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最終話 歯車 6/7

「エンゲージ」


 接敵、鈍重をバレルロールさせてミサイルをばら撒く。躱した相手に中性粒子ビームが(はし)る。アッシュ・ドライブは常に全開を維持。増加装甲をパージ、迫る敵に投下。外したのなら撃ち抜くだけ。フレア・プリズムを積んだ装甲は大きく爆発する。


「数が多い」

 そういう時の為に手数を増やした。複腕が蠢く。背部マフラー、腰部修繕用マニピュレーター、脚部ムカデクラッシャー。左右対象、それぞれにファングライフルを装備。パイロットから生える副腕が制御する。敵の群れに火花が上がる。


「ブレインセカンド!」

「先代魔王様を倒した勇者……!」

「止めろ! 奴は、シリウスのエースだ!」


 セカンドIIの眼前に超願導人形ティガ・ノエルの大隊が展開した。一機、また一機。流動する畝りが世界粒子を震わせる。釘が飛び込んだ。ファングブレード改が切り裂いて、勢いは微塵も殺させない。


「コネクト」


 ケントの右腕、ユイとウィナードのハイルシュトロリア謹製の願導合金の義手が、セカンドIIの専用操縦桿に接続された。

 脳内に情報が流れ込む。ガンドールが抱える莫大な処理を、化け物の脳で並列制御、並列処理、同時計算。量子コンピューターのように利用する。負担は大きい、構わない、すぐに終わらせる。

 スペースニウムエンジンの副次効果で発生した時間のズレ。絶え間なく増大するエントロピーに抵抗して、僅か先の未来を覗く。直結したセカンドIIが、瞬時に矛先を変えた。


「ヒッ……」


 ノーロック、躱せない。高機動型の筈のティガ・ノエルは反応出来ず撃沈する。サーガ・ヒーロが飛来した。馬脚と翼で駆け上がる。セカンドIIのレフトムカデクラッシャーが弾け飛ぶ。フレア・プリズムの反作用で自ら爆発させて帰還不能のロケットパンチにする事で一機を屠る。失った脚部副腕が再生した。


「な、なにが起こった……⁉︎」


 世界粒子を呑み込むアッシュ・ドライブ。マイクロ・ブラックホールは、放り込んだ物質の質量のほぼ全てをエネルギーへと変換する。その大きさの維持に必要な粒子は少なくてすむ。獲得したエネルギーの多くは余剰出力として推進に利用、破棄させられてきた。

 だから有効活用する。ミサイルを生成していたマテリアルプリンターを利用して失った部位を再生する。NUMATA製ガンドールは、凡ゆる関節から先に互換性があり、換装が容易である。


「そっちの方が良いか」


 破壊したティガ・ノエルの腕部を貰う。修繕用マニピュレーターを稼働させてムカデクラッシャーの先端に括り付ける。戦場で、その場で改造する。願力を高速伝達「転生特典」で自らの手に変えて、伸びた腕から閃光が打ち鳴らされた。


「がああっ⁉︎」

「小隊長ー!」


 ケントの願力はレベル4。アルカドの一般兵と同じ。しかし超願導人形と言えど所詮は機械。関節があり、動かしているのは「人間」だ。弱点さえつければ攻撃力は最小限でも構わない。

 レフトマフラーに光が灯る。余剰出力の光の翼で薙ぎ打ち砕く。右腕のファングライフルに重結晶を生成、発射、背後から強襲。左腕のファングライフルで撃ち砕いて敵の意識を逸らす。ライトムカデクラッシャーを振り回して周囲を払う。修繕用マニピュレーターで背後の敵を狙いも付けずに狙い撃った。


「イェツィラーの扉を限定解放する」


 指向性重力波で粒子を集める。ケントの眼が世界に溶けた「健人」を呼ぶ。ドライブの高出力が起こすビームで不確定なハイバケントに「量子もつれ」の関係を結んだ。それはアッシャーとイェツィラーを跨ぐ。イェツィラーとアッシャーを繋いだ。ファングブレードを振り下ろす。牙から露出したマイクロ・ブラックホールが次元を超えて扉となる。


「来い!」


 ミクロでありマクロである。イェツィラー内部に隠していた巨大な(ツノ)がアッシャーに降り注いだ。


「エンべディット・エンバース……!」


 フレア・プリズムを爆発させて、グソクカブトムシの一本ツノが加速する。火薬炸裂式近接杭打ち機エンべディット・エンバースを携えて、群がる獣人機を轢殺して撃ち貫いた。


「待ってたぜ! アッシュ!」

 猛スピードで突撃する質量がある。テイルサブアームの推進も背後に束ね、一方向へと導いたカイナ・カリバードのティガ・ノエル。


「約束だ、カイナ」

 杭打ち機を手放す、爪と牙が激突する。二つの願導人形が離れ離れになって、干渉波を引き連れて宙に絵が掛かる。再び、二機が引き寄せ合う。


「お前に負けたまんまじゃ、俺は先に進めねぇ!」


「僕は、お前に勝てた試しが無い」


「それはいくらなんでも嘘吐きだ!」


 戦闘の結果ではケントの勝利が続いた。何故だか、不意に言葉が零れた。カイナの意思、願いを挫けなかった。ケントの本心だった。


「分からない。敵の筈のお前が、妙に愛おしい」


「ああ? き、気持ち悪い⁉︎」


 カイナは人間に手をかけてきた。何人もの生命が犠牲になってきた。間違いなく、人類の倒すべき敵だった。


「お前が子供と戯れているのを見るのが好きだった。マナと仲良くしているのが微笑ましかった」


「……アッシュ!」


「セラとマジェリカと僕と、カイナとメアリだ! ジュードを加えても良い!」


「思い出なんか!」


 カイナの右が爪を研ぎ、左腕には釘が尖った。セカンドIIは両の手に掴んだ牙で真正面から受けてたった。複腕は使わない。いや、使うのを、忘れた。愉しかった。


「うおおお!」

「はあああ!」


 無邪気な笑顔がそこにあった。何物にも変え難いライバルがいた。損得無く、世界の行方を忘れ、ただ没頭した。終わりは、やがて訪れた。


「……チェッ! だからお前は嫌なんだ」


「改心は出来ないのか」


「改心だと? 俺は何も間違っちゃいない! 俺はゼーバだ!」


「そうか」


 分かっていた事だ。やることは一つ。心を殺して敵を討つ。灰庭ケントが何度も繰り返してきたルーティーン。


「俺の親友を!」


 ランスルートが殺意から庇い立てする。カイナのティガ・ノエルは墜落して、打ちどころが悪かったのか停止した。這い出たコックピットの外で、彼の目にはゼーバの王と妃が見えた。


「ハイバケント……!」

「テティスは退がれ」

「ランスルート!」

「頼む」


 バリアのスパークルが彼女を弾け飛ばした。彼女が彼の名を叫んだ。雷鳴が、二人の男の間を駆け抜けた。


「ハイバ!」

「グレイス!」


 セカンドIIはマフラーを振り回す。ライトマフラーからは疑似願力ビームを、レフトマフラーからは疑似重結晶を。

 ブレイン・ヘモレージ・キールロワイヤルは左腕から憤怒を放ち、天高く掲げた右腕から重力の剣を振り下ろした。


「一つ、言っておく」

「命乞いか」

「この世界(ブレイン)には、ここしか無い。日本の成れの果てしか残っていない」

「大陸は、別次元(ブレイン)。融合分裂」

「そう。背後霊はクリフォトと呼んでいた」

「何故教えた」

「憂いが断てた。ハイネの無念は、(そそ)いだ筈だ!」

「その律儀さを! お前がアルカドの艦隊目前にでも転移すれば、こんな戦いすぐに片がついた!」

「ゼーバの一人一人に願いがある! 俺だけがゼーバでは無い!」

「分かっていながら! それを世界にも向けてみろ!」

「世界は、ゼーバが支配する!」

「支配されるのを、世界が黙っていられるものか!」


 ランスルートは世界を破壊する。神を殺した新たなる魔王。

 ケントは世界を旅する。ただ流れ、成り行きで勇者を演じた。


 守るものがある。勝ち取りたい現実があった。酷薄な世界で、黒白(こくはく)な二人が、混ざり合い、奪い合い、いつしか曖昧な灰色に変質した。それでも、二人は結局、殺し合う事を望んだ。


 六つ腕のセカンドがビームを晒す。金紫のセカンドがバリアを投擲して、防ぎながら攻撃に転じた。

 マントのセカンドに光が灯る。右から質量、左には重質量。マフラーのセカンドは左を切り裂いて、右を撃ち抜いた。


 キールロワイヤルの表面に魔法陣が廻り出す。強欲、怠惰、色欲は破棄。その分の心の出力を憤怒と傲慢へ変換する。無意識を意識して、嫉妬と羨望が燃え盛るのに気が付いた。ランスルートは、ハイバケントを羨んだ。


 吹き荒れる憤怒の中をセカンドIIは直進した。マイクロ・ブラックホールの牙で憤怒を喰らい、光の翼で傲慢を蹴り上げる。加速は届いた。ガンドールの戦いは、接近戦になりがちである。剣と牙を打ちつけ合う。羨望の焔が対消滅を計る、黒き傘が呑み込み弾ける。再び二人に距離が生まれる。


「そこだ」


 ケントは自らの(アッシュ)である座標(灰庭健人)をランスルート・グレイスの中に特定。イェツィラーを開く、銃口を押し込み、キールロワイヤルの内部に攻撃を直接転移。


「ぐっ⁉︎」


 中性粒子ビームに焼かれ、爛れた義手がランスルートから弾け飛んだ。


「ああああっ‼︎」


 羨望が収束する。凝縮されたランスルートの願いが自らを消し飛ばす。アッシャーから消滅、イェツィラーを辿って再臨、魔王の右腕がセカンドIIの左半身を喰らい返した。


「……チッ!」


 セカンドIIがエンべディット・エンバースを再召喚。並行して座標はカノープス、彼女の名を呼んだ。ユイは格納庫から物資を射出。エンバースを加速突撃、魔王が質量に押されていく。


「光れよ! 我が魂‼︎」


 王の威光により杭打ち機が破損、爆発を隠れ蓑にキールロワイヤルが転移、座標はセカンドIIから少しずらす。奴と融合をするつもりは無い。


「……なに?」


 カノープスから転移された予備パーツが、破損したセカンドIIと融合、再生させた。イェツィラーとアッシャーの座標とスケール。それを正確に認識出来なければ転移先と同化する。ならば、正確に認識すれば融合による瞬時の整備も可能である。


「信じてたよ、整備兵」

「信じてるよ、パイロット」


 ランスルートがケントを感じるように、ケントも健人を感じている。捨てきれなかった自らの残滓、融合し切れなかったかつての自分。奪われてしまった願いの欠片。システマティックなアルカドのセカンドIIは、時間を僅かに進め、一瞬の閃きを授けてくれた。ユイに要請したリューシ王国製のミサイルが、ランスルートの転移先に出現した。


「……逃げて、ランスルート!」


 いつも、いつまでも、テティスが邪魔をする。


「見えてんだよ!」


 友矢のセプテム・アルコルが上空へ向けて放った砲弾が、駆けつける魔王の妃を一撃で射抜いた。

 実弾兵器は、重力や風の影響を受けやすい。目標との距離を広げれば拡げるだけ、加速度的に狙撃は難易度を上げていく。


「ら、ランス……」


 憤怒の姫は、トーマ・ウルクェダが撃ち込んだ実弾に跡形も無く消失した。粒子が満ちる。レイザーの攻撃がゼーバを屠り、ヂィヤとメアリの大罪が蹂躙した。ゼーバの粒子が、戦場に満ちた。


「テティス……テティス‼︎」


 何度目かの終わり。幾度となく続く始まり。ブレインセカンド……ルシフェル、ヘモレージ、キールロワイヤル。


 ランスルート・グレイスと、その妻テティス。二人の王の器に、散っていったゼーバの願いが収束して、一つとなる。


「融合分裂……?」

「いや、分裂じゃない」

「ああ。ゼーバの執念だ」


 固まりきれず溶け出る肉。剥き出しの心臓部は脈打ち、それを支える巨人のような外骨格には、微かに皮と肉がへばりつく。灰色の願力と漆黒の瞳が、世界を睨んだ。

 とても醜い、泥の巨人。コロニーには、菫の花が咲くという記述は無い。


「ブレイン・ゼーバ。我々が、ゼーバだ」


 歪んだ二人の結末は、彼らの望んだ結末では無かったのかもしれない。それで良い。人にはしがらみというものがあった。ゼーバに属した男なら、一人の男でなく、ゼーバと共に生きるが良い。


 しかし、それは一般論だ。


「僕から逃げるのか、ランスルート・グレイス」

「ハ、ハイバケント……!」


「貴様は逃がさない。お前が僕を感じるように、僕はお前を見つけ出す。何処にいようと、何をしようとも。全ての世界、全ての次元。お前の全てに、敗北者の烙印を刻み込む!」

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