表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

第1話 『契約の瞬間』

夜のコンビニの明かりは、妙に冷たく感じた。

仕事帰りのケントは、スマホを片手にため息をつく。


(また残業……明日も朝から打合せ……)


最近は寝るためだけに家へ帰っているようなものだった。


そんな時、ふと視界に広告が入った。


《あなたの生活を“最適化”する新サブスク、今だけ無料》


怪しすぎる――けど、疲れた脳は判断を投げ出していた。


指が勝手に動く。

画面の中央に表示された《契約》ボタンへ。


「……別にいいか。どうせ無料だし」


タップした瞬間だった。


――キィィィン……!


耳鳴り。

視界が白く弾ける。

周囲の音が消え、世界が遠ざかっていく。


ケントは慌ててスマホを落とした。


「え……ちょ、待っ――」


言葉が終わる前に、足元が崩れた。


重力そのものが失われ、身体が光の中へ沈んでいく。


白でも黒でもない。

ただ、“すべてが消える色”。


胸が苦しくなり、息ができない。


(何が……起きてる……?)


遠くで声がした。


――“契約確認。特例コード、適用。”

――“転移準備……完了。”


(誰だ……?)


反応する暇もなく、

光は一気に収束し――


 



 


「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」


耳元に届く怒鳴り声。

ケントは地面の冷たさで目を覚ました。


石畳。石造りの建物。

見知らぬ街の通りに倒れていた。


見下ろす少年は、短い銀髪に鋭い目つき。

年齢はケントと変わらないくらいだろうか。


「……ここ、どこですか?」


ケントは思わず問い返す。


少年は目を丸くした。


「は? 街に来たばっかりって感じでもねぇな……。

 お前、ひょっとして――転移者か?」


「……てん、い……?」


言葉の意味すら理解できない。


少年は頭を抱えた。


「マジかよ……。保護しねぇと面倒だな。

 とりあえず、立てるか?」


少年は手を差し伸べた。


ケントは戸惑いながらも、その手をとる。


立ち上がった瞬間――


影が揺れた。


自分の足元に落ちる影。

ただの影のはずなのに、波打つように蠢いている。


(……なに、これ……?)


少年も気づいたようで、目を見開いた。


「おい……その影……。

 ただの転移じゃねぇぞ……?」


ケントの心臓が跳ねる。


「な、なんなんだ……俺……」


その瞬間、街の遠くで鐘のような音が鳴り響いた。


ゴォォォォォン――!


空にそびえる巨大な塔が、ゆっくりと光を放つ。


不気味な黒い光。


少年は舌打ちした。


「チッ……塔が反応してやがる。

 お前の影、あれと何か繋がってるのか……?」


ケントは自分の震える影を見つめた。


塔の黒い光が脈動するたび、

影も心臓の鼓動のように波打つ。


(契約しただけなのに……

 どうしてこんなことに……?)


少年はケントの肩を掴んだ。


「あんた……名前は?」


「……ケント。

 加藤ケント。」


少年は大きく息を吐き、名乗った。


「俺はミナト。

 その影の件……放っといたら危険だ。

 説明するから、ついて来い。」


ケントは頷くことしかできなかった。


この時点でまだ知らなかった。


――自分が契約したのは、

 本来この世界には存在しない、

 “規格外のサブスク”だということも。


そして――

転移の瞬間に、すでに世界のルールが狂い始めていたことも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ