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第二十話 レフトアームズ 3/7 フェイク

「洗脳が解かれ始めています!」

「良し! 全艦突撃! 神都の住民を出来得る限り避難させ、神との決戦に挑む!」


 カノープスとペリカーゴが突入していく。正気を取り戻した住民たちは、事態の深刻さに右往左往し始めた。


「効いてるぜ、お姫様!」

 彼女たちの歌が止めば、また支配は強まるのか。それを絶やさぬよう、カイナはカンカーゴで防壁となるに徹した。


「打ち砕く!」

 イツキのモノクロスがカンカーゴへ吶喊した。一点突破の一撃に、巨体は自重を支えきれず倒壊した。市民は、その多くが下敷きとなった。


「やめろ、イツキ!」


「黙れ、侵略者! お前たちは、俺たちの平和を乱す悪魔だ‼︎」


 友矢の説得は意味を成さない。灰色の一雫が、イツキの前に零れ落ちた。


「……イツキ」

「マナ」


 親子の再会、いや、はじめての邂逅。血の繋がりの無い血族は、拳で真意を確かめ合った。


「もうやめて。ルミナはどこ⁉︎」

「駄目だ。俺は、止まらない!」


 ルミナスセイバーでシャインネイルと切り結ぶ。コンテナマントが開かれて、甲虫の翅のように広がった。

 マナのホワイトノエルも対抗し、妖精の翅が天を駆けた。光の釘で標本にすべく、翅を狙って撃ち放つ。


「クソッ! 狙い撃つ!」

 友矢が狙撃でマナを援護する。グリエッタとディオネには、メアリがドールドローンで守りに入り、フィリアも遅れて砲撃で支援した。


「さっきから煩いんだよ‼︎ なんなんだ、この歌は⁉︎」


 エリーリュ・ウルクェダこと、エイリアス・ブリアーの最後の一人は、蛮勇の皇女へと砲撃を開始した。全力で駆ける痛々しい青春の落書きは、かくも成人に突き刺さる。不快で堪らない。

 二人の歌に聞き惚れる為に、アッシュが大盾に対抗する。


「灰庭健人か! お前には、何度も辛酸を舐めさせられた!」

「あなたに直接恨まれるような事はしていない筈だけど」

 セカンドIIの攻撃は、両腕に大盾を携えて防ぎ切られる。セプテントリオン最硬を誇る、まさに神の盾。

 サマンサやオリジナルのエイリアスがやられてきた因縁、しかし、アッシュにとってエリーリュはただのグリエッタの従者というイメージしか無い。


「友矢くん以上に老けてる……。苦労したのかな? ねえ、ケント。この人になにしたの?」


「知らない内に傷ものにしてきたのなら謝るが、エリーリュ少年とは別人と考えた方が納得できる」


「その反応は当然だ! 普通は気付くものなのだよ、普通はな!」


 自分はエリーリュでは無いと、隠しもしない。そして、純白への神の洗脳の類いが有ると言い放ったも同然だ。赤い意図の存在は、カノープスも既に知る事であり、その事をエリーリュも知っている。


「イツキやボルクのような存在か。それとも、お前もサマンサと同じで『罪』を背負っているのか」


「フフフ……。ならば、刮目せよ! 我が罪!」


 エリーリュのセプテム・ドゥーべから魔法陣が噴出した。怪しく光る純白の糸が、味方の筈のコード・クラウンへと繋がれた。


「またアンティーク……? でも、エンジンは」

 駆動音は一つ。

「ああ。サマンサの機体も、こいつも、そうじゃない」

 純白が純白を喰らう。願力を奪う強欲のバンディット・レイヴン。サマンサと同様の力は、否応なく関連を示唆した。


「やめて下さい、エリーリュ殿! 我々は味方です!」

「我が糧となれる事、光栄に思え」

 力を奪い増大したエリーリュの願力から放たれる、憤怒のディス・プリズム。大盾から迸ったのは、イミテーションでは無い、紛れもなくアンティークの力だ。


「機体じゃなくて、パイロットの力なんだ」


「如何にも! 大罪は、本来バンデージが持っていた力なり」


「それをブーストするのが、アンティーク……古代ガンドールの役目か」


「ククク。貴様は裏の裏の余計な事まで考えて、まともに人を信用できなかったのでは無いかな? さぞかし生き辛かろう! だから、ここで死ね!」


 エリーリュの言葉からは実感がこもっていた。その裏を読んでしまったアッシュには、不快だった。

 雷鳴が神都の道路を駆け抜けた。ディス・ライトは敵味方の区別なく奔り、プリズムに反射して乱れ舞った。


 バンデージが持つ大罪の力は、それ個人では、所謂「能力バトルもの」の域に到達しない。それを三倍にブーストするアンティークがあればこそ、彼らは人型人形に乗り込んできた。


「古代の融合分裂で、バンデージの力はアンティークへと継承された。バンデージの末裔である僕たちは、力を弱体化されて生まれた事になる」


「見事。お前は、確かに我らの強敵だな」

「それは、オリジナルの意見か」

「いや。俺個人の私見だ」


 それ以上は聞かずとも察しろと言うことか。エリーリュは両腕の大盾を合体させた砲撃と、ディス・プリズムとを併用させて、周囲のクラウン毎薙ぎ払った。


「なんだ……? なにかが」

「上空から接近!」

「やかましい歌に嫌気がさして、神皇も仕掛けるようだな!」


 アッシュの第三の目が不安に包まれた。空を泳ぐムカデクワガタが、一斉に神都へ向かって牙を剥き出しにした。逃げ惑う純白の市民を喰らい、嬲り、巨体が浮遊都市に落下して、無数の脚が檻となって逃げ道を塞ぐ。


「ごめんなさい、勇者様!」

「いやいや。我が輩たち、十分頑張ったぞ」

 アッシュと合流したサニアとドライグも、畝る傲慢を退治に向かった。


 モタモタしてはいられない。しかし、アッシュ・ドライブの起動は出来なかった。グリエッタとディオネの歌の力を増幅させる為には、粒子を媒介にする必要がある。縮退炉でエネルギーへと変換する訳にはいかないからだ。

 ただ、アッシュには彼女がいてくれるから、どうとでも出来た。


「ユイ!」

「分かってる!」


 膝の突起に隠された脚部サブアームを曝け出し、蟲とエリーリュを同時に相手取る。関節部分を似たパーツで構成されたサブアームが、蛇の頭のように爪をもたげた。


「砕け!」

「なんと!」


 大盾を剥ぎ取るべく、脚部の爪が組みついた。エリーリュは盾から砲撃を放ち、それを容易く吹き飛ばす。


「浅知恵だな!」

「もらった」


 セカンドIIのライトサブアームマフラーが内部のフレア・プリズムを変質、レフトマフラーにはアクア・プリズムが搭載。それぞれを光弾と重結晶のイルミネーターの爪に変えて殴りかかる。


「無駄だと言うのに!」


 接近戦での殴り合いは、エリーリュに分があった。単純な願力の差と、二十年もの先へ進んだ技術力。なによりこの男もまた、サマンサと同様に魔法陣を展開し始めた。


「ここで終われ! 憤怒の雷光! ディス・プリズ……⁉︎」


 先程エリーリュが吹き飛ばした筈の、セカンドIIの膝サブアームが修復していた。自分の目を疑う。動揺はすぐに乗機のセプテム・ドゥーべへと伝達。高度に集中力を必要とした魔法陣は霧散した。

 暴食の再生能力か、はたまた、いつかのダスクのように重結晶で腕のような形を整えただけなのか。


「修理完了!」

「信じていたぞ、整備兵!」


「馬鹿な? 戦いながら整備をした⁉︎」


 セカンドIIに増設された腰部修繕用サブアームを使用して、損傷した各部位を戦いながら修理する。整備兵のユイが同乗しているからこその戦術。

 七首竜マーク・シオンを参考にしたので、ユイとアッシュとしては驚く事でも無いが、目の前の敵と殴り合いながら修理しているのは、流石に阿呆であった。


 サブアームは吹き飛ばされた分だけ短くなった。損傷と交換を見越しての長めのパーツデザイン。一見では、差異は見抜けない。

 二つのマフラーで殴りかかったのは、それを隠す為のブラフ。派手な黄金色のイルミネーターの光弾と重結晶は、いいカモフラージュになってくれた。


「打ち砕く!」


 再びサブアームの爪が大盾を剥ぎ取って、無防備となった胴体にアライブシールドを打ち込んだ。レフトマフラーと繋がれたそれは重結晶の杭を作り、一点突破でコックピットを穿ち貫いた。


「は、ハイバ……! いや、違う! 『こいつら』は……危険すぎる……!」


 仕留め損なった。装甲の厚いドゥーべには、後一歩届かなかった。だが彼の命は、じきに終わる。このエリーリュが何者なのかアッシュたちは知らずとも、その胸に風穴が開けば生きてはいけまい。


「警報⁉︎」

「サニア、ドライグ!」

 響き渡るアラートの中、近くにいた二人と共にセカンドIIはその場を離れる。熱源がエリーリュを焼き切って、最後のブリアーは粒子へ還った。


「お久しぶりです。姫様」


 新たな機影、その人影に、グリエッタは思わず声を漏らした。歌声の消失を狙った神皇の一手は、見事に効果をみせた。


「エリーリュ、なのですか?」

「おいおい、どうなってる?」


 若かりし頃のエリーリュ・ウルクェダが現れた。これもイツキと同様のイミテーションな命なら。しかし、グリエッタの動きを止められれば十分だった。

 神都の市民たちは暴徒と化し、神の盾も再起した。息を吹き返すセプテントリオンに負けじと、イツキに斬りかかる閃光があった。


「もう一度、消えてもらおうか」

「ウィシュア!」

「そんな奴は死んだ。お前も死ね」


 最早、死人と鍔迫り合うのも怠かった。傲慢な重力をその大剣に込めて、ランスルートのブレイン・ヘモレージが、ルミナスセイバーを真っ二つに切り裂いた。


「うっ、くっ! 『私』は!」


「せめて最後まで演じてみせろ。三流」


 それを見るつもりもない。そのまま、ブレインの手で幕を引いた。


「イツキー‼︎」


「トモヤ……ごめ」


 彼の願力が弾け飛ぶ。溜め込んだ願いの分だけ巨大な火柱を上げて、モノクロスはオレンジの炎の中で灰となった。

 立ち尽くしていた友矢の心に、逃れられない感情が燃え上がった。


「……ウィシュア!」

 セプテム・アルコルの照準が、ブレイン・ヘモレージを捉えた。それは、明らかな同盟違反だ。


「また、その名か。貴様も相変わらず甘ちゃんで反吐が出る。トーマ・ウルクェダ」


 友矢の照準はブレている。くだらない、話にならない。


「あいつとは、話が出来たのに!」

 

「見た目だけ歳をとったところで、この有様とは。あれは偽物だと、貴様も知っているだろうに」


「関係ねぇ! 俺にとっちゃ、あいつも親友だった!」


「友達ごっこがしたいなら、一生学校暮らしでもしていろ」


 奴らの遊びに付き合ってはいられない。ランスルートは大きな子供を無視をして、女神像へと歩を進めた。


「ちくしょう!」


 友矢の嘆きにサニアもフローゼもかける言葉が見つからなかった。フィリアは彼の慟哭に涙を流し、ゼーバの王の後ろ姿を睨んだ。


「打ち砕く!」

「打ち砕く!」

「打ち砕く‼︎」


 何故こうも、命を弄ぶような事が出来るのか。先行したランスルートを襲う人影は、紛れもなく瓜二つの彼らだった。


「イツキが、たくさん……?」

 マナはキョロキョロと周囲を見渡した。同じ顔の男が複数同時にモニターに表示される事態は、驚きよりも先に恐怖が訪れた。


「……神を騙るなら、それくらいはする」

 それはそれとして、ランスルートにとっても気分の良いものじゃ無い。


「ここから先へは行かせないぞ、ウィシュア」

「皇子、死んでもらう」

「ルミナの為に消滅しろ。ランスルート!」


 目に見える範囲で十体は下らない。モノクロスの群れとイツキ・アークブライトたちは、純白の願力で並み居る連合軍のガンドールを殴り飛ばしていった。


「いきましょう、イツキ」


「あっ」

 ようやく見つけた母親の姿に、マナは一人飛び出した。


「ルミナ!」

 少女の声は届かない。


 モノクロスの中に紛れた「一人」の大天使。彼のお腹の中で、ルミナは一人、二人きりの世界で微笑んでいた。

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