15. この仕事、絶対面倒くさいって!
翌日の放課後、俺と恒川が校門に到着すると、佐々木先生と彼女の妹・佐々木由希がすでに門の前で待っていて、そこには中野と里浜も一緒にいた。
こんなに早く来るなんて、みんなすごいな……
いや、でも、問題はそこじゃない。問題はどうしてあんなに早く来たんだ?それとも俺たちが遅すぎたのか?
「お前たち、遅いぞ。こんな時間に来るなんてどうしたんだ?」
佐々木先生が腕時計を見て、不満そうに言った。まあ、授業じゃないからよかったけど、授業だったら俺と恒川、即死してたな。
「すみません、先生、遅れました。」
「ったく、恒川よ、お前まで見崎みたいに時間にルーズになっちゃったのか?」
「すみませんでした、以後気をつきます。」
「俺と何の関係が?ってか、一回遅刻しただけだろ!先生、勝手に時間にルーズな人間に決めつけないでくださいよ。」
すぐに反論した。いくら何でも、こんなことを言われる筋合いはないんだが……
まあ、言われてみれば半分は合ってるかもな。確かに、俺はギリギリに着くのが好きだけど、遅刻したことなんて一度もない!前回はアラームが壊れたせいだし!
「でも、見崎くんって普段からだらだらしてるし、確かに時間にルーズな印象があるよね。」
「ひどい!お前だって遅れてきたじゃねぇか!」
確かに時間を守るのは重要だが、時間にルーズなわけじゃないんだ!
「それは見崎くんが遅いから、わたしも待ってたんだよ。」
「は?何言ってんだよ!」
「あはは……もう、そんなことで喧嘩してもしょうがないから、やめよう。」
どうやら俺と恒川が喧嘩しているように見えたのか、中野が慌てて二人の間に割って入ってきた。
でも、恒川と喧嘩してるつもりは全然なかったんだ。単に無理矢理俺のせいにされて、ちょっとムカついてただけだ。
もちろん、恒川の言ってることも間違いじゃないけどな、普段からだらけてるのは事実だし、だって……この世界と戦うのを諦めて、ただのオタクとして生きることに決めたんだから。
「さて、みんな気を引き締めて働こう!」
里浜がやる気満々で言った。彼女とはまだそんなに長い付き合いじゃないけど、なんとなく彼女の性格がわかる気がする。
そんなこんなで、俺たちはそのまま出発した。
みんなやる気満々だった、特に里浜と中野はすごい勢いでやる気を見せていた。里浜は当然として、中野がこんなにやる気なのはちょっと不思議だ。
そして、俺だけが、まるで死にそうな顔をしていた。本当に辛い。やりたくないことを強制されるから……
交渉なら恒川一人で十分だろ?彼女の成績も悪くないし、むしろ優秀だし、どう考えても全然OKだろ?
暴力で解決するなら、里浜一人で十分だろう。あの子、格闘技が得意だから。それに、佐々木先生も格闘技が得意だって聞いたことがある。
俺が行かなくても、やつらがいれば大丈夫だろう。
なんで俺がこんなことをさせられるんだ?こいつらから見たら、俺ってただの無能なのに……
だらけてるし、時間にルーズだし、まさに無能なのに、佐々木先生、なんで俺をこんな目に遭わせるんだ……
「先輩たち、もう着きましたよ。」
ようやく喫茶店に到着した。
「わぁ~これめっちゃ素敵!由希、由希、これあたしにくれる?」
中野は花に興味津々で、店を飾っている花を見て目を輝かせて興奮している。
「いいですよ!先輩が気に入ったなら、あげますよ!」
「わは~ありがとう、由希!」
飾りとして使っている花を、こうもあっさり中野にあげるのか?
「ちょっと待って、勝手に人の花を取っちゃダメじゃないか?」
「でも、由希がくれるって言ったんだもん!」
「まあ、そうだけど、でもこれは店の装飾品なんだよ?」
「大丈夫ですよ、先輩が欲しいって言っていたから、それでいいんですよ!これからもよろしくね!」
「えへへ、ありがと~見崎君はちょっと頭固すぎじゃない?」
「反論しない。」
「ふん!」
中野が鼻を鳴らすと、俺は無視した。
それから周りを見渡すと、この店、意外と混んでいる。放課後の時間帯だから、学生も多い。でも、大人の姿もちらほら見える。
「この場所、人通りがかなり多いなぁ……あの連中さえいなければ、お客さんももっと来てたんじゃない?」
この質問をしたのは俺ではなく、恒川だ。言おうとしたのに、先に彼女が言ってしまった。
「そうですね、ここは商業エリアだから、普段はお客さんもそれなりに多いんです。でも、あの連中が来てからは……少しずつお客さんが減ってきちゃって。」
佐々木は言いながら、どこか憂いのある表情を浮かべ、目を伏せた。その様子はまるで壊れそうなガラスのように見えた。
その表情を見て、思わず少しだけ同情してしまった。
でも、勘違いしないでよ!これは特別な感情じゃない。ただの同情だよ。もしこれが佐々木じゃなくて、他のやつだったとしても、きっと俺は同じように思っただろうから。
「でもさ、由希、佐々木先生の妹でしょ?なんで先生、今まで全然気づかなかったんだろう?」
話終わった後、恒川は視線を佐々木先生に向け、少し冷ややかな目で言った。
「先生、家族のことなのに、何も言わないなんてちょっと冷たいんじゃないんですか?」
「わたしも今日初めて知ったんだ……」
佐々木先生はちょっと戸惑いながら答えた。
「でも、家族なのにこんなことが長い間起こっているのに、気づかないなんて……ちょっとおかしくないんですか?」
恒川の言葉は鋭かった。正直、俺も少し同意した。
「セ、センパイ、そうじゃないんです!」
佐々木はすぐに先生のために言い訳をした。
「お父さんが、絶対にお姉ちゃんに言わないでって言ったんです!だから、お姉ちゃんのせいじゃありません!」
「つまり先生に心配をかけたくなかったってこと?」
「はい!でも、もうどうしようもなくて、結局お姉ちゃんに伝えたんです。」
佐々木は手で服をこねくり回しながら、顔を下に向けて言った。まるで過ちを犯した子供のようだ。
「とにかく、私のことはどうでもいい。今は目の前の問題を解決しないと。」
「じゃあ、昨日先生が言った通りにやればいいんでしょ?」
恒川はすぐに答え、店内に入ってバッグをカウンターに置くと、また振り返った。
「私たちが喫茶店の店員として働くんだから、なんでみんなまだそこにいるの?それに店長の由希も、ちゃんと制服を準備してくれるべきでしょ?」
恒川は最高に上から目線で、最も親切な言葉を口にした。意図は良いものの、その態度が少し気に障る。
恒川がそのように言い出した後、俺たちも店内に入ることになった。
正直、来たくはなかったけれど、あのうざい同情心が湧いてきて、ちょっとだけ手伝ってあげようかなと思った。
佐々木は部屋からいくつかの作業服を持ってきて、俺たちに渡してくれた。
それは軽い素材のエプロンで、色も綺麗で、いろんな色が揃っていたけれど、俺にとってエプロンは……なんか、すごく女性っぽい!着たくない!
拒否しようと思ったけど、佐々木先生がすでにエプロンを着ているのを見て、もし俺だけ着なかったら……なんて思うと、まあ、仕方ないか。
「次は仕事の分担をするわよ!仕事は『客引き』『接客』『雑用』『コーヒー作り』の4つに分けるわ。客引きは外でお客さんを呼んでくる仕事、接客は注文を取ること、雑用はお金を受け取ったり、店内を掃除したりすること、コーヒー作りはみんなわかるわよね?それじゃ、まず最初に、誰が外で客引きしてくれる?」
佐々木先生はレジカウンターの横に立ちながら、まるでリーダーのように俺たちに言った。
「客引きなんて、絶対にやりたくない!」と思ったが、雑用ならまだやれるかな。だって、あれは一人で黙々とできる仕事だから、空気を読まなくていい。
客引きは、このグループの中で一番活発な子にやらせたほうがいい。
その子は、もう言わなくてもわかるでしょ?
視線を左側に移し、そう、里滨だ!
この子はちょっとバカっぽいけど、元気な性格が客引きにはピッタリだし、可愛らしいから、結構引き寄せられるんじゃないかな?
「先生、やっぱり里滨さんにやらせたほうがいいと思います。」
誰かが推薦する前に、真っ先に里滨を「推薦」した。
「え?でもあたし、やったことないよ?」
「ただ道行く人にお店のコーヒーをおすすめすればいいだけだよ。」
「商売ってそんなに簡単じゃないわよ。彩奈の性格を考えると、この仕事は無理だと思うわ。」
恒川が俺の推薦をあっさり否定した。
「なんで?」
「見崎さん、彩奈を推薦した理由わかるわ。彩奈が子供っぽくて元気な性格だからって、そういう点に惹かれたんでしょ?」
この子、俺の考えがそんなにわかるのか?まさか、俺の心を盗んで、そこに戻してきたのか?
「え?あたしって、紅葉ちゃんにとっては子供みたいなの?」
「年齢は変わらないけど、心の成熟度と性格にはかなり差があるわ。」
うん、その点では確かに同意する。
「ひどい……もう!あたしはもう17歳で、ちゃんとした高校生なんだから!」
里滨は恒川の腕を掴み、泣きながら文句を言い始めた。恒川が言った通り、彼女は本当に子供っぽい。
「だから言ったでしょ?子供みたいだって。」
恒川はおでこを押さえ、軽くため息をついた後、再び顔を上げて俺を見た。
「だから、見崎さん、わたしの言ってることは正しいよね?」
おいおい、もしかして、俺の心を見透かした自慢か?
「……はい。」
「やっぱり、そうなんだ。」
恒川は少し得意げな表情で、俺が思っていたことを当てたことに満足そうだった。
「だから、何を言いたいわけ?」
「別に。ただ、そういう考え方だと、ますます彩奈を推薦するのはやめた方がいいって言いたかっただけ。だって、彩奈の性格だと、空気読まなくやすいから。元気なのはいいけど、今みたいに……彩奈!いい加減にしろよ!早くわたしの手放しなさい!」
恒川は俺に説明しながら、里滨の騒ぎに耐え続けていたが、ついに耐えきれず、眉をひそめて彼女に怒鳴った。
まあ、怒鳴ったって言っても、いつもより声が大きいだけで、別に怒ってるわけじゃないけど。
でも、ちょっとビビっちゃった。
「じゃあ、お前はどう思う?」
「うーん、そうですね……」
恒川は下顎に手を当てて考え込みながら、俺たちの顔を一人一人見渡した。
しばらくして、彼女の視線が俺の右側の女生徒に止まった。右側にいるのは、中野だ。
「桜花、この仕事は任せた!」
「えっ?わたし?」
「大丈夫だよね?」
「中野さん、本当にできるのか?」
俺疑念の目で恒川を見た。
中野の能力を疑っているわけじゃないけれど、正直まだ彼女のことをよく知らないから、なんで中野を推薦したのか理解できなかった。
だって、今まで中野に目立ったところなんて見たことがないから。
「それがわからないんだよね。桜花はこんなこと得意なんだよ。だって、課外活動と言ったら、遊んでいる時間よりもアルバイトしてる時間の方が長いくらいなんだから。経験なら、うちの中できっと誰にも負けないよ。」
えっ?中野、こんな一面があったの?
全然見当がつかない!彼女を見た目が抜群に良い普通の高校生だと思っていた。特別なスキルもないし、勉強も普通だし。
唯一の「すごいところ」は、外見だけじゃない?
中野、マジで大丈夫かな?
「桜花、できるよね?」
「できなくはないけど、来客があるかは保証できないよ。」
そんなわけで、中野がこの仕事を引き受けることになった。
「とりあえずやってみよっか。それで、雑用の仕事は、彩奈と見崎さん、お願いするわ!」
雑用なら全然構わない。確かに少し体力的には大変だけど、人と接する必要がないから、余計なトラブルを避けられるし。
何より、サボりやすい!
「了解。」
「わかった~」
「接客は、わたしと佐々木先生がやるから。先生、どうですか?」
恒川の問いかけに、佐々木先生は微笑みながら満足げに頷き、拍手までしてくれた。
「いいね!分担も合理的だし、その通りにしよっか!」
「ありがとうございます。それじゃ、コーヒーを淹れるのは由希に任せる。この分野に関しては、うちの中で誰も彼女には敵わないでしょ?」
みんな声をそろえて「ない!」と答え、俺も同じように言った。
「では、異論がなければ、みんなそれぞれの仕事を始めてください!」
恒川が俺たちに向けてそう告げた。
雑用を任されて不満はなかったけど、完全に納得しているわけではない。今回この仕事を抜けることができなかった。それが俺の不満。
俺たちはそれぞれに与えられた役割をこなし、仕事を始めた。
実際、「雑用」って言っても、やることなんてほとんどない。左手でスマホを使いながら漫画を読んで、右手で布巾を持ってテーブルを拭いていた。
里滨は、店の入口に置かれたほうきで「スーパー武器」のように振り回して、時々地面の「敵」を掃除していた。
言い過ぎかもしれないけど、要は掃除をしていたってことだ。
中野と佐々木は入口で、通りすがりの人に店に入ってコーヒーを飲んでもらうように頑張っていた。
佐々木先生と恒川は、何もすることなくドアの前で立っているだけ。だって、客が来なければ、彼女たちには仕事がないんだもの。