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第七話 遺物 2/7 バニシング・ドール

「エイリアスは、俺以外の古代人に会ったことがあるのか?」


「いや。だが、お前のお陰で、俺がこの時代に目覚めた意味が見つかる気がする」


「それ、俺も探すの手伝うよ。健人にも相談してみよう。きっと手伝ってくれるよ」


「お前たち、仲が良いんだな」


「まあね。命を預け合った、相棒だからな」





 薄暗い部屋の中、赤髪の少年は目覚めた。全身が痛み、酷く怠い。足元には二つのペダル、背中に触れる硬いシートの感触。


「なんだ? コックピット?」


 おあつらえ向きの位置にあった操縦桿を握り、願力を放出する。見慣れない漆黒が、自分の中から溢れ出した。願導人形の動力が願力によって再起動をし、コックピットに明かりが灯る。モニターに、外界が広がった。


「いたた……ケント? 大丈夫?」

「……健人?」


 ――何を言ってるんだ、この娘は? 大丈夫か?


「ここ、どこだろう? コロニーの中っぽいけど」


「誰だ、お前?」


 ユイは、ポカーンとしてしまった。そして、腕組みしてしばらく考えてみた。



「……」


「…………」


「………………ひどいよ、ケント⁉︎」



「だから誰だよ、お前? 随分と間があったな! 大丈夫か、この娘は⁉︎」


 駄目だ、埒が開かない。赤髪は、少女に自分の名前を告げた。


「俺は、セラ・クロウカシス。エイリアス・クロウカシスの家族だ」


「せら……くろ? 誰ーー‼︎⁇」


「うるせえなぁ⁉︎ それより、何処だよ、ここはよぉ⁉︎」


 混乱するふたりを乗せたブレインセカンド。外では大地が裂け、空は歪み、風が悲鳴のように泣いていた。





「ケントとユイは何処に消えたんですか⁉︎」


 レイザーたちと合流を果たしたシリウスだったが、息つく暇もなく、状況は混乱していた。


「分からん。あのゲートのようなものは、イツキやアンティーク出現時に確認されたものと同質だと思うが」


「それが、何で……」


「ブレインセカンドを襲ったのは、ケントの半身……ケントが『お兄ちゃん』と呼んでいたものの改造機、でしょうか」


「あの健人がアンティークだったってことか⁇」


 友矢は混乱している。お兄ちゃんことシオンがブレインセカンドを襲い、その結果、空間を跳躍するゲートが開いた。


「ええい! 理由なんてクソどうでもいいクソ‼︎ ユイちゃん……ユイちゃんを探しに行くぞ⁉︎」


 ジョージも混乱している。当てもなくコロニーを探すわけにもいかない。


 オリヴィアは愛娘を心配しながらも、努めて冷静に皆に温かい飲み物を持ってきてくれた。未だモンスターの勢力圏内である。取り敢えず、一度落ち着いた方がいい。


「それで、レイザー様は何でこちらに? 準備は整っていないのでしょう?」


「ああ、それはまだ。ウィシュア……ランスルートとボルクとフローゼのことを聞いてな。流石にシリウスの戦力が足りないと思い、急ぎ合流をと思ったのだが、何分この視界の悪さだ。時間がかかってしまった、すまない」


 オリヴィアたちに謝ると、レイザーは消えたブレインセカンドのパイロットの名前を改めて尋ねた。


「ユイちゃんですよ! うわあああ‼︎」

「落ち着け、親馬鹿!」


「灰庭健人、俺の親友です! ウィシュアの兄貴、何とかしてくれ!」

「トモヤも落ち着こうか」


 レイザーたちは、ケントの素性や経歴を聞いた。にわかには信じられない融合分裂だが、ザッタの街で複数の者がボルクのそれを目撃し、映像も残っていた為、現象としては理解できた。


「俺にはそれよりも、戦歴の方が信じられんな」


 騎士団が駆けつけるまでに見えた僅かな時間でさえ、ケントのブレインセカンドは、ゼーバを圧倒する力を放っていた。それは一度だけでなく、シリウスの航海中にも度々見られたものである。


「まさに、エース、ですね」


「ああ。全盛期のルクス・ウルクェダを彷彿とさせたよ。今のアルカドにも、あのような異端児が生まれるか。素直に喜んでいいものか」


 訓練を受け、覚悟を持ち、使命を帯びた騎士団や軍人たちならともかく、灰庭健人は争いに巻き込まれ、無我夢中で生にしがみついてきただけの少年である。


「喜べばいい。折角の戦力だ、使わない手はない」

「……サマンサ」


 新団員の麗人サマンサ・サンドロスは、エヴァに態度を嗜まれた。長身で短髪、中性的な見た目と声は、一見すると男性のようだ。


「……セラは、死んだんですね」


 話しが逸れたところで、イツキが口を開いた。好きな奴では無かったが、何度か手合わせした男だ。決着をつけられなかったことにも思うところはあるのだろう。


「トドメは俺のコード・セイヴァーが。確実にな」


「そうですね……いえ、ありがとうございました」


 イツキの肩にルミナが寄りかかる。手と手が触れ合い、それは自然と絡まった。仲間を失って寂しいのか、肌の触れ合いが愛しいのか。当のふたりには、分からなかったけれど。


「で? 結局、健人とユイちゃんはどうなんだよ⁉︎」


「ユイちゃん? ユイちゃーーーん⁉︎」


「やかましい‼︎」





「ヒャー⁉︎ シオオォーーン⁉︎」


「やかましいなぁ!」

「おい、誰か博士を黙らせろ!」


 ゼーバ艦の中でも、消えたシオンとマジェリカの行方を捜索していたが、損耗も激しく、また、傲慢のルシアフがいつ矛先を向けるかわからなかったので、長居は出来そうもなかった。


「博士! 魔王様の血は⁉︎ ニーブックに戻れば、まだあるんだよね?」


「無いわい! あれで最後ヒャーい!」


 テティスは、恐る恐るランスルートを見た。「飼い犬に手を噛まれる」なんて、人間の言葉を聞き齧ったことがある。


「テティス。俺は気にしていない。これが今の俺の実力なのだろう。しかし、俺は強くなるぞ。誰よりも、クロスイツキよりも。そして、セラの仇を討つ。協力してくれるか」


 テティスは、再び抱きついた。真剣な眼差しのランスルートが、誇らしくて可愛くて、そして何より「オス」として、少女にはとても魅力的に映った。


「もちろん……一緒に強くなろっ」


 ディオネは、最早止めなかった。ただ、自分にもいつかそういった者が現れるのだろうかと、少し楽しみで、ちょっぴり怖かった。


「まあ、仕方ない。あのシオンは諦めよう。ニーブックへはまだか?」


「どしたの、博士? 急にクール? キャラ変? 頭打った?」


「『あのシオン』? どういう意味です?」


 カイナとメアリはそう聞きながらも、博士の回答に悍ましい予想がついていた。


「ヒャ? 決まっているだろう。他のシオンのことだ。何のためにニーブックの人間で実験していたと思ってるんだ。壱号機は残念だったが、こういうことは文明の発展にはつきものだ。さあ、また忙しくなるぞ! ヒャっはー!」


 ディオネとメアリ、それにクラウザは、流石にシオンの異常性には難色を示した。そして、マジェリカとの邂逅の異質さに、やはり悪い予想をせずにはいられなかった。


(セラ……私に、どう生きれと?)


 メアリへ向けたセラの最後の言葉が、真面目な彼女の思考を迷路に誘った。





「……みたいなことがあったんだけど……セラくん、聞いてます?」


 ユイは、自分たちが謎のゲートを潜って、謎の世界に謎の転移をしてしまったことを謎の少年セラに説明していた。


「え? ああ。レコーダーの映像見てた。ごめん」


 ユイの話は擬音と主観が入りまくっていて要領を得なかったので、そっちの方が正確だった。


「ひどい!」


「ごめんって。ユイは、そういうところあるよな。初めて会った時だって、内線使えば良いのに、わざわざオリヴィア先生を呼びに行ったし」


「???」

「?」


「セラくん、なんでしょ?」

「セラ・クロウカシスだが?」


「ふーん」

「?」


 セラは、自分の違和感に気づかない。

 彼がそんな状態だから、ユイも特にこれ以上は言及するのはやめ、バインのブースターの修理とセカンドの防塵処理のチェックの為に機体から降りた。


 兎も角、ゲートを開いたのがマジェリカと蠍のシオンだと仮定すれば、彼らと合流出来なければ、ここから帰還も出来そうになかった。


「エレクトリックバレットは残り二つ。非常食は二人分あるけど、こんなもん数のうちに入らない。腹が減った」


「イツキくんが言ってたよ。自分たちは、コロニーの中で生き延びてきたって」


「クロスイツキ……えっと、魔王の息子だったか。前例があるのなら、なんとかなるか。そいつに出来たのなら、俺にも出来る」


 なにを張り合っているのやら。


 ブレインセカンドは、突如としてアラートを発した。セラは咄嗟に機体から飛び降り、オロオロするユイに被さって身を伏せた。


「け、ケント⁉︎ なになに?」

「見ろ!」


 ムカデクワガタの群れが、一斉に同じ方向へ動き出した。


「何かを追っている? 菫と蠍か?」


 その凄まじいうねりは、コロニー内部の灰色を押し流し、一瞬だけ「巨大な樹」のような姿を二人に晒した。


「なんだ、あれ……」


「たいじゅ! おっきな木みたいな施設があるって、イツキくんが言ってた! 多分あれだよ! 助かるよ、私たち!」


 思わずセラの手を握り、きゃっきゃとユイは喜んだ。


「まだ分からんが。取り敢えず、じっとしている訳にもいかんか」


 コロニーにそびえる巨大な施設を目指して、二人はブレインセカンドと共に、荒廃したコロニーの探索を始めた。


 物言わぬ相棒は二人に付き従い、その旅路を記録していった。

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