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第4話 『試練と共鳴』

レヴナード学院は、街の中心から少し外れた高台にあった。


古城を思わせる重厚な外観。

石造りの壁には魔力線が走り、ゆっくりと光を脈打っている。

中庭には透明な水晶灯がいくつも浮かび、静かな光を落としていた。


ケントはその光景に圧倒されていた。


「……すげぇ……こんな場所が」


ミナトが肩をすくめる。


「見た目ほど怖くはねぇよ。

 まあ、先生たちの性格はクセがあるけどな」


アイラが振り返る。


「ケント。入学には、まず“適性試験”を受けてもらうわ。

 あなたの影の性質も確認する必要がある」


ケントは緊張して頷いた。


(影……暴れなきゃいいけど……)


 



 


試験会場は、広い魔導ホールだった。

天井は高く、上空には浮遊する魔法陣がゆっくりと回っている。


「受験者、前へ」


透明な結界に囲まれた円形の台へ進むと、

痩せた老人が杖をつきながら現れた。


鋭い視線でケントを見る。


「ふむ……この圧。

 分類不能……いや、“未知”……か」


ミナトが小声で囁いた。


「あれが《ロウル教授》だ。

 学院で一番怖い」


ケントはゴクリと喉を鳴らす。


ロウル教授は淡々と告げる。


「試験内容は簡単だ。

 この魔導球に触れ、自身の内部の魔力……

 いや、サブスクの波長を流すだけ」


台の上に、淡く青く光る球が置かれた。


ケントが手を伸ばしかけたその時――


ロウル教授はひと言付け加えた。


「ただし、制御できぬ力を持つ者は、

 球が割れて爆散する可能性もある。

 その場合は自己責任だ」


「えっっ!?」


ミナトが叫び、アイラが教授を睨む。


「ロウル……脅す必要はないでしょう」


「事実を述べただけだ」


ケントの手は震えた。


(こんなの……割れたらどうするんだよ……)


だが逃げられない。

自分の影が何なのかを知るには、この試験しかない。


覚悟を決め、球にそっと触れた。


 



 


――ボゥン。


光が揺れる。


球の内部に、ケントの影が“滲み込む”ように流れ始める。


ミナトが目を見開く。


「影が……球の中に……!」


ロウル教授は興味深そうに近づいた。


「ほぅ……影が媒介になるのか……?

 だがこれは――」


その瞬間、


――ズドンッ!!


球が黒く跳ね上がった。


「なっ――!」


ケントは手を離そうとする。

だが影が勝手に球を掴み、離さない。


影がケントの意思を無視して暴走する。


(だめだ……止まれ!!)


――ドクンッ!!


ケントの胸の奥で脈動が爆発した。


結界が震え、天井の魔法陣が割れ、

黒い風が巻き起こる。


アイラが結界強化の魔法を唱える。


「制御が外れてる……! これ以上は――!」


ミナトが叫ぶ。


「ケント!! 意識を保て!!

 お前が負けたら、本当に暴走すんだぞ!!」


ケントは叫びながら影を押さえた。


「お前は……俺だろ!!

 勝手に暴れんな!!」


その声に反応するように、影の動きが一瞬だけ止まる。


球の黒い光も弱まった。


アイラが見守る中、

ケントはその隙に影を自分の足元へ引き戻した。


――すっ……


静寂。


影はゆっくりと元の形へ戻る。


そして球はひび割れながらも……


割れずに済んだ。


 



 


ロウル教授が杖をつきながら近づく。


「……驚いた。

 暴走寸前まで行きながら、自己制御を発動したか」


アイラが微笑んだ。


「ケント。あなた……やはり特例ね」


ケントは肩で息をしながら尋ねる。


「俺……大丈夫……なんですか……?」


アイラは頷く。


「あなたの影は危険だけれど、制御できる。

 そして何より――

 学ぶ価値がある」


ロウル教授も渋々頷いた。


「学院への入学を認めよう。

 だが、普通の学生と同じ扱いはできん。

 君は“特例生”だ」


ミナトがガッツポーズをした。


「よっしゃ!! お前、これで正式に学院入りだ!」


ケントは安堵しつつも、

胸の奥にまだ不安が残っていた。


(さっきの……あれ……

 俺の力だけじゃない。誰かが……)


思い出す。

あの囁き声。


――“見つけた”


(あれは……誰だ……?)


 



 


試験後、アイラはケントに丁寧に説明した。


「あなたの影は、確かに“分類不能”。

 けれど、あなた自身はこの世界で生きる意思がある。

 それが最も重要よ」


ケントは深く息をついた。


「……がんばります。

 ここで……ちゃんと強くなりたい」


「ええ。期待しているわ」


アイラは振り返り、ケントの影を一度だけ見る。


その瞳は読み取れないほど深く、

どこか“警戒”すら感じさせた。


(この力が……俺をどこへ連れて行くんだろう)


ケントは足元に落ちる影を見つめた。


影は静かに揺れ、

塔の方向だけを向いていた。


まるで――呼ばれているように。


 



 


こうしてケントは《特例生》として学院に入学する。


だが、この日の暴走が塔に“異常信号”を走らせ、

街全体の運命を揺るがす引き金になっていたことを

まだ誰も知らない。


塔の黒い光は、

ゆっくり、確実に脈打ち始めていた――。


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