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イツキ

 大事な彼女が目の前で消えた。

 信じられるか?

 この文明溢れる現代で、今更神隠しがあるなんて、笑っちゃうだろ。

 当時の事は今も目に焼きついている。

 降りしきる雨の中、自分を振り返った彼女が、足を滑らせ。


 あ。


 咄嗟に出る手が、いつもより少し離れてただけで。

 彼女を捕まえる事が出来なかった。

 いつもなら、いつも傍にいる時なら。

 彼女が倒れる前には、その腕を取って、危ないと怒ったように笑うのに。

 伸ばした手は、空を掴み。

 彼女の姿は、掻き消えていた。

 ばしゃんと彼女が持っていた傘と鞄が、降りしきる雨と一緒に道路に音を立てて落ちる。

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 丁度通り過ぎた車が、停車した。

 自分だけが彼女が消えたのを見たわけじゃなかった。


 当時は少しだけ話題になった。

 でもそれもそのうち、日々の喧騒に埋もれ、何も変わらない日々。

 人一人消えた所でこの世界なんて、何も変わらない。

 自分だってそうだ。

 相変わらず学校に行って、誘われれば遊びに行く。

 何となく空いてる時間にバイトを始めた。

 でもふとした瞬間に、彼女を探してる自分に気付く。


 ねえ、雫。

 今何処にいる?

 今日誰かが異世界トリップなんて言ってたよ。

 本当にそんな事になってるのかな。

 そうだったらいいな。

 何処でもいいから、笑って暮らしてたらいい。

 出来ればそれは、俺の傍が良かったけど。

 雫は普段全然泣かないのに、俺の事ではすぐに泣くから。

 泣いてないといいな。

 俺の事で泣くなら、俺の傍でないと。


 ねえ、雫。

 もしも本当に、物語のように何処かの世界にいるのなら。


 俺をそこに喚んで。


 俺は雫がいないと、上手く笑えないよ。

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