27・アンナアンナの猛攻
二人とも相思相愛で仲良しに見えるけれど、足りないと感じるのもまた当然だ。
だってユーグカは1年前に森で発見されて、シュヴァルツはずっと体調不良で寝込んでいた。二人で健やかな関係を築いていくのはこれからなのだ。
「それに。ユーグカはレイラにうり二つの、同じ『大自在の魔女』の能力者だ。彼女を見れば新しい妻も否応なしにレイラを思い出す。それが、ユーグカの成長にとっていいとは思えないんだ」
確かにそれは懸念事項だ。
「……まあ。私がそう思っていても……ほおっておいてくれないひとはいる」
「ふふ、そうみたいですねえ」
その後いつもの朝食の時間となり、ユーグカが目覚めてくる。
私たちは朝食をとり、それぞれ朝の支度や仕事にいそしんだ。
玄関ホールに立ち、私は目を閉じて全神経を城の中とつなぎ合わせる。
『大自在の魔女』の能力発動。
全自動で城の中のいくつかの窓が開け放たれ、新鮮な風が城の中を吹き抜ける。
自動で動くホウキとぞうきんで、大まかな塵やゴミは綺麗に取り除かれる。
高い場所の窓も拭き掃除され、散らばったものもあるべき場所に戻る。
「ふう」
これで、デイリールーティーンの掃除は終わり。
視認したり確認したりしながら行う、その他の家事へと取りかかろうとした。
「まずは遺品の陰干しね」
その時。電気が体を走るように、ぴりっと魔力の気配を感じる。
「……これは……」
嫌な予感がして外に出るとイスカリエさんが振り返る。
彼は途方に暮れた顔をしていた。
「……来ました」
それ以上の説明はいらない。
豪華な船が、こちらにそよそよと来ていた。
到着して現れたのは豪奢な服を纏った、肉感的で太陽の笑顔の、きらきらの金髪巻き毛の女性だった。
「あらあら、可愛らしいメイドさんね。はじめまして!」
ぎゅむうううう。胸に顔が埋もれる。
「私はアンナアンナ・エル・アンドヴァリ。シュヴァルツくんの義姉よ」
「あとはお任せします。じいじはお嬢様のお世話をさせていただきますゆえ」
「あーッ!」
イスカリエさんはユーグカを小脇に抱えてすたこらさっさと庭に行ってしまった。
そして私がアンナアンナを応接間に案内すること数分。
城主のシュヴァルツが応接間に入った頃には、すでにアンナアンナはテーブルいっぱいに釣書を並べていた。まるで肖像画で行う大きなトランプ遊びのようだ。
「あらやだシュヴァルツくん! ますます男前になったわね! 世界があなたの再婚を待っているわ! さあさあ! お義姉さんに! 任せてちょうだい!」
彼女はシュヴァルツの返事も聞かず説明を始める。
「まず彼女はジョゼフィーヌ・ニアデス侯爵令嬢。こちらはエリザヴェータ・トーイカモ男爵令嬢。あちらはアルテミシア・エキチカ公爵令嬢で、マリアンヌ・サンドメイ嬢は平民だけど、ご実家があの有名な事業家で……」
ぺらぺらぺらぺら。彼女は次々と令嬢たちを紹介する。
「さあ、こんどこそ運命の人に会えるようにたくさんの写真を持ってきましたからね! 皆家柄も本人の気立ても良くて仲良くできそうな人ばかりよ」
「っ……公爵夫人!」
シュヴァルツはなんとか手刀をしつつ言葉を遮った。
「歓迎いたします公爵夫人。おもてなしのご用意もできず申し訳ございません」
「いいのよいいのよ、私の事は気にしないで!」
「公爵夫人、ところで義兄のアンドヴァリ公爵にはご相談は」
「黙ってきたわ、だってあの人も仕事仕事で、ちっとも私の話を聞いてくれないんだもの」
「……」
目が点になるシュヴァルツ。
(あ、やっぱり黙ってきたんだ。)
厳格が服を着たような兄ギルバート・アンドヴァリが仕事の邪魔になるような訪問を許すわけがない。
ふと、彼女は私を二度見して、しげしげと大きな薄茶色の瞳で見た。
「そういえばシュヴァルツくん、この子についてまだ聞いていないわ。どこか気品のある物腰ね? メイドさん、どんな家柄? 出自?」
「彼女はとても大変な出自の子で、おいおいアンドヴァリ公爵も交えて説明します」
「あらあら、先に教えてよ」
「上司でもある公爵を差し置いて話す訳には」
「あら、そんな固いこといらないじゃない。私はあなたの義姉さんなのよ」
「ええと」
「もう! これだから」
シュヴァルツでは埒が明かないと思ったのだろう。
視線を向けられたので、私は当たり障りない範囲で答えることにした。
「リリーベルと申します。お見知りおきいただけましたら嬉しいです」
「リリーベルちゃんね。これからよろしくね。けれどまだ……子供よね?」
「え、ええと……」
「まだ幼いのに、どうしてメイドさんを? おうちの人は?」
「ええと……色々と家を出て働くことになりまして」
「どうして?」
「ええ……と……」
私は頭を巡らせる。この手の女性に納得して貰うにはどうすればいいだろう。
こちらの手札を出してしまうと、更に根掘り葉掘り聞かれてしまう。
「わかったわ! 花嫁修行ね! 素敵ね、花嫁修行! 適齢期になったら安心してね、あなたの素敵な旦那様、見つけてあげるからね」
「ありがとうございます」
納得の顔でうんうんと頷く。
「ありがたいわ、やっぱり男所帯で女の子を育てるのって不安があるもの。ユーグカにとっても年の近いメイドがいることは、良い事よ。長くお勤めしてもらえるからね」
その時、心配そうな顔をしたセージがやってきた。
「シュヴァルツ、今日は会議の日だぞ、具合が悪いのか?」
「あっ、」
シュヴァルツがしまった、という顔をする。
アンナアンナが目をキラキラした。
「あらあらまあまあ! お久しぶりねセージくん! 会いたかったわ!」
見るからにわかりやすくセージの顔色が青ざめる。
「お久しぶりです、今日はちょっとシュヴァルツ……部隊長殿に仕事がありまして」
「あなたにもぴったりのお見合い持ってきたのよ、んもう、せっかくの長男なんですからちゃんと結婚は考えなくては」
「あっ、近い近い近い、近いですアンドヴァリ公爵夫人……!」
私はわざとらしく手をパチンと叩く。





