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第九話 家族 1/7 純白のブレイン

「やらせない!」


 エヴァリー・アダムスのコード・サマナーは、マニピュレーターに繋げた願導合金の糸で、十体の願ドローンを踊るように操る。純白の願力ビームの光が網を編んで、羽衣を纏うように神秘的な妖艶さを演出していく。


 レイザーに肉薄していたカイナの獅子獣人は、ハンターの放つ網に捕われる前に一目散に逃げ出して、ランスルートの白きブレインセカンドが、それに替わるように前線へと突撃していった。


「うおおおっ!」

 ランスルートはセカンドの背部追加翼から「大剣」を引き抜き、純白の重結晶を雪崩させて、群がる願ドローンをビーム毎一掃した。


「ウィシュア様!」

「死者の名を!」

 加速。接近すれば、コード・サマナーは。

「俺は、ランスルート・グレイスだ!」

 エヴァの被弾は、レイザーを焦らせた。


 祖国に隷する戦士へ「ランスルート・グレイス」を刻みつける為に、白いブレインセカンドの進撃が始まった。


「奴の同型機か。お前は、楽しませてくれるのか」

 麗人サマンサ・サンドロスのコード・アーチャーが、空中から二丁のアローライフルで迎撃に及んだ。ランスルートは大剣を盾に、脇目も振らずに特攻をかける。


「呪力!」

 テティスの結界を難なく躱し、サマンサの避けた先にカイナの突撃が響いた。


「アンタにもお礼が必要だよな! あん時はどうも!」

「良い連携だ。狙撃手には接近戦が有効だ」

 カイナの突撃により、彼女のコード・アーチャーはライフルを手放してしまった。帽子のような頭部のバイザーが、小気味良く音を鳴らして可動を始めた。


「だが、オレには通用しない」

 顕になったデュアルアイが電子音と共に不気味に光る。コード・アーチャーは脚底の狙撃姿勢固定用アンカーで、カイナ機の股間に蹴り組みついた。


「ぃやんっ⁉︎」

「脚は、二本」

 続く宙返り、もう一つの脚から繰り出されるサマーソルトキックを浴びて、カイナの獅子獣人ノエルは吹き飛んだ。


「痛い痛い! もげるー⁉︎」

「カイナ!」

 咄嗟に厳重にバリアを張ったお陰で、カイナのアソコは大事には至らなかった。いや、願導人形とパイロットは痛みまでは共有していないが、気分の問題である。

 仲間の貞操を守るランスルートの射撃。サマンサは脚底スラスターで自由落下から加速させてライフルを取り戻し、帽子を目深に被り直すように再びバイザーを可動させると、セカンドとの撃ち合いに入った。


「やる……!」

 離れてはコード・アーチャーに分がある。ランスルートのブレインセカンドは、レイザーの指示で高性能パーツによるカスタマイズがされていたが、度重なる戦闘を経て、ニーブックNUMATA製のものに置き換わっている。

 ゼーバの協力により、それはアルカドのNUMATAからも離れ、独自の発展を遂げていた。


「見せてみろ、ブレインセカンド……! 我が半身よ!」


 ディスプレイにコードを入力、セーフティ解除、願導原動機、強制反転「クロックワークス、オーバードライブ!」


 メイン動力のスペースニウムエンジンとは別に、背部コンテナに搭載されたNUMATA製願力原動機がエレクトリックバレットによって唸りを上げる。天使か悪魔の如く、三対六枚の可変翼が広がって、純白が更なる輝きを放った。


「ブレインセカンド・ルシフェル!」


 魔に魅入られた堕天使、恥ずかしげも無く自らを定義した。白い影を置き去りにして、幾重にも瞬く白光の明けの明星が、距離を取った狙撃手を一瞬で捉えた。


「なに⁉︎」

「澄まし顔も、ここまでだ!」

「……アルカディア!」

 刹那の攻防にアシストが飛んだ。レイザーのコード・セイヴァーから、サマンサ・サンドロスへと願力が受け渡された。


「……団長殿か。屈辱に感謝せねばなるまい」

 コード・アーチャーがライフルで接近戦に受けてたった。光と結晶を切り裂きながら、白のブレインの勢いは止まらない。


「やるな、皇子。同型機とどちらが上かな?」

「なんだと……⁉︎」

 ランスルートの斬撃、サマンサの銃撃。接近する二体を、新たな機影が散り散りへと誘った。


「ファーファにもやらせろ! 人間共!」

 長靴型の追加ブースター、尻尾のようなサブアームユニット。マニピュレーターを廃した腕部は巨大な爪をもたげる。獣に成り果てたファーファのノエルは、アルカドの騎士たちを貪りにやってきた。


「疼くんだよ……ここんところがさぁ!」

 下腹部の傷を撫で回しながら、ファーファは弾丸と化したノエルを四方八方飛び回らせた。


「……反転、解除。俺もこいつも、まだまだか」

 セカンドは色を戻し、ランスルートはカイナとテティスに合流。サマンサをファーファに任せて、エヴァが守るレイザーへと再び攻撃に出た。





「奴を止めろ!」


「「打ち砕く!」」


 クラウザ率いるアダト兵の隊列する戦場に風穴が開いた。戦士たちは戸惑った。白と黒に彩られた、禍々しくも煌びやかな肢体があった。


「ファーストブレイン! 純白と漆黒の二人乗りなのか⁉︎」

 相反する色と国を併合した復活のリ・ブレインは、王子と皇女、二人の願いを託されて、魑魅魍魎跋扈する戦場へと舞い戻った。


「いける……! ルミナ!」

「不思議。イツキと一緒だと……力が湧き上がる!」


 ルミナの体を、複座の痛みが襲うことは無かった。それどころか、イツキの願力を心地良いとまで感じていた。彼に護られている、自分が彼を守っている。二人で一緒に歩んでいる。そんな一体感を、誇らしく全身に浴びていた。

 二人とリ・ブレインは、蹂躙を続ける醜いノエルへと、二色の翼を広げ羽撃いた。


「ギャー⁉︎ ブレイン!」

「こいつ!」

「墜ちなさい!」

 殴り飛ばされ転げ回りながら、ファーファの憤怒が谺する。


「テメェ、イツキーーッ! よくもファーファを棄てやがったなー⁉︎」

「そもそも拾った覚えが無い⁉︎」

「貴女、心だけでなく見た目まで無頓着になってしまっては、素体の良さが台無しでしょう!」

「だーれのせいだよー?」


 ボサボサに乱れた髪を振り回し、焦点の定まっていないかつての上官に、ゼーバとアダトの兵たちのモチベーションが低下した。


「……我々は、我々の仕事をするだけだ」

 アダトの人間兵クラウザ・クランベルは気持ちを切り替え、再度実弾による制圧を開始する。


「見えた……はず!」


 クラウザへ直撃が入った。彼の惨雪の頭部が、レンジ外の狙撃に砕け散った。


「す、凄げぇ……! これが、実弾!」

 友矢のコード・アーチャーは先日のアダト兵から奪取した実弾兵器を装備して、偶然にも一撃で指揮官機を撃破した。


 弾丸にバリアを纏わせたアローライフルのビームとは違い、実弾兵器は重結晶のように空気抵抗を受けやすい。

 重結晶は距離によって霧散しやすいが、それには出来ない遠方射撃なら、重力の影響も多分に受ける。逆に言えば、それを理解して利用した曲射も可能である。

 今回の狙撃は、それらが偶然、たまたま運良くヒットしただけだ。クラウザには不運としか言いようがない。


「……いや。こんな浮ついた気持ちで戦場に出たのだ。当然の結果か」


 クラウザは真面目であった。真面目だからこそ上官命令は絶対で、所属するアダトの軍がゼーバへ降ったから、彼もアルカドを裏切ったに過ぎない。個人を捨てて、所属する組織の歯車に徹する。世界では社畜とか呼ぶ者がいた。


「この威力で連発出来るなんてゲームバランスおかしいだろ、実弾」

 古代の世界でも数多の命を奪ってきたという実弾兵器。銃。一射で虜となった友矢だったが、奪取したブツはそう多くはない。


 この世界の実弾兵器に使用されるフレア・プリズムと、エレクトリックバレットに使用されるアクア・プリズムは、どちらもプリズム・フラワーを素材とした。実弾は一発一発が使い捨て、バレットはオーバーライトを使わない限りは充電して何度でも使い回すことが出来る。

 実弾兵器は製造だけでなく運搬や保管にも充電池以上に気を使ったり嵩張る為、現状アダトやニーブックNUMATAのような一部の組織しか使っていない。

 それもこれも、シロに力を与えたくなかった純白至上主義のせいなのだが。更に何度も言うように、決して実弾兵器が弱いわけでは無い。


 反動の余韻に浸りながら友矢は大人ぶった冷静を装って、いつもの使い慣れたライトスナイパーライフルへと持ち替えた。


「見えた……って、見たのは僕だろ」

「悪い悪い。健人が、見えた……はず!」

 アッシュは乗機を走らせ、狙撃手友矢の護衛に回る。ゼーバの一個小隊が、シリウスへと迫った。


「相手は狙撃兵と、ただの惨雪だ! 一気に囲め!」

「小隊長、ざ、惨雪は」

「どうした?」

「シリウスの漆黒……うわぁぁっ⁉︎」


 アッシュの惨雪は、ファングライフルでゼーバを撃ち抜いた。


(上にブレた? 照準補正。機体の反応が鈍い、いや、そんな考えでは駄目だ。セカンドが僕に相性が良かっただけだ。惨雪は量産されて長く使われてきただけはある傑作機だ。機動力と装甲はセカンドが上、重心が低い分バランスなら惨雪の方が取りやすい)


「適応してみせれば!」


 アッシュは左腕のファングブレードで、迫るライトを切り払う。間髪入れずに、反応の遅さをカバーする為に右腕のファングライフルからライトを連射。それが攻撃の狙いをつけさせないことに繋がって、敵機の足止めに成功した。


 拡張性の高さが魅力のアルカドの量産機、惨雪。パイロットによっては、四脚やタンク脚なんかにも換装している。アッシュの機体は、オーソドックスな人型だ。首元の願導マフラーと、両肩にサヴァイブシールドを一つずつ。そして、両の手に持たせたファングブレード(ライフル)の二刀流で、出力不足を補う。


「オラー! ぶち抜け!」


 友矢の狙撃がヒットする。爆散したゼーバ機の背後から新たな機影が接近、長大な槍を構えて突撃を敢行してくる。


 惨雪の二つの牙が、それぞれ願力ビームと重結晶を帯びて輝いた。重結晶の分、片側の腕が自然と下がって、それを利用した紙一重の見切りが、敵機の突きを首横すれすれで受け流す。当たったところで、マフラーで防御出来るから問題無い。


「貫け! ファング‼︎」


 交差する牙に、敵機は正面から噛み砕かれ、惨雪のマフラーが爆風に翻った。

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