第2話 『塔のある街』
ミナトに連れられて歩くうち、ケントはようやく周囲を見渡す余裕が出てきた。
街並みはどこか中世ヨーロッパに似ているが、
建物の壁には魔力を通す紋様が流れ、
道端では子どもたちが光る球を弄って遊んでいる。
魔法のようでいて、どこか機械的。
不思議な世界だった。
「……ここは、本当にどこなんだ?」
ケントは恐る恐る尋ねた。
ミナトは歩きながら答える。
「《レヴナード》だよ。大陸の西端にある街。
あそこに見える塔のおかげで栄えてる」
街の中央に、巨大な塔がそびえていた。
黒い石造りで、雲を突き抜ける高さ。
ケントの影が――ピクリと揺れた。
「あ……また……」
ミナトは眉をひそめた。
「さっきから気になってたけどよ……
お前、その影……生きてるみたいだな」
「俺、わかんないんだ……
気づいたら勝手に動いてて……」
ミナトは真剣な目でケントを見た。
「普通、影はこんな動きしねぇよ。
少なくとも、この街じゃな」
(“この街じゃ”……?)
妙に引っかかった。
ケントの影は、塔の方向だけをじっと向いている。
まるで何かを呼び、求めているように。
◆
ミナトはケントを連れて露店の脇へ入り、
パン屋の壁際に立ち止まった。
「ここなら人目が少ねぇ。
最低限のこと、説明する」
ミナトは指を折りながら話をまとめる。
「レヴナードの人間は誰でも《サブスク》を使ってる」
「能力は月額で“契約”して発動する仕組みだ」
「プランはFreeからLight、Standard……いくつか種類がある」
「でも、お前の影はどのプランにも当てはまらねぇ」
ケントは飲み込むように聞いた。
「……俺のは、その……異常ってことか?」
ミナトは躊躇いなく言う。
「異常だな」
「即答かよ……」
「だってそうだろ。
影が勝手に動く奴なんて、見たことねぇ」
ミナトはため息をついた。
「だから……放っとくとお前は街の管理局に捕まる。
特に、塔の連中には絶対に見つかるな」
「塔が……なんで?」
ミナトの顔つきが一瞬だけ険しくなる。
「あそこは“監視装置”みてぇなもんだ。
街の秩序も、人間のプランも全部見てやがる」
ケントの背筋に冷たいものが走った。
自分の影の脈動――
ケントの知らぬところで、塔はそれに反応している。
(俺……監視されてるのか……?)
「ケント、お前……」
ミナトは真っ直ぐ言った。
「今日から俺ん家に来い。
しばらく隠してやる」
「え……?」
「影のこと、塔のこと、
わからねぇまま放り出すのは後味悪いしな」
ミナトの肩幅は小さいのに、
その言葉には不思議な安心感があった。
ケントの胸が少しだけ軽くなる。
「……ありがとう。助かる」
ミナトは軽く笑う。
「礼はいい。とにかく――」
その時だった。
街の上空に、影が走った。
塔の先端から黒い光が脈打つ。
ゴゥ……ゴゥ……と空気が震える。
ミナトが顔を上げ、ケントの腕を掴む。
「……やべぇ。
塔が再び動きやがった」
ケントの影が、塔のほうへ“伸びる”ように揺れた。
ケントの胸がズキンと痛む。
「っ……!」
ミナトが引っ張る。
「走れ!! 今は隠れるのが先だ!!」
街の人々も塔の光に怯え、
全員が避難を始めている。
ミナトに手を引かれながら、ケントは走った。
しかし振り返った瞬間――
塔の黒い光と、ケントの影の脈動が 完全に一致 した。
ミナトが叫ぶ。
「ケント!! 伏せろ!!」
――ドンッ!!
黒い衝撃波が街を揺らし、
ケントは吹き飛ばされた。
地面に倒れ込む寸前、
影の奥で、誰かが囁いた気がした。
――“見つけた”
◆
ケントは震えながら影を見た。
影は塔の方向に向き、
まるで何かに呼ばれているような形をしていた。
(俺……なにと……繋がってるんだ……?)
塔の光は静まり、
街は不気味な静寂に包まれた。
ミナトはケントの肩を掴む。
「……まだ終わりじゃねぇぞ。
お前の影、塔と関係してるのは間違いねぇ」
ケントは息を呑んだ。
――この出会いが、この先の運命を大きく変えることを
まだ誰も知らなかった。
塔は沈黙し、影は揺れる。
二つの脈動は、
これから始まる“例外の物語”の合図だった。




