44・コワモテパパとなかよし大作戦
シュヴァルツは結局あれから、しばらくユーグカの添い寝のもとにすやすやと爆睡し、回復した。
「ぱぱ! むり、や!」
「すまない。体には気をつける。ユーグカを悲しませては元も子もないからな」
ぎゅーっ。
元気になったシュヴァルツと、嬉しそうにハグをするユーグカ。
シュヴァルツの魔力切れは一時的なものだったのでよかったし、ユーグカも倒れた父のためにしっかり添い寝で魔力譲渡し、不安や動揺で『魔力暴走』を起こす事もなかった。
二人が振り出しに戻らずに済んでほっとする。
「私も気を引き締めて、お二人のご体調のケアをしていきますね!」
「ああ、ありがとう。やりすぎなときは叱ってくれ、リリーベル」
「いっしょにぱぱにめっ、しよーね!」
ともあれ、そんなわけで。
実父シブレット男爵の件で動きがあったのと、私の養子縁組手続きを進めるため、私たちはつどいの後も、しばらくアンドヴァリ公爵邸に滞在することになった。
「使用人の都合でリヒトフェルト魔術伯一家の移動にまで影響を出して申し訳ないです」
私がこういうと、シュヴァルツは首を横に振った。
「君が安心して働けるようにするのは主としての責務だ。そもそも君がいなければ、こうしてアンドヴァリ公爵家に来ることすらできなかったのだから」
滞在される側のギルバートもアンナアンナも快く受け入れてくれた。
「そもそもお前の問題じゃない。これは宮廷魔術局の問題だ。自惚れるな」
「もう! 言葉がきつくてごめんなさいね! 気にしないでたっぷり泊まってねといいたいのよギルバートは! ユーグカにうちの子たちともっと仲良くなってほしいから助かるわ~! たくさん他の貴族のお友達も呼んじゃうわね~!」
肝心のユーグカはずっとご機嫌、絶好調だ。
想像より早く『魔力暴走』を起こさなくなり、お友達づきあいも上手にできたのが後押しした。
アンドヴァリ公爵家で、ユーグカはノヴァローラと一緒にプレデビュタントのお勉強をするようになった。
家格が近しい同世代の女の子がいなかったらしいノヴァローラはユーグカと仲良くしたがり、ユーグカも親戚のお姉さんとの生活を楽しんでる様子だった。
ピアノの伴奏に合わせて二人で声を揃えて歌ったり、二人で額をくっつけるようにして絵本を読んでいる姿は、まるでお人形のように可愛い。
家庭教師はレイラの世話もしてくれていた先生だった。
「ユーグカ様には以前お会いしたことがあるのですが、あの時はまだ家の中で嵐のように物が飛び回っている状態でした。よく普通のお嬢さんになるまで躾けましたね」
「いえ、私は何もしてないです……」
暴れても大丈夫、と安心させることで制御できるようになったので、躾というにはちょっと違う。
ともあれ父シブレット男爵家にまつわる問題には、いちメイドの私ができることはそうそうない。強いて言うならシュヴァルツの魔力不足解消のため、魔力回復に特化したお弁当を作って持たせたり、おやつにできるシリアルバーを作って持たせたり、その程度だ。
それ以外の時間は私も子供達のお世話をしたり、またレイラの部屋の魔導書を開き、ユーグカのために必要そうな部分を写し取ったりして過ごした。写本作業はミントローズも時々やってきてくれて、付き合ってくれたのではかどった。
王都の魔術学園と古城の研究所、そしてアンドヴァリ公爵家まで行ったり来たりして大変そう――と思いきや、合法的にレイラの部屋に入り放題なので彼女は絶好調だ。
相変わらずギルバートは忙しく過ごしていて、屋敷にはほぼ寝に帰ってくるレベルだ。
子供達との距離ができてしまっているのも、しかたないことかもしれない。
(それでも泊まり込まずに、毎日必ず帰ってくるのは愛よね)
ギルバートは深夜になろうが毎晩帰宅し、眠っている子供達の顔を見たり、アンナアンナもしくは家令から一日の報告を聞いていた。
妹目線では、兄の愛情の深さは伝わってくる。
ギルバートは無駄なことは決してしない。そんな兄がわざわざ通勤時間と会話の時間を設けて家族の傍にいるのは、妹視点としては奇跡なのだ。兄も多少愛を知ったらしい。
(アンナアンナは愛をしっかり感じていそうだけど、子供達はねえ……)
双子はずっとギルバートの前では緊張している様子だった。
父ともっと仲良くしたい。こっちを向いて貰いたい。
そう思っていても、ギルバートに話しかけるのはなかなかハードルが高いようだ。
対してユーグカはすっかり慣れて、朝食の時もギルバートに一方的にあれこれとおしゃべりをしている。眉間に皺が寄っている兄の顔は、幼い頃に私の話を聞いて顰め面をしていた兄とまったく同じで笑ってしまう。しかめながらも聞いているのは、兄の最大の譲歩なのだ。
まあ、当然顔は怖いので双子はますます怯えているようだけど。
アンナアンナも、この関係はなんとかしたいと思っているようだ。
「ギルバートのことは愛しているけれど、あの人の愛を子供にわかりやすく伝える術はわからないのよねえ。言葉で説明して納得できるものでもないでしょ?」
アンナアンナは乳母と協力して乳飲み子の世話をしながらも、ワーカホリックな夫に代わりアンドヴァリ公爵家の家政を一手に引き受けている。家政と一口に言っても王家に匹敵する権威を持つアンドヴァリ公爵家の夫人として、彼女は彼女でとっても忙しいのだ。
(間を取り持つのは、私がやるしかなさそうね)
私はしばらく考えた末、アンナアンナに提案した。
「私、ちかぢか実家の件で宮廷魔術局に行くんです。そこで考えたんですが……」
提案に、アンナアンナも子供達も目を輝かせてくれた。
◇◇◇
「まったく、なんてことを計画するんだお前は」
――後日。
父の件で証言が欲しいと言われ、私は宮廷魔術局に足を運ぶことになった。
せっかくなのでその機会に「未来の宮廷魔術師の子供達に職場見学させたい」と願い出たのだ。
ダメ元だったけれど、ギルバートはなんとOKを出してくれた。
もちろんグチグチとした文句は言われているけれど。
「えへへ……せっかくなので、ユーグカ様も今後お世話になるでしょうし、場慣れはしておいたほうがいいと思いまして。ならお子さんも一緒のほうがいいでしょうし。親類同士早めに仲良くなった方がいいですし。旦那様と『大自在の魔女』の力がある私が一緒の時が一番ご都合がいいでしょう?」
「……お前本当にレイラじゃないんだろうな?」
「リリーベルですよ」
「おかしい。……レイラとアンナアンナ以外に、俺に物怖じせずずけずけと言える人間がいるなど……」
「うふふ、二人もいたら三人目がいてもおかしくないですよ」
アンナアンナは魔術師ではないから遠慮がある。
ならば私とシュヴァルツがいるときに、少しでも父子との関係を近づけておくべきだ。





