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第十九話 私の痛みを和らげて 6/7 疎通

 セカンドの強化の最中、ジグもフォース・ブレインの最終調整に取り掛かっていた。


 神の盾セプテントリオンは姿を見せず、矢張り、ルクスとセプテム・フェクダの損傷を癒すのに時間が必要なようだった。


 ランスルートは新たに得た羨望の力をものにする為、一人鍛錬をしているそうだが、バンデージの王という半身を失い、思うようには進んでいない。


「ディオネ様!」

「なんだよ、分かってるよ。やればいいんだろ、もう」

「恥ずかしがらないでください。……私まで恥ずかしくなっちゃいます」


 ディオネとグリエッタもナニの猛特訓をしている。マナとサニアは、にやけながらそれに付き合う。


「アンコール! アンコール!」

「きゃー! かわいいよ、ディオネ、グリエッター!」

 ユイお手製の二人の写真入り団扇で煽る煽る。


「やめなさい、マナ、サニア!」

「こいつら、他人事だと思って!」

 ナニをしているか、察しの良い諸氏ならば、もうお分かりだろう。


「ほら、ディオネ。腹筋のリズムで!」

「ひっひっふーっ! やかましいわ!」

「ボクとマナは観客だよ! グリエッタ様もいつまで恥ずかしがってんの!」

「ディオネのせいです! 私一人なら、こんな風に思わなかったのに」


「私の存在が恥ずかしいと申すか!」

「小太りー!」


 だめだった。


 サニアは、なんとかママの大砲を使えるようになった。エネルギーチューブを外部から接続して、無理矢理放出させる。あの時は使えなかったけど、真面目にコツコツ願力の定着を頑張った。


 しかし本来は、接近戦が得意なパワーファイター。勇者イツキに憧れた重戦士スタイルが持ち味だ。リラにも筋を褒めてもらえたけど、教えを授かれなかったのが残念だ。


 彼女はフローゼのような天才肌では無かった。パパの友矢と同じで、少し不器用な努力家タイプ。だから、ドライグのインチキじみた順応速度には、嫉妬しきりだった。


「うーん。我が輩とイノシュ・バインの絆パワーなのだなぁ」

 イノシュ・バインが頷いていた。大きな体で腕組みしてゆさゆさするもんだから、整備をしていたユイはぶん回されて落っこちかけた。


「この子、どう見てもちゃんと言葉分かってるでしょ⁉︎」

「そんなわけないだろう。ははは」

 腰に手を当てて笑っているように見えるのだが。


 メアリのオーグにも、待望の強化が施された。


「おっぱ」

「却下」


 フローゼのセプテム・ミザールとリラの遺した願ドローンを参考に、よりメアリ向けに調整した。リラ亡き今、クラウザは艦長席に着くことがほぼ確定なので、バイク機能はオミットされ、代わりにドローン本体の戦闘能力の向上が測られた。


「それで、この形状なのですね」

「メアリなら出来るよ」

「ええ。……ドローンの戦闘形態は良いのですけれど、あの、格納形態と、分離した時の本体が、その」

「可愛いよね!」


 執拗なおっぱいミサイル推しから脱したと思ったら、矢張りとんでもない爆弾を仕掛けていた。ユイのセンスを疑う。


「可愛いよね!」

 姿は後のお楽しみ。


 友矢のセプテム・アルコルにも新機能が追加される。アルカドの技術で強化されたメアリとは逆に、ゼーバの技術を流用した、任意発動型クロックワークス・オーバードライブ、変形である。


「複雑な機能なんて付けて大丈夫か、友矢」

「健人、俺のサブアーム捌きを知らねぇな?」


 努力と根性と執念で、フロントスカートのサブアームイルミネーターを使いこなした。


「あのね。本体じゃなくて、大砲の方に可変機能を付けたんだよ」

「まあ、ぶっちゃけ大き過ぎて使い辛いっちゃ使い辛かった」


 大砲だったものは普段は背面に懸架して、推進翼と狙撃時の姿勢制御用補助脚として機能させる。右腕に持たせたライトスナイパーライフル改式をメインウェポンとし、それを軸として翼を纏わせて、強化型超弩弓オーバー・プリズムアローキャノンとするのだ。


「神都での乱戦になるだろ? 砲撃よりも、狙撃に立ち返った。お前のフォローくらいはしてやる」

「ああ。お前以上の狙撃手はいない。勝ったな!」

「ガハハ!」

「……おばか」


 フィリアの機体はどうするか。ゼーバに任せても良かったのだが、折角なのでアッシュが見繕う事になった。フィリアもその方が良いだろうと、メアリとギゼラのお達しである。


「余計なことを……!」

「え? ごめんなさい……」

「うわぁっ! ち、違くて! アッシュに言ったんじゃないよ!」


 しおらしいアッシュに、ドギマギしちゃうマーク・フィリア。横目でメアリが「ファイト!」と握り拳でポーズを決める。余計な事を……!


「健人なんだから、お前もファングブレードが良いのかと思ったんだ」

「う、うん」

「……違った?」

「え? ううん? えっと」


 正直、分からない。自分に合った戦い方なんて言われても、フィリアは春歌に言われた通りの武装しか使ってこなかった。

 似た境遇のドライグが、なんだかのびのびしているのが、少し羨ましい。


「一度シミュレーションしてみるか」

 アッシュは彼の手を引いて、歩幅を合わせて出掛けていった。


「良くやりました、アッシュ。流石です」

 例のポーズ。メアリは何目線なのか。





「サーガ・ヒーロの時は、槍と盾と刀だったよな」

「うん」

「ほら、そこでブレードモード」

「あっ」

「複合武器は難しいのかな」


 シミュレーションが上手くいかない。成績が思わしくないのは、ひとえに、アッシュがつきっきりで指導しているせいである。


(近い近い!)


 サーガ・ヒーロの時よりも近くにいる。というか、狭いシミュレーターの中で密着している。


 操縦桿を握る小さな手に、彼が大きな掌で上から覆ってくる。なんとか自分を導こうと、必死に考えて試行錯誤してくれている。うれしい。


(あったかい……。ちょっとごつごつしてる。おっきい……)


 触れられる度、自分の中の「女」が目覚める気がした。


 ――違う、それは僕の感情なんかじゃない。それを心の中で言うのは、何度目だっけ。


(綺麗な顔。セラともちょっと違う……ちょっと、かわいい……)


 彼の顔に触れたくて、でも、そんな事をしたら、彼は自分から離れてしまう。それが分かるから、何も出来ない。ただ、こんな時間が続いてくれるだけでも幸せを感じた。


 フィリアは確実に、精神が肉体に引っ張られている。このままでは「健人」になんてなれないよ。


「なんだか、手抜いてない? あの頃は、もっと俺に食ってかかる勢いだったのに」


「あっ、うっ」


「どうしたもんか」


 どうしたもんか。キリッ。じゃねぇ。赤面してんだろうが。

 しかし、同じ「健人」を名乗った奴に惚れられている(可能性がある)なんて、普通は思わないのである。


(きもちわるいよね……)

 俯瞰して考えると、フィリアは泣きたくなってきた。着ているものを、ぎゅっと掴んで、この場を耐え抜いた。


「動けなかったら、動かなきゃいいだろ?」

「うわぁ⁉︎」

 友矢がやってきた。大人になった髭面の友矢だ。


「ウィシュア戦で、お前が言った事だべ?」

「カウンター?」

「うんにゃ。砲撃」

「なるほど。健人ってことを意識し過ぎた。ごめん、フィリアはフィリアだもんな」


「フィリアはフィリア……僕は、フィリア……」


 ようやく、以前アッシュが言っていた事を理解した。「自分は自分になれば良い」そんなようなニュアンスの言葉だ。


「ほら、やってみろ浦野……じゃねぇ。フィリア」

「うん」


 鈍重な装備で出撃するシミュレーション内のアート。敵機を躱す事なく、攻撃を大型シールドで防ぎきり、背面のダブルソリッドカノンで撃ち抜いた。


「おお……!」


「凄いな。伊達に歳とってないな」

「これでも教官みたいな事もやってたんだ。よし、少し難度上げるべ」


 敵エースを想定、高機動型の相手に対して、足を止めるべくソリッドカノン。それを見せ札にして、右腕のアサルトライフルを連射。躱された。


「速い!」

「落ち着け。勝負は一瞬だ」


 隙を突いて、エースが接近。大盾に隠した左腕から、プラズマライフルを接射。見事撃墜した。


「やった!」

「それでいい。やれば出来んじゃねぇか」

「やった! ありがとう友矢ー!」


 シミュレーターから飛び出して、フィリアは思わず友矢に抱きついてしまった。迷いまで撃ち抜いた気分だった。彼の髭が、チクッと心地良い刺激をくれた。


「……パパ、さいてい」

「はい、離婚」


 フローゼとサニアに見つかった。


「ちょっ……! えええええっ⁉︎」

「あっ。なんか、ごめん……」





 クラウザに召集された面々が思い思いの席に座る、会議室。アッシュと友矢は、隣同士で腰掛けた。


「他でも無い。皆、神の盾……いや、アルカドと戦う事に躊躇いは無いか」


 作戦前の最後の確認になるだろう。


「私とアッシュは問題無い。だな?」

「ええ。アッシュ・ドライブの為に、ユイも同乗させます」


 クラウザが苗字でなく名前で人を呼ぶ。意識しなくても、周囲も妙に嬉しくなった。

 

「今更だ。俺もやれる。そりゃ、心苦しいけどな」


 友矢は既に何機も撃墜してきた。フローゼは身重であるから、大事をとってカノープスの砲撃手を引き続き担当してもらう。いざとなれば、ユイとジグ製作のスペシャル砲座に移動してもらう。


「サニアは?」

「……難しいですね。本人は、友達を助けたいと言ってる。そんな余裕があるかは、姫様たちとウィシュア次第か」


 サニアはこの場に呼んでいない。無理をして、戦うと言うに決まっているからだ。


「神都上空にはムカデクワガタの姿があった。サニアとトモヤ殿には、そちらを担当してもらいたいのだが」


「ありがとうございます。サニアは其方に行かせます。私の事は、遠慮無く神都攻略に使って下さい」


 友矢がクラウザに対して普通に敬語を使っているのが、アッシュから見ると可笑しかった。


「了解しました。では、ドライグを彼女に付けましょう」

「ああ、なんだか仲良しっぽいですもんね。助かります」

「友矢はフィリアとタッグを組んでくれ」

「似たレンジだし、まあそうなるよな」


 レイザーとエヴァ、並びに遊撃騎士団には、主に足止めをしてもらう。


「言葉で言うほど迷いを消すのは簡単じゃない。既に撃った友矢は兎も角、前回のログを見ても、彼らには躊躇いが見えた。不確定要素は排除した方が良い」


 アッシュは彼らの罪まで自分が背負うつもりだろう。そういう奴だと、クラウザは信頼している。


 メアリは二人の姫をはじめ、皆の護衛に当たらせる。それを友矢とフィリアが援護。アッシュとランスルートには前衛で暴れてもらう。


「私たちに任せておけ」

「切り札ですよ。大丈夫ですよね、ディオネ様?」

「問題無い。ほらみろ、お腹の調子もすこぶる快適なのだ」


 お痩せになった。久し振りに、魔王の娘として名を馳せた、スリムなディオネ様の御尊顔である。


「……愛嬌がありませんね」

「クールだろ?」

 グリエッタはそっぽを向いた。照れ隠しだった。最初に出会った時には、中性的な男性だと思って顔を赤らめてしまったくらいの美貌の持ち主だ。


「グリエッタ様も問題はありませんか」

「ええ。メインパイロットはディオネですし、それを咎めるつもりもありません」

「エリーリュが厄介だな」

「……ええ」

 あの盾は並の強度では無い。しかし、友矢の新装備筆頭に、今のカノープスにかかればどうとでもなる。見るからに重そうな機体だから、最悪無視をして置き去りにする。


「マナの様子はどうだ?」


「ヂィヤの離脱がショックだったようです。今は、大分落ち着いています。ルミナを助ける為には、彼女も力になってくれる筈です」


 悪霊の力を失った手前、無理は出来ないという課題がある。問題は、ヂィヤ。ダスク・ウィナードが現れるのか、という事だ。


「奴の目的がアッシュの言う通りなら、我々の行動を潰しに来る可能性が高い」


 その時は、アッシュが率先して対処にあたる事になる。


「……グレイス」

「ああ。神皇は俺とマナが殺す」

 沈黙していた口を開いた。腕組みして壁に寄りかからずとも、空いた席に座れば良いと思うのだが。


「ちょっと待て、俺は?」

「カイナには特別任務があるよ」

「特別⁉︎」

「適性から考えると貴方が適任かと」

「責任重大だぞ」


 アッシュ、クラウザ、ランスルートが揃ってカイナを推した。なにやらヤベェ作戦の気配がするのは友矢だけではあるまい。

 当のカイナはおっしゃ任せろ、と得意気に椅子の背にもたれかかる。こいつはこいつで遠慮が無い。


「ルクス・ウルクェダが来た場合には、王にはイェツィラーにも赴いてもらえるのでしょうか」


「なんなら、高次元からの不意打ちをしても良いが」


「出来るのか? 粒子さえ破壊出来る羨望の力を手に入れた筈のお前が一人で突っ走らず会議に出席しているのなら、出来ないんだろ」


「一々五月蝿い奴。部外者は黙れ。碌に因縁も無いのなら、黙って自分の役割だけ全うしていろ、愚民」


 アッシュとランスルートがはじまった。グリエッタとディオネは欠伸をし、友矢とカイナは頬杖をついた。


「出来るのか? 聞いているんだが」


「白々しい。予想出来ることを一々聞くな。今は難しいのだと貴様がさっき言ったろうに。生まれ変わったこの俺のブレイン・ヘモレージ・キールロワイヤルは、出力制御が上手く無い」


 ブレイン・グレイスの時には、体に馴染むのに三年を要した。今回はそれ以上にはならないだろうが。


「どちらにせよ今は出来ん。弾き出されたあの時から、イェツィラーとブリアーは重なって、アッシャーとの溝が『再構成』された」


 アッシュやハイネが遭遇したイミテーション・ブラックホール。パロケトと同質なものだろうか。周期にも影響があるのか。


「ここで見栄なんて張ってどうすんだ」

「俺はゼーバの魔王だぞ!」

「めんどくせぇな。出来もしないことを初めから言うな」

「わざわざ説明してやったのだ。貴様の節穴では看過出来んと思ってな」

「そりゃどうも!」


 ほっとくとすぐこれだ。馬鹿二人は放っておけ。クラウザが咳払いして話を進めた。


「……一番の問題は、神皇と、それを守護するクロスイツキでしょう」


「すみません、俺にイツキと話をさせて貰えませんか」

 狙撃手の友矢が最前線に赴くという事になる。


「二十年一緒にいました。健人よりも長い間、俺とイツキは一緒に戦って来たんです。……あれが偽物だろうと、俺たちの間にあったのは、友情の筈なんだ」


 幾つもの修羅場を乗り越えた。傷が増えるその度に、二人の間には確かな繋がりが固く結ばれた。それを偽りとは呼ばせない。


「あいつ、不器用だからさ。俺が側にいてやらないと」


 自分も知らない友矢の姿に、アッシュは疎外感を覚えて鼻の頭を掻いた。

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