第零話 イントロダクション
「おねーちゃん、おかえりなさい!」
「ただいまー、ユイ。久しぶり」
妹のユイは、困惑した。数年振りに帰宅した姉のサツキのお胸が、なんだか、おっきい。
「ゔおぉ……!」
「なんだ、どした? 変な声出して?」
ユイは高校生活の傍ら、開業医である母のお手伝いと、お師匠の元で修行の日々だ。
姉と父は軍属だから、滅多に家には帰ってこない。今日は久しぶりの家族水入らず。お土産話が、思わず弾む。
(胸まで弾んでおる……!)
「凝視しすぎ!」
高校生というには少し幼く見えるユイからすれば、いつだって先を行くおねーちゃんは憧れの対象で、そんな態度を隠さないものだから、サツキは妹の事が可愛くてしょうがない。
「今度の防衛任務はニーブックの街なんだよ。ユイの分まで、お姉ちゃん頑張るからね」
「え、いいよ。私は私で頑張ってるもん」
サツキは、頑張り屋さんの妹の頭を優しく撫で回す。黒髪のポニーテールに指が触れ、可愛く揺れた。
子供の成長は早い。サツキが軍人になる前は、ユイはまだ、アホヅラ晒して鼻水垂らしていたのに。
「垂らしてませんー!」
モンスターの巣は、日々拡大の一途を辿っている。ニーブックの街は父の故郷だし、サツキとユイにとっても大切な場所だから、サツキは今度の防衛任務に少し張り切っている。
「みんなは私が守る。大丈夫、無茶なんてしないから」
今日という一日を、夜が侵食していく。
きっと彼女一人が何をしようと、変わらず明日はやってくるだろう。
はしゃぎ疲れたユイは、リビングのソファで鼻ちょうちん膨らませて涎を垂らしながら寝息を立てた。