第九話 家族 3/7 蠢くもの
「退がれ、菫!」
アッシュの惨雪は、弐拾弐号機を捉えた。ライフルの閃光はその重結晶の毛皮を貫くことなく弾かれ、機体と一体化した四門の大砲は個別に可動し、アッシュだけでなく周囲を炎に包んでいく。
「誰かと思ったら! 会いたかったぜ、アッシュ!」
「ジュード⁉︎ 融合分裂か!」
彼が殺した。確実に殺した。だから、目の前のジュードは、ジュードであってジュードで無い。アッシュや菫と同じ、転生者と目される。
「あなたに、元の記憶はあるんですか」
「アァ? また、訳の分からねぇことを!」
砲撃は止む事は無い。毛皮のストックは切れ目なく補充されていく。
「先輩! あの機体は」
「理解した。シオンか」
(ならば、機体の方の願力が毛皮を補充して、ジュードもどきが機体駆動を担当している。僕の攻撃が弾かれたのは)
アッシュは再び願力のビームを放った。重結晶の毛皮は生物のように蠢き、角度を変えて、アッシュの光を明後日の方向へと捻じ曲げた。
「ディス・プリズムの応用か」
続いて放ったアッシュのヘビィ弾は、毛皮に弾き砕かれた。チャージする願力の量を段階的に調節して重結晶の硬度を変化させ、同じ距離、同じ箇所に何度か試し撃ちを行うが、一向に砕くことは叶わない。
パイロットから発した願力は、ガンドールのブーストを受けて増幅し、願導合金に物理的なバリアを纏わせる。コックピットという機体内部から発生したバリアは、通常、願導合金の最も外面である装甲や武具に生成される事になる。
外界との隔たり。バリアの存在が、ガンドールが自身の肉体(の延長)であるという、確かな実感となる。
バリアを重結晶や願力ビームに変換した瞬間、バリアとしての機能は消失する。それでも砕けないのだから、この弐拾弐号機の重結晶の毛皮は、ただ単純に硬いということになる。
「結晶の一つ一つに、どれだけ願力を注いでいるんだ」
羊頭のアルムの羊毛は、着込んだだけでは弱点となっていた。しかし、相手の攻撃よりも硬度があるのなら、それは全身に鎧を纏うのと同じになる。
重結晶はチャージする願力量が多い程、その硬度と重量は増えて、質量も加速度的に増していく。当然、動きは遅くなるのだが、この弐拾弐号機は大砲の角度を個別に動かして対処していた。チャージにかかる時間も、制御出来る大きさも、生成する者の願力レベルに影響を受ける。
ひたすら撃ち続けるジュードと、ひたすら毛皮を繕う弐拾弐号機。攻防の役割分担が上手い。パイロットは兎も角、機体の方は頭が良い。「二人」いる利点を上手く活かしている。
相手がシオン・シリーズなら、融合分裂体。蠍のシオン(健人お兄ちゃん)と同じく、機体も転生者である。
体の頑丈な彼らであれば、願いの混線による複座の痛みをある程度は耐える事は出来た。願いを相反する事なく同じ目的の為の役割分担を行う。菫と蠍のシオン以上の一体感が、彼らには見てとれた。
弐拾弐号機の猛撃に、蠍のシオンも戸惑いを見せていた。「彼ら」には、お互い通じるものでもあるのか。言葉を介さぬ、人でも機械でも無いシオン・シリーズにも、心はある筈だ。
「オラオラァ! 逃げるだけかぁ!」
「ニーブックの」
「ヒャッハー! 最高だな、弐拾弐号機!」
「ニーブックの、誰だって聞いているんだ! 弐拾弐号機なんて名前の人は、あの街にはいない!」
灰庭健人は、全ての奴隷の名前を記憶していた。ラスティネイルの起動実験の際、全ての住民と触れ合い、話し合ったからだ。
しかし、健人も知らない、ケントが裏切った後に生まれた新生児が、弐拾弐号機という名前である可能性もないでは無い。そんな発想をしてしまうアッシュは、自らを嫌悪した。
「……百瀬千秋! 沼田春歌!」
「ファッ?」
「カラスマシゲル! ヤギュウナツミ! カニカワフユキ!」
「なんだ? 辞世の句ってか?」
アッシュは、ニーブックの住民だった奴隷と魔族たちの名前を呼び始めた。「頼むから、止まってくれ」。そんな悲痛な叫びの理由に、このジュードが気付ける筈も無い。
「浦野ショウコ! 浦野ハジメ! ……フィンセント!」
「また、訳の分からねぇことを!」
アッシュは、惨雪の左腕のファングライフルを放り投げた。ジュードを名乗る男はあっさりと躱して、絶えず砲撃を撃ち込んでいく。惨雪は右腕のブレードで、辛くも断ち切って防いでいった。
「ライトだ!」
「アァ? なにが……?」
弐拾弐号機は背後から被弾した。菫の放ったライトが、弐拾弐号機の背面装甲の一部を抉り砕き、弐拾弐号機のコックピット内部が露出した。
菫の乗る蠍のシオンは半人半蟲の機体である。下半身の蠍は両鋏と尻尾からビームの砲撃を放ち、上半身である人型の腕には、先程アッシュが放ったファングライフルが握られていた。
蠢く毛皮がディス・プリズムの応用でビームを屈折させていたとしても、アッシュと菫の前後二方向、そして、菫と蠍のシオンの多方面からの動きには一度に対処しきれない。パイロットがもっと考えて動ける者なら、その限りでは無いのだろうが。
「ごめん、先輩。私が、私たちが、トドメを刺す!」
菫と蠍のシオンは、駆け出した。
「なにやってる、マジェリカァッ⁉︎」
「⁉︎」
菫は、動きを止めた。蠍のシオンは「菫ちゃん」の願いに困惑したのか、呻き出した。アッシュに、予感が走った。
「菫……?」
「あ、あぁ……ジュード、さま……? わたし、なんで、こんなことを」
魔族の猫耳少女マジェリカは、かつてジュードに命を救われた過去を持つ。彼を陰ながら慕い、恋をしていた。
菫が強制融合分裂の時に乗せられた機体は、そのマジェリカの棺桶となったノエルである。「彼女」はその影響からか「彼女」の姿へと転生を果たした。
マジェリカの記憶を引き継いだ訳では無いと思っていた。
「……ジュード様!」
彼女の中から、浦野菫としての願力は、消失した。
◆
「フローゼか? 何やってんだ!」
シリウスの直掩をなんとかこなしながら、友矢のコード・アーチャーが、テティスとカイナに翻弄されるフローゼを救いに参上した。
「トーマ……。くっ、見るな! 無様なボクを!」
「はぁ? なに言ってんだ? お前を見なきゃ救えない。仲間を救って何が悪いっての!」
二体のアーチャーが引き撃ちで距離を取る。カイナは、相も変わらず突撃あるのみ。
「もぅ! メアリを連れて来るんだった!」
メアリはディオネと共にニーブックへと残った。二人は思うところがあると言っていたが、恋に盲目になったテティスには、それが何のことやら分からなかった。
「健人とウィシュアは……!」
友矢が索敵したランスルートは、グリエッタへと刃を振るおうとしていた。
「ランスルート・グレイス! 裏切り者め、やらせるか!」
「馬鹿の一つ覚えか。相手にならん」
皇族機を守護するセプテントリオンたちは、あの時と同じように教科書通りの機体適正に沿った戦いを見せた。
ランスルートは、重武装のコード・ウォリアーには機動力で撹乱し、接近仕様と狙撃機のコード・アーチャーには中距離からの引き撃ち、若しくは接近戦で対処した。コード・サマナーには近づくことさえできれば勝負がつく。セカンドの性能なら造作もなかった。
「まあ、お兄様? 純白のお兄様は、お強いんですね」
皇族の少女グリエッタは、気品ある笑顔を振る舞った。ルミナと同じでランスルートもまた、グリエッタと話した事は数える程しかない。
「グリエッタ。貴様は、純白至上主義の結晶だ。こんなところまで来てくれたからには、生かしては帰さん」
「酷い言い草ですこと純白以外は人間ではないのだからどうなろうとなにをしようと問題ではないのです」
グリエッタは、それがさも当然であるかのように、心が籠っていないかのように、そういう芝居をするように、一息に捲し立てた。彼女から放たれるアルカディアの願力のオーラと相俟って、ランスルートは悍ましい化け物を幻視していた。
「アルカドを離れて良く分かった。だから……生かしては帰さん!」
「愚かな男だ。失敗作め」
小さな皇女殿下の笑顔が、一転した。全てを見下し、それでいて憐れむような目つきは、人を超越した存在だと自らを定義していた。
「なんだ……? 誰だ、お前は……⁉︎」
「? グリエッタ・アークブライトですよ。お兄様?」
幼い皇女殿下は何事も無かったように、次の瞬間には張り付いた笑顔に戻っていた。
「うわぁぁ! トモヤ! グリエッタ様を助けろ、バカヤロウ!」
「無茶苦茶言ってんな、ケロッグパイセン」
そこかしこで戦端が開いている今、友矢までシリウスから離れる訳にはいかなかったが、杞憂に終わってくれた。ルミナとイツキのリ・ブレインが、既にランスルートへと立ち塞がっていた。
「止まりなさい、ランスルート!」
「……ブレイン・ファースト。良くも仲良くなれたものだ」
ランスルートの目には、やはりルミナが化け物に映る。あれだけ認めなかったクロスイツキと、今度は仲良しこよしで襲ってくる。まるで本心が読めなかった。
「お姉様? 御機嫌よう?」
「……グリエッタ。御機嫌よう」
「穢らわしいと思ったら漆黒と二人乗りなんて破廉恥な」
妹の燻んだ瞳に、ルミナは見覚えがあった。かつての自分と同じ、周囲から求められている皇女という姿、鳥籠の少女。恋も知らない、無垢に着飾られたお人形。
「グリエッタ……必ず助けます」
「いりません。貴女もそこのランスルート・グレイスと同じで、魔に魅入られたのです。私が粛正してさしあげる」
何故、今こんなところまでグリエッタが来たのかはどうでもいい。それを考える余裕はルミナには無いし、きっと後でアッシュが考えてくれるだろう。
「『それ』を助けるだと? つくづく理解し難いな、ルミナ・アークブライトは」
「私の可愛い妹です。お前には理解してもらわなくとも結構です、ランスルート・グレイス」
「二人とも、話し合うつもりは無いか」
イツキは、ルミナとランスルートへと声をかける。姉弟は首を縦に振る事は無かった。
「……悲しいな、戦争は!」
彼女の決意に、イツキも覚悟を決め直した。
◆
「菫!」
アッシュの叫びは、虚しく宙を彷徨った。死してなお、ジュードはアッシュを追いかけ、追い詰めていく。
「裏切ったのなら死になさい、セラ!」
「冗談じゃない!」
生前のマジェリカが〈アッシュ・クロウカシス〉を知る由もない。アッシュをセラと呼ぶ以上、彼女は菫では無くて、マジェリカの記憶に動かされている事の証明になった。
「菫!」
「マジェリカです!」
「……マジェリカは!」
蠍のシオンは困惑しながらも、マジェリカと化した菫の為に戦った。健気な忠犬のような蠍の尻尾は、力無く垂れ下がっていた。
「健人、菫を助けてくれ! ……目を覚ませ!」
「愉快だぜ、アッシュ!」
砲撃を掻い潜り、アッシュの惨雪がライフルから重結晶を乱射した。弐拾弐号機の毛皮に着弾したが、連射できるだけの生成速度の重結晶の硬度では、毛皮を砕くまでには至らない。辺りに弾かれた結晶の欠片が散らばって、しばらくすれば霧散した。
「止まりなさい、セラ!」
蠍のシオンが迎撃に出る。惨雪は躱す、それしか無い。意味もない乱射と相まって、打つ手が無いと思わせる。
「見えた」
先程の乱射、弐拾弐号機が受けた被弾箇所の中で、毛皮を纏えなかったのか、わざわざバリアで防いだ部位があった。菫と蠍のシオンが、ファングライフルでつけた傷だった。
「……見えた」
続くコックピットへの連射。弐拾弐号機の動きは、分かりやすかった。ジュードではなくて、弐拾弐号機の動きである。
アッシュの思いついた手は、酷いものだった。きっと転生者相手にしか使えないだろう。それでも、パイロットが無傷で済む保証は無い。
敵対したとしても、相手が覚悟のある軍人では無いニーブックの住民なら、出来るだけ穏便に救ってあげたいと考えるのは、いけない事ではないはずだ。
だがいざとなれば、自分の手で殺してでも止めなくてはならないと考えてもいた。それは間接的とはいえ、自分が融合分裂という現象をゼーバに教えた責任があると、アッシュ自身が感じているからだ。
技術も道具も、使う者次第。悪いのは、融合分裂を戦争の道具としているゼーバだ。だから、彼がそんなことまで背負う必要は無いし、背負いきれるものでも無い。
しかし、アッシュは何事も考えすぎる男である。転生したとて、そんなところだけ、律儀に健人の頃から何も変わっていなかった。
弐拾弐号機というからには、少なくとも後二十体は同様の機体が存在していることになる。こんなところで躓いていては、今後も同じ葛藤をし続けなければならない。さっさと蹴りをつけて、仲間の支援にも行かなくてはならない。
考えて、考え抜いて。考えすぎと言われたアッシュは、確実に心を擦り減らしてきた。これは、そう簡単に変われるものでも無いだろう。
勝手に背負い込んではボロボロになる傲慢さ。しかし、自分の意思で決めることだ。これが、再構築されたアッシュ・クロウカシスという男なのだ。
「やれるさ」
双眸爛爛と。覚悟は出来ている。
◆
アッシュの惨雪は、蠍のシオンの巨体に隠れてジュードの死角を突いた。背後から「そこ」へ斬りかかる、それは弐拾弐号機のバリアに防がれる。
「オーバーライト!」
巨大な光の牙を突き立てる。弐拾弐号機は持てる願力で一点集中のバリアを形成し防ぎきり、バリアはガラス細工のように割れて飛び散り、装填したエレクトリックバレットは焼き切れて、煙を噴き上げて武器から弾き出された。
バリア消失を狙って弐拾弐号機の「そこ」にファングブレードを突き刺す。オーバーライトで赤熱を帯びた武器は、敵機との温度差を使って強制冷却を試みる。排熱が弐拾弐号機に流れ出し、冷却装置に負荷がかかる。傷口からコックピット内部に熱が伝わる、パイロットは熱せられた操縦桿から手を離した。
「……オーバーライト!」
アッシュは再度、二つ目の予備の弾倉を装填した。突き刺さったままのブレードライフルが上下に分割、装甲を無理矢理こじ開けて敵機の内部へとオーバーライトの重結晶を吐き出し、弐拾弐号機を体内から撃ち砕いた。
酷使したファングブレードライフルは、惨雪の右腕諸共爆発した。爆風が追い討ちとなって、弐拾弐号機のコックピットへと熱風を運ぶ。廃莢となった電池が宙を舞って、地面に落ちて転がっていった。
「ジュード様!」
ジュードだったものは、熱に焼かれて結晶に貫かれた。
「ぅ……がぁっ、ア、アッシュ……!」
「……無事か。転生者なら頑丈だろう。お前の相棒に感謝するんだ、ジュード」
ジュードが生きながらえたのは、運が良かったのでは無い。弐拾弐号機はパイロットを守るように動いていた。
「彼」がコックピットへ余分にバリアを割いてくれたお陰で、惨雪の出力で連発したオーバーライトでも打ち倒す事が出来たのである。
パイロットは兎も角、機体は頭が良く、そしてなにより、優しかった。アッシュが思いついた手は、それに付け込んだ酷いものだった。
「ゆるさねぇ……てめぇだけは」
「生き残ったのなら、投降してくれ。僕が憎いなら、きちんと休養してから僕だけを狙えばいい」
刹那、惨雪は蠍のシオンに弾き飛ばされた。その勢いのまま、蠍のシオンが弐拾弐号機にとどめを刺そうと迫った。
「健人⁉︎」
「……けん、と……?」
ジュードを名乗ったそれが、反応を示した。
蠍のシオンは、菫ちゃんを求めた。今のマジェリカに従ってはみたものの、優しくて大好きだった菫の姿を見出せなくなっていた。
菫がいなくなってしまっては、今の彼に生きる理由は無い。菫ちゃんをこんな風にした存在や、その理由を理解しているのかは分からない。
だけど「めのまえのいやなやつらのせい」だという事だけは、ハッキリと認識していた。蠍のシオンは鋏を振り上げ、弐拾弐号機を思い切りぶん殴った。
弐拾弐号機は転げ回って吹き飛んで、装甲はバラバラになって散乱した。手脚はあらぬ方向に曲がり、人型兵器は糸の切れた操り人形のようにへたりついた。
シオンは動きを止めない。制御の効かない野生の獣かモンスターのように、自身の鋏のダメージも気にせずに殴り続けた。
「や、やめなさい! 止まりなさい! なんなの、この機体⁉︎」
相反する願いのマジェリカとシオンに、激痛が走っていた。菫のいないシオンは、上半身に握ったままだったファングブレードの使い方が分からないのか持て余していて、下半身の蠍が本体であるかのように鋏を振り続けていく。
「健人……」
モンスターなんかじゃない。彼はただ、パートナーである愛する菫を助けたいだけなのだ。
「……やだ、やめて……いやあぁぁぁっ‼︎」
マジェリカの絶叫も聞かず、シオンの鋏が、弐拾弐号機の腑に突き刺さった。
ジュードと弐拾弐号機だったものは、辺りに散らばって灰色の地面を赤く染めた。滴るものを拭う事もせず、蠍のシオンは獣のように雄叫びを上げた。
マジェリカはその中で、レバーをガチャガチャと動かし機械を殴りつけては、何も成せぬまま泣き喚いた。失意のアッシュへ、通信が届いた。
「お久しぶりです、灰庭くん」
クラスメイトの沼田春歌が、ゼーバの空中艦ペリカーゴの中から戦場を見下ろしていた。
「凄いですね……何故あなた達だけが、これほどまでに高性能に転生したのか? 矢張り、セラ・クロウカシスという古代パーツのお陰でしょうか?」
「…………なんだって……?」
「百瀬千秋では駄目だったんですよ。そこの弐拾弐号機の事です。あ、パイロットと機体、両方とも百瀬くんです」
「……何、言ってる」
「ソフトとハードを同じ出自の者に統一すれば、よりリンクは高まると考えたのです。しかし、融合分裂に使用した素体がいけなかったのですね。ジュードでしたか、彼のアルムに残されていた願力は、貴方への復讐心で一杯でしたね」
「何言ってんだよ!」
アッシュには理解出来た。怒りを宿した心と、それを俯瞰で見ているような、もう一人の冷静な自分が常についてまわっていた。彼女の言っている事の一つ一つ、一言一句、言葉の意味を理解は出来た。しかし、脳が理解を拒んだ。
沼田春歌との仲は特別良くも無い、ともすれば惨劇があって、そこで初めてそれ以前より親しくなったと思えた、同じ被害者の、ただのクラスメイトの筈だった。
「ああ。私です。ニーブックの方達を融合分裂の実験に使いましょうと、マーク博士に進言しました。私、副社長の孫止まりじゃ、どうせ将来、社長にはなれないじゃないですか? だったらゼーバで独自の道を進んで、成り上がるのも悪く無いでしょう? 一代で、NUMATAを超える一大企業にのしあがって見せますよ!」
「……お前ー!」
アッシュは蠍のシオンからファングブレードを剥ぎ取って、外道の巣食う艦へライフルを放った。