25・ひえひえチーズケーキの昼下がり
掃除して使えるようにした東屋で、ミントローズ、ユーグカでティータイムをしていた。
私は二人に給仕している。メイドとしてのお仕事だ。
「はー……王都のお茶会でも食べられませんわ、こんな美味しいケーキ」
彼女たちが食べるのは、ベリーたっぷりの冷え冷えチーズケーキ。
ベリーは裏庭から取ってきた、魔力がたっぷりのもの。
みんなでベリーを摘んで、ユーグカが型に流し入れて、ミントローズが冷やして固めて作った、皆の力を合わせたケーキだ。
「ありがとうございますミントローズ様。お陰で美味しいケーキができました」
「『大自在の魔女』の力も難儀ですわよね。まあ、私の氷魔術があれば冷却も簡単ですわ!」
「えへへ、いっしょにつくってたのしかったね!」
「ええ、本当に!」
胸を張るミントローズは嬉しそうだ。
レイラ時代は魔物騒乱の影響で、令嬢たちがケーキを食べて楽しむ機会も減らされていた。けれど、せっかくならと、私はシュヴァルツの魔力を借りて少しの手間で美味しいケーキを作る方法を編み出していたものだ。
「週に一度のカレーの日のお陰で、私の魔力もパワーアップいたしましたし、飛び級も夢ではありませんわ! ああ、早く一人前になりたいですわ」
私は庭を見る。
庭は『大自在の魔女』の力で過ごしやすいナチュラルガーデンになっている。
剪定したハーブは干したりお酒に漬けたり石鹸に入れたり活用中。
私がレイラ時代にやりたかった丁寧な暮らしを、無事に実践できている。
「リリーベル。貴方も一緒におあがりなさいな」
「えっでも私メイドですので」
「家庭教師でもあるし、そもそも男爵家の娘なんでしょ? なら座りなさいよ、ほらほら」
「ええー」
「ゆーぐかもりーねーといっしょにけーきたべたーい」
「ほら、魔術伯令嬢と辺境伯家の娘が命じているのよ男爵令嬢」
冗談めかしてミントローズは席を用意する。私は「では失礼して……」と、『大自在の魔女』の力で自分のぶんのケーキとティーセットを用意して二人の間に座った。
ベリーチーズケーキを一口食べる。美味しい。
頬が緩んだのを見て、目の前の二人もうふふっと笑う。
食後、ユーグカが私のメイド服をちょいちょいっと引っ張る。
目の高さを合わせるとうるうるの目でお願いされた。
「りーねー、ぱぱとか、けんきゅーじょのみんなにもあげたい」
「ごめんなさい、これはユーグカお嬢様とミントローズ様の魔力に合わせて作っているので、研究所の全員にはあげられないんです」
「むー」
ぺしょっと落ち込むユーグカ。私は「ですが」と指を立てる。
「ユーグカ様がそうおっしゃるかと思って、実は旦那様が食べられるように調整しています!」
「えっ!!」
「他の方の分は、別に用意しています!」
「ほんとぉ!? やったー!」
ぴょんぴょんぴこぴことユーグカは跳ねる。
「用意がいいですわねえ」
「今『大自在の魔女』の力で包んでますので、このまま研究所までおさんぽしましょうか」
「いいわね、食後の運動は大事よ」
「おさんぽ!」
犬のぬいぐるみをリュックサックのように背中に背負って、ユーグカは私とミントローズと手を繋いで歩く。
「あってんとうむしさんだー」
「てんとうむしですねえ」
「あっつるつるのいし! あっ、ありさん!」
「ユ、ユーグカ様! 研究所に着くまでにケーキが溶けてしまいますわ!」
慌てて言いながらも、ミントローズも楽しそうだ。
ぽかぽか日よりはあったかくて、空も綺麗だ。
庭を通り抜けたとき、玄関にこそこそと足早に入っていくイスカリエさんの姿が見えた。
――なにか、えらくたくさんの封書を持っている。
落ちそうになっている。私はすっと人差し指を回す。
「えい」
『大自在の魔女』の力で、どさどさと落ちそうになった封書を積み重ね、ふわふわと浮かす。
イスカリエさんと目が合う。しまった、と言わんばかりの顔だった。
いつもビジネスライクな表情を崩さないイスカリエさんにしては珍しい。
めざとく気付いたユーグカの興味がイスカリエさんに向いた。
「あー! じーや、やーなの!」
「じ、じーやと呼んでるんですね」
ぴよぴよぴよててて!
ユーグカが走って行くと、『魔力暴走』で封書がパーッと散っていく。
「あわわ」
私は慌てて『大自在の魔女』の力でかき集める。でもユーグカも暴走ではなくわざと飛ばし始めたのか、かき集めればかき集めるほどまたパーッと散っていく。
「きゃははは」
「あ、遊ばないでください~!」
空を縦横無尽に飛び回る封書。一つの中身が飛び出し落ちてきたので、私は手に取る。
開いてみれば、めかし込んだ貴族令嬢の姿絵が目に飛び込む。
「これは……釣書ですか?」
「旦那様に再婚をするように、あちこちから届くのですよ。ユーグカ様に見つかるとご機嫌ななめになるので、これまで隠していたのですが」
空を舞う釣書。そして頬を膨らませるユーグカ。
更にミントローズが溜息交じりに付け加えた。
「当然部隊長様は全てお断りしているのだけど、写真だけなら可愛いものですわよ? わざわざ押しかけて既成事実を作ろうとしてきたり、親に言われて仕方なく泣きながらやってきたり……そういう連中が、ユーグカ様の存在や、あの能力を見てどんな態度を取るか、あなたもわかるのではなくて?」
「それは……想像がつきますね……」
「私は『幽霊古城』なんて悪評も、貴族が流してると思ってますの。だっていくらなんでも平民が貴族の悪口なんてそうそう垂れ流せるものでもないですもの」
ともあれ私はユーグカ様を宥める。
「ユーグカお嬢様! お父様のところにケーキ、早く届けにいきませんか? おやつの時間が終わっちゃいますよ!」
「!!! いく!!」
ユーグカはぱっと力を抜く。ドサドサドサッと降ってくる釣書をなんとかイスカリエさんと一緒に受け止め、私たちはふう、と息をついた。
「……あれ、この方は……」
釣書入り封書の束の、一番上。
そこには流麗な文字で、ある名前が書いてあった。
「アンナアンナ・エル・アンドヴァリ公爵夫人……」
――そうか、兄さまも結婚していたのか。





