39・花の都で社交界……ですか!?
題して『色々やらかしているっぽいジョアン・シブレット男爵家の秘密を暴いて、断罪して、過去をすっきりさせて、お母様の実家フロレゾン男爵家の養女になろう大作戦!』が始まった!
でも、その作戦はシュヴァルツやイスカリエさん、アンドヴァリ公爵家の皆さんが遂行する話なので、ただの9歳のメイドの私ができることはないわけで。
シュヴァルツは言った。
「リリーベルは一旦この問題は忘れなさい。ユーグカに不安が伝染するから」
というわけでアンドヴァリ公爵夫妻の来訪事件後も、私は楽しく元気にのどかにメイドとして過ごしていた。
城はすっかり綺麗になり、週に一度のカレーの日で研究所の皆さんは元気になって。
キッチンの裏の家庭菜園では、ユーグカと一緒に植えたプチトマトやヘチマ、タマネギやニラ、ラディッシュなどを作ったりして。
「ゆーぐかもはっぱそだてゆ! でね、そしてね、ぱぱにたべてもらうの!」
「素敵ですね! さっそく種をまいて見ましょうか!」
そんなわけでの午前中。
私の隣でユーグカが、ふかふかに耕した土に種を置いている。
撒いているのはパセリにセージに、ローズマリーの種だ。
ユーグカはリボンがついた麦わら帽子に花柄ワンピースに、汚れ防止のふりふりのエプロンを着ている。もちろんレイラのお下がりなので汚れに強く、洗えばすぐに真っ白だ。
ユーグカはぷきゅっぷきゅっと靴を慣らしながら、小さな口で好き放題に歌う。
「どーこーーにーゆくのーぱーせりー、とかーせーじーとかーいろんなーおはなーだいこんー」
「それ、うちの領地の歌ですわ。パルスレーはパセリの産地ですもの」
やってきたのはミントローズだ。手には花冠を持っている。
先日ユーグカが編んだ花冠を、特性ポーションで綺麗なポプリリースにしてくれたのだ。
「はいどうぞ、ユーグカ様」
「みんとしゃんありあとー!」
「んーっ尊いですわ。……あら、ハーブの種まきをなさっているのですか?」
彼女はどこか懐かしそうな顔をして、私に自慢げに言う。
「私の名前。お父様がつけてくださったのよ。本来はローズマリーになるところを、生まれた時に体が弱かったから、ミントのように強く繁茂してほしいって」
「素敵な由来ですね」
「ふふん。ミントのごとく繁茂して、この宮廷魔術局の歴史に爪痕残してあげますわ。レイラ様の名前と並ぶのが夢ですわ」
ユーグカに渡された土いじりのスコップ片手に言うその笑顔がとっても可愛い。
「ちなみに兄の名は母が妊娠を告げた日、夕食に添えてあったのがセージのソーセージだったかららしいですわ」
「いいんですかそんなに安直で」
「後で『薬草だから、治癒魔術師の家柄にはぴったりだ』という理由付けが成されるようになったとか」
故人の話とは思えないほど、愉快なお話だ。
娘が悲しく思い出すよりも、愉快な話で思い出してくれた方がご両親も嬉しいだろう。
「あら」
ミントローズはめざとく、ユーグカがエプロンの下に着ているワンピースに目を向けた。
「新しいドレスを出したのですわね? 愛らしいですわ」
「そういえば共布が余っていましたので、ミントローズさんのリボンを作れますよ」
「えっ!!?? レレレレイラ様とユーグカ様とお揃いだなんて私っ……」
「こらこら素っ頓狂な声上げるな」
庭に、シュヴァルツとセージがやってきた。
後ろからイスカリエさんがついてくる。
二人は上着を脱いでシャツ一枚で、どこか上気した様子だ。鍛錬でもした後だろう。
さっとミントローズがユーグカの目を隠す。
「きゃーお兄様! 所長! いけませんわユーグカ様の前で不適切ですわ」
「お前が一番不適切だばか」
イスカリエさんが「ユーグカ様にです」と、私に手紙を渡してくれる。
しゃがんでユーグカと一緒に目を通す。
「『春の小さな花園つどい』……まあ! アンドヴァリ公爵家の交流会へのお誘いですね!」
ーーかつてこの国は魔物襲撃の危機に常に晒されていた。
そのため魔術師の家柄の貴族たちは、通常のデビュタントより早めに婚約をまとめる家が多かった。
この集いはその頃から始まる、国力の要である若い魔術師同士の交流を深め、スムーズな縁談に繋いでいくために催される、アンドヴァリ公爵家主宰の春の一大行事だ。
ユーグカが招待状を持って、むずかしい言葉に首をかしげる。
「つどいってなーに?」
「みんなご挨拶しあう集まりのことですよ」
説明する私の隣にシュヴァルツもしゃがんで、ユーグカに説明する。
「このあいだ、ギルバート・アンドヴァリ公爵が来ただろう?」
「こあいこーしゃく?」
「そう、あのこあいこーしゃくだ。ユーグカの魔力制御が上手になったから、おうちに遊びにおいで、だそうだ」
「こあい?」
「怖くないよ。今回は私もミントローズも、リリーベルも同行する」
シュヴァルツが言いながら、私にも招待状を渡す。私は驚いた。
「みんあでいくの!? やったー! ぱぱだいしゅき!」
「ふふふふ」
ぎゅーっと抱きつくユーグカ。シュヴァルツは嬉しそうに抱き留める。
私は招待状を見た。
「私、メイドなんですが行ってもいいんですっけ」
何せ元々は主宰の家の令嬢だったので、その辺の事情に疎い。
シュヴァルツは頷く。
「義兄直々の招待だ。ぜひ参加してほしい。普段は行儀見習いでメイドをしている子たちも、綺麗に飾ってお嬢様のそば仕えをするよ。リリーベルとして顔を覚えて貰ういい機会だ」
ミントローズに手紙を渡しながら、セージが笑った。
「宮廷魔術局長直々の招待? はは、そいつはこわいな、拒否権はなしだ」
「兄さまは行きませんの?」
「俺はここの留守番だよ」
「ええー、私ばかり変な婚約者候補と代わる代わる会わされるなんて、いやですわ」
「レイラ様みたいに強くなりたいんだろ、頑張ってかわせ」
「うえーですわ」
シュヴァルツはユーグカの頭を撫でながら言う。
「これまではユーグカは参加させていなかったんだが、今なら大丈夫だろう。リリーベルもいるしな」
「いっしょ! うれしーね、りーねー!」
「はい! たくさん楽しみましょうね!」
パーティに参加するとなると、ユーグカにもレイラのお下がりばかりを着せてはいられない。
私もメイド服以外はまともな服を持っていなかったので、さっそくイスカリエさんがドレス準備の手配をしてくれた。
◇◇◇
準備には1週間がかかった。
湖上の古城には、セージとイスカリエさんが残ることになった。
「行ってくるよ、セージ。留守は任せた」
「ユーグカの初めての遠出だ。心配もあるだろうがこっちは俺たちに任せて、楽しんでこい」





