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第五話 二人のベトレイヤー 2/6 引きつけ合う質量

「ボルクさん、いけるか?」


 ケントは、ブラッククロスの保護をボルクに任せる。イツキは、負傷しているようだった。


 ジョージとケントの見立てでは、ブラッククロスは問題無く突破できるはずだった。状況が分からないが、事実を受け止めるしかない。彼らは、ミスを犯したのだ。そのせいで、ケントは自分を拾ってくれた彼のことを死なせるところだった。


 ランスルートは、セラが機体を大破させている事実に驚愕した。クロスイツキのような化け物相手ならいざ知らず、自分が憧れた超絶技巧が敗れるなんて信じられなかった。


「同型機……奴が、やったというのか」


 ゼーバのガンドール部隊は、ほぼ壊滅、戦艦は健在。アルカドはブラッククロス以外は生き残っているものの、消耗は激しい。


「セラ! ここは俺が!」

「すまん、ランスルート」


「姫様。ノイズは極力避けたい」

「分かっています。あの子との話は、クロスイツキを収容してから」


 ケントとランスルートはそれぞれの味方を守るべく、互いに飛び出し、二体のブレインセカンドは刃を交えた。


「漆黒……なんだ、こいつは⁉︎」

「純白⁉︎ こいつか、イレギュラー!」


 純白のセイバーから光の剣が伸びて、漆黒の牙の重結晶が受け止める。結晶が砕けて、両者を万華鏡で彩った。ケントは僅かにスラスターを吹かして軸を合わせ、バリアで覆ったマフラーで結晶の欠片を殴り飛ばした。


「器用な奴!」

 ランスルートは物ともせず、飛んできた結晶を切り裂いて、脚部に収束した願力で蹴り砕く。


「やるな。機体の制御が上手い。生半可な努力では無い」

 純白の覚醒者から執念を感じる。ケントは大地に刺した牙をスコップにして礫を浴びせ、目眩しからのファングライフルを乱れ撃つ。


「時間稼ぎか⁉︎ 成る程な、勝つ気が無いと見える!」


 シリウスと友矢の遠距離支援から逃げるように、セラたちは損傷の激しい機体から順に艦に押し込んでいく。イツキもまた、ボルクに守られる形でシリウスへと退避し、オリヴィアとユイを泣かせてしまった。


 ブレインセカンドのセイバーとブレードが激しく交差する。白と黒、同型機、全く同じレベル19の願力。真正面からの打ち合いは、時には光弾、重結晶も用いて、戦いは決着がつくまで続くと思われた。


「ウィシュア!」

 ケントのセカンドは、突如として動きを止めた。


「ノイズが……姫!」

 ケントとルミナの体に激しい痛みが走る。イツキの収容を確認して、二体のセカンドの距離が少し離れたタイミングだった。話を切り出すには悪くない。


「またか。こちらは話すことなど」

 その声に気づき、ランスルートも一瞬、動きを止めた。


「まさか、その歳で純白に覚醒するなんて驚きました。サツキ様のように、とても美しく見事な操縦でしたよ、ウィシュア」


「……そうやって、ナチュラルに見下すのが、アルカドの流行なのですか、姫殿下」


 ランスルートは呆れ果て、敵国の姫殿下がお褒めくださった純白を撃ち込んだ。


「……クソッ!」

 機体が重い。ウィシュアに対しての感情は、ケントとルミナで明確に違う。彼女の願いが邪魔をするせいで、ケントは回避し損なった。痛みは我慢できても、ノイズで機体とのリンクが滞れば、まともに戦えない。


「ウィシュア、待って! 折角純白に覚醒できたのですから、もう『おいた』をする必要は無いのですよ⁉︎ 帰って来なさい!」


「今度は子供扱いか! どこまでも、見下して‼︎」


「姫様は、ちょっと黙ってくれ!」


 防戦一方のケントは、どうにも出来ない。ランスルートは、純白の結晶閃の吹雪の中を、舞うように駆けていく。止まらない純白のブレインを止めたのは、同じ純白の閃光だった。


「ウィシュア! お前、何だってゼーバなんかに⁉︎」


「トウマトモヤ……! 退け、貴様に用はない!」


 ランスルートは、友矢のコード・アーチャーのコックピット目掛けて閃光を放った。


 友矢は、自分たちの間にあるものが友情だと疑わなかった。正確無比、確実に自分を殺す為のロックオン。警報音が、けたたましく鳴り響く。


「うわあああ!」


 言葉にならない叫びが、友矢を庇って破裂した。ノイズ混じりの中無理矢理動かしたせいで、セカンドの左腕は被弾し吹き飛んだ。


「健人⁉︎」


 動揺する友矢へ、ウィシュアは溜息と本心を吐いた。


「劣等種のニーブックなんぞと親しくなる訳がないだろう。バカか、貴様。貴様なんぞ、俺の引き立て役。俺が覚醒する為のピンチを演出する、足枷になれば良かったのだ」


「い、意味が分からねぇ……! なに言ってんだ⁉︎」


 純白への覚醒は、命の危機が訪れた時に起こる可能性が高い。友矢にも、身に覚えがあるはずだった。


「覚醒出来ずとも、惰弱なニーブックよりも俺の方が役に立てると、レイザー達に見せつけられれば、それだけで俺のプライドは保たれたのに。微弱な願力しか持たないニーブックの分際で、俺より先に行くなど、烏滸がましいにも程がある! クロスサツキといい、貴様といい……分を弁えろ、小物!」


「ウィシュア……?」


 友矢もルミナも、信頼していたウィシュアの心の闇を、ようやく垣間見た。無能、出来損ない、落ちこぼれ。今までの陰湿な罵倒の数々が、ランスルートを歪ませ、その歪みが、純白への覚醒で肥大化した自信に後押しされ、ここに現出した。


「お前たちは、俺たちの創る世界で、ただ守られていれば良い! アルカドでは無く、俺たちのゼーバでな!」


 ランスルートのブレインセカンド一号機は、セイバーの切っ先を二号機に向けて突撃した。


 二号機が被弾したのが左腕なら、右腕はランスルートの死角になる。蚊帳の外のケントは、ランスルートの独白中も、次の準備に勤しんだ。

 ファングブレードを地面に突き刺し、マフラーで右腕と巻き付ける。願力を流して、簡易シールドを作り出す。コックピット前に突き出し、セイバーへの生贄に差し出した。


 凄まじい突撃の衝撃が、二つのブレインセカンドを襲った。


「動けないんなら、動かなきゃいい……!」


「何をするかと思えば!」


 突き刺さったセイバーは一瞬だけ勢いを落として再び動き出し、覆ったマフラーとブレードごと、二号機の右腕を容易く砕いていく。


「シミュレーション、パターンS-02!」


「覚えてねぇよ、そんなもん‼︎」


 友矢はコード・アーチャーのオーバーライトを発動していた。小楯と長銃が、弓矢へと形を変えていく。ケントの要請なんか聞く前から体が反応してしまう。学生の頃の、息のあったコンビネーション。


「言い訳、考えとけ! ウィシュア!」


「甘い……⁉︎」


 ランスルートは、突如として吐血した。純白への覚醒によって爆発的に増加した願力だったが、体への負担は大きかった。節々が悲鳴を上げて、全身を悪寒が襲う。それは、彼と一身となっている白いブレインセカンドへと、ダイレクトに反映された。


「……!」

 友人ウィシュアの不調に気づいてしまった友矢の破魔の矢は、後方のゼーバ艦のはるか左弦へと消えていった。


「千載一遇のチャンスを……。だから、お前たちでは、人類を救えない!」


 オーバーライトの残光の中、ランスルートは、再びルミナの乗るブレインセカンド二号機に突撃した。


「姫様!」

 二体のブレインの間に割り込んだコード・セイヴァーは、ランスルートのセイバーに胴体を貫かれた。


「ボルク……⁉︎」


「わたしは、姫様を御守りしたのだ。……小娘、貴様を護ったんじゃない! ……お前も、漆黒も、滅びれば良い!」


 恐怖か絶望か、或いは振り絞った決意だったのか。歪んだ彼の顔が、ノイズに塗り潰されて見えなくなっていく。


 皇女ルミナを護ろうとして、小娘ルミナを否定した。転生の果て、大切なものを失った男には、自分の行動すら理解出来なかった。


 コード・セイヴァーは、最後の力でルミナのブレインを押し飛ばすと、爆散した。後には、機体だったものの成れの果てが散らばっているだけだった。


 ガンドールのデブリが、混乱と、更なる電波干渉を引き起こした。

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