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【第一部完結】転生ママはメイドになって、今度こそ愛する家族を幸せにします、全力で!   作者: まえばる蒔乃@受賞感謝
第四章・ようこそ前世の実家、アンドヴァリ公爵家へ

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37・ その頃の実家/シブレット男爵視点

「くそ、もう足りなくなったか」


 宮廷魔術局、第五地方支部総務管理官の執務室にて。

 ジョアン・シブレット男爵はいらだたしげに机を叩く。

 魔術の確認のためには魔道具を必要とする。

 男爵はこれが無ければ魔術を使えない。ばれてはならないので、ここだけの話だ。

 ノックがされ、ジョアンは咳払いして全てを机にしまって返答する。


 事務官は届いた手紙を提出する。受け取ったのちジョアンは舌打ちした。


「何故増えている」


 貴族間の紛争全般にかかわる王立裁定院は理解できる。シブレット男爵家と前妻の実家フロレゾン男爵家は揉めていて、先方からは遺骨返還請求、更にはリリーベル・シブレット死亡に関して面会請求を受けている。ジョアンはずっと文句を言う前に役立たずの妻を娶らせた慰謝料を払えと突っぱねている。

 だが今回は更に、宮廷魔術局特別監査課からの手紙も増えていた。


「ところで管理官、フロレゾン男爵家の遣いが来ているのですが」

「何故だ!? 会わないと言っているんだ、つまみ出せ」

「それが今回、いくつか王都から許可を得てやってきているようで……迂闊につまみ出すとこちらが」

「うるさい、とにかく会う気はないと伝えろ」

「ですが……」


 言い合っているうちに執務室の扉が開く。

 見かけない顔立ちのその男を見て、フロレゾン男爵家の遣いだとすぐに分かる。

 男は一礼し、感情の読めない、淡々とした声で言った。


「デルフィ・フロレゾンの遺骨返還請求の可否と、リリーベル・シブレットの死亡に関する確認に参りました。ご自宅にお手紙をお送りしてもお返事がいただけませんので、直接お伺いに参りました」


 ジョアンは机を叩き、唾を飛ばして叫んだ。


「何度見せられても答えは変わらん! 慰謝料すら払わぬ家に、帰すものは何もない! デルフィもリリーベルも死んだんだ!」


 フロレゾン男爵家の遣いは黙っている。

 人形のような暗い眼差しで、ジョアン・シブレット男爵を見据える。


「リリーベルお嬢様は、本当に亡くなったのですね?」

「くどい! 帰れ! おい、早くこいつをつまみ出せ!」

「つまみ出されずとも結構です。それでは失礼致します」


 彼は意外とあっさり引き下がった。

 シブレット男爵は安堵する。早く魔術局特別監査課からの手紙を見たかった。

 じれったい思いで背中を睨んでいると、彼は執務室を出る前に、最後に振り返った。

 じっとこちらを見てくる眼差しに、イライラする。


「ご自宅に寄って、デルフィ・フロレゾン男爵令嬢の墓参りをしても?」

「骨を持ち帰るつもりか、この泥棒」

「いたしません。お嬢様には正当な手続きをもって、男爵家に帰っていただく予定ですので」

「っ……! 慰謝料も払えないくせに、偉そうなこと言いやがって! いいな!? お前の家のバカ娘が帰れないのは、金を払わないからだっ! この貧乏人!」

「失礼致します」


 無表情の遣いは去って行く。

 そこにまだ事務官がいるので、ぎろっと睨む。彼は慌てて退出した。

 一人になったところで、ジョアンは魔術局特別監査課からの手紙を開く。


「…………なんだ」


 管下の魔術師育成事業の進捗報告会への出席要請と、形式的な監査への立会い依頼だった。

 あくまで業務連絡の範疇内の手紙に、安堵して椅子に体を沈める。

 宮廷魔術局に行くということは、魔術が使えるようにしておかなければならない。


 ジョアンは業務後、まっすぐ帰宅した。

 出迎えたカトリネの表情は暗く、目を合わせない。

 エリファの魔術がまだ上手くいっていないのだろう、いらいらする。


「フロレゾン男爵家の遣いが墓参りに来たはずだ。怪しい動きはしていなかっただろうな?」

「……はい。屋敷には一歩も入らずお茶も断り、ただお墓に手を合わせて去りました。足を踏み入れたのは庭だけのはずです」

「ところで魔道具屋は来たか?」


 その言葉に、彼女は露骨にびくついた。


「あ、あなた……それは……」

「来たのか? 来てないのか?」

「来ました。商品もいつもの場所に」


 カトリネはいつになく口数が少なかった。それでいい。

 ジョアンは一人庭に出て、ずかずかと倉庫に入り込む。

 中央に置かれた木箱を開くと、そこには紫色に輝くポーションが大量に入っていた。


「ふふ……これがあれば、何もこわいものはない」


 飲み干すと体の奥からじわっと何かがうごめく感覚がする。

 飲んでいると数日間は、腹の中で何かがうごめく感覚がするかわりに魔力が使えるようになる。

 行商人の話によると、どうやら腹に人工魔物を棲ませるポーションらしい。

 人工魔物は宮廷魔術局の演習によく使われている、魔物を模した人工精霊だ。


「娘にも……飲ませるか」


 ジョアンは考える。

 二人目の娘エリファはさすがに魔力があるかと期待していたが調子が悪い。

 リリーベルが去ってからますます調子が悪くなったと妻は言い訳をするが、そんなことはどうでもいい。エリファは未来の母体だ。未来の嫁ぎ先で子供を産み栄える必要がある。そのため副作用が気になるので飲ませていなかったが、魔力検査の日だけでも飲ませていいだろう。落ちこぼれ扱いで嫁ぎ先がないより、ずっとましだ。


「それに……リリーベルに続いて次の子までだめとなれば、調査が入るかもしれないからな」


 シブレット男爵家を存続するためにも、決して魔道具の調査が入るわけにはいかなかった。



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