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第二十話 レフトアームズ 4/7 シオン

「愚かなる侵略者よ。我こそは、神聖アルカド皇国、第三十九代神皇ルミナ・アークブライトである」


 大天使のコックピットから映像が届く。二十年経ったというのに、彼女の姿はユイが良く知る姫様と何も変わりが無かった。ただ、その態度が不遜に見えた。


「団長が目撃したというイツキの転生体。確かに高位の天使と呼びたくなる」


 数多の瞳と翼とヘイローの真っ白な化け物。おおよそ語られる神話の天使とは、古代の世界から特に変わりなく、このようなものであろう。辛うじて人型を保っていたのだから、思ったよりも普通であったのは、元がイツキとガンドールだからか。

 

「……」

 アッシュの感想に、ユイは黙ってしまった。


「……僕にはそう見えるけど」

「リ・ブレインのままだと思う……」


 アッシュとユイの中に認識の齟齬があった。友矢やレイザーが目撃したというイツキとリ・ブレインの転生体は、ユイから見れば、かつて自分が乗り込んだリ・ブレインにしか見えていない。


「また虚飾されていた」

 二人に見えている世界は、どうしようもなく別々だった。アッシャーの中でどんなに近くにいても、同じ経験が出来ないのは、少しだけ悲しかった。


 ユイの目でも、あのルミナはルミナに見える。

 イツキたちもイツキに見えた。

 ボルクの顔は兎も角、サツキさんは美化したおねーちゃんのそっくりさんだった。

 マロンの姿もシオン・シリーズに見えたから、アルカドにも実際に転生者は存在する筈。だが、あのアークエンジェルだけが、リ・ブレインに見えている。

 

 レイザーがあれを目撃した時に抱いた感想では、イツキの転生を民衆にセンセーショナルに目撃させる事で、強く印象付けるのが目的だったのではないかというのだ。


「アッシュ!」

「団長、願力はもう良いのか?」

「ご覧の通りだ! 一先ず、カンカーゴの周囲に集結をする! 全機、カノープスを中心に陣形を組め!」


 アッシュはサマンサが鬱陶しかったので、ブラックホールの一撃で喰らうつもりだったのだが、レイザーの願力が弱体化していたのを寸でで思い出し踏み止まった。あのまま屠っていたら、彼の願力も宙に消えていた。レイザーの願力が戻っていなかったら申し訳なかった。アッシュは、人知れず胸を撫で下ろした。


 粒子タンクの殆どを失ったレイザーのコード・セイヴァーは、抱きつくようにして直接エヴァのコード・サマナーへとアルカディアを届け、エヴァは願ドローン・ファントムをフライトユニットとした推進力で、レイザーと二人だけで騎士団より先行して神都へ辿り着いた。


「無茶するな」

「祖国解放の為ならば、この程度」

「レイザー様の為ならば、この程度」

「そうかい」

 二人の絆だからこそ出来る事だろう。それは、セカンドの二人には出来ないものだ。


「愛する女からの口付けが、機体に乗っていない瀕死のイツキを機体諸共に転生させた。改めて考えれば、そのプロセスが既に可笑しいな」


 しかし、イツキが生きていたのなら、そんな規格外をやらかしそうではあった。


「イツキだからな」

「イツキだしなぁ」

 あのイツキを創った者もそう考えたからこそ、その役を与えたと考えることもできる。


「……ルミナ!」


 駆け出したホワイトノエルはモノクロスの大群に阻まれた。イツキ・アークブライトたちは、先程のマナへの態度とは一変、意を介さずと言った風体で彼女を拒絶した。


「そんな……。なんで、私は!」


 少女の心情に理解も示さず、モノクロスと大天使は外敵の駆除に乗り出した。


「レベル百オーバー。……クロスイツキ」

 ランスルートは確かめるように呟いた。友矢やマナと同じで、自分自身も奴の呪縛に囚われているのだと感じた。


「……有象無象、醜いですね。まるで蟲のよう」


 大天使は両手に魔法陣を掲げ、傲慢の罪で周囲を根こそぎ重力異常へと呑み込んだ。


「跪け」


「貴様がな!」


 対抗出来るのは、ランスルートのブレイン・ヘモレージだ。迸る稲光がスパークルして、機体全身を覆っていく。傲慢に憤怒が逆らって、雷光がその巨体を押し上げて、大天使へと大剣を突きつけた。


「……誰かと思えば、ウィシュアでは無いですか」


「知らん。死ね」


 リ・ブレインから転生した大天使は、光の右腕ライトアームで、ライトアームを取り込んだブレイン・ヘモレージに受けてたった。

 憤怒と傲慢の醜い争いに、縄張り争いをするモンスターの姿が重なって見えた。観測者たちは、それを静かに観戦する暇も無く、モノクロスの大群に押し流されていった。


「ヤベェヤベェ! 急げ、ドライグ!」

「うおおおっ! 全力パワーだ、イノシュ・バインー!」

 カイナとドライグが、倒れたカンカーゴを起き上がらせようと馬力を振り絞った。そこに群がる勇者イツキたちは、サニアと友矢にとっては悪夢だった。

 駆け付けたレイザーに現場の指揮を任せ、アッシュはムカデを墜しながら周囲を見渡した。マナから、覇気が消えていた。


「ケント」

「分かった」

 セカンドから降りて、ユイが駆けていく。今までも似たようなことはあった。傷心の少女に寄り添えるのは、彼女が適任だった。四人の親から教わった優しさと、戦いの中で磨かれた逞しさがユイの中にはあった。


「……マナは、あれがルミナだと思う?」

「違うの?」

「あんなの、私の姫様じゃないよ」


 ルミナ・アークブライトは、自分の色欲の為に神都の住民を巻き添えにするような愚かな女じゃ無い。少なくとも、ユイの抱く憧れた親友の姿からはかけ離れている。


「私のルミナはかっこよかった。どんなに傷ついても、自分の力で前を向ける人だから。あの背中を、あなたにも見せたい」


 初陣に震える自分を励ましてくれた自分と同い年の少女。

 ただの恋する乙女だった姫様。

 イツキを喪って誰よりも辛いのに、自分を応援してくれた大好きな親友の姿。


「絶対取り返す……! 私、姫様のこと大好きなんだ!」

 マナを励ますつもりが、この娘の方が泣き出した。マナはお姉ちゃんの頭を撫でて、怖くないよと勇気をあげた。


「ごめんね、ありがとう……。本物のルミナを助けよう、マナ」

「……うん!」

「ヂィヤも助けないと」

 ほっとしながら、アッシュもセカンドと共に傍に降り立った。ユイが泣き出した時には、どうしようかと思った。


「あっ、おじいちゃん!」

「忘れてたの? ヂィヤさんも泣いちゃうよ」

「うへへ。ごめんなさい」


 マナも彼女と向き合う為の勇気をもらった。ユイから受け取ったルミナの勇姿に逢えるのが、楽しみになった。


「力を貸して。ホワイトノエル‼︎」

 幼い姿が空に上がった。少女が旅立つのを見守ると、ユイは再びセカンドIIへと乗り込んだ。


「アッシュ・ドライブを使う」

「良いの? リエッタちゃんとディオネ様は」

「こちらの事は気にするな!」

「歌が届く相手ではありません! あれは……化け物です」


 大天使とブレイン・ヘモレージの戦いは周囲に干渉波を撒き散らした。吹雪を弾け飛ばし、暗雲を切り裂いて、雲一つ無い蒼穹が広がった。

 傲慢のルシアフはその巨体を畝らせ、神の盾と連携を取るかのように反逆者たちに襲いかかった。凄惨さとは裏腹な透き通る蒼が、却って不気味に映った。


「どうなってんの、パパ⁉︎」

「パパには分かんない⁉︎」

「サニア、パパ! カノープスと連携して砲撃、行くよ!」


 ウルクェダ親子三人の合体攻撃シーケンスが開始した。

 カノープスの演算システムを二機に同期、コード・クラウンの持つオーバー・プリズムキャノンと電力は艦から外部供給。

 パパのアルコルが四脚から還り、ライトスナイパーライフル改式に背部ユニットを合体、巨大な弓矢を形成した。


「よっしゃ! オーバー・プリズムアローキャノン!」

 三人と二機と一艦のタイミングが一つになる。


「スーパーウルクェダ」

「うるさい!」

「発射!」

 一つになった、はず。渦を巻く奔流が心地の良いテンポで重奏して、光の波が傲慢たちを穿っていった。


「凄い凄い! ……僕だって!」

「フィリアちゃん、私に続いて下さい!」

「はい! メアリ様!」


 メアリのオーグ・カスタムメイドがドレスを脱ぎ去った。顕になる太腿に隠し持ったパーツがプログラム通りに組み立てられて、死神の大鎌を形作る。その細腕に携えて、ドールドローンたちに作らせた黒い盾を先頭に、モノクロスに立ち向かった。


「いきます!」


 フィリアのエルフ・アートが、懸架するオーバーライトキャノンにチャージを始めた。左腕のイルミネーターガトリングシールドを象の鼻のように振り回す。


「ハッチ開放! ターゲット、オールロック!」

「今!」

「あたれー‼︎」


 箱型コンテナから放たれたロケット弾に火が点いた。実弾とイルミネーターとライト兵器を搭載したエルフ・アート。

 メアリの結晶閃を皮切りに、ドローンとガトリングとキャノンの砲撃が蟲を屠り、ロケット弾の爆発に耐えたモノクロスに、メイドとサーバントの斬撃がクリーンヒットした。


「……こいつら! 邪魔をするなら、打ち砕く!」


 イツキの拳を軽く受け止める。二人の姫君が乗ったフォース・ブレインならば。


「無敵!」

「無駄です! クロスイツキ!」


 その力を、かつて恐れた。

 その力に、かつて救われた。

 二人にも、彼への想いが確かに残る。


「しかし、イツキは死んだのだ」

「私を庇って亡くなりました。私は、生涯それを忘れはしません! ありがとう!」


 昂る光が両掌に宿った。右腕に漆黒。左腕には純白が。フォース・ブレインは、破壊と平和への願いを束ねて、結い上げて、増幅させる。


「オーバーライト!」

「クロックワークス!」

「「ドラーーイブ‼︎」」


 人型で高めた二人の願力が混ざり合い、光の不死鳥へと可変して解き放つ、一撃必殺の体当たり。情熱を秘めた若き生命の前に、偽りの十字架たちは無惨に骸と化した。


「状況は?」

「お仕返し始めました! いけます!」

 眼鏡が曇るほどギゼラが興奮するのは珍しい。クラウザは冷静になるよう努めた。神皇の目論見が何なのか、把握するのが困難であった。


「……よもや、これで終わりではあるまい」

 ギゼラに指示を出す。歴戦の艦長の、ただの勘だったが。


「了解です。計測……あっ⁉︎」

 アッシュでは無いが、嫌な予感は当たるものだ。


 戦場を願導合金の粒子が満たす。それを媒介にすることは、ゲートを開く為には必要な儀式の一つだ。ホワイトノエルやブレイン・ヘモレージならその限りでは無かったが、それは限定的な移動に限られた。


「さあ、震撼せよ。世界!」


 上空、セプテム・フェクダから見下ろすルクス・ウルクェダ。彼の背後の世界が砕け、ガラスの向こうから灰色が雪崩れ込んだ。世界を巻き込むゲートなら、世界粒子を利用するのが最も手っ取り早いのは、理解ができた。


「……高次元か!」


 ランスルートがかつて見た光景。イェツィラーとブリアーが、遂にアッシャーへと融合を始めた。空が歪み、大地が脈打つ。海は裂け、風が悲鳴となって押し寄せた。


「永かった。待ち侘びた。切望した」


 女神像が滅んでいく。はりぼての虚像を捨て去って、そこから、蠢く巨人の顔が、爛々とした大きな瞳が、幾つも、幾つも覗いていた。


「ヒッ……⁉︎」

「転生者なの……?」


 数十体の巨人の顔が「つぎはぎ」されて女神像を象っていた。かつて、マーク・シオンという竜がいた。


「りら、ねえさん」

「あの顔。今、リラって」


 巨人の顔面の一つが呟いた。輪唱するように、口々に、思い思いを語り出した。


「さにあ、さにあ」

「ごらりご、ばんざーい」

「こんどはぜーばにとりいったのかよ。できそこないのうぃしゅあおうじ」


「なんだよ、これ」

「悪趣味な……!」

「嫌……、嫌ーー⁉︎」


 サニアには耐えられなかった。ノイズの中から鮮明に、自分の名前を呼ぶ大切な友人の声だけを拾い上げた。


「グリエッタ様にレイザー様。あなたたちも、神皇様に平伏しなさい」

 姿は違えど、グリエッタもその一つに聞き覚えがあった。


「お母様……?」

「違いますよ、グリエッタ様。貴女の真の御母様は、あちらです」


 レイザーやグリエッタが母と仰ぐ第三十八代神皇の声は、自らをウルクェダ姓の乳母と名乗り、天の亀裂に(かしず)いた。


「周囲に反応!」

「まだ何か出るのか⁉︎ 勘弁してくれ!」

「数は……! え、なに、これ」


 彼らが姿を晒したのを皮切りに、神都の建物という建物から、道路から、至る所から純白の怪物たちが姿を顕した。孔雀やライオン、狼や蛇、果てはゴブリンやサキュバスを連想させるものまでいた。

 その全てが、痛々しいつぎはぎで体の一部を一繋ぎに繋がれて、だけど繋がれただけで一つの生物のように振る舞おうともしなかったから、誰かが動く度に全員が拒絶反応で苦しんだ。


 公園、学校、民家、大木やアスファルトだと思っていた街全体が、シオン・シリーズだった。


「こいつら、みんな転生者なのか……?」

「転生者の街……。俺たち、こんなとこで生活してたのかよ」


「神都シオンに攻め込んだ背教者」という字面に慄いたのは、古代の記憶を持ったアッシュとエヴァくらいだったが、同じシオンであるせいか、イノシュ・バインの震えが治らなかった。ドライグの制御も寄せ付けず、天に向かって鳴き声を上げ続けた。


 転生者が這い出てめくれた表皮の下から、見覚えのある灰色が鼓動した。エヴァが不快感に顔を歪める。誰もが、嫌悪感に心を(しか)めた。


「この悪寒は、モンスターです」

「ムカデクワガタか」


 神都は、傲慢のルシアフの生体を掻き集めて浮上していた。畝る開口部から重力波を常に放ち、この星の引力から解き放たれる為に、何十、何百もの心臓が、絶えず激しく掻き鳴らされる。


「蟲に、神都は味方だと思わせていた」

「だから襲われなかったの……?」

「神皇の洗脳がモンスターにも効く程に強力なら、それも利用しない手はないよ。怠惰のディリジェンス・リンクスも併用出来るのなら、尚のことだ」


 シオンで街を形成し、モンスターを利用して浮き上がった。これは、いずれ来るべき日の為のテストでしか無い。人類が神の下に、その道を共に歩む為の通過儀礼だ。


「各機! 警戒せよ‼︎」


 混迷の世界に、カノープスから声が響く。屈折した光が辺りを照らし、影が揺れる激動の顛末。


「なにが来るんだ、イノシュ・バイン」


 ドライグのパートナーと純白のシオンたちが顔を向ける天から、ガラスの破片がプリズムとなって降り注いだ。


「おお……! 我らが神よ‼︎」


 魔法陣を背負った光輪。千本の腕、能面のような女性の顔。メリハリのついた体つき、舞い散る天使の翼。そして、膨れた大きなお腹。高次元の世界から、降臨する真の御神体。


 その姿こそ、アルカドがひた隠しにしたアンティーク、神皇。


「跪け、世界」


 傲慢の重力は、馬鹿の一つ覚えだ。しかし、言葉通り次元が違っていた。ヒトも世界も、セプテントリオンやイツキとルミナのリ・ブレインさえも、その場にいた全てが平伏し、名状し難い屈辱を舐めた。


 例外なく沈下していく神聖アルカド皇国の神都は、神皇の手腕で次の瞬間浮き上がる。重力に揺さぶられ住民は潰れた。生き残りがいたとしても、宇宙の入り口、成層圏の大気に溺れた。背教者たちは、ガンドールの頑強さと密閉性を頼りに死に損なった。


「……酷い」

「糞野郎‼︎」

 憤りも届かなかった。


「あれが、真の神だというのか⁉︎」


「母の顔を忘れたのですか。レイザー、グリエッタ。それに……ウィシュア」


「なんだと」


 あれが神皇であるのなら、それは、アークブライトの母である。


「アンティークが、母上……?」


「そんな、私は」


 グリエッタは体に違和感を覚えた。神皇から伸びた赤い意図、生まれた時から繋がった臍の緒が、彼女の全てを掌中に収めた。


「なにを……グリエッタ⁉︎」

「逃げて、ディオネ……。漆黒は、死ね」


 隣人の首を絞め、ほくそ笑む哀れな皇女。とても常人の力では無かった。ディオネの意識が、次第に朦朧としていった。


「ハハハッ! 喜べ、テティス! 俺もお前と同じ、化け物の子だった!」

 その場にいない彼女を呼んでみても、ランスルートの笑いは虚しかった。


 アンティークの子供といえば、絶望のサイプレスから生まれたモンスターやウィナードを連想する。アークブライトがそれと明確に違うのは、彼らには生殖器官があり、純白ないしはシロであり、エヴァたち古代人の察知に掛からない事である。


「世界粒子を利用せずに生まれたという事だな。く、フフフ……気色の悪い」


 神皇の膨れたお腹が吐き気を加速させる。ランスルートは、ウィシュアは、自分は、まごう事なき化け物から産み落とされたのだと痛感した。


「……気持ちが悪い」


 マナの柔肌へ纏わりつく意識たち。神の采配で消えゆく命が世界粒子に宿り、増殖した悪霊たちが、彼女を再び蝕んでいく。


(大丈夫だよ、マナ)


「……え?」

 その声に温もりを覚えた。動揺した心が、輝く風を感じた。


「いくぞ、セカンド!」


 沈黙する世界で、ただ一機、駆け出すイレギュラーがあった。


 戦闘の最中、最終調整と修理を完了。ユイの手腕が光った、彼らのアッシュ・ドライブ。粒子を呑み込む漆黒の星ブラックホールが、傲慢な幻想に牙を突きつけた。


「アルファングのデッドコピー。今一度、跪きなさい」


「一縷に賭ける」


 セカンドIIのサブアームマフラーに光が灯った。世界粒子を糧として、推進力へと変換する。光の翼が天を裂き、重力異常を推し通り、ただ一点の目標に向かって突き進む。


「人が神に逆らってはいけません」


「黙れ。骨董品」


 神はモノクロスとムカデクワガタを盾として、反逆者セカンドIIの道を阻もうと目論んだ。それで止まる程度なら、彼の命はあの日、とうに尽きていた。


「出力、尚も上昇!」

「かまうものか!」


 アッシュがセカンドを疑った事は無い。これからも、そんな事はあり得ない。


 マフラーが排気筒となり、翼は加速して、虚飾に塗れた能面を、漆黒の牙で噛みちぎる。


「し、神皇様ー⁉︎」


 神皇を砕いた勢い余って、セカンドIIの脚部が地面へ触れて埃が舞う。バランスを崩した神皇はよろけて、転生者が抜け出た穴へと倒れ込む。ルクスと転生者たちの叫び声が、青い宙を舞った。


「ククク。フハハハ! 大仰に出て来た途端にこれとは!」

 嗤うゲートの彼方から漂う不快な音波。ダテンゲートを伴い、灰北のブレインが戦場に帰還した。


「ダスク!」

「おじいちゃん!」

「諸君、御苦労。神を倒してくれてありがとう」


 魔王、そして、神皇の放つ「洗脳」は、ダスクにとって邪魔だった。願いの干渉だ。

 奴は魔王を引き摺り出す為に、オリジナルと瓜二つのハイブリッド・クローンを使いケラドゥスを唆して楔を外させた。シリウスをニーブックに辿り着かせるのとタイミングを合わせ、両者を戦わせた。

 今回も同様に、自分は高みの見物と洒落込んで、事態の推移を見守っていた。


「労せずして勝利できる。ウィナードとは、我ながら命名だな」


「……臆病者ですね」


 反逆者に跪いた神皇が起きあがる為、街に幾百の手をついた。神都と一体化した信者たちは、自分たちより倍はあろうかというそれを支えて擁立する。砕けた能面から人間の瞳が覗き、巨大な女の顔面が、粒子舞うアビスの海に晒された。


「あ、ああ……! なんてこと」

 エヴァリー・アダムスには見覚えがあった。忘れもしない、今の自分の顔が、そこにあった。


「誰かと思えば、お久し振りです。アッシュ」


「俺と世良の世界を歪めたのは、やはりお前か。ポーラ」


 古代人、白衣の女ポーラ。


 神皇アンティーク〈極北の(オメガ)ポーラ・スター〉は、昔馴染みとの再会に、人間だった頃の記憶を語り出した。

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