14・いちご色の髪の治癒魔術師、パルスレー兄妹
改めて、私たちは応接間で五人で向かい合った。
シュヴァルツとユーグカ、その向かいにパルスレー兄妹。
そしてそのテーブルの短辺に小さな椅子を置いて、私リリーベル。
昼食でおなかいっぱいになったユーグカは、ねむねむになって父シュヴァルツの膝で眠っている。
「昼食後も眠くならないのは何年ぶりだろう、心地よい」
シュヴァルツの穏やかな笑顔が嬉しい。
セージの自己紹介から、話は始まった。
「俺はセージ・パルスレー。昔は治癒魔術師をしていたが、今は研究所でここの湖の魔力について調査している。ざっくりと言えば、なぜこの湖から魔物が溢れ、強い魔力が検出されるのかとか……また魔物が増えた時、レイラ様のような犠牲を出さずに済むようにするかを調べてるって感じだ」
シュヴァルツが補足を入れる。
「彼はレイラの最期を私と一緒に看取ってくれた人だ。彼のお陰でレイラは苦しまずに済んだ」
「俺は何もできちゃいねえよ。だからレイラ様の死を無駄にしたくなくて、調査してんだ」
シュヴァルツの紹介にセージは肩をすくめる。
(私は覚えているわよ、ありがとう)
心の中でお礼を言う。
魔物に全魔力をぶつけて体が消滅しかけたとき、必死で私の体が消えないように全力を尽くしてくれたセージ。この人が私の消滅を数秒でも遅らせてくれたから、シュヴァルツとお別れの言葉を交わせたのだ。
「リリーベルといったっけか。悪かったな、妹が暴走して」
「暴走じゃありませんわ、レイラ様のお嬢様を守るための正当なもごごご」
「お前は黙ってろって。……こんな感じにまあ、レイラ様のことになると、視野がこう、5度くらいになって」
ぷは、と口を開いて、ミントローズはぴいぴいと訴える。
「しょうがないじゃないですの、お兄様は知ってますでしょ、これまで迷惑な女が何人も来たの!」
「知ってるけど、それで新入りメイドの子に迷惑かけるのは違うだろ」
「……と、とにかくですの!」
ミントローズは私をキッと睨む。
「私はレイラ様の為に尽力してますわ。だから解せないのですわ、なぜ私はレイラ様の遺品に触れなくて、そのポッと出のメイドが全て任されてるんですの?」
「ユーグカの家庭教師役でもあるからだよ。それに」
シュヴァルツが穏やかに彼女に言い、眠るユーグカの頭を撫でる。
「彼女は開けたんだ、レイラの遺品を」
ハッとした顔で、ミントローズが私を見る。セージも腰を浮かせている。
「開けた、て……」
シュヴァルツは私に命じた。
「見せてやってくれないか、君の力を」
「しかし」
私はちょっとためらう。
『大自在の魔女』の力を持っていることが、あまり広まってほしくない。
「大丈夫だ。パルスレー兄妹は私とユーグカの為なら、口はどこまでも固いから」
「……わ、わかりました」
私は立ち上がって一礼する。
そして手をパンパンと叩くと、『大自在の魔女』の力でキッチンからワゴンがやってくる。
ワゴンの上には、さましたばかりのカップケーキが並んでいる。
「「…………」」
口をぽかんと開けて、同じ顔をしてカップケーキを見るパルスレー兄妹。
私が一礼すると、シュヴァルツが説明した。
「彼女も『大自在の魔女』の力の使い手なんだ。今この屋敷はすべて彼女が整えている。気付かないか? 随分と居心地の良い城になっているのを」
セージがカップケーキを口にして「うま」と言いながら、辺りを見回す。
「確かに魔力の澱みがすっきりしてるし、城の中のごちゃごちゃしたものも消えてる。お嬢が落ち着いてる証拠だな」
「に、荷物を勝手に捨てたりしてすっきりさせたんじゃありませんの?」
「考えて口きけよミントローズ。捨てさせるわけないって、だからレイラ様の荷物も任せていいと思ったんだろ?」
「あ、あんな若い子に?!」
「シュヴァルツは実力主義だ。だからお前も大切なユーグカの研究に参加させて貰ってるんだろ」
「……カップケーキは美味しいから、今日のところは引き下がってあげますわ」
「なんで上から目線なんだお前は」
セージは呆れた風に肩をすくめ、私に「悪いな」と詫びを入れた。
私は彼女の剣幕にただただ不思議な気持ちになっていた。
なぜ、彼女はそんなにレイラにこだわるのか?
◇◇◇
夜。
ユーグカとシュヴァルツはいつも一緒に寝る。ユーグカのだだもれ魔力を譲渡するためだ。
私はベッドサイドに腰を下ろし、ユーグカが選んだ絵本を読み聞かせる。
レイラ時代にも人気だった絵本だ。
「これ、新しいですね? 最近買ってもらったんですか?」
「みんとしゃんがね、もってきてくれたの」
シュヴァルツが補足をする。
「どこからかレイラが幼い頃に読んでいた本の情報を調べて、ユーグカに与えてくるんだ」
「なんと……」
「みんとしゃんのこと、りーねーにがて?」
ユーグカは私をじーっと見上げて言う。
私はあの喜怒哀楽がくるくるとする顔を思い出し、素直な気持ちで否定した。
「いいえ、とても一生懸命で素敵な人だと思います」
「よかった! ゆーぐかねえ、みんとしゃんもりーねーもだいしゅき!」
ぎゅっと、父の腕にくっつくのも忘れない。
「ぱぱもしゅき!」
「ふふ……」
シュヴァルツの顔がおもっきり緩んでいる。よかったわね……と思う。
そして早速、ミントローズが準備した絵本を読み聞かせる。
「むかしむかし、あるにわに、にわのにわとりが……」
ーー読み聞かせるのはいいのだけど、私の体も9歳だ。
「とりが……ぱたぱた……いっぴき……また、いっぴき……」
目が泳ぐ。頭が揺れる。
一日の疲れで私も、ついついうとうととしてしまう。
ユーグカを見ると、すぴ……と寝息を立てている。
手を握られていて、離れるわけにはいかない。
シュヴァルツも子どもの体温にやすらぐのか熟睡している。
「ああ、……体温が……ねむ……」
二人の寝顔は同じで、愛おしかった。同時に眠気がこちらにまで伝染してくる。
「……ちょっとだけ……私もうたたねしよ……」
絵本を置いて、私もベッドに頬を預けてちょっと目を閉じる。
ちょっとだけ、のつもりだった。
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