第7話 『暗躍する塔と“更新”の概念』
翌朝。
ケントは、学院の奥にある白い結晶室へ呼び出された。
アイラ、ミナト、リオンが揃っている。
皆、緊張が走った顔だった。
アイラが静かに言う。
「昨夜、君の影が暴れたあの瞬間……塔に気付かれたわ」
ケントの心臓が跳ねる。
ミナトが続ける。
「学院に“調査官”が向かってる。
狙いは……まず間違いなくお前だ」
リオンだけが笑っているが、目は笑っていない。
「塔は好奇心よりも管理を優先するからね。
危険だと判断したらすぐに封じ込める」
ケントの背筋に冷たいものが走った。
アイラが結晶壁に手を触れ、幻想光が広がる。
それは塔を中心とした魔力の流れ。
「塔は世界の秩序を守っている。
でもね……彼らには別の『役目』があるの」
光がゆっくりと赤く滲む。
「――“更新”よ」
ケントは眉を顰めた。
「更新……?」
ミナトが苦々しく言う。
「世界が限界に近付いた時、
塔は文明を一度“作り直す”んだ。
古い仕組みは捨てて、新しい形に変える」
「じゃあ……人々の生活は……」
「関係ねぇよ。塔にとっては数字だ」
アイラは重い声で続けた。
「そして……
そういう時にまず調べられるのが、
“世界の枠に収まらない存在”。
たとえば――昨日、君の影が見せたようなもの」
ケントの喉が乾く。
「俺の……影……?」
リオンが真剣な声で説明する。
「昨夜見たでしょ?
君の影、形が変わったり、光を喰ったりした。
あれは普通の魔力では起こらないよ。
この世界の“規則”の外側にある動き」
アイラが頷く。
「本来この世界には存在しない性質なの。
だから塔が“異物”として扱うの。
更新の材料としてね」
ケントは息を呑んだ。
(俺が……世界を作り直すための“燃料”……?)
ミナトがケントの肩を叩き、真っ直ぐ言う。
「だから守るんだよ。
お前を塔に連れて行かせるわけにはいかねぇ」
リオンも笑顔を向ける。
「君は危ないけど……面白い。
僕たちの前から消えるなんて退屈な結末は許さないよ」
アイラは強い目でケントを見る。
「ケント。
君の影は、まだ目覚めたばかり。
形を求めて揺れている。
このまま放置すれば暴走もありうるけど……
きちんと向き合えば、君の力になる」
ケントは胸に手を当てる。
(俺の……力に……?
そんなものが?)
その時――
結晶室の扉が重く叩かれた。
ドンッ。
ミナトが顔色を変える。
「あいつらだ……」
低い声が響く。
「レヴナード学院。
塔の調査官、ジル=グランツだ。
“異常反応”の持ち主を確認しに来た」
ケントの影が震え、波紋を上げる。
まるで外にいる人物を感じ取り、威嚇するように。
アイラは杖を握り、皆を見回す。
「ここからが本当の戦いよ。
ケントは絶対に渡さない」
扉が軋みながら開く。
黒い外套を纏った男が現れた。
銀色の瞳は冷たく、
ケントを見た瞬間、微かに口元が歪んだ。
「――確かにいた。
世界の外側の波を持つ者が」
その視線は、まるで危険物を見るようだった。
空気が凍り付く。
ケントの影が激しく揺れ、
床に黒い波紋を広げる。
アイラが叫ぶ。
「ケント、落ち着いて!」
影は床を震わせ、結晶室全体が軋んだ。
ジルは一歩踏み出し、無感情に言う。
「やはり“更新”前兆の一つだ。
塔で解析する必要がある」
ミナトとリオンが同時に前へ出て、ケントを庇う。
リオンが静かに言う。
「……連れて行かせないよ」
ミナトも吠える。
「たとえ塔の奴らでも、ケントは渡さねぇ!」
ケントは震える影を必死に抑えながら、
ただ目の前の状況に呑まれるだけだった。
(俺は……どうすれば……)
――こうして、
塔との真正面からの衝突が始まった。




