第4話 『試練と共鳴』
レヴナード学院は、街の中心から少し外れた高台にあった。
古城を思わせる重厚な外観。
石造りの壁には魔力線が走り、ゆっくりと光を脈打っている。
中庭には透明な水晶灯がいくつも浮かび、静かな光を落としていた。
ケントはその光景に圧倒されていた。
「……すげぇ……こんな場所が」
ミナトが肩をすくめる。
「見た目ほど怖くはねぇよ。
まあ、先生たちの性格はクセがあるけどな」
アイラが振り返る。
「ケント。入学には、まず“適性試験”を受けてもらうわ。
あなたの影の性質も確認する必要がある」
ケントは緊張して頷いた。
(影……暴れなきゃいいけど……)
◆
試験会場は、広い魔導ホールだった。
天井は高く、上空には浮遊する魔法陣がゆっくりと回っている。
「受験者、前へ」
透明な結界に囲まれた円形の台へ進むと、
痩せた老人が杖をつきながら現れた。
鋭い視線でケントを見る。
「ふむ……この圧。
分類不能……いや、“未知”……か」
ミナトが小声で囁いた。
「あれが《ロウル教授》だ。
学院で一番怖い」
ケントはゴクリと喉を鳴らす。
ロウル教授は淡々と告げる。
「試験内容は簡単だ。
この魔導球に触れ、自身の内部の魔力……
いや、サブスクの波長を流すだけ」
台の上に、淡く青く光る球が置かれた。
ケントが手を伸ばしかけたその時――
ロウル教授はひと言付け加えた。
「ただし、制御できぬ力を持つ者は、
球が割れて爆散する可能性もある。
その場合は自己責任だ」
「えっっ!?」
ミナトが叫び、アイラが教授を睨む。
「ロウル……脅す必要はないでしょう」
「事実を述べただけだ」
ケントの手は震えた。
(こんなの……割れたらどうするんだよ……)
だが逃げられない。
自分の影が何なのかを知るには、この試験しかない。
覚悟を決め、球にそっと触れた。
◆
――ボゥン。
光が揺れる。
球の内部に、ケントの影が“滲み込む”ように流れ始める。
ミナトが目を見開く。
「影が……球の中に……!」
ロウル教授は興味深そうに近づいた。
「ほぅ……影が媒介になるのか……?
だがこれは――」
その瞬間、
――ズドンッ!!
球が黒く跳ね上がった。
「なっ――!」
ケントは手を離そうとする。
だが影が勝手に球を掴み、離さない。
影がケントの意思を無視して暴走する。
(だめだ……止まれ!!)
――ドクンッ!!
ケントの胸の奥で脈動が爆発した。
結界が震え、天井の魔法陣が割れ、
黒い風が巻き起こる。
アイラが結界強化の魔法を唱える。
「制御が外れてる……! これ以上は――!」
ミナトが叫ぶ。
「ケント!! 意識を保て!!
お前が負けたら、本当に暴走すんだぞ!!」
ケントは叫びながら影を押さえた。
「お前は……俺だろ!!
勝手に暴れんな!!」
その声に反応するように、影の動きが一瞬だけ止まる。
球の黒い光も弱まった。
アイラが見守る中、
ケントはその隙に影を自分の足元へ引き戻した。
――すっ……
静寂。
影はゆっくりと元の形へ戻る。
そして球はひび割れながらも……
割れずに済んだ。
◆
ロウル教授が杖をつきながら近づく。
「……驚いた。
暴走寸前まで行きながら、自己制御を発動したか」
アイラが微笑んだ。
「ケント。あなた……やはり特例ね」
ケントは肩で息をしながら尋ねる。
「俺……大丈夫……なんですか……?」
アイラは頷く。
「あなたの影は危険だけれど、制御できる。
そして何より――
学ぶ価値がある」
ロウル教授も渋々頷いた。
「学院への入学を認めよう。
だが、普通の学生と同じ扱いはできん。
君は“特例生”だ」
ミナトがガッツポーズをした。
「よっしゃ!! お前、これで正式に学院入りだ!」
ケントは安堵しつつも、
胸の奥にまだ不安が残っていた。
(さっきの……あれ……
俺の力だけじゃない。誰かが……)
思い出す。
あの囁き声。
――“見つけた”
(あれは……誰だ……?)
◆
試験後、アイラはケントに丁寧に説明した。
「あなたの影は、確かに“分類不能”。
けれど、あなた自身はこの世界で生きる意思がある。
それが最も重要よ」
ケントは深く息をついた。
「……がんばります。
ここで……ちゃんと強くなりたい」
「ええ。期待しているわ」
アイラは振り返り、ケントの影を一度だけ見る。
その瞳は読み取れないほど深く、
どこか“警戒”すら感じさせた。
(この力が……俺をどこへ連れて行くんだろう)
ケントは足元に落ちる影を見つめた。
影は静かに揺れ、
塔の方向だけを向いていた。
まるで――呼ばれているように。
◆
こうしてケントは《特例生》として学院に入学する。
だが、この日の暴走が塔に“異常信号”を走らせ、
街全体の運命を揺るがす引き金になっていたことを
まだ誰も知らない。
塔の黒い光は、
ゆっくり、確実に脈打ち始めていた――。




