20・こじらせ少女の主張
現れたカレーに、スタンディングオベーションが起きた。
はらぺこのみなさんの心を一気に掴む究極の味、それはカレー!
「今日はさらにさらに! 旦那様のご厚意により、食用ハーブオークのカツもございます!」
「「「うおおおおおお」」」
皆叫ぶ。
セージが叫ぶ。
「シュ、シュヴァルツ! まさか例のオークか!?」
「当然だ」
シュヴァルツが満足げに頷く。
「魔物騒乱の折、夜襲を前に捕らえたオークを私が直々に捌き、血抜きをしたあの時の味を再現した肉質のものを用意させた。上手いぞ」
「くっ……あの戦場で疲れ切って食欲を失っていた俺たちを鼓舞するため、レイラとシュヴァルツ、部隊長と副部長二人でもりもり食べておかわりもしていた、あのしゃくしゃくで最高のカツカレーが、再現されるなんて……!!」
私が指示するまでもなく、みなさん魔物騒乱の頃を思い出したのか、食堂に並ぶように私の前に皿を持って並び始めた。ユーグカもぴょんと席を立ち、そして私の隣でエプロンを結ぶ。
「お、おじょうさま!?」
「ゆーがつくったつけもの、たべてね!」
「は、はわわ~」
「ばたーものせたげりゅ」
「ひいいい……」
きらきらの炊きたてご飯に、とろっとかけられるカレー。
辛さは中辛で、好みに応じて蜂蜜をかけたりスパイスを足したり、卵をかけたりする。
トッピングもワゴンに用意した。ユーグカは全員に、「どーじょ!」と最後にスプーンを渡している。
そのきらきらの笑顔に、皿を置いたあと床に這いつくばって悶える者が後を絶たない。
職員達の最後に並んで来たのは、ミントローズだった。
「……あまくして。カツは3切れ……」
「かしこまりました。おかわりありますからね」
「っ……! 魔術師にこんなに香辛料を食べさせて、失敗したら、ただじゃ、すまないんだからね!」
「はい。その時は気を遣わずに、はっきり指摘してくださいますよね、ミントローズ様」
まっすぐ見つめて微笑むと、彼女は言葉に詰まり、おとなしくユーグカからスプーンを受け取る。
職員の皿が整ったのを見て、シュヴァルツが立ち上がる。
「私もいただこうか」
「あっ、旦那様の分は私が」
「こうして並んで食べるのも、懐かしいからさせてくれ。な?」
「……はい!」
シュヴァルツは記憶と同じように、辛口カレーをルー多めで取り、ハーブバターとオークカツを5切れほど載せて、最後にユーグカが掴んだ福神漬をぱらぱらとかけられて、うれしそうに微笑んだ。
「ぱぱにはね、はたものせてあげゆ」
「ありがとう」
全員の配膳が終わり、ユーグカがぴょこっよじよじっとシュヴァルツの隣に座る。
イスカリエさんがタイミングを見計らって蓋のかぶせられたお皿を置いた。
「「じゃーん」」
意外にも、イスカリエさんとユーグカが声を揃えて蓋を開く。
中にはくまさん型のライスとカレーが盛り付けられている。お花型のにんじんとブロッコリーで、まるで森の中でぬかるみにはまったくまさんだ。
シュヴァルツが皆を見回す。
「さて。食事と飲み物は行き渡ったようだな。それでは懐かしいカレーを、いただくとしよう」
シュヴァルツの挨拶により、食事会は始まった。
彼らの反応は――いわずもがなだ。
懐かしさに涙ぐむ者。
美味い美味いと味に舌鼓を打つ者。
魔力の栄養バランスが整って恍惚とする者。
「は~、懐かしい。美味い、もうだめだ、二度と食べられないと思ってた」
饒舌に感想を言いながらむしゃむしゃと平らげるセージ。
その隣でずっと難しい顔をして、もくもくと平らげるミントローズ。
彼女もしっかりおかわりを一度してくれた。
「……りがと」
「え?」
「ありがとうって言ってますのよ! な、なんですのこのカレーは! 体の中で花火が炸裂するようですわ、どんどん魔力がパンパンになって、次々と新しい魔術式が思い浮かびますの、どうなってますの?!」
「栄養が足りたんでしょうね、よかったです」
「しかもおいしいし」
「えへへ……」
「と、とにかく……おいしいですわ! それは、認めますわ!」
顔を真っ赤にしてミントローズが席に戻る。
セージが彼女の頭をぽんぽんと撫で、彼女の頭の上でこっそり私にウインクした。
彼も魔力が満ちている様子だった。
「お冷やいかがですか~? 雷属性レモンの輪切り入りです~」
席を回ってお冷やを足している私を、ユーグカが見上げる。
口の横についた米粒をとってあげると、えへへ、嬉しそうにした。
「りーねーはたべないの?」
「私はみなさんのお世話をするのがお仕事なので、終わってからまかないをいただきます」
「えー、いっしょにたべよー」
「いやいやメイドですので」
「じゃあこれ! あげゆ!」
フォークの先に刺さったのは、リボン型のにんじん。アタリとして入れていたものだ。
「ありがとうございます」
ずっと煮込んで甘いにんじんは、頬がしびれるほどに美味しい。
そうして、幸せなランチ会は無事大成功で幕を下ろした。
◇◇◇
食後は隣室でおやつのティータイム。
魔力が過不足なく染み渡り、すっかりシュヴァルツはユーグカを膝に置いてソファで陥落している。
その隣で肩を貸しながら、セージが苦笑いしている。
職員達もシュヴァルツとユーグカの微笑ましい様子にほっこりしている。
研究所の職員たちもセージも、ひとときの満たされた歓談の席を楽しんでいるようだった。
「ありがとうリリーベルちゃん! 週一金曜日がカレーの日になるなんて最高だ!」
「研究が進みまくるよ!」
職員の皆さんは私を見ると、にこやかにお礼を言ってくれる。
研究所は、これから週一金曜日をカレーの日にするつもりだ。
カレーの定期的摂取で彼らの健康は保たれて、成果が出るといいなと思う。
ケーキ皿を片付けて廊下に出た私を、後ろからミントローズが呼び止める。
「完敗だわ。……あなたは、レイラ様のレシピを再現した。シュヴァルツ部隊長だけでなく、職員にも認められてる。ユーグカ様だって、すっごく明るくなった。……お城の中も綺麗になったし、完敗の完敗ですわ。あなたはすごい」
「ミントローズ様……」
「でも!」





