17. 文学部なのにカフェ経営!? いや、どう考えてもおかしいだろ!
「お兄ちゃん、スマホずっと鳴ってるけど?」
晩飯を食べ終えた後、皿洗いをしている俺の背後に、スマホを手にした海夏が現れた。
「わかったよ、テーブルに戻しておいてくれ。」
「でもさ、めっちゃうるさいんだけど。ゲームに集中できないんだけど? もしかして、借金でもして取り立てられてる?」
「してねーよ!!」
このガキは、なんでいつもこういう妙なことばっかり言うんだ……
「え~? じゃあなんでそんなに通知が来るの? お兄ちゃんのスマホ、あたしとお姉ちゃんと兄貴しか連絡先入ってなくない?」
「まあ……いろいろ事情があってな。とにかく、うるさいなら俺の部屋に置くか、音を切っとけばいいだろ。」
「はいはい、わかったよ。じゃ、お兄ちゃんの部屋に置いてくるね。」
皿洗いを終え、風呂にも入ってさっぱりした俺は、自室へ戻り、海夏の勉強の資料を準備していた。
……そういえば、さっき海夏が言ってたよね?「スマホがずっと鳴ってる」ってとか。
まさか……あいつら、まだチャットしてんのか?
気になってスマホを手に取る。
画面を開くと、予想通りグループチャットの通知が大量に溜まっていた。
……いや、それだけじゃない。
佐々木先生からの個別メッセージもある。
「……!」
瞬間、俺の心臓がドクンと跳ねた。
ヤバい。これはマズい。完全に死んだ。
慌ててメッセージを開く。
そこには、びっしりと並んだ先生からのメッセージが。
──全部、「何してるの?」「なんでグループに意見を出さないの?」という内容だった。
終わった……俺の人生、完全にチェックメイトだ……
焦りながら、とりあえず即返信。
「すみません先生! さっきまで忙しくて、スマホを見ていませんでした!」
送信ボタンを押した瞬間、すぐに返信が返ってきた。
「すぐにグループのメッセージを確認して。もう良さそうな案が出てるから、見て意見を聞かせて。」
……えっ、怒られないの?意外と優しい!?
まあ……正直、このメッセージ、俺にとっては完全に無駄な一手なんだけどな。
だってどんなアイデアが出てこようと、俺の答えは決まっている。
「うん、いいんじゃない?」
──これ一択
「カフェの改装、バイト、そして……メイド服!?」
俺はスマホの画面を眺めながら、彼女たちが考えた大まかな方針を確認した。
まず最初に、カフェの改装について。
店内が老朽化しているため、全面的なリニューアルを行うことになったらしい。
ただし、この部分に関しては俺たちが関与する必要はない。
すでに佐々木先生が、お父さんと交渉をして了承を得たらしく、改装費用も問題なく捻出できるようだ。
次に、俺たちが喫茶店で働くことについて。
要するに、経営を手伝うためにバイトをするというわけだ。
ただのボランティアではなく、ちゃんと給料が支払われるとのこと。
高校生の課外活動としては、まあ悪くはない。働けばお金がもらえるのだから。
──と、ここまではまだ理解できる。
しかし、ここからが問題だった。
「メイド服」
……は?
思わずスマホを二度見する。
どうやら、恒川と中野が協力して新しい制服のデザインを考え、それを「メイド服」にすることが決定したらしい。
改装後の新しいイメージとして導入し、より「サービス」を意識したカフェにするため……ということらしいが。
……本当にそれでいいのか?
まぁ、俺には関係ない話だし、別にどうでも――
いや、待てよ。
メイド服って、女性スタッフの制服だろ?
つまり、俺には関係ない。
なら、俺はバイトに行く必要がないのでは……?
──やった! これは祝杯モノじゃねぇか!!
そう思った矢先、スクロールした先のメッセージが目に入る。
「ちなみに、見崎には『特別仕様』の制服を用意するから。」
……は!?!?!?!?!?!?
なんで俺だけピンポイントで対象になるんだ!?
何の流れで俺だけ特別仕様の制服なんてものが作られることになった!?
さらに読み進めていくと、どうやら俺の名前はすでにバイトメンバーとして登録済みらしい。
しかもこれは単なるバイトではなく、「部活の一環」ということになっている。
……いや、待て待て待て!
俺たちの部活って、文学部だよな!?
カフェで働くことと、文学部に何の関係があるんだ!?
どう考えてもおかしい。
どこの世界に「文学部だからカフェでバイトしよう!」なんて発想があるんだよ!?
しかも、先生曰く、これはあくまで「一時的なもの」らしい。
「カフェの経営が軌道に乗って、妨害者の問題が解決したら、もう来なくてもいいわよ。」
──いや、それ、いつになるか分かんねぇじゃん!!
結局、俺に拒否権はない。
だって、もし反抗しようものなら、佐々木先生の恐怖が待っている……。
──うん、考えるのをやめよう。
俺はもう、逃げられないのだから……