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第6話 『影の暴走と“監視者”』

学院での最初の夜。

ケントは寮の個室にいた。


外は静かだが、

胸の中のざわめきは落ち着かなかった。


(バグプラン……

 やっぱり俺、やばい契約してるんだ……)


影は足元で静かに揺れている。


その“静けさ”が逆に怖かった。


(今日みたいに暴走したら……

 学院どころか街に迷惑かけるかもしれない)


深く息をついたときだった。


――コンッ


小さな音が窓を叩いた。


ケントが顔を向けると、

窓の外に“影の鳥”が止まっていた。


(影……!?)


鳥は無言で窓をつつく。


ケントが窓を開けると――


鳥は影の霧となり、


《ケント、外へ》


という声を残して消えた。


ケントの背筋が凍る。


「今の……俺の影じゃない……!」


影は自分の足元で静かに動かない。


(じゃあ、誰の……?)


 



 


寮の外はひんやりと澄んだ空気だった。


学院は夜になると結界の灯りが弱まり、

静まり返る。


ケントが歩いていると、

突然、影が勝手に伸びた。


「また……!」


影は地面を這い、学院の裏へ誘導するように動く。


抵抗しても止まらない。


(くそっ……!

 俺の意思なんて聞いてくれないのかよ……!)


影が導いた場所は――

学院の裏庭。

誰も近寄らない古い石碑のそば。


そこで“何か”が待っていた。


 



 


黒いフードを深く被った人物。

背は高く、痩せていて、顔は見えない。


ただひとつ、敵意も殺意も感じない。


……あるのは、

“観察する目”。


その人物は静かに言った。


「やっと、個別に会えたな」


ケントは身を強張らせた。


「お前……誰だ……?」


フードの人物はゆっくり近づく。


「危害は加えない。

 今日呼んだのは話があるからだ」


「……話?」


「君の契約――《BUG PLΛN》について」


ケントは息を呑む。


(この人……知ってる……?

 俺ですら分からないのに……)


人物は地面に投影されたケントの影を指差した。


「これは“君の影”じゃない。

 君に紐づいた《契約の影》だ」


「……契約の、影……?」


「本来のプランには“形”がある。

 だがバグプランは形を得られなかった。

 だから契約者の影に寄生している」


ケントの心臓が跳ねる。


(寄生……!?

 じゃあ……俺の影はもう……)


人物は続ける。


「だが、怖れるな。

 寄生といっても奪うのではない。

 “共存”しようとしているだけだ」


「共存……?」


「君が感じる暴走は、

 影が“本来の形を探している”だけ。

 完全に見失うと暴走する。

 だが君が意識を向ければ止まるだろう?」


(確かに……

 俺が叫んだとき止まった……)


ケントは恐る恐る質問した。


「お前……何者なんだ?」


フードの人物はしばし沈黙し、

静かに言った。


「私は《監視者ウォッチャー》だ」


「監視……者……?」


「塔でも学院でもない、

 “プランの最深部”の異常だけを監視する存在。

 バグプランが出現したと聞き、君を見に来た」


ケントは息を吞む。


(塔でもなく……学院でもなく……?

 そんな組織あるのか……?)


人物は淡々と続ける。


「結論を言う。

 君はまだ“ほとんどの力を使っていない”。

 影は本来、もっと多くの性質を持つ」


ケントの影が波打ち、黒い霧が立ち昇る。


人物は指を鳴らした。


「――《Stabilize(安定化)》」


影が一瞬で静まった。


ケントは驚愕に息を呑んだ。


「い、今の……!」


「影の波長を整えただけ。

 今の君にはまだできないが……

 私と契約すれば可能だ」


「契約……?」


人物はゆっくり手を差し出した。


「君が望むなら、

 影の暴走を完全に止める方法を教える。

 代わりに――

 君の成長を、私に“共有”してほしい」


ケントは迷った。


暴走を止められるなら……

契約したほうがいいのかもしれない。


だが――


(なんで俺を助ける……?)


ケントが疑問を口にしようとした瞬間。


人物の肩に、影の刃が突き刺さった。


「――!」


ケントは叫んだ。


「何して――」


「動かないで」


背後から静かな声。


アイラだった。


杖を構え、結界を展開している。


「その者……塔の記録に存在しない。

 正体不明の存在をケントに近づけるわけにはいかない」


監視者は影の刃を抜き、

痛みなど感じていないように微動だにしない。


「……邪魔が入ったか」


アイラは鋭い目で監視者を睨む。


「名乗りなさい。

 あなたは何者?」


監視者は答えない。


ただケントにだけ向けて、ひと言。


「ケント。

 私は敵ではない。

 だが、塔の連中は“君を武器にする”。

 気をつけろ」


影が風に溶けるように霧散した。


アイラが警戒した表情のまま杖を下ろす。


「ケント、大丈夫?」


ケントは呆然としたまま頷いた。


「今の……

 本当に敵じゃないんですか……?」


アイラは迷った様子で答えた。


「分からない。

 でも――

 塔と敵対しているのは確か」


ケントは震える声で呟いた。


「塔が……俺を武器に……?」


影は足元で、静かに静かに揺れていた。


その揺れはまるで――

呼吸する“生き物”のようだった。


 



 


その頃。

塔の最上層。


黒衣の男は、霧散した監視者の影の名残を見つめていた。


「動き出したか……ウォッチャー」


背後の魔導盤が赤く点灯する。


『異物波長検知――

 対象:ケント=アラトミ』


男は薄く笑った。


「バグプラン……

 手に入れれば、この世界は更新される。

 塔が“次の世代”へ進むためにな」


黒い影が男の足元から立ち昇る。


その色は――

ケントの影と同じ色だった。


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