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イタチの短編小説

愛機――決意のコックピット

作者: 板近 代

『人間は自身の背中に翼を生やし天使を名乗る、傲慢な生き物だ』




 五つの盾で機体を守り敵陣に突入、あの忌々しいレールガンを破壊する。何度計算しても生存率0パーセントの作戦に私は志願した。


 適任とされたのが、私の機体だったからだ。


「今日も良い月だね、カルミア」


 人型兵器主流の時代において、犬のようなかたちをしたこの機体が好き。


 でも――――今は全く別物に変えられてしまった。


 愛らしかったお尻には巨大なブースター。かっこよかった頭は、五つのシールドで傘を被せられたみたいに。

 最前面の中央、ひとつ目の化け物のように設置されたカメラは発進と同時に壊れるだろう。これは、パイロットが最期の別れを呟くためにつけられたものだから。


「だいぶ、不格好になっちゃったね」

「それは悪かったな」

「申し訳ございません!」

「謝ることはない。今日の貴様には自由行動が認められている」


 鈴城凛華(すずしろりんか)大尉、元エリートパイロット。彼女が私たちの上官としてこの基地に配属されたのは、二か月ほど前のこと。


「私もよく、機体に話しかけたものだ」

「そうなんですか?」

「機械は、言葉を返してくれないがね」


 クスリと笑う大尉。


「返してくれますよ、言葉以外でしっかりと。大尉も……ご存じですよね?」


 私は明日死ぬ。ならば、ここは正直に返しておいた方が後悔がないだろう。


「その機体が貴様の愛機でなければ、明日の出撃、私が代わりに行きたい気分だよ」

「そんな! あなたは、私たちの未来のために生き残ってもらわねば困ります!」


 私にはわかる。鈴城大尉は優しい人だ。だからこそ、私たちのような使()()()()()()のところへ来てくれたのだ。


「さあ、もう眠れ。明日はいつもよりマシな飯が出る、食いしん坊の貴様でも、寝不足では食いきれんほどのな」


 ほら、やっぱり優しい人だ。


「はい大尉。では……おやすみなさい」


 だから私は眠る。幾人も見送ってきたであろうこの人が言うならば、私は眠るべきなのだろうから。


「ひとつ、聞いてもいいか」

「なんでしょう」


 呼び止められて振り向いた。月に照らされた私の愛機が綺麗で――。


「カルミアとはどういう意味だ」

「わがままを言わせていただきます。いつか、いつかでよいので調べてみてください」

「そうか」


 カルミアとは私が勝手につけた名前で、この機体の正式名称ではない。だからこそどうか、よろしくお願いします。



***



「では、行ってきます」


 一睡もできず一口も食べられなかった私は、コックピットに乗り込んでハッチを閉める。


「…………」


 もうこれ以上、仲間たちにお別れは言えない。通信機能はとっくに破壊されているから。


「…………カルミア」


 目を瞑る。どうせ大型のブースターで一直線、ガスが切れるまで操縦は効かない。


「行こう、カルミア」


 緊急アラートが鳴り、私は目を開けた。


「え?」


 機体発射レール上になにか………


「人?」


 画質の悪いモニターは、私が発進したら木端微塵になってしまう位置に立ち、大きく手を振る人物を映し出していた。


「なにしてるんですか! あぶないですよ!」


 私はハッチをあけ、レール上へと飛び出した。


「中止だ! 作戦中止だ!」

「え」


 鈴城大尉に抱きしめられた私のパイロットスーツの中が、じゅわりとあたたかくなる。


 失禁。


「戦争が終わった! 終わったんだ! 終わったんだよ! 貴様はもう死ななくていいんだ!」


 でも大丈夫。ここに、今の私を笑う人はいないから。

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