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第2話 『塔のある街』

ミナトに連れられて歩くうち、ケントはようやく周囲を見渡す余裕が出てきた。


街並みはどこか中世ヨーロッパに似ているが、

建物の壁には魔力を通す紋様が流れ、

道端では子どもたちが光る球を弄って遊んでいる。


魔法のようでいて、どこか機械的。

不思議な世界だった。


「……ここは、本当にどこなんだ?」


ケントは恐る恐る尋ねた。


ミナトは歩きながら答える。


「《レヴナード》だよ。大陸の西端にある街。

 あそこに見える塔のおかげで栄えてる」


街の中央に、巨大な塔がそびえていた。

黒い石造りで、雲を突き抜ける高さ。


ケントの影が――ピクリと揺れた。


「あ……また……」


ミナトは眉をひそめた。


「さっきから気になってたけどよ……

 お前、その影……生きてるみたいだな」


「俺、わかんないんだ……

 気づいたら勝手に動いてて……」


ミナトは真剣な目でケントを見た。


「普通、影はこんな動きしねぇよ。

 少なくとも、この街じゃな」


(“この街じゃ”……?)


妙に引っかかった。


ケントの影は、塔の方向だけをじっと向いている。

まるで何かを呼び、求めているように。


 



 


ミナトはケントを連れて露店の脇へ入り、

パン屋の壁際に立ち止まった。


「ここなら人目が少ねぇ。

 最低限のこと、説明する」


ミナトは指を折りながら話をまとめる。


「レヴナードの人間は誰でも《サブスク》を使ってる」

「能力は月額で“契約”して発動する仕組みだ」

「プランはFreeからLight、Standard……いくつか種類がある」

「でも、お前の影はどのプランにも当てはまらねぇ」


ケントは飲み込むように聞いた。


「……俺のは、その……異常ってことか?」


ミナトは躊躇いなく言う。


「異常だな」


「即答かよ……」


「だってそうだろ。

 影が勝手に動く奴なんて、見たことねぇ」


ミナトはため息をついた。


「だから……放っとくとお前は街の管理局に捕まる。

 特に、塔の連中には絶対に見つかるな」


「塔が……なんで?」


ミナトの顔つきが一瞬だけ険しくなる。


「あそこは“監視装置”みてぇなもんだ。

 街の秩序も、人間のプランも全部見てやがる」


ケントの背筋に冷たいものが走った。


自分の影の脈動――

ケントの知らぬところで、塔はそれに反応している。


(俺……監視されてるのか……?)


「ケント、お前……」


ミナトは真っ直ぐ言った。


「今日から俺ん家に来い。

 しばらく隠してやる」


「え……?」


「影のこと、塔のこと、

 わからねぇまま放り出すのは後味悪いしな」


ミナトの肩幅は小さいのに、

その言葉には不思議な安心感があった。


ケントの胸が少しだけ軽くなる。


「……ありがとう。助かる」


ミナトは軽く笑う。


「礼はいい。とにかく――」


その時だった。


街の上空に、影が走った。


塔の先端から黒い光が脈打つ。

ゴゥ……ゴゥ……と空気が震える。


ミナトが顔を上げ、ケントの腕を掴む。


「……やべぇ。

 塔が再び動きやがった」


ケントの影が、塔のほうへ“伸びる”ように揺れた。


ケントの胸がズキンと痛む。


「っ……!」


ミナトが引っ張る。


「走れ!! 今は隠れるのが先だ!!」


街の人々も塔の光に怯え、

全員が避難を始めている。


ミナトに手を引かれながら、ケントは走った。


しかし振り返った瞬間――

塔の黒い光と、ケントの影の脈動が 完全に一致 した。


ミナトが叫ぶ。


「ケント!! 伏せろ!!」


――ドンッ!!


黒い衝撃波が街を揺らし、

ケントは吹き飛ばされた。


地面に倒れ込む寸前、


影の奥で、誰かが囁いた気がした。


――“見つけた”


 



 


ケントは震えながら影を見た。


影は塔の方向に向き、

まるで何かに呼ばれているような形をしていた。


(俺……なにと……繋がってるんだ……?)


塔の光は静まり、

街は不気味な静寂に包まれた。


ミナトはケントの肩を掴む。


「……まだ終わりじゃねぇぞ。

 お前の影、塔と関係してるのは間違いねぇ」


ケントは息を呑んだ。


――この出会いが、この先の運命を大きく変えることを

 まだ誰も知らなかった。


塔は沈黙し、影は揺れる。


二つの脈動は、

これから始まる“例外の物語”の合図だった。


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