17・腹が減っては戦ができぬ
予約投稿のミスで遅くなりました……!明日以降は朝6時更新継続です。よろしくお願いします。
それからユーグカとたっぷり遊び、そして夕飯も作った。
『大自在の魔女』の能力があれば、煮込みながら火を離れて大丈夫!
ユーグカと一緒にキッチンの脇の庭園からプチトマトをちぎるのも、一緒に輪切りのにんじんをリボンの形に型抜きするのも自在だった。
シュヴァルツもまだ眠っている時間が多いものの、三食の食事と日々の身支度は整えられるようになった。顔色も随分と明るくなり、ユーグカが作るのを手伝ってくれた食事を食べるときの表情は、なんとも言えない多幸感に満ちている。
「ぱぱ、おいし?」
「ああ。ユーグカが混ぜてくれたドレッシングは大好きだよ」
「えへへ」
はにかむユーグカも、最初に比べて饒舌になった。
4歳にしては幼い言葉遣いも、きっとまともに話せる相手がいなかったせいだろう。
いくら研究所から時々見守りに来るミントローズがいたとしても足りなかったのだろう。
食事の後に夜の時間を過ごし、イスカリエさんも巻き込んでボードゲームをしたりおもちゃで遊んだりしてから、お風呂を済ませて寝かしつけに入った。
絵本を読みながら、今日こそ寝落ちしないように気を張る。
しかしユーグカは、枕元で絵本を読む私の手を握って、うとうとの上目遣いで私に頼んだ。
「りーねーも、いっしょ……ねて……」
「い、いやしかし……!」
「すー……」
「あ、寝ちゃった」
私たちの様子を、シュヴァルツが微笑みながら見ている。
「ユーグカはすっかり君を家族として扱っているな」
「そ、そうですね……」
「ミントローズもよくやってくれているが、彼女はユーグカを特別視しすぎているからな」
シュヴァルツは、ユーグカのすべすべの額を撫でながら言う。
「君は、本当にユーグカを愛してそばにいてくれている。レイラの娘、ではなくユーグカとしてみているのが、よく分かるよ」
「恐縮です」
中身はレイラなので、自然となれなれしさというか、母としての感情が出てしまっているのだろう。メイドとしては反省すべきところではある。
ユーグカは一度眠ったら多少そばで話していても起きない。
「可愛いですね、ユーグカ様……」
「ああ、本当に……レイラがのこしてくれてよかった」
産んだ覚えはないけどね。そう心の中で言いながら、私もユーグカの寝顔に見とれる。
ふかふかのほっぺと、長い睫。全身ですうすうと寝息を立てる、その様子は愛らしかった。
一度寝たら朝まで起きない子なので、安心してしばらく寝顔を眺める。
沈黙を破ったのはシュヴァルツだった。
「研究所のことを話しそびれていたな。驚いただろう」
「いえいえ、近くてほっとしました」
「ミントローズの件はすまないな」
「これもまた楽しみってものですよ」
「納得させる件だが、何か妙案があるのか?」
「研究所に行って、足りないものがあるなと感じたので」
「足りないもの?」
私は頷く。
「食堂がないですよね。みなさん、食事をあまり大切にしていないご様子でした」
シュヴァルツははっとする。
「確かに。食事については手当てがついているが、個々人が用意するようにしていた」
魔術師の食事問題は難しい。
ただ栄養補給するだけでは無く、どの土地の食材か、どの食材を食べたかで、魔力に影響が出ることがある。普通の魔術師ならともかく、微細な研究を行う彼らの食事は結局本人達が自分の魔力と相談して用意するのが一番理に適っているのだ。
「私はこのお屋敷のメイドです。なので皆さんの食事を毎回ご用意することはできないのですが……」
私はそれから、シュヴァルツに「ある作戦」を提案した。
シュヴァルツは軽く目を見開き、そして「それはいいな」と笑ってくれた。
「しかしいいのか? 君の負担が増えるのでは」
「この程度でしたらむしろ私も楽しいです。きっとレイラ様も、そうしたと思います」
「私もそう思うよ」
――そして、翌朝。
シュヴァルツの許可を得たので、私はさっそく準備をした。
朝食後のユーグカに提案した。
「ユーグカ様、裏のお庭で遊びませんか? お手伝いしてほしいことがあるんです」
「ゆーおてつだい、する! なにするの?」
「はい。こんど研究所のみなさんといっしょにランチ会をするんですが、その時に使うハーブを採りに行くんです」
「いく!」
ぴょんぴょんと跳ねるユーグカ。
屋敷の家事は『大自在の魔女』の力で自動化した装置に任せ、シュヴァルツ様にはイスカリエさんについてもらって。
リュックサックを背負って、私たちはさっそく屋敷を飛び出した。
◇◇◇
その頃。
研究所でミントローズはポーションを作りながら、ぐるぐると思いを巡らせていた。
「こら、ぼーっとすんな」
兄がぽんと丸めたレポートで頭をこづく。
ミントローズはむっと唇を尖らせた。
「ぼーっとしてませんわ」
「してるだろ」
「……だって」
ミントローズは複雑な気持ちだった。
「ユーグカ様が懐いているからだろう? お前以上に」
「おかしいですわ。ずっと一緒にいたのに。私、もちろん毎日は無理ですけど、頻繁に会いに行ってましたのに、お土産も渡して、一緒に勉強をして」
「ちゃんとあの子を見ていたのか、お前は?」
ミントローズははっとする。
ユーグカをたしかに大切にしていた。けれどミントローズはユーグカそのものではなく――
ぽんと、頭に兄の大きな手が置かれた。
「あまり根詰めるなよ。お前、学校の課題と研究で魔力が枯渇しかかってるんだからな」
「わかってますわ」
兄はひらひらと手を振る。ミントローズは再び、ぶくぶくとするフラスコへと目を向けた。
「もっと頑張らないと……私は……」
兄が置いていった固形食料を齧る。魔力枯渇時特有のふわふわとした眠気が取れない。
ミントローズの目の下には濃いくまが浮いていた。





