第3話 『学院への誘い』
ミナトの家は街の外れにあった。
古い石造りだが、中は驚くほど片付いている。
ケントは影が揺れるたび落ち着かない気持ちになったが、
ミナトに温かいスープを出され、ようやく息をつけた。
「……それで。ケント、お前の世界はどんなとこなんだ?」
ミナトがスプーンを回しながら尋ねる。
ケントは迷いつつも答える。
「魔法も塔もない。ただ、便利な道具がたくさんある。
サブスクって言葉もあるけど……
こんな能力契約とは全然違う。もっと……ただのサービスだよ」
ミナトは興味深そうに目を細めた。
「へぇ……お前の世界にも“サブスク”があるのか。
言葉だけは同じってのが不気味だな」
「でも能力なんてない。
俺が契約したサブスクだって……
本当はこんな転移とか起こすもんじゃ……ないはずで」
ミナトはしばし黙り、
「ケント。それ、多分《普通のサブスクじゃない》」
と断言した。
その言葉に反応するように――
ケントの影が一瞬、形を変える。
ミナトが椅子を蹴って立ち上がる。
「おいっ、まただ! 落ち着け!!」
「俺じゃない……勝手に動くんだ……!」
影は床を這い、まるで何かを“探す”ように伸びていく。
そして、ミナトの家の扉の方を指した。
ゴンッ(ノック)
影が指し示した直後だった。
ミナトが身構える。
「クソ……塔の連中か……!?
こんなタイミングで……!」
ケントは息を呑む。
扉が開く音。
だが入ってきたのは――
白い外套を纏った女性だった。
青みがかった銀髪、落ち着いた瞳。
威圧感と静けさを兼ね備えた雰囲気。
年齢不詳で、どこか神秘的ですらある。
女性はミナトを見て小さく頷いた。
「……騒いでいる理由が、なんとなく分かったわ」
ミナトは渋い顔で言う。
「学院の……アイラさんか。
こんな時間に、なんの用です?」
女性――アイラは、
ケントの影を静かに見つめた。
その視線は、“見抜く”ような深さがある。
「……あなたが、ケントね?」
ケントは緊張しながら頷く。
「はい……」
「その影。
どのプランにも該当しない……“分類不能”」
ケントの心臓が跳ねた。
アイラは続ける。
「街の塔が反応していた理由、分かった気がしたわ。
あなたはただの転移者じゃない」
「……どういうことですか」
アイラは淡々と言った。
「《異世界契約者》――
本来、この世界に存在しないサブスクと繋がっている可能性が高い」
ケントは言葉を失う。
ミナトも目を見開いた。
「異世界……?
じゃあ、塔が反応してたのは――」
「ケントの影に、システムの想定外の波長がある。
簡単に言えば……“ありえない契約”が走った」
ケントの喉が震えた。
(俺……そんな危ないものと契約したのか……?)
アイラは穏やかに微笑む。
「怯えなくていいわ。
放置すれば危険だけれど……
制御する方法は、きっとある」
ケントは思わず聞く。
「どうすれば……?」
アイラは手招きした。
「学院に来て。
あなたの影の性質を調べる必要がある」
ミナトが前に出る。
「待ってください。
これ……危険じゃないんですか?」
「理解しないまま放っておくほうが、よほど危険よ。
塔は一度反応を示した。
次に何が起きるか……私たちも読めない」
ケントの影がアイラの言葉に呼応するように揺れる。
ケントは拳を強く握った。
(このままじゃ、いつ暴走するかわからない……
塔にも狙われてる……)
「……わかりました。
俺、学院に行きます」
アイラは満足そうに頷く。
「ようこそ。
《レヴナード学院》へ」
ミナトは複雑そうに目を伏せたが、
「……わかった。
俺もついていくからな」
と言って微笑んだ。
その瞬間、ケントの影は静かに形を整えた。
まるで――次の場所を理解したかのように。
こうしてケントは、
この世界の秘密へと踏み込む第一歩を踏み出した。
だが、この選択が
後に街全体の運命を変える引き金になるとは、
まだ誰も知らない。
◆
夜の塔が遠くで脈打つ。
静かな、だが確実な“警告”のように。
ケントの影も、同じリズムで揺れ続けていた――。




