18.バイトと不良のダブルコンボ!?……いや、これもう詰んでるよな?
ここまで来ると、もはや運命なのか、それとも呪いなのか……
とにかく、俺は転校をきっかけに過去を断ち切り、新しい生活を送るはずだった。
なのに、なぜかこの学校の「顔の美しさで並び立つ第一位」と呼ばれる三人の美少女と関わる羽目になってしまった。
普通なら「羨ましい!」と言われるような状況かもしれないが……
俺にとっちゃもはや地獄そのもの。
この三人と関わったせいで、俺の生活リズムは完全に崩壊した。
さらには、根も葉もない妙な噂まで流れる始末。
──「噂なんて、いずれ消えるものだ」
そう考えていた時期が、俺にもありました。
だが、この学校には、まともな思考力を持った人間がほとんどいないらしい。
あるのはバカだけだ。
このままでは収拾がつかないと判断した俺たちは、担任の佐々木先生に頼んだ。
先生は、「文学部・支部」という謎の名目を掲げ、俺たちをその支部のメンバーに仕立て上げた。
そして、その情報を文学部の本部である正式な文学部の部長に伝え、噂を学校中に広めてもらうことで、ようやく事態は沈静化し始めた。
……らしいんだけど。
なぜか「あの3人が文学部に入ったらしい」との情報が広まり、男子たちが次々と文学部への入部を希望するという事態に発展。
まぁ、当然ながら全員不合格だったらしいが。
そりゃそうだ。
俺たちはあくまで「噂を収めるための道具」として作られた支部のメンバーだ。
つまり、実質的にこの支部は存在しないのと同じ。
そのため、文学部の部長からも「分室は新規メンバーを募集しません」との通達が出され、俺たちの元へ入ろうとする奴はいなくなった。
……が。
それでも諦めないバカ共は、本部の文学部に入部し始めたらしい。
女神たちに近づくために、文学部に入るとか……どれだけ必死なんだよ。
ほんと、バカばっかりだな……
俺たちの「支部」としての文学部には、そもそも活動らしい活動は存在しない。
──普通なら、そうなるはずだった。
だが、現状は特殊な状況になっている。
数日前、佐々木先生が「カフェでのバイト」を俺たちの部活活動に指定したのだ。
……いやいやいや、部活ってそういうもんだっけ?
まぁ、一応これは「一時的なもの」らしいが、それでも当面の間、放課後はカフェで働かないといけない。
つまり、これからしばらくの間、俺の放課後ライフはカフェの仕事に奪われるということだ。
本を読んでのんびり過ごす時間なんて、もう期待できない。
……うん、まぁ、俺が運悪かったってことで諦めるしかないか。
「メイド服、ついに配布!」
「わぁ~! すごく可愛いっ! 先輩、すごいですね!」
あの日、みんなでカフェのリニューアル案に賛成してから一週間が経った。
そして今日、ついに中野と恒川がデザインし、佐々木先生が発注した「メイド服」が俺たちの手元に届いた。
その瞬間、佐々木先生の妹・佐々木由希は、まるで宝物を手にしたかのように目を輝かせ、ずっとメイド服を見つめていた。
……まぁ、気持ちは分かる。
女の子って、やっぱり可愛い服にテンション上がるものなんだろう。
ちなみに、今回のメイド服は、いわゆる漫画とかに出てくる露出度の高い、妙にセクシーなものではない。
デザインは、白いストライプのロングスカートにシンプルなメイドカチューシャという、かなり落ち着いたものだ。
ごく普通のメイド服。
──いや、本当に普通だからな!? 変なこと考えるなよ!?
そして、意外と凝っていたのがカチューシャの装飾。
どうやら、中野と恒川は自分たちの名前をモチーフにデザインしたらしい。
つまり、「桜」と「紅葉」だ。
カチューシャには、桜の花びらの飾りと紅葉の飾りが交互に並んでいる。
桜 → 紅葉 → 桜 → 紅葉……という感じで配置され、全体的に繊細で可愛らしい仕上がりになっている。
もちろん、本物ではなく、すべて布製のパーツを使って作られている。
……まぁ、確かにこれは女の子ウケしそうだな。
「これ着ると、なんか手足がすごく動かしやすい! 空手の練習の時もこれでいいかも~」
「えぇ~!? スカートで格闘技やる人なんているわけないでしょ!」
「いるよ!ほら、あたしとか~えへへ!」
「それは彩奈ちゃんが普通じゃないだけなんだよ……」
「まぁ、いいじゃない? これで私たちのデザインが、ただ可愛いだけじゃなく、機能性も抜群だって証明されたわけだし。」
恒川がドヤ顔で腕を組む。
まぁ、確かに理屈は通ってる。
これだけ大きな動きができるメイド服なんて、普通はないだろうし。
……とはいえ、俺には関係のない話だけどな。
俺の制服は「特別仕様」だとか言われたけど、その特別なポイントって……
ただ単に、紅葉と桜の飾りが追加されてるだけなんだが。
──いや、これ、ただの「女の子っぽいデザイン」になっただけだろ!?
まさに特別仕様(物理)って感じじゃねえか!
佐々木先生……まさか、俺にこれを着せて目立たせることで、ちゃんと働かせるつもりなのか?
くっそ……ひでぇよ!
「さて、制服も揃ったし……明日はいよいよカフェの「復活の日」ぞ。」
佐々木先生は腕を組み、厳しい表情で俺たちを見回した。
「だから今から、カフェに向かって開店準備をするわよ!」
「……は?」
──いやいやいや、聞いてないんだけど!?
俺はてっきり、「はい、制服届きました~」で解散かと思ってた。
もしくは、もう家に帰ってのんびりする流れだと信じていたのに……
「それじゃあ、先輩たち、さっそく出発しましょう!」
佐々木が元気よく声を上げ、佐々木先生と一緒に先導する。
俺たちは渋々ながら、学校を後にした。
これから生まれ変わるカフェへと向かうために。
──しかし、思いがけない出来事というのは、いつも予想していない時に起こるものだ
「よー!見崎。久しぶりじゃねぇか?」
校門を出て間もなく、突然四人の男に声をかけられた。
……いや、誰だよ、お前ら。
見覚えのない顔ぶれ。まったく知らない連中だ。
訝しみながら口を開こうとしたその瞬間、
カチッ──
微かな金属音とともに、金髪の男が俺の背後に手を伸ばしてきた。
そして、背中に何かが当たる感触。
「あんまり余計なことするなよ。俺たちはDEMONの者だ。」
金髪の男が、低い声で囁く。
「ここじゃなんだからよ、ちょっと付き合ってもらうぜ。」
静かな声。だが、その言葉には明確な警告が込められていた。
まるで、「ヘタな動きをすれば、そのまま刺すぞ」と言わんばかりに。
……クソが!
DEMON。
それは、二十年以上の歴史を持ち、DARK各地の不良番長たちを束ねた暴走族組織。
俺の知る限り、DEMONの総構成員数はおよそ2000人。その中心にはDEATH地区の本部があり、さらに、DARKの他の地区にも数十の支部が存在する。
つまり、DARK最大で最強の暴走族だ。
そして当然のように、FORCEとは宿敵関係にある。
──あの頃、俺たちはDEMONとぶつかり、彼らの本部とも直接衝突したことがある。
だが今、FORCEはすでに解散している。
にも関わらず、まだ俺に接触してくるということは……
あの男か?
「俺……」
「いいから黙ってついてこい!」
口を開いた瞬間、すぐさま言葉を遮られた。
いや、状況はわからないけど、どう考えても面倒なことになるのは確定だろ。
……はぁ、なんで俺ばっかりこうなるんだよ。
「見崎くん、この人たち、お友達なの?」
横から中野が、無邪気な声で尋ねてくる。
「え、えぇ……まぁ、昔の遊び仲間、みたいな?」
なんとか笑顔を作り、できるだけ自然に答える。
「ちょっと急用ができたから、先に行っててくれ。」
できる限り冷静に振る舞いながら言った。
「はやく片付けなよ!逃げようなんて思わないほうがいいよ!」
佐々木先生が、チラリとこちらを見る。
その目は、まるで「もしサボったら、どうなるかわかってるよね?」とでも言わんばかりだった。
──いや、俺今、脅されてる側なんですけど!?
俺の意思じゃなく、本当に強制連行される側なんですけど!?
……まぁ、でも、正直俺も行きたくはないんだけどな。
それに、先生が見てる前でどうやって逃げろってんだよ……
目の前のDEMONより、この人のほうがよっぽど怖いんだが……
「先生、俺たちのこと、先生の生徒だって言ったことがありますよね?」
「もちろん。」
「……だったら、俺のこと信じてもらえません?」
「私はただ、ちょっと“忠告”しただけよ。」
先生は涼しい顔をしているが、その視線は明らかに「逃げるなよ」と言っていた。
「……ま、いっか。さっさと片付けてきなさい。」
そう言うと、先生は俺を置いて、残りのメンバーを連れて行ってしまった。
……うん、完全に見放された。
「さぁ、行くぞ。」
背中に突きつけられたナイフがわずかに押される。
……仕方ない。
まずは、状況を把握するのが先だ。
無言のまま、DEMONの連中とともに歩き出した。
──後のことは、その時考える……