46・パパの戦闘スタイル
兄はアンドヴァリ公爵家の最強の魔力を受け継いでいるが、人間の肉体がその強さに耐えきれず、左足と右目が不自由だ。それを逆手にとって、兄は肉体の縛りが少ない右目を魔力の放出口として割り切って鍛え、右目から力が出るようにしている。超高性能な魔力の矢を放出しているような感じだ。
「すごーい!」
子供達は興奮のままに拍手する。ギルバートはこちらを見やる。無表情だ。
「……」
そのまま無言で顔を背ける。
シグルドとノヴァローラ、ユーグカは顔を見あわせる。そしてひそひそと、子供会議が開かれる。
「ねえお兄さま、お父さまいやだったのかしら……?」
「僕たち騒ぎすぎたかな……?」
「ちがうよ! だっていやだったらぜったい、ゆーぐかたちに、あっちいきなさいっていうもん」
「ということは……お父さまは嫌じゃないのかな……?」
「嫌じゃないのかも。だってわたしはほめられるとうれしいわ。お父さまもおなじなんじゃないかしら」
「ゆーぐかもほめられるのすき!」
「うーん……じゃあ拍手していいのかな」
「いいとおもうわ」
「ゆーぐかもそうおもう!」
「うん、じゃあもっとやろう! だめだったら注意されるよね」
ぱちぱちぱち。
子供達は自分たちで話し合って考えて、改めてギルバートにぱちぱちと拍手する。
ギルバートの耳が赤くなっているのに、みんなは気付いていないようだ。
私とシュヴァルツも、ひそひそと耳打ちし合う。
「よかったですね。アンドヴァリ公爵一家の平和に貢献しちゃいましたね」
「ああ。それにユーグカも話が上手になった。感謝しないとな」
「ふふふ」
私たちがそうやって和んでいると。
顔を背けたまま、ギルバートは部下に顎で何かを命じる。
そしてシュヴァルツを振り返った。
「お前もやれ」
「私もですか?」
「あくまでお前の病状は魔力切れだろう。体は動かせ、鈍るぞ」
「承知いたしました。武器は?」
「好きにしろ」
「……承知いたしました」
シュヴァルツがさっと、父親から宮廷魔術師の顔になる。
真剣になったシュヴァルツの横顔に、懐かしいときめきを感じる。
(ふふ、結構血の気は多いのよね。戦場でのあなたはかっこよかった)
ユーグカが目を丸くしてシュヴァルツを見上げた。
「ぱぱもやるの?」
「ああ。見ていなさい」
シュヴァルツが前に出る。杖も何も持っていないので、若手の魔術師が動揺している。
前線で戦う事もなくなったシュヴァルツが本来どんな魔術師なのか、既に知らない人もいるらしい。
楽しみだなあと思って見ていると、ギルバートが私を見ているのに気付いた。
「リリーベル、お前も出ろ」
「えっ!? ……わ、私ですか!?」
「『大自在の魔女』の力を見せてみろ、シュヴァルツの援護を」
「えっ……ええ!?」
『大自在の魔女』の言葉に、場に居た魔術師達がどよめく。
なるほど、ここでばらした上でしっかり実力を見せて、宮廷魔術局長のギルバートが保護する理由を周りに知らしめる――いわば、根回しの一つだろう。
「あの、戦闘訓練なんてしたことないのですが……」
「俺が見せただろう。シュヴァルツの援護をすればいい」
「は、はい……」
私が一歩踏み出すと、シュヴァルツが心配するように振り向く。
「すまない、義兄上が無茶を」
私はにっこりと笑う。
「いえ。こういうの初めてなので足を引っ張るかも知れませんが」
「心配するな、君は私が守る」
シュヴァルツが立ち、私が少し後ろに待機する。
こちらの用意ができたところで、魔術師達が幻影魔物を展開させる。シャドウウルフだ。
オオカミと同じようにリーダー格を頂点に、五頭の群れが襲いかかる!
シュヴァルツは半身を引き、マントを翻す。腕の振りを予期させない所作で、拳で鼻っ柱を一撃で伏した。魔力は極薄く接触部だけに発動する。
魔物騒乱期、持久戦が必要な場合にシュヴァルツがよくやっていた技だ。
「こ、拳……!?」
「魔術師なのに……拳……!?」
怯む魔術師たち。
謎の攻撃を見せてくるシュヴァルツにも怯まず襲いかかる。涼しい顔で繰り出される、重たい連撃。
次は、飛びかかられたところで身を低くして、腹部に思い切り鋭い一発。
更に蹴りでとどめをさした。
無駄のない所作はまるで踊っているようにすらみえる。
魔術師らしい布地の多い装いは、予備動作を隠すためというのが、シュヴァルツの本来の目的なのだ。
(懐かしいわねえ。シュヴァルツってば見た目こそ綺麗だけど元々大変な育ちだから……基本の格闘術が結構豪快なのよねえ)
剣も弓も後天的に習得したし、正しい格闘技術も学んでいるが、学生時代はこの拳と足技で回りの迷惑な連中を徹底的にのしていたのだ。シュヴァルツは自分の力で回りのやっかみを潰した。
物思いにふける私の元に、もう一匹シャドウウルフが吹っ飛んでくる。
魔力はともかく体は絶好調なようで、シュヴァルツだけで全部倒してしまいそうだ。
(うーんと、どうしよう……)
でもレイラみたいな『大自在の魔女』の力は使えない。
私は周りを見て、花壇の石を見つける。
(ちょっと借りるわよ)
私は『大自在の魔女』の能力を使い、石をふわっと高く持ち上げる。
そしてシュヴァルツが吹っ飛ばした魔物に、連撃のようにぼかぼかとぶつけた!
「えーい!」
ぽいぽいと石を投げる私。どうだろうか、ちょっとは戦闘なれしてないって感じは出ただろうか。
終了後。
息切れ一つ起こしていないシュヴァルツが、私を振り返った。
「初めてにしては恐れず的確に石を投げている。弱点に当たっていてよかった」
「旦那様の動きから、なんとなくここが弱点なのかなと狙いました、えへへ」
レイラとしてはもっと勢いよく能力で倒せたけれど、それをやるわけにはいかない。
「りーねー! ぱぱー!」
ぴょこぴょことユーグカが走ってきた。
膝をついてだきとめると、ユーグカがきらきらとした目で私を見た。
「すごいね! つよいね! かっこよかった!」
シュヴァルツがユーグカの頭を撫でて言った。
「ママともこんな風に一緒にやっていたんだ。ママと私が組めば、とても強かったんだよ」
「すごいねー!! 私がんばりたいな、もっといろいろおぼえて、ままみたいになって、ぱぱといっしょにはたらきたい!」
「……ユーグカ……!」
シュヴァルツが嬉しそうにする。そしてユーグカをしっかりと抱きしめた。
「あまり危ないことはしてほしくはないが、レイラを誇りに思ってくれて嬉しいよ」
「うん!」
ギルバートがやってきた。そして己の子供達、シグルドとノヴァローラを見下ろす。
「今日はどうだったか」
「すごかったです」
「お父さま、かっこよかったです!」
「……お前らもいずれ実践をやる。アンドヴァリ公爵家の子女だ、覚悟しろよ」
「「はい!」」
ギルバートの前で、双子はそわそわとしている。
隣では、ハグして高い高いして、仲良しなシュヴァルツとユーグカ父娘。
先ほどまでのぶんなぐり魔術師が娘と仲良くしている光景はなかなかシュールだ。
ギルバートは少しだまって、じっとシュヴァルツを見た。
「……ああすればいいのか、お前達も」
「えっ」
「してほしいのかと言っている」
「え、ええと……」
「でもぱぱがしたくないなら……」
顔を見あわせる双子の頭に、杖を持たない片手が伸びる。
がしがし。
ぎこちなく、けれどしっかりとギルバートは双子を交互に撫でた。
「こんなのでいいのか」
「……嬉しいです」
「お父さまのおてて、おおきいですわ」
驚きつつはにかんで撫でられる二人。ギルバートもそんな様子を見て、色々と気付いたものがあるようだった。
「……もっとお前達に、俺の日頃の様子を見せてやってもいいのかもな」
「いいんですか!?」
「みたいです!」
「いずれアンドヴァリ公爵家を背負うからな。……何か、得るものはあるだろう」
ぎこちなくも優しいギルバートの提案に、双子とユーグカがにっこりと笑い合う。
アンドヴァリ公爵家も、リヒトフェルト魔術伯家も仲良しでよかった。
家族が仲良しで居られるのは奇跡と、仲良くしようと思いやる不断の努力の結果だ。
(レイラの縁で繋がった両家だし、これからも末永くいい親戚関係を築いてほしいなあ)
――その時。
芝生を踏んで中庭に人がやってくる。宮廷魔術局のローブを着ていない、外部の者だった。
フード付きの黒い外套の中は旅の装い。遠方から来た人だろう。
彼は私をまっすぐ見て言った。
「お見事です。あなたがリリーベルさんですね」
「はい」
シュヴァルツとギルバートもこちらにやってくる。
彼はそれぞれに深く一礼して、フードを降ろした。
「お初にお目にかかります。私はフロレゾン男爵家の代行者です。本日はジョアン・シブレット男爵家で禁術のポーションが発見された件について報告に伺いました」
和らいでいた場の空気が、さっと変わった。
やっと9000ポイント超えました……!!
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