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空中の宇宙論

 ...どっちにしろ、彼の考えていることは机上の空論に過ぎないし、行動に移してもなんとなく机上の空論のままで空に残り続ける気がする。

 うん。とりあえず、さっさと現実を見たほうが良い。

 いや、諦めろと言っているわけではない。今僕の考えていることはあくまで現実を見たほうが良いということであって、まったくもって諦めろではない。完全に意味が違う。

 しかしそんなふうに考えている僕はあくまで彼から見れば第三者である。僕が今この都会の道路から田舎の彼へ念力を送ったところで、彼がそれに気づくことは多分ない。

 ということは、今僕がこんなふうに脳をフル回転させているのも机上の空論ということか。

 だめだこりゃ。これでは僕が自分で矛盾しているではないか。矛盾を編み出すと理論上僕はこの世に存在できなくなる。

 ...いや、あの世でも矛盾をしたらその場に存在できないか。

 信号が緑に染まる。それを合図に何も考えずに歩き出すものの、よくよく考えてみれば少々信号に頼り過ぎている部分がある。ただそれを思ったところで共有する人もいないつまりこの事実が役に立つことは、ない。

 誰かが同じことをどこかで思ったのなら、その人が周囲にその事を共有すればいいだけの話だ。

 白線を踏みながら歩くのはマグマの上の流木を渡るみたいだ。ただ今は冬だから、マグマは冷えて溶岩となり、まったく危険な存在ではなくなる。そう、まともに考えれば流木をこんなに簡単に踏み荒らせるわけがないのだ。

 冬とはいえど、こんな都会に突然来たら夏と勘違いしてしまう。信号機を見たときはその感覚がより一層研ぎ澄まされたような気がした。それは多分、僕の頭の中には

 都会=夏

 という妙な方程式がそっくりそのままインプットされているからだと思う。ある学生に聞いたら、この方程式は

 都会=青春

 と変換されるかもしれない。いや、考えすぎか。

 そうこうしている内にそのショッピングセンターについた。『待ち合わせ』というやつである。

 待ち合わせは会えなくなったときに連絡を取ったりしなければならずめんどくさいので個人的にはあまり得意ではないが、『得意でない』であって『不得意』ではないので、友人の提案をそのまま受け入れることにした。一定以上の待ち合わせに対する自信なら持ち合わせている。

 道は覚えて来たので、僕は目的地は「買い物するとこ」という漠然とした名前で設定してきた。いざその買い物するとこの看板を見てみると、

「ジェ・ジョンシ」

 ...外人の名前だろうか。韓国人か中国人、そこら辺だと思う。

 現在午後二時。太陽の地球に対する力は正午くらいに最大になるものの、地球はそんなにズバズバとそれを跳ね返すこともできない。そんな太陽と地球という上下関係の中では、気温はだいたい午後二時くらいに最大になるのが普通なのだという。裏を返せば今を乗り越えれば暑さは消え失せる「可能性が高い」わけだ。

 ...そうじゃなくて、さっきも言ったが今は冬である。どちらかというと今が一番うれしい時間帯なのかもしれない。

 五分くらい待っただろうか。今更気づいたが、僕は少しつくのが早すぎたらしい。友人がついた時刻も待ち合わせ時間より十分以上早かったのに。ということは少なくとも僕は十五分以上早めにきていたことになる。

 さっきまで晴れていた空にはポツンと雲が現れた。そこから太陽の光がはみ出すとより光が強調されたように感じて、雲と太陽のコントラストが強まる。それを背にして建物の中へスタスタと入っていくのは、もしかしたら袋のネズミ状態になる寸前のネズミの行動に過ぎないのかもしれなかった。

 ここには夢がある。そんなふうに―

「誕生日プレゼントって、その人ってどんなのいいある?」

 ―そうだ。ここへ来たのは鬼ごっこのためなどではなくて、僕と今一緒にいる友人、ではない『彼』への誕生日プレゼントを買うためだった。夢から目が覚めたかのような感覚が僕の頭の中を駆け抜けた数秒後、友人の日本語が少しおかしいことが分かった。これが会話で、こんなゆるい空間の中での言動なので別に不思議なことではないが。

「別にないけどなぁ...」

 実際に言った訳では無いが一応頭の中で「なんだろ」と言う。

 おしゃれなハンカチも、少し安い万年筆も、かわいいクマのぬいぐるみも、彼には似合わない。今一度考えてみると彼には誕生日プレゼントそのものが似合わないのかもしれないとさえ思えてくる。

「一回、歩いてみよっか。」

 沈黙が八秒以上続いたのでそう言ってくれた。昔から、何にでも付き合ってくれる優しい人だった。だから、僕だってこうして友人関係でいれる。

 ...しかし、やっぱり彼の考えていることは机上の空論に過ぎない。もはや机上の理論でもないのかもしれない。ただそう思う僕の考えも、机上の空論なのだろうか。

 もちろん、それで何も起こらないはずがなかった。

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