48.意外な再会……なんでまたお前なんだよ!くっそ!!!
時が経つにつれ、夕陽はゆっくりと沈み、砂浜で遊んでいた人々も次第に姿を消していった。そろそろホテルへ戻る時間だ。
俺たちは各自、ビーチパラソルやテーブル、椅子を片付け、ゴミを袋にまとめると、そのまま砂浜を後にした。
恒川は月島の怪談が怖すぎて、そそくさと砂浜を後にした。
そして、それに付き添った中野は結局ここに戻ってなかった。おそらく、恒川がホテルで一人になるのも怖がると思い、そのまま一緒にいることにしたのだろう。
あいつ……マジでどこまで怖がりなんだよ……想像以上だな……
「じゃあ、ここで。お先に。」
桐谷たち四人とは同じホテルに泊まっているものの、彼らの部屋は五階で、俺たちは六階だ。
エレベーターが五階に到着すると、俺たちは互いに別れの挨拶を交わし、それぞれ自分の部屋へ戻った。
「……お前ら、ずっとここでテレビ見てたのか?」
部屋へ戻ると、中野と恒川がベッドに並んで座り、テレビを見ていた。
……いや、それだけなら別にいい。だが、俺が部屋に入ってきたことに、まったく気づいていなかったのはどういうことだ?俺が声をかけて、ようやく二人はハッとして、テレビから視線を俺へと移した。
「おい、聞いてねえのかよ……」
「あっ、見崎くん、戻ってきたか!ごめんね、気づいてないの。おかえり。」
「ああ……まさか、ずっとテレビ見てただけってわけじゃないよな?」
「そうよ。だってホテルにいても暇だし……それに、紅葉ちゃんが一人でいるのは怖いって言うし。」
……もう何も言うまい。俺には彼女の気持ちは理解できそうにない。虚構の怪談ひとつで、ここまでビビるのか……?
「まあ、好きにすればいいけどさ……そういえば、お前ら昼飯ほとんど食ってなかったろ?午後も少しつまんだくらいだし、腹減ってないのか?」
俺がそう指摘すると、恒川は自分の腹をさすりながら、ぽつりと呟いた。
「……そういえば、お腹すいたかも。」
それを聞いた中野が、すかさず提案する。
「じゃあ、今から何か食べに行こうか?」
「うん、それがいい!」
そう言うやいなや、二人はさっそくベッドから立ち上がり、外出の準備を始めた。
午後のバーベキュー、せっかくタダだったのに……
一人はビビりすぎて逃げ出し、もう一人はそれに付き合ってホテルでダラダラテレビを見ていただけ。結局、まともに何も食べられず、今さら自腹で晩ごはんとか。
いやいや、意味わからん。ほんとに意味わからん……
「待って、俺も行く」
部屋を出ようとしていた二人に声をかける。といっても、一緒に晩飯を食べるつもりはない。ただ、飲み物を買いに行くだけだ。
「え、見崎くんもお腹空いたの?」
恒川が不思議そうに俺を見てくる。
「いや、飲み物買うだけ。ちょうどいいから、ついでに一緒に行くってだけ」
それにしても、なんでそんなに驚くんだ? まさか「さっきあんなに食べたのに、またお腹空いたの!?」って思われてる? いやいや、いやいや、俺の胃袋、どんだけ大食いキャラなんだよ。
「なんだ、そういうことか。じゃあ行こっか」
恒川は納得したのか、軽く頷いてドアを開ける。俺と中野もその後に続いた。
「で、どこ行くの?」
「うーん、決めてないけど……桜花は?」
「えーっとね、たしかこの前の道にマクドがあったよね?ハンバーガーでも食べない?」
「それいい!」
恒川の目がキラッと光る。いや、そんなにテンション上がることか……?
こうして二人の晩ごはんが決まり、彼女たちはマクドへ。俺は飲み物を買うだけなので、ホテルを出たところで別れた。
彼女たちは左へ、俺は右へ。しばらく歩いて、自販機の前に到着すると——
「ちょっと!?なんで出てこないの!?ちゃんとお金入れたよね!?嘘でしょ!?早く出てきなさいってば!!」
自販機をバンバン叩きながら、めちゃくちゃ焦ってる女の子がいた。どうやらお金を入れたのに、ジュースが出てこないらしい。
いや、たまにあるよな、こういうの。でも、そんなに必死にならなくても……
「お姉さん、悪いけど、ちょっと急いでもらえる?」
しばらく待っていたが、ついに我慢できず声をかけた。
「ごめんね、もう少し待ってて……お金はちゃんと入れたのに、ジュースが出てこなくて困ってて……」
申し訳なさそうに返事をしながら、彼女は眉をひそめる。
……まぁ、確かにたまにあるよな、こういうこと。でも俺には、これを解決する“裏ワザ”がある。
「仕方ないな、貸してみな。」
「え?いいの?」
彼女は半信半疑といった表情で横に避ける。俺は自販機の商品取り出し口の横を指さしながら、さらっと説明した。
「こういう時は、ここの横っちょを狙って……思いっきり蹴る!」
ドンッ!
俺が自販機を強めに蹴ると、カコンッと音を立てて缶コーヒーが落ちてきた。それを拾い、彼女に手渡す。
「ほら、出てきたぞ。」
「あっ、すごっ!ありがとう!」
彼女はぱぁっと笑顔になった。その顔が、普通に可愛い。
……いやいやいや、待て待て待て!俺はそんなベタなラブコメ展開に惑わされるほどチョロくない!現実にラブコメなんて存在しないんだから!
「そうだ、せっかくだしお礼に奢るよ!」
突然の申し出に、俺は思わず動揺する。
「え? いや、いいよ、俺、金あるし」
「まぁまぁ、そう言わずに。さっき助けてくれたお礼!」
彼女の押しの強さに負けて、結局俺は奢ってもらうことに。渡されたのはブドウジュース。たかが自販機を蹴っただけで飲み物を奢ってもらえるとは……まさかこんな意外な展開になるとはな。
「ありがとな。じゃ、俺はそろそろ戻るわ。」
「うん、気をつけてね~」
彼女に別れを告げ、俺はその場を離れた。
が……
「夢野、こんなところにいたのか、探したんだぞ」
「ん? あ、お兄ちゃんか。ごめんごめん、ちょっとコーヒー買いに来てただけだよ」
背後から聞こえてきた声に、思わず足が止まる。この声……聞き覚えがありすぎる。
「……ア、アサカワ!?」
嘘だろ。また浅川かよ!?昼間会ったばっかりなのに、なんでここでも遭遇するんだよ!?
「見崎……見崎渚……」
「ん? お兄ちゃん、もしかして知り合い?」
「……まぁな」
浅川は軽く頷くと、そのまま俺の方へ歩み寄ってきた。
ちょうどいい、今朝の仕返しをする絶好の機会じゃねぇか。こいつのせいで俺が佐々木先生に怒られたんだからな!
「お、また会ったな、チビ」
浅川が挑発するように言う。俺も負けじと応戦した。
「はぁ? 背が高いからって調子に乗んなよ、このゴリラが!」
「はぁ!?死にてぇのかテメェ!?」
「お前こそ、やんのか?」
俺たちはお互いの胸ぐらを掴み、今にも殴り合いになりそうな雰囲気に。そこへ、浅川と一緒にいた夢野とかいう女の子が、慌てて間に入ってきた。
「ちょっ、ちょっと待って!ケンカはダメだよ!落ち着いて!」
彼女は明らかに動揺していて、眉をひそめながら、震える声で俺たちを止めようとしていた。
「チッ……今日は、妹の前だから特別に許してやるよ、さっさと消えろ!」
「はぁ?ムカつくなぁ!お前こそ消えろよ!ホテルに帰るんだからよ!」
「は?お前が行くのはそっちじゃねぇのかよ!」
「言われなくても分かってるっつーの!」
「なら黙ってそっち行けよ!このチビ!」
「ほざけ、アホ!」
「チッ!」
「フン!」
互いに睨み合ったまま、一歩、また一歩と距離を取るように、それぞれの進むべき道へと足を向けた。
歩き出した俺の背後から、控えめな声が響く。
「ご、ごめんなさいっ!兄が失礼なことを……本当にごめんね!」
だが、俺は振り向かず、そのままホテルへ向かった。
……にしても、浅川に妹がいたなんてな。何年もコイツと張り合ってきたけど、そんな話は一度も聞いたことがなかった。
まさかこんな形で知ることになるとは、世の中ってのは本当に分からないもんだな。