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第十五話 再会 4/7 独り

 アンティーク、ブラックベルベットは大型で鈍重だったが、その分装甲の厚さには自信があった。バリアを張り巡らされた外装に傷をつけるのは容易では無い。しかし、それは直接的な攻撃に限った話だ。


 合金の粒子に似た特性のフェグールの繭は、三次元の壁を無視して襲いかかった。


「繭の糸! クソッ、ディス・ライトで焼き払ってやる!」

 加えて、ハイネを庇っての戦闘になる。ハイドが彼女を捨てる選択肢は、初めから存在しない。


「ハイド、もういい。カノープスに向かえ」


「ふざけんな! アイツに庇われたまんまで、お前まで見捨てろって言うのかよ! 俺は、ダスクみたいなクズじゃねぇ‼︎」


「知っている、ハイネを守れ。彼女が大切なら、カノープスに連絡が届くところまで行ければ、俺だって後退する」


 爛々とした少年の瞳は、虚な眼の少女を見つめた。


「ああ。ハイネを守るのは、俺だ。ダスクでも、お前でも無え」

「そうだ。お前なら出来るよ」

 フンと、鼻息を鳴らして、ハイドは進路をとった。


「……死ぬなよ、アッシュ」

「行け」

 鈍重が駆けていく。巨体に一度ついたスピードは、ヤドカリガ如きを弾き飛ばす。


「ああ。セラも、こんな気持ちだったのかな」

 仲間を逃して、殿を務め、そうして、セラは一人で死んだ。


 ――寂しい? それとも、怖い? いや、両方か。

 それに、アッシュはなんだか格好つけたくもあった。セラやオーランドのように、最後は誰かの為に散るのも悪くない。


 それでも。


 馬鹿な事をしたと、オーランドを罵る事も考えた。生きていて欲しかった。どんなに格好をつけたところで、死んでしまっては、もう、彼と馬鹿話をする事は出来ない。


 セラとは、喧嘩別れのようになった。灰庭健人なら、もっと上手くやれたのでは無いか。自分では、どう足掻いても彼のように振る舞えそうもない。


 そういった事情が無かったオーランドとの別れは、セラよりはマシだったのかもしれない。マシ程度に留まってしまうのは、見殺しにしてしまった事への後悔の為だ。最善ではなかった。


 健人も、菫も、千秋やイツキさえも。アッシュが守れなかった友人は多い。それを乗り越えて、いや、踏み締めてでも、前へと進むしかない。彼らの死に報いる為か、しかし、それは生き残った者の自己満足だ。


 自分にもっと力があれば。


 傲慢さが滲み出る。ランスルート・グレイスに力を奪われていなければ、もしかしたら結果は変わっていたかもしれないが、それでも結局、人が一人で出来ることには限界があった。戦場に出る度に、それを痛感してきた。


 エイリアス・クロウカシスは、信じられるのは自分だけと言っていた。奴は、誰も信じちゃいない。期待さえ捨て去った。他人をゲームのNPCかオブジェクトとしか思っていない、全てを見下す傲慢の結晶だ。


「奴ら」だけは、殺す。

 それだけは、何をもってしても成し遂げる。

 誰かの為とも思えるが、矢張り最後は、自分の為だ。

 エイリアスとランスルートを野放しにするのは、気に入らない。



 一人ぼっちになれば、思考の中に入り込んだ。暗い迷路から、アッシュは一向に逃れる事が出来そうもない。


「いつも悪いな、セカンド。……付き合ってくれ、相棒!」


 オッドアイが煌めく。ブレインセカンドは、何も言わない。アッシュと共に、ただ、駆け抜けるだけ。





 繭に操られたアンティークが、一斉に距離を詰めた。ヤドカリガは、その姿をアンティークの内部へと隠し、まるでガンドールのパイロットのように振舞った。怠惰を覆い隠せるほど、アンティークが大型であった故の悲劇。


 ヤドカリガとパイロットのウィナードの相乗効果で、その願力は加算の乗算に変貌する。アッシュに太刀打ちできる筈もない。それでも。


「いくぞ、セカンド」


 いつもの言葉で、自らを奮い立たせる。


 残された装備は、イルミネーターと僅かな外骨格。そして、愛用のサヴァイブシールドとファングブレード。


 ハイドが見せたディス・ライトは、イェツイラーの糸を弾け飛ばした。願いの力は、混沌の海にも何かしらの効果があった。

 シリウスの砲撃がデブリの流れを乱した事もある。イミテーションのイルミネーターも大出力であれば同様のポテンシャルを有していると思われる。


 イツキの「嫉妬の焔ディス・エクス・マキナ」ならば、魔王ラスティネイルの糸を破壊する事も可能だった。あれも凄まじい高出力だったからであろう。今のセカンドでは到底辿り着けない。


 ファングを右腕に持ち替える。迫る影を両手の装備で受け流す。まともに相手をしてはいられない。上手く立ち回って、同士討ちを狙う。寄生を解除出来れば儲け物だが、そう都合良くはいかないだろう。


 繰り糸に縛られたアンティークの憤怒が吼えた。それならば、ファングブレードに結晶を纏わせて、イミテーション・ディス・プリズムをやって払い除ける。

 思考を止めなければ、敵の攻撃を利用するだけの計算を瞬時に行うことが出来た。グリエッタやディオネのように感覚でやれるだけの才能は無い。しかし、アッシュには経験があった。


 健人、セラ、クロウ。不本意だが、今はエイリアスの記憶の一部さえ保持している。これは才能と呼びたくないが、努力とも言えない。こんな怪物は、存在してはならない。


 ともあれ、使えるものはなんでも使う。遺跡の障害物を利用して接近する。願力を背中の副腕から機体全身へとスイッチ。ガンドールの全身に使用された願導合金に行き渡って三倍に増幅された願力を、ファングの一点に集中させる。


「弔えなくてごめん」


 か細い一条の牙が、釘となってアンティークのコックピットを貫いた。

 そこだけを穿ったアンティークは動きを止めたが、パイロットだけを殺しても、取り憑いたヤドカリガは生きながらえていた。


「見えた」


 ヤドカリガのせいで上昇した願力は、アンティークの二つのエンジンをフルに稼働させて、全身に強力な熱を発生させた。そのままではモンスターのサーモだけを検知できなかった。

 コックピットを潰して動きを止める事で、漸くもう一つの生体反応をキャッチした。


「頭部。貴様らは、脳みそをやっているつもりか」


 ヤドカリガの位置を掴んだら、後は兜割りを試みる。そこにだけ願力のバリアが強力に壁を作って防がれた。疑う余地は無い。シールドの縁の先端に願力を集中、首筋へと打突する。切り離された頭部から、ヤドカリガのコアが弾き出された。


「死ね」


 ファングでコアを貫く。一匹撃破。同じ要領で、今度は頭から狙う。頭部から這い出るフェグールを殺せば、捕えられたアンティークのウィナードは正気を取り戻した。


「す、すまない。何も、考えられなくなって、それで」

「事情は飲み込めているか? 仲間の救出に手を貸してもらう」


 形成は逆転できたかに思える。しかし、多くを抱えては、再びの洗脳のリスクを抱える事にもなった。頭部を破壊されたアンティークは、戦力としては頼りない。自分と似た体型でなければ、並のパイロットは力を発揮しきれない。ガンドールの弱点だ。


「ハインリヒ! ウィナードを連れて後退しろ! ……邪魔だ‼︎」

「邪魔だと⁉︎」

 救出された途端に邪魔者扱いされたウィナードたち。アッシュの口調は、余裕のなさの現れだ。


「ウィナードの街には子供たちがいるだろう! お前たちが今やるべきことは、彼らを守って英気を養うことだ! こんなところで無駄死にすることじゃない! ハイドは既に撤退した! 愛するハイネを守るためだ! ウィナードにだって愛はあるんだって、それくらい証明してみせろ! 自分たちはモンスターなんかじゃないって、ダスク・ウィナードの妄言なんて、超えてみせろ!」


「……おのれ!」


 ハインリヒの誘導で、ウィナードたちも進路をとった。ダスクを倒すまで、彼らの戦いも終わらない。


「う、うわぁああぁっ⁉︎」


 爆発が、ウィナードも、モンスターも区別無く襲っていった。必死に救った命さえ、理不尽に終わっていった。


 西の空から、暗雲が立ち込めた。神の雷が降り注ぎ、アッシュの脳を激痛が襲った。


「……俺が、来る」


 二人のベトレイヤー。二機のブレインセカンド。


 時を超えて。ランスルート・グレイスが、アッシュの前に立ち塞がった。

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