルと学院を隔てる結晶結界は、

アイラが張り巡らせた最大級の防壁だ。


しかしジルは光壁を見つめ、

まるで“構造を読み取る”ように視線を走らせていた。


嫌な予感がケントの胸を締めつける。


ミナトが低く唸った。


「……あいつ、破る気だ」


リオンが冷静に分析する。


「ジルさんの魔力は塔の直系……

 学院の結界じゃ厳しいね」


アイラは杖を握りしめた。


「時間を稼ぐしかない。

 ケント、いったん――」


だがその瞬間、

ケントの影がまた脈打つように揺れた。


(……嫌だ……あの人が近くにいると……

 影が……勝手に……)


影が床を黒く染め、

結晶壁をじわりと侵食しようと伸びていく。


ケントは慌てて押さえつける。


「だめだ……落ち着け……!」


だが影は聞かない。

ケントの意志よりも、

“外の脅威”に反応している。


アイラもすぐに気づく。


「影が……恐怖じゃない。

 ――怒ってる?」


リオンが囁いた。


「ケントくん、君の影……

 ジルを“敵”だと認識してるよ」


ケントの喉が鳴る。


(そんな勝手な……!

 俺は戦いたいわけじゃ……)


だが、影が突如として形を変えた。


黒い風が渦を巻き、

ミナトが思わずケントを庇う。


「おい! 危ねえ!」


結晶壁の向こうでジルが、

その影を冷静に観察していた。


「面白い。

 主が恐怖しても、影は前へ出る……

 本能ではなく、“適応”だな」


アイラは叫ぶ。


「挑発するのはやめて、ジル!」


ジルは静かに首を振る。


「これは挑発ではない。

 この影は――日常では形を保てない」


「……形を?」


リオンが息を呑む。


「ジルさん……

 知ってるんですか、ケントの影の“正体”を」


ジルは初めて、興味深そうに口元を動かす。


「完全ではないが、断片的には理解している。

 彼の影は……まだ“身体”を持っていない」


ケントの背筋が凍りついた。


「身体……?」


「そうだ。

 影は形がほしい。

 固定された、世界に“存在”として認められる形を。

 それを得るまでは、常に揺れ、暴走し、

 敵を前にすると勝手に動く」


アイラは必死に対抗するように言う。


「だからこそ……

 だからこそ、落ち着かせてあげなければいけないのよ!」


ケントの影がさらに波打つ。


(形がない……?

 存在として不安定……?

 それでこんなに激しく……?)


ジルは冷たく告げた。


「不安定な存在は、塔が最も嫌う対象だ。

 放置すれば、この世界の均衡を崩す」


ミナトが吠える。


「だから連れてくってのか!?

 馬鹿野郎! “均衡のため”って言いながら、

 本人の意思なんて無視してんじゃねぇか!」


ジルは短く返した。


「世界と一人。

 どちらが重いかなど、議論の余地はない」


ケントの拳が震える。


(そんなの……そんなの……)


影がその感情に呼応するように、

床から立ち上がり、黒い腕のような形を形作る。


リオンが息を呑む。


「ケントくん……まさか……

 君の影……“形”を探し始めてる……?」


アイラが顔色を変える。


「今はまずい!

 心の動揺が大きすぎる!」


影が揺れる――

まるでケントの心を映すように。


ジルは歩み寄りながら囁く。


「ケント・サカタ。

 君が世界の脅威になる前に、塔へ来るべきだ」


ケントの影が激しく脈打つ。


彼の胸の奥で何かが叫ぶ。


(違う……違う……!

 俺は脅威なんかじゃ……

 でも……でも……!)


そして。


影が結晶室いっぱいに広がった瞬間――


ミナトがケントの肩を掴んだ。


「ケント!

 落ち着け! お前はひとりじゃねぇ!」


リオンも反対側で叫ぶ。


「君の影は君自身だよ!

 恐れて閉じ込めるんじゃなくて……

 声を聞くんだ!」


アイラは杖を掲げる。


「ケント!!

 影と向き合って――!」


ケントは震える影の真ん中に立ち、

叫ぶように、祈るように言葉を放った。


「……助けてくれ……

 みんな……!」


その瞬間、影が一瞬だけ静まり返る。


黒い波紋が揺れ、

まるで“耳を傾けた”ように。


リオンが目を見開く。


「……共鳴……?」


アイラも驚きの表情を浮かべる。


「ケントの声に……影が反応してる……!」


ジルだけは、静かにその現象を見つめていた。


「なるほど……

 主と影の“同期”が始まったか」


ミナトが引き締まった顔で言う。


「ケント……ここからだぞ。

 この世界で、お前がどう生きるのか……

 ちゃんと選べ!」


影が震え、ケントの足元で揺らめいた。


ケントは息を吸い込み、

影の中心に向かって手を伸ばした。


「……俺は……

 もう逃げない。

 影、お前も……俺と一緒に生きてくれ!」


黒い影が手のひらに触れた。


冷たい。

でもどこか温かい。


それは――

“受け入れてくれた”感触だった。


影がケントの足元に集まり、

暴走の波はゆっくり収まっていった。


リオンが息をつく。


「……成功した……

 ケントくん、君……影に触れたね……!」


だがジルは微動だにしない。


「興味深いが……

 それでも不安定さは変わらない」


光壁に手をかざし、

無表情のまま言う。


「ケント・サカタ。

 塔は――君をあきらめない」


光壁が軋み始めた。


学院と塔の戦いは、

もう後戻りできないところまで来ていた。


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