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02.電車の中での衝突

 「はぁ? 持ってきてねぇって?死にてぇのかてめぇは!」


 俺が中野たちの前に立ちながらスマホで漫画を読んでいたんだけど……車両を繋ぐドアのあたりから突然怒鳴り声が聞こえてきた。


 反射的に顔を上げて声のする方を見てみると、そこには、男の子がもう一人の男に殴られて床に転がっている光景が広がっていた。


 おいおい、なんだこれ。ヤンキーが弱い奴をいじめてるのか?


 「持ってねぇなら、どうやって弁償する気だ? ああ? そうだな、ちょうど俺たち、最近空手を習い始めたんだ。お前、サンドバッグにでもなってくれよ!」


 そう言って、複数の男が地面に倒れている子にじわじわと詰め寄る。


 電車みたいな人目が多い場所で堂々といじめとか、今時のヤンキーってどんだけ調子に乗ってんだよ。


 「おい、お前ら、何かあったかよくわからねぇけど、こんなに大勢で一人を殴ったら、本当に死んじゃうぞ!」


 俺はその場に割って入り、ヤンキーの前に立ち塞がった。


 もうチームは解散したけど、そもそも俺がチームを作った理由は弱い奴を守るためだったんだ。見て見ぬふりなんてできるわけがない。


 けど、俺が割って入った瞬間、そのうちの一人が俺を押し返してきた。しかも、ふてぶてしい態度でこう言いやがった。


 「はぁ? お前、今なんて言った? 余計な口出ししてんじゃねぇよ。お前もやられてぇのか?」


 そいつの声はめちゃくちゃ荒っぽくて、その態度が腹立たしいことこの上ない。


 一瞬、拳を握りしめて、そいつをぶん殴ってやろうかと思ったけど——ここは電車だ!暴力反対!


 できるだけ手を出さない主義を貫くなら、まずは冷静に対応しないといけない。


 言葉でビビらせるくらいなら、こいつもさすがに引くだろ?


 ……いや、引くよな? 引いてくれよ!頼むから。


 とりあえず、やってみるしかない!


 「おい、お前、なに威張ってんだよ? 今の状況は知らねぇけどさ、こいつに手出したらタダじゃ済まねぇぞ!」

 「はぁ?」

 「いいから、俺が本気で殴る前にさっさと消えろ!ケンカなら俺は最強なんだからな!」


 よし、こんな感じでいい! 言葉は強気でいけば威圧感が出るはずだ。相手をビビらせて、戦わずに済ませられる。ここは王者の風格を全力で見せつけるしかない。


 ——なんて思ってたけど、どうやら効いてないっぽい?


 「ハハハハハハッ!」

 「おいおい、こいつ、頭イカれてんじゃねぇかよ? ハハハハ!」

 「俺らのパンチ一発で終わりそうじゃね?」


 俺の発言は威圧どころか、完全に笑いのネタになってしまった。車内に響き渡る不良たちの笑い声……


 そんなに俺、弱そうに見えるか? 俺が言った「ケンカは最強」って、自慢でも嘘でもないんだけど?


 確かに俺の見た目は普通の高校生だし、どこからどう見ても一般人と変わらないかもしれない。


 だけど、それを理由に俺なめんなよ? 本気で言ってんだからな。俺、本当に強いんだぞ!


 「じゃあ、俺がちょっと優しく……!!」


 ヤンキーたちに向かって突進しようとしたその瞬間、足元に水たまりを踏んでしまった。


 「ええーーっ!」


 バランスを一瞬で崩し、まるで転んだ人形のように、勢いよく床に叩きつけられた……おい! なんで電車の床に水が溢れてんだよ?


 転んだだけならまだしも、最悪だったのはその後だ――頭の後ろをがっつり床にぶつけてしまった!


 「うあああああ! 痛い、痛いよぉ!!」


 鋭い痛みが一気に広がり、まるで電流が頭から全身に流れ込んでくるようだった。体が制御できなくなり、必死で頭を押さえて転げ回る。


 涙をこらえようと必死だったけど、目の端から止められずに涙がこぼれ落ちる。


 「なんだてめぇは!!」


 痛みで身動きが取れない間に、一人のヤンキーが勢いよく俺に蹴りを入れ、そのまま俺を何メートルも吹き飛ばした。


 その後、他のヤンキーたちが一斉にやって来て、拳や蹴りを浴びせてくる。反撃の隙すら与えてくれない。


 最悪だ、今日、本当に運が悪すぎる!


 なんで俺がこんな目にあってるんだ!? もう、恥ずかしくて地面に埋まってしまいたい……本当に最悪だ!


 「やめろ!」


 俺が何人かに殴られ続けているその時、突然、はっきりとした女性の声が響いた。


 「やめろ?」


 一瞬、頭がぐらついて、声の方を必死で見ようとする。


 えっ?里滨彩奈?


 「あんたたち、数で圧倒するなんて卑怯だよ!」

 「はぁ? お前、何様だと思ってんだ? てめぇみたいなアホが、余計なことすんなよ。じゃ、てめぇも一緒にぶん殴るぞ?」

 「ア、アホ!? あたしをアホって言ったわね! ふざけんな!見てろ、ぶっ飛ばしてやるから!」


 里滨が「アホ」って言われて、顔を真っ赤にして怒り出す。彼女はすぐに相手を殴ろうと叫びながら突進しそうな勢いだ。


 「ア、ア、アヤナちゃん!落ち着いて、落ち着いてよ!」


 中野が急いで止めようとするが、里滨はまるで止まらない。


 「桜花さん、邪魔しないで!あんな連中に好きにさせておくわけにはいかない!」


 里滨は中野を軽く振り払って、なんと空手の構えを取る。その姿勢はかなり本格的だ。もしかして、空手をやってたのか?


 いやいやいや、そんなことはないだろ! 確かに空手をやってたとしても、女の子がこんなに大勢の不良を相手にしてうまくいくわけがない。絶対に不利だ。


 うーん……助けるべきか? まぁ、俺が殴られても別に問題ないけど、少なくとも一度助けられた手前、借りを返すべきじゃないか? これで何もしなかったら、ずっと借りが残る感じになる。


 ダメだ! 人に借りを作るのが一番嫌なんだよ!


 まるでお金を借りて、返せない時の気まずさみたいなもんだよ。もし突然金を返さなきゃいけなくなったとき、手持ちの金がないってどうするんだ?


 ……なんだ、こんな感じだろうな。


 「兄貴、あいつって、うちの学校の里滨彩奈じゃねぇか?」

 「里滨彩奈? 聞いたことねぇな。こんなアホが俺たち見下してんだ、教訓与えねぇとな!」


 ちょ、ちょっと待ってよ!さっき奴が言ってたこと、なんか気になる情報があったぞ? うちの学校? まさか、あいつらも同じ学校の奴らなのか?


 よく見ると、あいつらの制服、俺と全く同じだ。


 いや、待てよ。今はそんなこと考えてる場合じゃねぇ!

 とにかく、助けに行かなきゃ……いや、それより先に、里浜の前に行って「余計なことしないで」って言ってから、あいつらをぶっ飛ばしてやった方がいいんじゃない?


 そうだ、そうだ! さっきの転倒は偶然だったけど、あいつらにボコられたからって、黙ってるわけにはいかねぇ!


 「くっ…」

 「兄貴、やべぇ、こいつ強ぇぞ…」

 「覚えてろよ、絶対に許さねぇ!」


 え? 何だ、どういうことだ?


 ちょっと考えている間に、痛みの叫び声が聞こえた。


 目を向けると、あいつらが自分の体を抑えながら、顔を歪めて痛みに耐え、結局他の車両に逃げていった。


 さっき倒れていた男の子もそのまま電車を降りた。


 え? まさか、これって里滨がやったのか?

あいつ、こんなに強かったのか? 俺がボーッとしてた間に、何が起こったんだ?!


 「ふん!かかってくいよ!もし本当に力があるなら!ペロ~」


 こいつ、なんでこんな可愛い顔してるんだ? 思春期の男として、ちょっと心が揺れそうになったじゃないか。


 けど!それはほんの一瞬だけだからな!


 ラブコメなんて、絶対に存在しない! 俺が彼女に助けられたからって、好きになるわけがないだろ!


 俺が後頭部の痛みを押さえながら、心の中で叫ぶ——痛い、すごく痛い…。


 「見崎くん、大丈夫なの?」


 中野が心配そうに俺の前に歩いてきて、手を差し伸べてきた。俺を地面から引き上げようとしている。


 何人にも殴られてボコボコにされた奴が「大丈夫だ」なんて言うわけないだろ?


 それよりも、君が俺を助けずに、俺が自分で立ち上がって静かに隅っこに座って、ひたすら身体を叩いてる姿を見守ってくれる方が、もし本当に痛くてもあっという間に治る気がするんだが……


 なんか変な感じだな。まるで子供が転んだ後、すぐに起き上がってただの埃を払うだけで済むのに、急に大人が「大丈夫?」なんて声をかけてきたら、急に痛みが倍増して泣きたくなるような、そんな感じだ。


 利益が得られないと思っていたのに、急に良いことが待っているって知った瞬間、人間はその「利益」を目の前にすると、無意識にそれを大きく見せたくなる……


 「大丈夫、ありがとう。」


 中野に手を借りて軽く埃を払った俺は、一言お礼を言ってから、この車両を離れようとした。

しかし、その時——

 

 「ハロー! あたしは里滨彩奈! 桜花さんと紅葉さんの友達だよ~!」


 里滨がさっきと同じ可愛い笑顔で話しかけてきた。


 ちょ、やめてくれ! そんな可愛い顔で笑われたら、俺、本当にドキッとするから!


 それにしても、この子、本当にさっきの怪力の持ち主なのか?


 どう見ても、ただの可愛い女の子にしか見えない。これでケンカが強いなんて、誰が想像できるんだよ。


 「俺は見崎渚。さっきは助けてくれてありがとう。」

 「えへへ、全然平気だよ~! それより、怪我、大丈夫?見せてあげようか?」


 そう言いながら里滨が自分の袖をまくって、俺の方へ歩いてきた。


 おいおい、何をしようとしてるんだ? 絶対に信じないぞ! これはラブコメの罠だ!


 慌てて後退し、手を挙げて止めに入った。


 「い、いえ、大丈夫だ!本当に平気なんで!」


 その時、電車が駅に到着し、ドアがゆっくりと開いた。


 「もう駅に着いたみたいだ。急いで行こう!」


 そう言うと、俺は振り返ることもなくそのまま車両を降りた。


 あの場から離れるに越したことはない!


 後ろから彼女たちの声が聞こえたけど、俺は無視して自分の道を急いだ。


 このペースで学校に向かえば、ギリギリ間に合うかもしれない——なんて思ってたら、トラブルは油断した時にやってくるもんだ。


 そう、俺は降りる駅を間違えた!


 さっきあの子たちから一刻も早く離れたい一心で降りたけど、ここ、俺の目的地じゃなかった!


 次の駅で降りるつもりだったのに!


 仕方なく走って次の電車を待つしかないけど……遅刻はもう確定だな。


 どうやら、あの女が……


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