15・未来の再婚相手?
――気がつけば朝。
「はっ!!!」
目の前にはシュヴァルツの寝顔。そして間にはユーグカの頭。
私はいつの間にか、ユーグカを腕に抱いて眠っていたらしい。
「あわわわわ」
私は狼狽を声に出しながらベッドから出て、ユーグカをシュヴァルツの腕の中に押し込む。
「ふみゅ……」
まだ明け方なので、むにゃむにゃとユーグカはシュヴァルツの腕の中に収まる。
「ふう……」
ひや汗をぬぐって寝室から出て、私は身支度をし直す。
「いけないいけない、私は今レイラじゃなくてリリーベルなんだから、だめよ」
鏡の中に映るのは金茶色のおさげの少女。
他のメイドがいるような環境だったら、シュヴァルツによからぬ噂が立つところだった。
廊下を歩いていると、
「おはようございます」
「ひっ!?」
イスカリエさんが後ろに立っていた。
「お、おはようございます」
「寝落ちていましたね、昨日」
「ああ、あの……ミントローズ様には内緒に……」
「あの人が聞けば大変でしょうからね、分かってますよ」
その後、私は朝の仕事を終わらせる。
ユーグカは玄関先で石や草を並べて遊んでいる。
私はその様子を見守りながら窓を拭いていた。
「そういえば、リリーベルさん」
隣で庭先の灯籠をみがきながら、イスカリエさんが言う。
「仕事がしやすいように共有しましょうか。ミントローズ様の事情を」
「お願いします」
「兄のセージ・パルスレー副部隊長が、旦那様の同期なのはご存じですよね」
「はい」
兄のセージはシュヴァルツの同級生で10年前も同じ部隊に居たので知っている。
学生時代、シュヴァルツは当初孤立していた。
貴族が多い魔術学園では「美しい妾の子」なだけで目立つのに、更にレイラ――アンドヴァリ公爵令嬢に目をかけられているのだ。嫉妬羨望、様々なもので遠巻きにされていたシュヴァルツと真っ先に仲良くなったのが、地方領主の息子だったセージだ。
「魔術騒乱でパルスレー辺境伯領が焼け野原になり、領地もご両親も亡くなりました。そんなとき、レイラ様が追悼の意を込めて援助と手紙を送ったそうです」
それは覚えている。
私は当時すでに宮廷魔術師として働いていて、実家とは別の財産もあった。レイラは自分の財産と様々なつてを使ってまとまった義援金を作り、数々の領地領民へと送った。
貴族の財産も魔力の才能も、いざとなったとき困った人のために使う。
それがアンドヴァリ公爵家の家訓だったのだ。
「もしかしてミントローズ様は、顔も見たことのない奥様へのご恩を、今もずっと覚えていらっしゃるのですか?」
「彼女が最年少で学園へ入学したのも、学園の特別許可を得て湖の魔力調査に携わっているのも、すべてはレイラ様への強い憧れあってのものです。そしてユーグカ様の為に力になりたいと強く思っている。……その思いが強すぎるときもありますが、ユーグカ様が今日まで健やかに育ったことに、彼女の働きを無視はできません」
「そうなのですね……」
私は窓を磨きながら、感謝の温かな気持ちを感じていた。
父シュヴァルツはぼろぼろで、母レイラ(私)はすでに故人だ。出自が特別な上に『大自在の魔女』の力もあるものだから、おそらくアンドヴァリ公爵家もユーグカを安易に引き取れなかったのだろう。
ユーグカは、父を皆から守るために、ハリネズミのようになっていた。
ミントローズはそんな彼女の力になってくれていたのだ。
「……」
「どうしました?」
窓を拭く手が止まった私に、イスカリエさんが首をかしげる。
「彼女、旦那様の未来の再婚相手にぴったりなのでは?」
ぽろ、とイスカリエさんの持つぞうきんが落ちる。
「いえ、だって、奥様にいつまでもご執心の旦那様と、奥様に多大なる思い入れがあり、ユーグカお嬢様にも懐かれているミントローズ様は、ちょうどぴったりなのでは」
「……リリーベル様。それは難しいと思いますよ」
「えっ、どうしてですか? いやもちろんすぐにとは言いませんし、二人とユーグカお嬢様の気持ちがあってのことではありますが、可能性としては」
「ぜろぜろのぜろ。全くないですわ、何を言ってるのかしら? 信じられませんわ」
「みんとしゃん!」
私より先にユーグカがぱっと反応した。
呆れた様子のミントローズが、腰に手を当てて立っていた。
「リヒトフェルト部隊長と結婚? 冗談じゃありませんわ。私がお慕いしているのはレイラ様です。ユーグカ様のママはレイラ様です。私がなれと言われたら、たとえ相手が国王陛下でも喉をかっさばいてし……どっかにいきます」
――死ぬという言葉を、ユーグカを慮って言い変えたらしい。
やはり悪い子ではないんだろうな、と思う。
「ユーグカ様、研究所で作ってきたスライムです。どうぞ」
「わー」
玩具として使われる無害なドロドロ人工スライムをユーグカに手渡すミントローズ。
「ぱぱにみせてくる!」
ユーグカは『大自在の魔女』の力を使ってふわふわとスライムを空に浮かべながら、てててと父の元に去って行った。
それを見送った後。ミントローズは真面目な顔になった。
「話をしましょう。他の人の邪魔が入らない場所で、私とあなた、二人っきりで」
「二人でですか」
「これは客とメイドではなく、シュヴァルツ様の部下として、ユーグカ様の友人として、あなたが信頼に足る人物か見極める必要があるからですわ」
イスカリエさんに「彼女借りますわね」と告げた後、彼女はサクサクと前を行く。
「あ、あのどちらに行くのですか? あまり城を離れるわけには」
「研究所ですわよ」
「対岸ですか? 流石にそこまでいくわけには」
ぴた、と足が止まる。
「あなた何を言っているの?」
いつもブクマと評価ありがとうございます!
ところで12時更新と6時更新、どっちのほうがいいでしょうか……?
悩んでます;





