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16. サボるつもりが、気づいたら経営改革メンバーに!? そんな展開ある?

 「見崎、お前やる気なさすぎだろ。」


 テーブルを拭き終えた俺は、カウンターの椅子に腰掛けながら、退屈すぎて眠気が襲い、あくびをしながら目をこすった。それを見た佐々木先生が、不満げにぼやく。


 「でも、本当にやることないし、退屈なんですよ。」

 「客はちゃんと来るもんだよ。こういうのは我慢が大事なんだ。それに、もし普通に経営できてたら、由希がわたしたちに助けを求めることもなかっただろ?」


 恒川が、少し説教じみた口調で俺に言った。


 いや、言いたいことは分かるけどさ……。


 「でも、これが『我慢』って?お客さん、どこにいるんだよ!?」


 すでに夕方6時を回った頃、佐々木と中野は声を張り上げるのに疲れ果てていた。


 だが、喫茶店に来た客はほんの数人だけ。俺がここ2時間半で、ざっくり数えたところ、実際に注文した客は片手で数えられる程度だった。


 「それにしても、変だよな。確かにあいつらがいつも妨害して店の評判が落ちてるとはいえ、ここまで客足が遠のくなんて普通じゃないだろ?」


 恒川が腕を組み、考え込む。その横で、中野がふと口を開いた。


 「うーん……もしかして、あたしたちのやり方に問題があるんじゃない?」

 「やり方?」


 恒川が、不思議そうに中野を見つめる。


 「うんうん。さっき紅葉ちゃんも言ってたけど、ここまで客が来ないのはちょっと異常だよね?あたしたちは外で散々呼び込みをしたのに、興味を持ってくれる人はいても、結局ほとんどがちらっと見ただけで帰っちゃった。実際に店内に入ってくるお客さんはほんのわずか。悪意を持って邪魔してる人がいるわけじゃないなら、もしかしてあたしたち自身にも何か問題があるんじゃないかなって。」

 「そう言われてみると、私も二つほど気になることがあるな……。」


 恒川は何かに気付いたようにハッとし、それからゆっくりと佐々木に視線を向けた。


 「由希、基本的に客がほとんど来ない状態って、どれくらい続いてるんだ?」

 「うーん……もう3、4年くらいになりますかな。」

 「その連中、頻繁に店を荒らしに来るのか?」

 「頻繁ってほどじゃないんですけど、まあ、かなりの頻度で来てますよ。大体、半月に一回くらいかな……そういえば、一昨日も来たんですよ。」

 「その状況って、最初はどうだった?最初から客が減っていたの?それとも、徐々に変わっていったの?」


 恒川がそう問いかけた瞬間、俺は彼女の思考の流れが読めた気がした。


 そうか、彼女は今、“答え”に辿り着こうとしているんだ……


 「うーん……最初の頃は、あいつらが店を荒らしに来ても、お客さんの数はほとんど変わらなかったんです。でも、回数が増えるにつれて、だんだん客足が遠のいていきました。今は前ほどしょっちゅう来るわけじゃありませんけど、それでも客の数は全然戻らないんですよね……」


 佐々木の答えを聞いた瞬間、恒川の口元にゆっくりと笑みが浮かんだ。


 まるで事件の真相に辿り着いた刑事が見せる、“勝者の笑み”のように。


 ──やっぱり、そういうことか!


 もし俺の予想が当たっているなら、恒川が導き出した“答え”は、間違いなく……あれだ!


 「もしそうだとしたら、あの二つの可能性しかない!」

 「え?」


 佐々木は、恒川に疑問の眼差しを向けた。


 「こういう状況を引き起こす要因は、大きく分けて二つしかない。一つ目は、長期間にわたる妨害によって店の評判が落ちたこと。これがまず一つ。そしてもう一つは、桜花が言っていたように、わたしたち自身にも問題があるってこと。つまり、経営のやり方が間違っている……いや、正しく言うなら、『時代遅れ』になっている、ってことだ。」

 「時代遅れ……?」


 俺と佐々木先生以外の全員が、まるで示し合わせたかのように、同じ言葉を口にし、同じ疑問の色を浮かべた。


 そう——まさに、恒川が言った“時代遅れ”だ。


 時代の流れとともに、特にここ数年で社会は大きく変化し、あらゆるものが進化を遂げている。


 カフェに来る客が減ったのは、妨害者の影響だけじゃない。古い経営スタイルが、時代に取り残されたせいでもある。


 おそらく、佐々木はずっと「荒らしのせいで客が来なくなった」と思い込んでいたんだろう。


 だからこそ、カフェの経営方法や店内の雰囲気の変化には、あまり意識を向けてこなかったのかもしれない。


 正直、俺がここに入ってきた瞬間から、店内にはどこか古びた空気が漂っていると感じていた。


 もしかしたら、それも客足が遠のいた原因の一つなのかもしれない。


 もちろん、たとえ原因の大半が妨害行為によるものだったとしても、経営方針を見直すことで、今後の発展にプラスになるのは間違いない。


 俺は恒川の意図を理解したので、特に何も言わなかった。


 一方の佐々木先生は――まるでリーダーのように、部下たちの分析を聞きながら、静かに判断を下そうとしているように見えた。


 「そう!時代遅れなんだよ!」


 恒川が力強く断言した。


 「コーヒーの技術に関しては、確かに経験を積むほど腕が上がる。でも、ここ数年で流行はどんどん変わってるし、今の若い世代の価値観なんて、もう完全に“アップデート”されてるんだよ。ただでさえ妨害があるのに、経営スタイルまで古かったら、それこそ客が来なくなるのも当然って話だろ?」


 彼女の一言が、まるで真実を突きつけるかのように響き、全員が驚いた表情を浮かべた。


 「あの連中の本当の目的はわからない。でも、それとは別に、まずは経営のやり方を変えることから始めるのもアリなんじゃないか?そうすれば、少しは客足も戻るかもしれないし。仮に原因がそこじゃなくても、店の未来にとってプラスになるはずだ。」

 「言うじゃねえか、恒川。お前、意外と頭がキレるんだな!」

 「先生、それは光栄ですね。」


 恒川は軽く肩をすくめると、俺たちを見渡した。


 「さて、みんなのご意見は?」


 彼女は明らかに、俺たちの反応を待ちきれないといった表情を浮かべていた。


 「俺は別にいいよ。どうにかなるなら、それでいい。」


 ──どうせ俺が反対しても、佐々木先生が首を縦に振るわけがない。


 つまり、俺に選択肢なんてものは最初から存在していなかった。


 ……完全に降参だ。


 「じゃあ、見崎くんは賛成ってことで決まりだね。他の皆は?」

 「あたしは別にいいよ。」

 「渚ちゃんがOKなら、あたしもOKかな!」

 おいおいおい……俺の意見、そんなに便利なオプションじゃないぞ!?

 「えっと……私は先輩に従います!」

 「よし、満場一致で決定だな。」


 こうして、全員の同意を得て「経営方針の見直し」が正式に決まった。

 ──が、本当の問題はここからだ。


 具体的に、何をどう変えればいいのか?


 これは、適当に決められるような単純な話じゃない。慎重に考えるべき重要な課題だ。


 ……とはいえ、俺自身はそのことを真剣に考えるつもりは毛頭なかったりする。


 正直なところ、「問題点が分かっただけで十分」という気持ちだし、あとは彼女たちが何とかしてくれるだろうという期待しかない。


 俺の作戦はこうだ。


 ① それっぽい顔をして、黙って考え込むフリをする。

 ② 彼女たちがアイデアを出すまでじっと待つ。

 ③ そして、いい案が出た瞬間に──


 「あー、それいいね!創意工夫があって、なかなか面白いんじゃない?」


 と適当に相槌を打って、“考えてました感”を演出する。


 完璧だ!


 「じゃあ、まずはグループチャットを作ろうか。今日の夜、それぞれ案を考えて、いいアイデアが浮かんだらグループに投稿して話し合うってことで。」


 佐々木先生の提案に、他の皆も特に異論はないようで、次々とスマホを取り出した。


 おいおいおい、俺は入りたくないんだけど!?


 いや、確かに俺のスマホは普段、誰からもメッセージが


 来ることはほぼなくて、少し寂しい気もするけど……


 でも、だからといってグループチャットなんてものができたら、それはそれで逆に落ち着かないんだよな。


 そもそも、俺のスマホなんて、電話と漫画を読むための“目覚まし時計”みたいなもんだし。


 「あっ、そういえば、あたしたちまだ見崎くんの連絡先知らないよね?」


 中野が突然、手をポンと叩きながら言った。


 「あ、本当だね。連絡先がなかったら、グループに招待もできないじゃん。」

 「いや、待てよ。学校で話せばよくないか? わざわざグループを作る必要ある?」

 「それだと、いいアイデアがあっても次の登校日まで言えないでしょ? グループならすぐ共有できるし、便利じゃん。」


 恒川は説明しながら、スマホを素早く操作していた。


 「でもさ、俺のスマホなんて、漫画とゲーム専用機だぞ……目覚まし時計機能付きのな!」

 「そんな贅沢な使い方があるか! ……まあいいや、とりあえず私のアカウント登録して。」


 恒川がスマホの画面を俺の目の前に差し出した。そこには、彼女のSNSのアカウントが表示されている。


 「めんどくさい。自分でやってくれ。」


 スマホをそのまま恒川に渡した。


 実際、俺のSNSなんてほとんど使っていない。


 一応、兄貴と琴音、それに海夏のアカウントは登録してあるけど、家族なんだから話したいことがあれば直接言えばいいしな。


 兄貴は仕事で家にいないことが多いけど、何か用があれば電話してくる。


 SNSなんて、俺にとってはただのデータの無駄遣い。むしろ、そろそろ削除しようかと考えていたくらいだ。


 ものなんて、そもそも存在しない。


 「本当に何もないね。ロックすらかけてないし、アプリも少ないし……なんか寂しいスマホだね。」


 恒川が苦笑しながら、どこか呆れたような声を漏らした。


 俺は特に気にせず、ただ肩をすくめるだけだった。


 「さて、教師としての私も、一応登録しておこうかな。」

 「先生、俺の電話番号知ってるじゃないですか……」

 「でもね、電話だと通話料がかかるから、SNSのほうが便利なのよ。」

 「そんなに俺に電話することあります?」


 そうして、俺のスマホが戻ってきたときには、すでに登録されている友達の数が増えていた。


 同世代の恒川たちならともかく、佐々木先生まで追加されてるのは、なんか落ち着かない……


 「よし、それじゃ今からグループ作るね! みんなを招待するよ。」


 そのまま佐々木先生がグループチャットを作成し、全員を招待した。


 こうして、俺たちはそれぞれの家へと帰っていった。



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