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58.そして、俺たちは再び未知の領域へ向かう決意を固めた

 桐谷の失踪により、せっかく奮い立たせた探索の勇気は一瞬にして霧散した。


 全員が沈黙し、重苦しい空気が部屋を支配する。


 目の前で桐谷が消えた。俺たちはずっとここにいたのに。


 扉は閉まっていた。誰かが外から連れ去るなんて不可能だ。


 やはり、犯人は本当に”幽霊”なのか?


 けど……あの腕時計。


 何かが引っかかる。

 何かがおかしい。


 だが、どうしてそう感じるのか、まったくわからない。


「……もう嫌だ! こんなところにいたら、俺たち全員殺される!」


 突然、杉田が立ち上がった。絶望に満ちた声が部屋中に響く。


「でも、あたしたちだけ逃げても……先生たちはどうするの?」


 月島が戸惑いながら問いかけた。彼女はなんとか杉田を説得しようとするが——


「知るかよ!どうせもう死んでるだろ!」


 杉田は容赦なく言い放った。


「……てめえ、それ本気で言ってんのか?」


 俺の中で何かが弾けた。


「先生たちはともかく、桐谷や小鳥遊のことはどうなんだよ?やつらはてめえの友達だろ?」


 気づけば、俺は杉田の襟元を掴み、怒鳴っていた。


「友達?そんなもん、命がかかってる時に考えてる余裕なんてねぇよ!」

「……お前、本当にそれでいいのか?」

「生きるために決まってんだろ!」

「……なんて奴だ。」


 こいつ、やっぱり嫌いな野郎だなあ!


「ちょっと、二人ともやめてよ!」


 琴音が間に割って入る。しかし——


「うるせぇ!お前こそ怪しいんだよ!」


 杉田は琴音を乱暴に突き飛ばした。


「は?」

「お前、毎回誰かが消えるたびに、ちっとも怖がらねぇよな? なんでだ?」

「おい杉田、正気に戻れよ。琴音は毎回事件の時にアリバイがあるだろ?なのに、なんで犯人扱いするんだよ?」


 俺はすかさず反論するが、杉田は取り乱したまま叫ぶ。


「そんなの関係ねぇ!このままだと、俺たちも消えるんだぞ!」


 杉田の目は恐怖でいっぱいだった。


 確かに……12人いたはずの俺たちの”チーム”は、すでに半分近く消えた。


 今ここにいるのは、俺、琴音、杉田、月島、海夏の5人。そして、浅川と夢野を入れても、残り7人しかいない。


 おかしい。


 なぜ、消えるのは俺たちばかりなんだ?


 このホテルには他の宿泊客も大勢いるはずなのに。

 なぜ、“俺たち”だけが狙われる?


 まるで……


 まるで、犯人は最初から俺たちを狙っていたかのように。


 でも、なぜ?


「何か音がした!」


 突然、琴音が鋭く反応し、素早く部屋を飛び出した。

 俺たちも慌てて後を追う——だが。


「え……?」


 琴音の姿が、廊下のどこにもない。


「消えた……」


 杉田が、崩れるようにその場に座り込んだ。彼の顔からは、もはや生気が失われている。


 まるで人形のように虚ろな目で、ただ呆然と前を見つめていた。


「悟!悟!しっかりして!」


 月島が震えた声で呼びかけるが、杉田の反応はない。完全に恐怖に飲み込まれ、精神が追いついていないのだろう。


「はぁ……まずは部屋に戻ろう。こいつをこのまま放っておくわけにはいかない。」


 俺は杉田の腕を引き、なんとか立たせる。


 それにしても、琴音まで消えた……


 これが人間の仕業なら、たった数秒で彼女を連れ去るなど絶対に不可能だ。やはり、本当に幽霊の仕業なのか……?


「見崎くん……どうしたらいいの?」


 月島の声が震えていた。


 隣で海夏が俺の腕をぎゅっと掴んでいる。その手は小刻みに震え、今にも泣き出しそうだった。


「お兄ちゃん……」

「落ち着いて、大丈夫だ。」


 なぜだ? なぜこんなにも違和感を感じる?何かが、おかしい。この状況には、“何か”決定的な矛盾がある気がする。


 だが、それが何なのか、まだ掴めない——


「……もう待つのはやめよう。」


 浅川が静かに言った。


「このままここにいたら、次は俺たちが消える番だ。」

「……へぇ?浅川、お前が怖がるなんて珍しいな?」


 俺がからかうように言うと、彼は即座に不機嫌そうに返した。


「誰が怖がってるって? 俺はただ、妹が心配だから付き合ってるだけだ。」

「へぇへぇ、そういうことにしておくよ。」


 俺は適当に流した。


 だが、確かに彼の言う通り、これ以上ここに留まるのは危険すぎる。


「よし、すぐに出発するぞ。」

「……でも悟、このままだと……」


 月島が杉田の様子を見て、言葉を詰まらせる。


「月島さん、杉田を起こしてくれ。」

「え? ど、どうやって?」

「簡単だ。ビンタをすればいい。」

「ええっ!?ビ、ビンタ!?」

「そう。痛みで目を覚まさせるんだ。」

「で、でも……そんなの可哀想じゃ……」


 月島は明らかに戸惑っていた。


「なら、俺がやる。」


 俺はため息をついて彼女を押しのけ、杉田の前に立つ。


 そして――


 パァンッ!


 乾いた音が部屋に響いた。


「……っ!」


 杉田の身体がビクッと震える。やがて、その瞳に焦点が戻った。


「お、お前……何しやがる……?」

「よ、目覚めたか?」


 俺は何気ない口調で言う。


「さっきまで、完全に茫然自失だったぞ。」


 もちろん、あのビンタに少しばかり俺の私情が入っていたことは絶対に悟らせない、だってこいつが嫌いだからな。


 まぁ、俺って結構卑怯なヤツかもしれないな。


 でも、卑怯とかどうとか関係ない。今はとにかく杉田を”戦える状態”に戻すことが優先だ。でなければ、俺たちはここから前に進めない。


「悟、大丈夫?」


 月島が心配そうに覗き込む。


「……ああ、大丈夫。ただ、不意打ちで叩かれて、ちょっと頬がヒリヒリするだけだ。」

「そりゃあったりめぇだろ。」


 俺は肩をすくめる。


「まぁ、ぼーっとしてたら次はお前が消えるかもしれないしな。どうすんだ?一緒に来るか?それとも、このまま震えてるか?」


 俺はわざと挑発的な口調で言ってみせた。


「別に無理にとは言わねぇよ。怖いなら逃げてもいい。……でも忘れんなよ、中野と恒川は“外”で消えたんだぞ。」


 そう。もしここから逃げたとしても、“失踪”を免れる保証はどこにもない。ここでじっとしていても、外に出ても、“何か”は確実に俺たちを狙っている。


「さぁ、決めろよ。」


 俺は一歩、杉田へと踏み出す。


 このまま時間を無駄にするわけにはいかない。


 もともと12人いた仲間は、もう8人も消えた。


 残ったのは俺たち4人と、浅川兄妹の2人——たった6人しかいない。


 このまま立ち止まっていたら、次に消えるのは俺たちだ。


「……わかった。」


 短い沈黙の後、杉田がしぶしぶと頷いた。


「お前らと行く。」

「決まりだな。」


 俺たちはすぐに準備を整え、動き出した。


 “犯人”は本当に死んだ妻なのか?それとも、まだ俺たちの知らない”別の何か”が潜んでいるのか?


 もしこの地図が正しいのなら——


 すべての答えは、すぐそこにあるかも!

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