第十三話 歪み 6/8 未完
「マナ、お前は右から!」
「分かった! お爺やも気をつけるんだよ!」
「フッ……おヂィヤ?」
ヂィヤは禁断の門の守護者ダテンゲートの尻尾から、王の勅命マス・キング・テェプを放ちながら、右手には破滅の刃モ・ケーヨ・リッパーを、左手には乖離の剣ディ・ザイン・ナイフを携えて、ボロ布サー・フェイカーはためかせ、一気呵成に七首竜に斬り込んだ。
「いくよ。ホワイトノエル!」
灰色を纏いし白銀のノエルは、妖精の翅の願力推進を煌めかせて、両腕から光の爪を研ぎ澄ませ、七つの尻尾を切り裂いて突撃した。
「ええい! 薙ぎ払え! 俺!」
マーク・シオンの長い腕が振り下ろされる。二体は直撃を避けながら進軍し、ヂィヤが胸部に到達した。
「唸れ! 刻み込め!」
懐に飛び込めば、巨体が仇となる。リッパーとナイフの連撃で、シオンの雄叫びを引きずり出せた。
「撃ち放て‼︎」
そのまま至近距離から漆黒の使い魔マス・キング・テェプの重結晶をばら撒いた。赤い星が砕け散って、七つある首と尻尾が一つずつ項垂れていった。
「うわあぁっ⁉︎ シオーーンッ⁉︎」
「フッ……まずは、一つ!」
「やった、お爺ちゃん!」
「フッ……お爺ちゃん?」
目標の明確なリアクションはモチベーションの高揚に繋がった。ダテンゲートとホワイトノエルの動きが加速する。
「ヒャー! 尻尾だ!」
「必殺、ドラゴンテール!」
トレーナーの聞く耳を持たず、ドラゴンタイプの尻尾は微動だにしなかった。それがヂィヤとダテンゲートに対してのフェイントになって、彼らを長い腕が掴み上げた。
「ぬおぉっ!」
「お爺ちゃん!」
「マナ、照準は私が」
「分かった、ユイ!」
ユイの射撃の腕はアッシュも認める程だ。――足手纏いにはなりたくない。そんな彼女の願いを汲んだのか、マナは短い言葉の中、ユイを全面的に信頼した。
「そこ!」
「シャインネイル、届け!」
ホワイトノエルの両腕から放たれた光の釘が弾丸となって、ダテンゲートを捕える腕だけを見事に撃ち抜いた。
「すまん、恩に着る」
「次は、わたしの番! ぢぃちゃんは、援護して!」
「了解だ!」
マス・キング・テェプが放たれる中を、白い閃光が駆け抜ける。目前に迫る六つの首を躱して、赤い星に狙いを定める。
「やあぁっ!」
願力を凝縮していた一本の釘が五つの爪へと変化して、一度に二つの星を切り裂いた。
「ヒャー⁉︎」
「フッ……見事!」
◆
「急造の連携なのに、凄いじゃないか」
アッシュの狙い通り、三つもの赤いコアを破壊されたマーク・シオンは、動きを急速に衰えさせていった。
「討ち砕く」
「討ち砕く」
二体のエイリアスは尚もアッシュを狙っていた。マナとヂィヤよりも、今のアッシュの方が決め手に欠ける。
アッシュの背中から生えた願導合金の副腕は、未だ使いこなせているとは言えなかった。その慣らしの為に、敢えてセカンドの左腕を修復せず封印して、右腕とイルミネイターに絞ってテストを行っていた。それを言い訳には出来ない。
右腕のファングブレードに願力を集中、一体目の刀を弾き、二体目の射撃は右脛のシールドを犠牲にして、その反動を利用して距離をとる。
一体目が落とした刀を、イルミネーターのサブアームに掴ませる。ウィナードのような変則二刀流が完成した。
「いくぞ、セカンド」
アッシュの体から生えた副腕の制御は願力でやるしかない為、それと同時制御では、ライト兵器に微弱な願力しか提供できない。これでは、牽制にもならない。
アッシュは自らから生える副腕を諦め、左腕でセカンドのサブアームマフラーを制御した。二本の腕に宿る武器に、スイッチしながら願力を供給し、力の全てを攻撃に転用する。
それでもレベル4の願力とは、このエイリアスたちにさえ遠く及ばない。攻撃を武器で受ける反応が少しでも遅れれば、バリアの無いセカンドは一瞬でジャンクに変わる。
刀を失ったエイリアスはブレイン・ヒーロのバックパックを可変させ四脚の体勢をとって、その上にもう一体のブレイン・ヒーロを乗せて突撃を企てた。
「焦るな」
いつものように、自分に言い聞かせる。冷静なもう一人の自分から見える景色が、マナとヂィヤの動きすら把握する。
彼らへの心配は今のところ必要ないが、マーク・キュリーの秘蔵っ子があの程度とも思えない。アッシュは嫌な方に考える。
馬上のブレイン・ヒーロが、巨大な重結晶の刀を形成し、頭上で大きく振り回した。
「死ね」
「死ね」
振り下ろされる刀を、アッシュは全願力を込めたファングで受け止め、敵の勢いを殺さず受け流す。続けて願力をスイッチして、全願力を込めた刀で薙ぎ払う。
「見える」
「見えた」
馬となったエイリアスが盾を構えて突撃してセカンドの体勢を崩し、馬上のエイリアスは飛び上がって上空から斬り下ろした。
「死ね!」
「お前がな!」
セカンドのサブアームが掴んだ刀に電光が走った。願力の結晶を纏った刀に、そのままイルミネーターの疑似疑似ライトがまとわりついていく。
願力の結晶とイルミネーターの光が混ざり合って、反発して、激しく衝突するイミテーション・ディス・プリズム・ソード。上空から斬りかかったブレイン・ヒーロのコックピットを、血の噴水と共に揺さぶった。
◆
「おのれぇ! 飛べぇ、俺ぇ!」
マーク・シオンの冷たい翼がはためいて、巨体がぶつかった遺跡の街はバラバラと崩れて落ちていく。
「退避ー!」
ヂィヤとマナは空から降り注ぐ幾つもの瓦礫を避けるので精一杯で、その果ての炎の渦に気付くのが遅れてしまった。
「ヒャき尽くせ! 滅びのマーク・シオン・ブレス!」
「……ええい!」
ヂィヤの漆黒の使い魔が、焼け石に水を撃ち込んだ。粉々になった破片に晒されて、ダテンゲートのボロ布のようなマントに更なる穴が広がった。
「グッ……! 無念!」
「ヂィヤ!」
炎の勢いを止められず、ダテンゲートが盾となってホワイトノエルに覆い被さって、地獄の業火から少女たちを守り抜いた。
「ヂィヤさん!」
「叔母……。我の、だてんゲート……」
「分かってる! 絶対修理する! あなたが良かったら、今よりも強化してみせる! だから生き残るんだよ、みんなで!」
「え、本当⁉︎ じゃあ、かっこいい翼! あ、後でっかい大砲も欲しいな♪」
「お、お爺ちゃん?」
「キャラ作ってたんだ……。なんか、思ってたのと違った」
軽口を叩ける余裕は、マーク・アイたちが作ってくれていた。彼らは破壊されたコアを修復する為に予備のシオンを運び出して、マーク・シオンに「食べさせていた」。
「ヒャんだったか? 暴食の、ナンタラファングだったか? エイリアスのネーミングはあたまおかしいのか?」
航灰石多めの願導合金で融合分裂させられたマーク・アイのシオン・シリーズ。その合成体マーク・シオンは、言うなれば、マーク博士謹製のイミテーション・アンティークだ。
「長い道のりだったな、私」
「ああ。アンティークを超える為、頭打ちになった願導人形の性能をどう上げたものか。凄く悩んだな、私」
◆
戦闘中の唐突な回想は、物語に深みを持たせられるのか、トイレタイムになるか否か
マーク・ヒストリア 〜めくるめく、思い出たち〜
「取り敢えず、航灰石を多めにすれば、合金の願力伝達力は高まるな、私」
「融合分裂させれば、アンティークの反応に近づくぞ、私」
「機体にヒトの意志を宿らせれば良いのか、私?」
「融合分裂した上で、それ同士を合成すれば、更にイイ感じだぞ、私!」
「しかし融合分裂させてどれだけ合成しても、アンティークやモンスターの力を使えなかったのだ、私」
「そうだな。データを見る限りでは、魔王様の血を取り込んだシオン壱号機にも、ゲートを開く以外の力は無かったぞ、私」
「魔王……そうか! そこで発想の転換だ、私!」
「うむ。モンスターを素材とするのだな、私」
「それまでも何度となく試してはいたぞ、私」
「だが、マーク・シオンでは試して無かったのだ、私」
「ヒャンティークを模した器に、モンスターの器官を移植すれば……! 私!」
劇場版マーク・ヒストリア 〜めくるめく、思い出たち〜
『私たち』とヒャンティーク 完
◆
新たなコアを取り込んだマーク・シオンは、胸に五つの凶星を輝かせ、全身から重力波を巻き起こした。
「さあやれ、マーク・シオン! 傲慢の重力アーク・ドミナント‼︎ ヒャヒャヒャ! アヒャヒャヒャヒャ!」
「黙れ」「黙れ」「黙れ」「黙れ」「黙れ」
「……ヒャ?」
五つ首竜は、観戦していたマーク・アイたちへ向き直り、鋭い眼光と冷たい言葉で睨みつけた。
「お前……なんで喋れる?」
「素材となった私たちにも感情があると知れ、愚物共!」
重力嵐が愚者への裁きを下した。数十体もいたマーク・アイたちの、その殆どが一瞬の内に潰れた真っ赤なトマトになって、断末魔すら上げる暇無くミートソースが広がった。
「ば、馬鹿な! マーク・シオンには発声器官なんて作っていない!」
「それ以前に、私たちを殺せば、これ以上強化出来なくなるんだぞ⁉︎ 生きてさえいけない!」
「貴様らなんぞ、いらん」
マーク・シオンの尻尾に備わる無数の鱗模様が口を開けた。密集した開口部から、人の手大のサブアームが長く長く伸び出して、器用に工具を扱いだした。
融合させられた同士たちの分だけ、腕は同時に稼働出来た。発生器官は、自分たちで作り上げたのだ。
長い尻尾から蠢く副腕たちは、傲慢のムカデクワガタの脚のようではないか。
「ヒャッ……⁉︎」
「私は……私たちは、マーク・キュリー。全ての生命の頂点に立つ、天才だ。だから、貴様らはいらんのだ」
全身の鱗が開く。胸の星が瞬いて、その砲門という砲門から、プリズムを吐き出した。
「喰らえ、我らが怒り! この世の全てを拒絶せよ!」
煌めく無数の結晶は遺跡内部を上空から満たしていき、それだけで、全てを押し潰しかねない脅威となる。
「憤怒の雷光、ディス・プリズム!」
迸る光の嵐が、円筒型の内側から乱れ舞った。内部にいる彼らも、外部にいたカノープスや超願導人形さえも等しく焼き払われて、腕を穿たれ脚を挫かれ翼を捥がれて、猛る遺跡の王に跪いた。
◆
「……状況は? 無事か⁉︎」
カノープスのクラウザは一命を取り留めた。衝撃に揺れる頭を振り払い、クルーの安否を気遣った。
「左主翼、小破。エンジンに被弾、ありません。損害は……軽微!」
「軽微⁉︎ あの閃光の中をか?」
ブリッジにいるギゼラとディオネとハナコ、それにグリエッタに目立った被害が出なかった。運が良かった、では済まされない未熟さがあった。
「リラ様⁉︎」
グリエッタの叫び声に、クラウザは目を疑った。
着込んだ願ドローンが放出され広域へ展開、バリアが形成されカノープスの要所は守護された。装甲を脱いだせいで虚弱を表し、リラのコード・サマナーがカノープスを庇って大破した事が、一目瞭然だった。
「泣くな、姫様。死んじゃいないよ」
「でも、私」
グリエッタは、何も出来ない。コード・セイヴァーを持ってきていれば、アルカディアの広域バフで、状況を変える事だって出来ただろうに。
「なんて駄目な子なんだ……遊び半分でこんなところまで着いてきて、わたくしは、なんのために」
「泣くな!」
傷ついた老体に鞭打って、リラは若者たちに喝を入れなければならない。それは、何より自分の為である。
「今泣いて救えるのは、自分の心だけだ。仲間を救いたいなら、考えな」
私は、少し休む。そう言い残して、リラの意識は混濁した。
クラウザはオーランドとメアリにコード・サマナーを回収させると、光の放たれた遺跡へ、カノープスの艦首を向けた。




