12・襲来、つんつんツインテお嬢様
――城を訪れて二週間。
あらかた城の中は片付けることができた。
ユーグカの魔力暴走も少なくなったし、整頓するだけなら簡単だ。
一度船で岸に戻り、イスカリエさんと一緒に日用品や食料品の買い出しに出た。
用事を済ませた後、配達人さんと大荷物と、イスカリエさんと船に一緒に乗る。
イスカリエさんもこれからは、城にとどまる時間を増やしてくれるらしい。
「実は、体調が随分治ったのですよ」
腕をぐるぐると回すイスカリエさん。
「リリーベルさんが城の魔道具調整をしてくれたお陰ですね。レイラ奥様が整えた城の調整は、他の誰もできませんでしたからね」
「『大自在の魔女』の力ありきの装置ばかりでしたからね……」
私は申し訳なさで目をそらす。
まさかすぐに死ぬとは思ってなかったから、城の装置は全部『大自在の魔女』の力ありきだったのだ。シュヴァルツだって動かせない。
(――そういえばシュヴァルツって、今お仕事はなにをしているのかしら)
寝てばっかりだから、療養中、ということなのだろうか。
魔術伯としての収入もあるし、魔物騒乱の成果に対する報奨金もあるから、ずっと寝ていても生活に困ることはないし問題はないだろうけど。
城に戻ったらぴよぴよと足音が近づいてきた。
「りーねー!」
「ユーグカ様! ただいま帰りました!」
「おかえりー」
ぴよぴよぴよっぎゅー!
ぎゅーっとくっついてくるユーグカは、すっかり私に懐いてくれた。
りーねーとは、リリーベルお姉ちゃんの略らしい。
歩くとぴよぴよ鳴るお靴はレイラ時代に使っていた物のリメイク。
過剰な魔力が体にたまらないように、音と光と一緒にちょっとずつ消費される魔道具だ。
感情が昂ったときの、過度な『魔力暴走』を避けられる。
「りーねー、みて」
手にはお絵かきしたばかりの絵が握られている。
ぷにぷにのお手々がクレヨンの色まみれで、エプロンドレスもクレヨンだらけで賑やかな状態だ。
「まあ、色がいっぱいですね! これはおそとの絵ですか? この黒いのは、お父様?」
「おそと! ぱぱなの! あのね、ぱぱね、おそとあるくとかげみたいなの」
「うふふ、そうですね、真っ黒のお召し物ですもんね」
「でもね、ユーグカとおなじ目の色なの。これ!」
彼女がポケットから出したのは、青のクレヨン。鮮やかだ。
嬉しそうに父と同じ瞳の色を自慢する彼女に、私は胸があたたかくなる。
幼いころの私とうり二つの顔。それでいて、瞳の色はシュヴァルツと同じ真っ青だ。
――レイラ(わたし)があの日死んでいなかったら生んでいたかもしれない、二人の特徴を宿した娘。
――違う。あそこでレイラ(わたし)が命を賭していなければ、この平和はなかった。
――レイラ(わたし)と湖の魔力の奇跡で生じたユーグカも生まれなかった。
感慨深くじっと見つめていると、ユーグカが首をかしげる。
「どちたの?」
「お嬢様と会えて良かったなと思ってました」
「えへへ」
はにかむと、ユーグカはさっそく私の手をとる。
「こっちきて! みて!」
こっちこっちと引っ張られるままに玄関ホールに向かう。
壁にはあちこちに、たくさんの絵が貼り付けられていた。
「わあ……!」
「すごい?」
「はい、まるで美術館ですね! 全部おひとりでできたんですね」
えっへんと胸を張ると、ユーグカは私に見せた絵を取り、『大自在の魔女』の力でふわっと持ち上げる。
「ふわふわ、ぎゅー……」
絵の下に平行に力をかけて、ひらひらしないようにして、壁にぴたっとくっつけた。
「ぺったん!」
私は犬のぬいぐるみと一緒にぱちぱちと拍手した。
「ぺったんできましたねー!」
嬉しそうにふにゃっと笑うユーグカ。
私は『大自在の魔女』の能力練習の一環で、壁に絵を貼る方法を教えていた。
簡単なようで、実はとっても大切な訓練なのだ。
1・対象物A(紙)を選ぶ。
2・対象物B(壁)の場所を決めて
3・ひらひらと落ちないように、バランス良く紙を浮かせて
4・壁に貼り付け、固定する
壁はレイラ時代に強化しているので、力任せにくっつけてもびくともしないので練習にはもってこい。
集中力や空間把握能力の訓練にもなる。レイラ時代にも、よくやっていた訓練だ。
そのとき。
「壁にまるで花が咲いたようだな」
シュヴァルツだ。
顔色が随分良くなったし、足取りもしっかりしている。
「ぱぱ!」
ユーグカがぴよぴよと走って、両手両足でひしっとシュヴァルツに抱きつく。
「ふふ、元気だなユーグカ。私も元気になってきたよ」
「ユーグカがんばったから?」
「うん、ユーグカのおかげだよ」
「えっへへ」
嬉しそうに、シュヴァルツは抱き上げて頬ずりした。
シュヴァルツは幸せそうな顔のまま、ユーグカの服を見た。
「さっそく色とりどりになったな」
「大丈夫ですよ、レイラ様の古着なので『大自在の魔女』の力でささっと落ちます」
私の言葉に彼は満足げに笑う。
「ありがとうリリーベル。お陰で、レイラの古着を出せるようになった」
「いえ、とても綺麗に保存していただいていたお陰です」
ユーグカが履いている天使の羽がついたぴよぴよ靴も、鮮やかな赤いワンピースも、汚れないように上から着ているエプロンも、全部レイラのお古だ。
「これまで遺品は開けなかったからな……」
「『大自在の魔女』の鍵がかかっていたら、そりゃあ開けませんよね」
私が死んだのは引っ越したての時だった。
だから遺品も開けないのだ。
前世の私が全部鍵をかけちゃっていたから。
シュヴァルツは肩をすくめる。
「何せ『大自在の魔女』の遺品だ。宮廷魔術局から提出を求められたり、勝手に持ち去られようともしたが、なんとか遺品は全部手元に置いている」
「た、大変でしたね……」
「引き続きレイラの荷物の片付けやユーグカに使えそうな物の整理は、君に任せるよ」
「ありがとうございます。迷ったらご相談いたしますね」
ユーグカを降ろすと、シュヴァルツが眠そうに目を擦った。
「……私はもう少しソファで休む。昼食になったら起こしてくれ」
「承知いたしました」
イスカリエさんを伴い、シュヴァルツが奥へと引っ込んでいく。
治ってきたとはいえ、数年間でずたぼろになった体が簡単に全回復するわけではない。
「ばいばいー」
ユーグカが父に手を振る。
最初はずっと父にぺったりだったユーグカも、今はばいばいができる。安心したのだろう。
「じゃあユーグカお嬢様、一緒にキッチンでお野菜ちぎりしましょうか」
「やる!!」
嬉しそうにユーグカがぴょんぴょんする。
ユーグカはちぎったり洗ったり、ドレッシングをまぜまぜする、サラダ作りのお手伝いがだいすきなのだ。
キッチンに向かっていると、玄関ホールの方で気配がする。
「お客様かしら」
注文していた魔道具屋さんが早く来たのかな。
そう思って玄関に向かうと、見たことのない女の子が立っていた。
13,4歳だろうか。毛量の多いチェリーレッドのツインテール。
魔術学園の制服に、白衣を纏った活発そうな子だ。
「はあ? まだ子供じゃありませんの」





