E.G.O国物語
国と国とが争う戦乱の時代から数十年が経った。この長い期間に様々な出来事が起こる。最凶と呼ばれる軍事大国ソウル帝国と海武国・スター連合・天空皇国・ヤオヨロズ国を中心とした反ソウル帝国連合軍の正に世界戦争と呼ばれるべき激しい戦いが起こった。
連合軍は首都まで後一歩と追い詰めるも豊富な物資と強大な軍事力を背にしたソウル帝国には敵わず、ソウル要塞攻略戦で大敗北を喫する。それから敗戦のショックで連合がバラバラになった事もあり反ソウル帝國を最初に掲げた海武国など、連合の中心国が次々とソウル帝国に滅亡させられる。そしてまた、ここでもソウル帝国の圧倒的な武力によって一つの国が滅びようとしていた。
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「ソウル帝国の兵が城に侵入したぞ!?守備兵は何をやっている!」
「ダメだ…火の勢いが強すぎる!?」
「ウワアァアッ!?」
ヤオヨロズ国の要となっていたヤオヨロズ城。他の国々から鉄壁の要塞と言われていたその城の周りが、今や炎に包まれていた。城内のあちこちで悲鳴と怒号が渦巻き、白く綺麗だった城の廊下や壁は兵の死体や血でその色を深紅へと染めていた。
「チィッ!?数が減りやがらねぇ!!」
「国王様はどこですか!?」
城の一階では背中に羽の生えた男と黒い忍者のような格好をした男が向かってくるソウル兵と戦っていた。羽の生えた男が焦った様に周りをキョロキョロと見渡す。
「ジョンさん今はそれどころじゃないだろ!?」
「国王をお守りするのが私の使命です。ペケサさん、ここは任せました!」
「待て!?ッツ・・・」
ペケサと呼ばれた忍者の男は羽の生えたジョンと呼ばれた男を追いかけようとするが何人ものソウル兵にそれを阻まれる。ジョンが走っていると前から国王親衛隊隊長である銀の髪の女性が目に入った。
「シルバ様、国王様は!?」
「センカは城を脱出したわ。あなたも早く私と共に裏口から脱出を!!」
「城のみんなはどうするのです。まだ戦っているのですよ!?」
「…みんな自力で逃げれるハズです。私はここでまだ死ぬわけにはいかない。」
「クッ…」
ジョンは眼から涙を流しながらシルバと共に城の裏口を目指す。だが二人の目の前には驚くべき光景が広がっていた。
「そんな…」
「先回り・・・」
ジョンは絶望を顔に浮かべ、シルバは歯をギリギリと音が聞こえそうなぐらい食いしばった。裏口ではソウル兵の兵士が何人、いや何十人も立ちふさがっていたからだ。その周りをさらに弓兵が囲んでいる。そしてソウル兵から一人の男が前に出てきた。恐らくコイツが隊長だろう。
「ヤオヨロズの親衛隊長と大臣だな。悪いがここで死んでもらおう。あのオクトとかいうやつと同じように・・・」
「そんな、オクトさんが…ですが私はまだ生き残らなければならないのです!」
シルバはセンカから預かった刀、村正を構える。今はどこにいるかも分からない親友から預かった名刀中の名刀。
「そうか、じゃあ死ね。」
男が手を上げて合図…を出すことは出来なかった。周りのソウル弓兵が音もなく崩れたからだ。一瞬の出来事にソウル兵達から動揺が走る。
「何だと…どうなっている!?」
「無限の軌道部隊副隊長、ハテナ・ディン。危ない所でしたね~」
「無限の軌道部隊隊長、キャッド・ラゴン。遅くなりました。」
シルバとジョンの前に現れたのはサングラスをかけた全身黒づくめの怪しい男とオレンジの髪に赤いバンダナをした年若い男だった。黒づくめの男はレクイエムと呼ばれる魔剣、年若い男はオーガトゥースと呼ばれる大剣を持っている。
「キャッド!?あなた達…」
「シルバ様、ここは自分達が突破口を開くのでその隙にお逃げください。」
「・・・すみません。ジョン、行くわよ。」
「はいぃ!?」
年若い男、キャッドの横を通り抜けて裏口を抜けるシルバとジョン。これで彼らは無事に逃げだせただろう。後は・・・
「貴様ら、たった二人でこの人数を相手にしようなど良い度胸だな…」
「隊長、さすがにこの人数はキツイですね。」
「まぁ最後にカッコ良く助けれたんで良かったんじゃないですか?」
「隊長、・・・オレは最後までこの部隊に入れた事を誇りに思います。」
「私もです。最後の戦、敵さんに花を咲かせましょうか。」
キャッドとディンはお互いに笑い合うと敵陣の中に飛び込んで行った。そして屈指の防衛力を持った国、ヤオヨロズ国はこの日を持って滅亡した。
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ヤオヨロズ国が滅亡してから五年の月日が流れた。あれから世界はソウル帝国を中心に小さな小競り合いは起きつつもなんとか平穏を保っていた。
山奥の小さな村、何もおもしろいものはないその場所で細い筒を持った女性が歩いていた。女性はある家で止まる。そしてドアを優しくコンコンと叩いた。
「何だこんな朝っぱらから…って嘘だろ?」
「お久しぶりですね。ディンさん。少し言葉遣いが変わりましたか?」
「こっちが素です。…シルバさん。なんの用です?」
「とりあえず家に入れてくれませんか?」
ドアから出てきた男、かつて無限の軌道部隊副隊長であったディンはシルバを家に上げる。すると台所から可愛らしい女性が出てきた。
「旦那様、お客様ですか?」
「あぁ、オレの古い知り合いだよ。」
「シルバです。初めまして。」
「こちらこそ、チェリー・レディスと申します。旦那様がお世話になっています。」
シルバはディンの方に向き直ると少し引いたような目でジッと見る。ディンは何だと思ったのか首を傾げた。
「ディンにそんなメイド性癖があったなんて…」
「違います!オレの妻ですよ。」
「またまた冗談を。妻なんて出来るわけないじゃないですか。」
「全否定!?本当ですって!」
シルバはチェリーを見る。チェリーが頷いたのを確認すると驚いた目でディンを見た。
「どれだけお金つんだの?」
「そんな事するか!それで、本題は何ですか?」
その言葉にさっきとは全く違う威圧感のある雰囲気を出してシルバはディンと向き合う。久しぶりに見たその姿は昔とほとんど変わらない強さをディンは感じた。
「率直に言います。私は国をこの近くに作りました。そこであなたも来なさい。」
「断る。」
ディンは即答した。シルバはそれに動じず理由を聞く。
「それはどうしてですか?」
「オレは今の平和な生活で満足している。それにオレが忠誠を誓った国も人も今はもういない。」
「キャッド隊長は…」
「オレを庇って死にました。ペケサもあの戦いで行方不明。無限の軌道部隊はもはや壊滅しました。」
「そうですか…なら・・・」
シルバは細い筒の先端を開ける。そこにはロンギヌスと呼ばれる伝説の槍が入っていた。神が持っていた武器、その槍の輝きにディンは目を奪われそうになる。そしてシルバはその槍を…あろう事かチェリーの首筋へと持っていった。
「なっ!?」
「無理やりにでも来てもらいます。」
「・・・どういうつもりですか?」
「来なければこの女性を殺します。」
「…外道が。」
「何と言われようと構いません。来てくれますね?」
「・・・分かった。」
「ご理解ありがとうございます。すみませんね。私もあまり人材補強に時間をかけられないのですよ。」
それからシルバは荷物をまとめさせたディンとチェリーを連れて城まで連れて行った。その間にずっと槍をちらつかせていたのはご愛敬だろう。
「ここです。」
「大きいですね~」
「まぁ国の居城だからな。」
着いた場所は大きな山の中だった。なるほど、確かにこの場所なら敵も攻撃しづらいだろう。軍事面で優れたシルバさんらしい城といえる。シルバさんが何か合図らしきものをすると城門がすごい音を立てて開いていった。
「シルバ様~お帰りなさ~い!」
「ただいまですよ。シスター。」
最初に出迎えたのはシスターと呼ばれた巫女姿の女性だった。シスターなのになぜ巫女姿!?っと一瞬思ったが人の好みはそれぞれなのでスルーしておこう。
「およっ?この人は誰ですか?」
「この人は新しい国民ですよ。紹介しますね。ハテナ・ディンさんとその奥さんのチェリー・レディスさんです。」
「ディンってあの黒衣の僧侶!?」
「昔のあだ名です。」
「私はシスター・ミーっていうの。よろしくね~。」
ミーは笑顔で握手を求めた。ディンもそれに同じく笑顔で返しながら握手する。後ろでチェリーが怖い顔で見ている事は気にしないでおくとしよう。つか気にしたくない。
「副隊長!?」
「…ペケサ!?生きてたのか!」
「お知り合い?」
次に出てきたのは元無限の軌道部隊隊員であったペケサと顔の怖い紫の貴族風な服を着た男だった。山賊の頭のようなその顔は何やら妙な違和感を感じた。
「前の国の部隊の副隊長です。」
「そうなの。私はカー・チキン。よろしくね。」
顔の怖い男は腰をクネクネさせるとオレの体をなぜか触りまくっていた。まさかこの人って・・・
「もぅ良い体してるわね。食べちゃいたいくらいだわ!」
やっぱりこの人そっち系の人!?さっきの違和感はこれか!!
ディンは寒気を覚えながら一歩後ろに下がる。それと同時にディンを庇うように前にチェリーが現れた。
「うちの旦那様に手を出さないでください。」
「もぅ何よ。女連れ~?人の物に手を出す趣味はないのよね~私。」
「副隊長に奥さんが・・・負けた。」
そう言うとチキンはディンから離れた。今回はチェリーに助けられたな・・・何故かペケサはショック受けてるが…
オレが呆れていると兵士がバタバタと城の裏側へ向かっていった。何か起きたのか?
「国王、緊急事態です。」
「ミ・レィさん、何事ですか。」
「侵入者が裏口から入りました。恐らくはソウル国の刺客かと。」
シルバに話しかけてきたのは青い髪に黒いリボンを着けたレィと呼ばれた綺麗な女性だった。その女性の口から侵入者の報告がもたらされる。
「今すぐ排除してください。今この国の情報を敵に漏らすわけにはいきません。」
「了解しました。ただ今スターとベニバナが侵入者を追っております。」
「レィ様、ご報告が!」
「どうした。侵入者を撃退したか?」
「そ、それが…スター将軍とベニバナ隊長が侵入者に返り討ちにあいました!!」
「何だと?」
レィの表情は変わらなかったが瞳は大きく見開かれる。隊長が返り討ちにあうという事は敵はかなりの実力者か・・・
「ソウル帝国は余程この国の情報を知りたいらしいですね。」
「すみません。次は私が出ます。」
「いえこれは全員で行きましょう。下手に個人で行くとまた返り討ちにあう可能性があります。」
こういう時のシルバは決断が早い。全員がその声に頷くと武器を持って城の奥へと走り出した。
「敵の数とスター、ベニバナ両名の容体は?」
「敵は三名、そのどれもがかなりの実力者のようです。二人とも気絶はしていますが大した怪我ではありません。」
「全く来てそうそう戦いかよ。」
ディンは思わず大きくため息を吐いてしまった。こっちは今まで普通の生活をしていたせいでブランクがあるのだ。昔ほどの実力はない。
「しかし妙ですね。なぜ敵はベニバナとスターにとどめを刺さなかったのでしょう?二人とも大した怪我では無いようですし…」
「敵は逃げる事を優先したんでしょう。…あれです。」
レィが指差す方向にはフードを被った人が三人走っていた。それもこちらに向かってきている。
「こっちに来るなんて良い度胸だね~」
「私色に染めてあげるわ。」
「たくっ・・めんどくせぇ。」
ミー・チキン・ディンの三人がそれぞれの武器を出してフードの敵と対峙する。だがここで想像もしない出来事が起きた。
「・・・・・」
「えっ?ガハッ!?」
フードの男の一人が一瞬でミーの懐に入り込むと近くの壁にミーを吹き飛ばした。その手にはいつの間に出したのか光の大剣と呼ばれる武器を持っていた。これにはその場にいた全員が驚く。おいおい全く見えなかったぞ・・・?
ミーは吹き飛ばされた後、ピクリとも動かない。どうやら衝撃で気絶したらしい。なおも気絶したミーの方に向かうフードの男、その間にレィが割って入る。
「調子に乗らないでください。」
レィはフードの男を割って入った勢いのまま蹴り飛ばした。
フードの男は吹き飛ばされるが難なく着地して体勢を整える。ディンもチキンも残りのフード達と戦闘状態に入っていた。
男のするどい拳がディンを襲う。
コイツら・・・強い!?
「チッ!」
オレは魔剣レクイエムを振り回すがいっこうに当たらない。それどころかこちらが段々と動きを捉えられかけている。しかしなぜ武器を使わない?それにコイツの戦い方どこかで見たような・・・
「ちょっとぉ!コイツら一体何者なのよ!?」
「知らん!!」
チキンとレィが叫び合っている。レィさん、女の人がその言葉遣いはどうかと思います。
その時レィの胸をフードの男の大剣が掠った。服が裂かれ、その下の筋肉質の肌が見える。・・・筋肉質?
「・・・男?」
フードの男も同じ事を思ったらしくそう呟いた。レィさんの頭の血管が切れる音がする。
「当たり前だバカ野郎!!」
「グフッ!?」
胸に気をとられて動きが止まっていたフードの腹に蹴りがまともに入る。その勢いで頭のフードが脱げた。
「アッ。」
「・・・ポンさん?」
「…エンペラーマインド。」
フードの正体はヤオヨロズ国の元隊長、ポン・ディーだった。シルバは魔法を残り二人の敵に放つ。すると床が爆発し、フードの二人を襲った。いきなりの攻撃にも関わらず二人は避けたがその爆風でフードの下の顔を現わさせられた。
「ジョンさんにオクトさん!?」
「いや~ばれちゃいましたねぇ。」
「皆さまお久しぶりです。」
残り二人の正体はあのヤオヨロズ国が滅亡した日、シルバと共に城から逃げてから行方不明になっていた元ヤオヨロズ国大臣、ジョン・ペーパーと戦闘中に死んだと思われていた元ヤオヨロズ国諜報部隊隊長、オクト・クラークだった。
「どういうつもりです?というかオクトさんは死んだはずじゃあ・・・」
「いえ重症でしたがギリギリ逃げ切りまして…山奥で残党狩りに追いかけられていた所をジュンさんとポンさんに助けられたんです。」
「そうですか。で、城に侵入した理由は?」
シルバは眼だけで人を殺せそうな威圧感を放ちながら三人に聞く。それにビクビクしながらもジョンが理由を答えた。
「い、いえ…ここが良い国だという噂を聞いてどんな人が国王なのか見に来たんです。ですが私達はお尋ね者なのでフード顔を隠して見に行ったら見つかってスパイ容疑で逮捕されそうになりまして・・・それで返り討ちにしたらこんな状態に・・・」
「それで我が国の国民を傷つけたと?」
「いえまさか国王がシルバさんだと気づかなくて…いざとなれば全員叩きのめして逃げれば良いかと・・・」
ヤレヤレとディンは呆れた。どおりで見覚えがあると思った。避けながら段々とタイミングを合わせて攻撃するこの戦い方、今考えればジョンさんの戦い方そっくりだった。なぜ気付けなかったのか・・・
「本当なら極刑なんですが…あなた達がこの国に仕えるなら減刑しても良いですよ?」
「仕えるって私はもう「なら極刑ですね。」…仕えさせていただきます。」
「国王!?こんな者達など死刑にしないと兵に示しがつきません!!」
「この人たちは私の知り合いですから大丈夫です。私の意見に不服がありますか?」
「・・・いえありません。」
レィが国王に食ってかかるがシルバはそれをサラリと流すと氷の様な微笑で笑った。その笑顔に不服そうな顔をしながらもレィはそれに従った。恐らく女性と間違われた事を根に持っているのだろうがそれよりも国王、恐すぎるだろ・・・
「じゃあ刑は壊れたこの部屋を直す事です。」
「えっ!?だけど壊したのはシルバさ「極刑・・・」直させていただきます。」
「それよりやっとメンバーが揃いましたね。皆さん、この国の歴史は始まったばかりなんですから。」
シルバはそう言って笑った。ディンはその笑顔を見て思う。
民が集い、国が出来、そして滅びる。形あるものはいつか壊れ、その壊されたモノは二度と元には戻らない、が…新しく作る事は出来る。こうして歴史は作り出されていくのだろう。願わくばこの国の歴史が少しでも長く続く事を願わん。
「じゃあディンも一緒に掃除お願いね。」
「何でだあぁああ!?!?」
完
久しぶりのヤオヨロズシリーズです。前回のようにヤオヨロズの歴史を期待した方はごめんなさい。
さてさて今回の作品のテーマは「国」でした。まだまだ自分の知らない知識はあると思いますがこれを機に国の歴史でも調べてみてはいかがでしょうか?
ではまた歴史のどこかで会いましょう♪