42・ジョアン・シブレット男爵の秘密
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無事に初めての社交界が終わって、ユーグカは興奮気味だった。
ーー夕食後の団らんの時間。
シグルドとノヴァローラ、そして赤ちゃんのランディスを抱いた乳母とアンナアンナ――ラグの上でくつろぐアンドヴァリ公爵家のみなさんと一緒に、ユーグカもすっかり馴染んで遊んでいた。
今は三人で転がって絵本を読んでいる。
私は時々ランディスのだっこを任されたり、片付けをしたりしながらまったりメイドとして傍にいた。
ふと、ノヴァローラが呟く。
「ゆーぐかのぱぱ、やさしくていいなあ」
「ぼくたちのお父さま、怖いからね」
頷くシグルド。
読んでいた絵本が、父親にまつわる物語だった。
「ぼくさあ。この前の魔術のお勉強のとき、お父さまがっかりさせちゃったんだ。お父さまのまえで魔術をみせるの初めてで、きんちょうしてたらしっぱいしちゃって。そしたらおとうさまが『まだ早すぎた』って言って、おこってしごとにもどっちゃったの。……がっかりさせちゃったみたいで」
「わたしもなの」
ノヴァローラも頷く。
「このあいだね、あさごあいさつしようとしたらね、ころんじゃったの。そしたらおとうさまのおめしものをよごしちゃって……あやまったけど、お父さま怖い顔で『しっかり立て』ってだけいわれちゃって……」
「ないちゃったよね、ノヴァローラ」
「なくもの。こわいもの」
二人の子供は溜息をつく。
「どうしたらおとうさま、こわくなくなるかなあ」
「むりじゃないかなあ……」
「だいじょうぶだよ!」
ユーグカが、意外と強く断言した。
「だってこーしゃく、ふたりのぱぱだもん! きっともっとおはなししたら、やさしーよ」
「おはなししてくれるかなあ」
「してくれるよ! ね! りーねー!」
ユーグカがこっちに話題を振る。
私はアンナアンナと一緒に力強く頷いた。
「公爵は顔が怖いだけで、お優しい方ですよ。レイラ奥様もとっても頼りにしていたそうですし」
「だよね! ゆーぐかのままも、こーしゃくすきだったんだもんね!」
「怖いですけど、好きだったと思いますよ」
そこで赤ちゃんのランディスがよちよちとずりばいしてきて、双子にぴたっとくっつく。
「だー」
「おうえんしてくれてるの?」
「いいこね」
「いいこだねー」
双子とユーグカは、三方向からランディスの頭や背中をふにふにと撫でる。ランディスも嬉しそうにきゃっきゃと笑う。
幸せな光景に私はアンナアンナに感謝した。
(アンナアンナと子供達が、こうしてレイラ亡き後のアンドヴァリ公爵家を照らしていてくれたのね)
◇◇◇
その後。
三人はラグの上で眠ってしまった。
「あー、ぁー?」
ランディスがぺちぺちと叩いていても起きない。
アンナアンナがクスッと笑う。
「今夜は一緒に寝かせましょうか」
「そうですね」
ランディスを抱っこして提案するアンナアンナに頷いて、私は寝支度のために廊下に出る。そこでシュヴァルツとギルバートとばったり出くわした。深刻な話を済ませてきた直後、特有の気配がする。
尋ねてきたのはギルバートだ。
「子供達を寝かせたのか」
「はい。三人と赤ちゃんは一緒に絵本を読んだりお話をしたり、とっても仲良くしてました」
「そうか」
「……」
黙った私。
ギルバートが片眉を上げる。
「どうした?」
「双子のお二人が、お父様ともっとお話したいと言っておりましたよ」
「二人がか?」
ギルバートは一瞬目を細めたが、すぐに普段の表情に戻る。
「そうか? いつも目を合わせもしないが」
「……怖がられてるんですよ」
「普通にしているだけだ」
「普通が怖いんですよアンドヴァリ公爵は。もうちょっと……怖がられないようにしてもいいのでは」
「俺が甘やかしてどうする。父親だぞ」
「それでも……思い合っている親子がぎくしゃくしてるのは可哀想ですよ」
「ずいぶんずけずけと言うな、お前」
訝しげにギルバートは私を睨む。
「……お前本当にレイラじゃないんだろうな?」
「レイラ様じゃないです」
「……それはともかくリリーベル。お前の実家について話がある。ついてこい」
シュヴァルツも真面目な顔で頷いたので、私は二人についていく。
応接用の一室に入り、向かいに二人が座る。
人払いをしたところでギルバートがずばり切り出した。
「お前の父親、ジョアン・シブレット男爵に魔力偽証の疑いがある」
「ぎ、偽証ですか」
シュヴァルツがかみ砕いて説明してくれる。
「義兄上は君がアンドヴァリ公爵家と血が繋がっているのかを調べていたそうだ。『大自在の魔女』は現在レイラとユーグカ以外、君が初めての発見だからね。君にもアンドヴァリ公爵家の血が混じっているのなら遺伝の可能性を検討できるから。しかし……」
魔術師の血脈と能力について調査を進めたところ、どうも父の家系の婚姻歴と子女の魔力検査の結果がおかしいのだという。
ギルバートがしかめつらで言った。
「今日まで気づかなかったのは宮廷魔術局側の怠慢でもある。地方魔術師を調べられるほどには人材が足りていないんだ。問題が起きないならわざわざ問題を増やすこともない、とな」
二人は私に書類を見せる。
父は実は二人の妻と結婚する以前、なかなか縁談がまとまらなかったらしい。
そこには複数の魔術師家系との縁談の顛末が記載されている。
最初は妻側からの婚約解消。
次はシブレット男爵家側からの婚約解消。
婚約解消の手続きが多すぎる。
正式な文書にはなくとも、婚約までたどり着かない縁談は大量にあったらしい。
「何らかの事情で、ジョアン・シブレットは結婚を避けられ続けた。ようやく結婚がまとまり、生まれたのがお前だ、リリーベル。お前は『才なし』なのだろう?」
「はい。四大元素の普通の魔力はないです」
「父親が『大自在の魔女』の力を持っていた可能性は?」
「それはないと思います。ユーグカお嬢様やレイラ奥様の前例もありますが、この力は隠しようがないんです。あれば父は私に『悪霊憑き』と怯えることはなかったと思います」
シュヴァルツが痛ましそうな顔をする。
私は「気にしないでください」と伝える気持ちで目配せする。
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